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朝の光が差し込んできた。
俊が目を覚ますと自分の布団の中だった。
起きようとすると頭がズキズキする。
「気がついた?」
優しい声は母のそれではない。
梨花の笑顔が覗いた。
「二日酔いかな」
「そうみたい。お水飲む」
不思議な事に俊は何もかも予定されていたのを当然と受け止められた。
母も梨花も谷も篠崎も自分を心配していたのだった。
自立させるつもりで、俊と離れてみたものの、典子は気がかりでならなかった。
篠崎が谷に相談して、谷は梨花と話し合った。
梨花にとって俊はやはり大切な恋人であった。
彼女は決心したのである。
自分は彼が母親を忘れる存在になろうと。
ぬくぬくとした胎内の様な家庭に居続けようとする自分を、4人がかりで地上に上げてくれたのだと。
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現在俊は毎日メトロで通勤している。
共稼ぎの妻の梨花と、喧嘩しながら仲良くやってるつもりである。
篠崎典子となった母とは殆ど会わない。
お互いの暮らしを守っていきたいと思う。
俊の頭の中を占めるのは、今生きる社会の事象である。
母と離れて初めて、俊は外気にまともに触れた気がする。
地上に出ると、肌を刺す風が吹いている。
その風に真っ直ぐ向かって俊は歩く。
^o^
気がついたら、作家の見延典子さんの名前を一時使用して居りました。
勿論ですが、全くご本人と関係ありません。
誠に申し訳ございませんでした。