読書の森

彼女はエスパー その4



智恵子は智の嬉しそうな顔を見て、困った様な表情をした。
「あのね、テレパシーなんてカッコいいもんじゃないのよ。ちょっとした表現の違いで妄想だと受け取られるの」

「どういう事ですか?」


智恵子が大学二年の冬、サークルの友人和人と深刻な恋で苦しんだ。
深刻というのは婚約者がいる相手と恋に陥ち、その婚約者早苗と親友だったからである。

面白半分の噂は、智恵子にとって生臭い声の渦の中にいる心地がした。
ある日、サークルの皆と雑談してる時、突然智恵子は言った。

「人間ってみんな嘘つきよ。酷い事お腹の中で考えながら綺麗事言ってる」
怪訝な顔の一人一人を指差した。
「そう、あなたも。あなたも。
私を非難したいならすればいい。
私何も悪い事してない。何故、人を好きになるのが悪い事なの?」

ふっくらしていた智恵子の頬はこけ、目の妙に光っていた。
そして唐突にワ~っと泣き出した。

「それで、病院に連れて行ってもらったら、被害妄想って言われたわ」



智はすっかり興味を失った。
よくある話じゃないか。
過敏な思春期の一時的錯乱って奴じゃないか。

「別に、思春期の一時的錯乱じゃないの」
智恵子は寂しく微笑した。
「エッ」
智が目を見張ると、智恵子が頷いた。

「そうなのよ。この時からより深く相手の心が読み取れる様になってしまった。
神経の伝達が何らかの作用で、通常より速いのよ。それが異常と言えるのかな?」

智恵子は大学を出て、一般会社の勤めも試みた。
どうも向いていない様だった。

悩んだ智恵子は、伝手を頼ってルポライターの道を選んだ。
収入は不安定になっても、唯一自分の能力を生かす道だった。

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