読書の森

セピア色の昭和20年代 その2


小学校に入学したては何もかも新鮮だった。
給食には、家から野菜を持参し、味噌汁の中身にした。それとコッペパン、脱脂粉乳の献立だった。

春爛漫の頃、優しい女の先生は皆を連れて野原で遊ばせた。
クローバー、白詰草、菜の花、蓮華、むせ返る様な花の匂いの中、子どもたちは、花で首飾りを作って先生に捧げた。


春の日差しがとても柔らかくて、天国みたいな時間だった。



夏休みが過ぎて、私は字が上手になった。
又学校へ行って先生に見せるのを楽しみにしている。

その頃、父の仕事が又うまくいかなくなった。
かなり気弱で飽きっぽい性格がいつも災いしている。
それと同時に家の中が険悪になった。


「出ていけ」
「出ていきます」
母も着物を整理し出した。

「行かないでよ!戻ってきてよ」
私はパニック状態で母に縋った。


母はこっそり囁いた。
「これ嘘だから、戻ってくるから」
そして夕食を作りに戻るのだった。

毎日の様に繰り返すこの喧嘩に、私の神経は疲れ果てて、熱を出して寝込んだ。

両親はさすがに、喧嘩どころでなく、
私を医者に連れて行った。
「結核ですよ」
ストレプトマイシンが打たれ続ける。

ストマイ聾といい、副作用で耳が聞こえなくなった。

あの頃、一人布団に寝かされて、天井ばかり見ていた。
その天井がドンドン高くなっていく。
子ども心に死ぬのかと思った。

読んでいただき心から感謝いたします。

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