読書の森

哀しきバレンタインデー その4



一ヶ月後、実沢大は溝口靖の家庭教師になっていた。
私立中学受験の為、靖は学習塾に通っていた。
家庭教師の方が個別指導で勉強し易いと頼んだのは靖である。

そしてA会に属する実沢大を指名したのも彼だ。
「評判がいいよ」と両親に言った。
実沢の評判なんて知らない。
ただ、紗南がチラリと漏らした言葉から実沢が家庭教師をしてるのを知った。
ネットで実沢を検索して、A会に申し込んだ。

実沢は愛想が良く、要領の良い教え方をした。
しかし、靖は勉強が全然頭に入らない。
憎い憎いという思いを隠すので精一杯である。
このまま成績が落ちたら、家庭教師を交代され兼ねない。

そこで殺人の時期を早める事にした。
本当はバレンタインデーの前日、彼をひと気の無い場所に連れ出す計画だったが。



何故ひと気の無い場所かは、二人の姿を見られない為だけで無い。
他の人に迷惑をかけない為である。

靖の様に小さな子供が、力の強いガタイの大きい実沢を殺す方法でポピュラーなのが、毒殺である。
しかし、毒殺した事は死体解剖すれば直ぐ分かる。

第一毒を入手した段階で怪しまれる。
靖の殺人の道具は睡眠薬だった。

実は、紗南が横になっている隙に部屋を見回し、薬の袋を見つけた。
咄嗟にポケットに入れた訳は、これで自殺を図ると困るという気持ちからだ。
靖はミステリードラマが好きでこういう例をよく見ていたからだ。

実沢は贅沢な事に車を交通手段にしている。
家が都心と離れた山近くにある為でもある。
実沢の家の近くに遊びで眠剤を飲ませる。

眠剤は時間を置いて効くから、山道で眠気がさした実沢がスリップ事故を起こす可能性は大である。
これなら死んでも事故死と見られる。
他の人を巻き込む恐れも薄いだろう。

幼いが利発な頭で靖は考えたのである。

読んでいただき心から感謝いたします。

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