智恵子が3歳の時、祖父の経営していた会社が倒産した。
祖父にどっぷり依存していた智恵子の父親は生家を追われた。
父は実務能力が皆無の為に仕事が続かず、転々と職場を変え、住居も変えた。
幼い智恵子は甘やかな両親の仲が険悪化するのを、悪い夢でも見る様に毎日眺めていた。
優しかった両親は信じられないほど智恵子をぞんざいに扱った。
智恵子が小学校に上がった時、声が聞こえた。
「死ね。役立たずのヒステリー女。手のかかる子供ごと殺してやる」
恐ろしい父親の声。
「あの人と一緒になってれば、贅沢して幸せになれたのに。こんな子がいるから身動き取れない」
鋭い母の声。
ハッとして彼女は目の前の両親を見る。
視界に映る二人はまるで貝になったかの様に冷たく黙りこくっていた。
聞こえない筈の声が聞こえる!
パニックが襲い、智恵子は口がきけなくなった。
そして心の声は聞こえるのに、実際の音が遠くかすかにしか聞こえないのである。
その後智恵子は、他人の悪意を身体で感じる様になった。
病気がちな智恵子に同情的な担任教師が近づくと、柔らかいベールに包み込まれる体感があるのだ。
中学生になり、父親の仕事先が落ち着いた。
見かけはダンディでおしゃれな彼は、洋品店の店長に選ばれたのだ。
住居も定まり、母が花を買って家を飾る様になった時、智恵子の難聴は完治した。
しかし、厄介な癖と智恵子が思う、人の思いを声や表情で直感する力は消えてくれなかった。
智恵子が、先の事が分かって人に言うと誰も信じない。
ところが、彼女が言った通りの結果になる。
それはただ偶然の一致と片付けられた。
しかし、智恵子の頭の中の未来はより精密でより真実に近かった。
智恵子はちょっと変わった面白い人を装う事で、自分のテレパシーを糊塗していた。
「それが大学時代に暴露たというか、爆発しちゃったの!」
小料理屋に場所を変えた二人はおしゃべりを続けていた。
「何ですか? 爆発って」
智は、頬を紅く染め熱心の語る智恵子を痛ましいとは思わなかった。
この話が事実なら、特殊能力者、エスパーじゃないか。
凄い人と話してると高揚感が湧いた。
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