新大阪から新横浜までの新幹線の中で、直前に購入した文庫本に読みふけってました。
私には珍しく現金正価で購入した文庫本、アガサクリスティの『死との約束』です。
「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃいけないんだよ」
いきなりの書き出しにドキッとします。いやでも、読者を物語世界に引き込むセリフです。
彼女、嫌われ者の母親はこの言葉通りに殺害されるという、非常に分かりやすいストーリーでありますが、おそらく読み進む内に真犯人を当てる人は殆ど皆無だと思います。
一応、クリスティらしく伏線を張っているのですが、注意しても気が付きません。
個性ある家族間の心理のあや、物語の展開に興味を持たせながらシンプルな筋書、面白くて列車の中の2時間半、外の景色も観ずに一気に読みました。
こんなに被害者を典型的毒親にしていいのかしら?あまりにも安易なハッピーエンドじゃないかしら?とあら捜しはできますが、ドロドロさがないミステリーですっきりします。
私の勝手な推測ですが、クリスティは人間心理にかなり悩みを持った人と思えます。それを見事に昇華して、魅力的なミステリーを残した人と言うだけでなく、やはりストーリーテラーとして天才的なのでしょうね。
その時、自分の置かれた状況を全く忘れて感嘆してしまいました。
大阪で過ごした夏に癒しを与えてくれたのが、横溝正史のミステリーです。
横溝正史とアガサクリスティなんて全く関連性が無いように思ってましたが、実は彼もクリスティに習った小説を残しているのです。
それが『本陣殺人事件』です。今日ではあまり一般受けしない作品で、密室殺人を扱ってますが、あっと驚くのが真犯人です。
他の作品と異なり、横溝正史は読者に知的に犯人を推理する手がかりを残してます。
その意外性にクリスティの『アクロイド殺人事件』の手法を思わせるところがあります。
ミステリー雑誌の編集長を務め、内外の推理小説を熟読した彼はアガサクリスティの作品も好んだそうです。
ただ、横溝正史の世界と言えば、おどろおどろしい伝奇的な独特の物語が魅力なんですけどね。
アガサクリスティも横溝正史もエンターテイメントを描いたら、第一人者です。
別に学ぶためではなく、面白くてワクワクする本を読むのが、読書の真骨頂だと私は思うのですが。
今日は真鯛の刺身をいただきました。
たまには、価格にも栄養にも拘らずに美味しい魚の刺身を食べるのも良いものです。