仙丈ヶ岳(3,033m) (つづき)
日本百名山を著した深田久弥は、後記で次のように記しています。
「よく私は人から、どの山が一番好きかと訊かれる。私の答はいつもきまっている。一番最近に行ってきた山である。その山の印象がフレッシュだからである。」 (『日本百名山』(新潮社版))
本当にそうでしょうか?
僕は逆です。何かこれはすごいと思うものに出会うと、それ以上すごいものには二度と出会えないのではと思ってしまうからです。
最初の記憶こそ、いつまでも心の中に焼き付いて残るのではないかと。
前日の大雨のおかげか、ものすごい雲海が出現していました。小屋の主人は「今日はいいねえ」と話しています。シーズン中ずっとここで過ごしている人が、夜明け前から話しているのだから、本当にいいのに違いありません。ほんの少し明るくなり、眼下には伊那の町らしき明かりが見えていますが、都会ではないのでとてもささやかです。雲は朝日に照らされて赤みを帯び、空よりも雲の方が明るいです。早くも山頂に着いている人がいるようで、懐中電灯がゆらゆら動くのが分かります。
生まれて初めての3,000m峰へ登ると思うと、すぐ着くのが惜しくなってきましたが、当然日の出までにはたどり着きたいとも思います。25分で頂上でした。
右に富士山、その横には日本で二番目に高い北岳を従え、太陽が昇ってきました。
最初はギラギラ輝く小さい点だったものが、やがて半円になり、そして大きな円になるまで、速くて速くて、あっという間でした。
この十数分は一生の宝になりました。御来光を眺めたことはその後数回ありますが、今も一番よく覚えているのが仙丈の御来光です。
(登頂:2011年9月中旬) (つづく)