読書の森

夜の海



角川隆は緊張感から出る汗を拭って、南夫妻の新居を訪ねた。
新居といっても、南の実家の広大な敷地に離れを建てたものである。
木立に囲まれた可愛い白い家は独立した一戸建てに見えた。

南は大学卒業を待つようにして挙式したのだ。
隆は当日出席出来なかったので、改めて祝いたいと、うららかな休日に訪ねたのである。


南省吾、妻の麻世は共に隆と同じ同好会の仲間だった。
省吾の父親はやり手のワンマン経営者、弁護士志望だった省吾はそれを諦めて父の会社に入った。

諦めた最大の理由は、麻世との結婚を急いだ為である。
生活の基盤を固める為に勤める必要があった。
いわゆる出来ちゃった結婚で、今隆の目にも麻世のお腹のふくよかさが目立った。

「おめでとうございます」
隆は用意した白薔薇の花束を渡した。
「有難く頂きますわ。あーら白薔薇の花言葉は純潔でしょう。私にはふさわしくないけど。それより角川さん、法科大学院進学おめでとうございます」

麻世は相変わらず艶のある目で軽く睨む。
「大学院に進学するのも、棘のある白薔薇を選んだのも一人の女性のためです。
あなた方に殺されたね」

夫妻の顔色が変わった。

(続く)

読んでいただきありがとうございました。

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