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読書の森

創作 心理分析 その1

先日の創作blog 『続心理分析』の拓くん独身時代のお話です。
面白く読んでいただければ幸いです^_^



この春から、佐護拓は警視庁で仕事を始めた。容疑者と面談するのが主たる任務である。

公務員試験に合格、家裁で少年犯罪を扱っていたが、抜群に推理力が優れているところから警視庁に引き抜かれた。

それ以前に人心を震撼させる猟奇的な少年殺人事件があり、現場付近にいた17歳の少年に容疑がかかった。乱暴で窃盗や暴力行為で何度も懲戒処分を受けて学校も退学している札付きの男だった。彼の服に被害者の血がついていた事が決定的証拠となっている。
拓はこの少年と面談を重ね心理検査をする内、彼が殺人を犯していないと判断したのである。

被疑者は夜道を歩く内、ガイシャの子が血を流してうつ伏せで倒れていたのを発見、思わず助け起こそうとしたと言う。
逃げ出してしまったのは、仰向けにした死体のグロテスクさに仰天して怖くなったからだとも言った。ガイシャの顔や体に刻まれた傷は暴力を超えた偏執的なものだったからだ。
拓は心理テストを数回行い、この少年が平気で人の金品を盗む暴力的な男だが、偏執狂とは言えないと判断を下した。

結果は公表されず、被疑者勾留のまま密かに再捜査をして近くに住む会社員の男が逮捕された。動かぬ証拠は彼のスマホに残された無残な少年の遺体の写真である。現像後削除されているが、履歴を調べれば分かる事だった。35歳の独身の一見真面目そうなこの男は実はおぞましい性向を隠し持っていたのである。

つまり、拓はこのセンセーショナルな事件を解決した功労者と言えた。
ただ、、と拓は内心思う。「この犯罪は変質者の仕業で、被疑者は変質者で無いと俺は直感しただけなんだ」と。
それはともかく彼のカン(?)は警視庁で重宝する価値があったのである。




現在その地域に、悪質な振り込め詐欺が相次いで起きている。
実行犯の告白から組織の実体を探るのが彼の仕事である。

被害者の子供や孫役になって嘘の電話をして、世慣れない老人に大金を振り込ませる、こんな典型的ケースだったが、予め被害者の家族関係や財産状況を掴んでいるのが特徴的で、組織的犯罪だと思われた。
手口そのものは単純なので、電話を掛ける役、と受け取り役にアルバイトが使われる。
僅かな報酬でも動く犯罪歴の無い(履歴が傷つくのを恐れるから)フリーターの若者が単発で雇われている。

秘密が漏れないのは、捕まるのを恐れる為だけでなく、漏らすと組織で相当残酷な制裁があるらしい。第一、殆どの実行犯が大元の組織が何処にあり誰が首領であるか知らない。
故に、実行犯自身が組織の実体を知らないので掴むのは至難の技だった。

子や孫家族と会う事の少ない老人達は寂しさがあってか、つい電話をとってしまうようだった。
風邪を引いて声がこもって変わったと言えば祖父母は簡単に信じてしまう。
又金を受け取る場合もマスクなどで人相を隠す事が出来た。
悪いことには悪い事が重なるものである。



拓の役目は実行犯らしい男と面談する事だった。

「君は頼まれて電話をかけただけだろう?罪は軽いよ。
一体誰に頼まれたの?」
と拓はごくごく軽い調子で聞く。
「自分の受け取った報酬さえ戻せば、懲罰の程度をより軽くする」と言う彼の言葉に嘘はない。

気弱な青年のような拓の風貌が気持ちを和らげるのか、警官に尋問されてガードを硬くしていた被疑者の態度が変化する。
だが、経緯が明らかになっても、結局「トカゲの尻尾切り」で終わってしまった。実行犯に直接命令した人間も又臨時雇が多く、組織の実体は謎に包まれていた。

問題になってる組織が犯罪で得た金額は推定によると一億をかるく越すと思われた。
被害者の損失と言う問題だけでなく、社会的不安を引き起こす。

縦型家族の結びつきの弱い、偽情報が飛び交う社会に今の高齢者が多い事も事件の多発する原因だろう。
捜査本部はため息をついた。
それを嘲笑うかのように同様の事件が続発した。






読んでいただき心から感謝いたします。

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