心が満ちる山歩き

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リスト・超絶技巧練習曲集 (1)”雪あらし”

2017年04月13日 | 名演奏を聴いて思ったこと


 ショパンはピアノの詩人と呼ばれ、リストはピアノの魔術師と呼ばれています。どちらが好きかと聞かれたら、断然ショパンです。ピアノは一番好きな楽器のはずなのに、リストにはほとんど興味を持つことができません。音楽全体に何となく乾いた感じがして、心がついていけない気がします。
 しかし、リストの書いた「超絶技巧練習曲集」の中には、「雪あらし」や「夕べの調べ」など、とても共感できる曲があります。どこかショパンに似たうるおいが感じられるからです。何といっても曲の名前が「超絶技巧」ときています。リストの中でも最もテクニックに特化して、最も乾いていそうな曲集から、うるおいが感じられるというのも不思議です。
 第1曲「前奏曲」は、ショパンより全然短いし、ショパンほどの壮麗さはないとしても、ショパンの練習曲(作品10)第1番の雄大な進行にほんの少し似た雰囲気があります。
 第3曲「風景」は、ショパンが練習曲らしく聞こえない緩徐な曲(”別れの曲”)を3番目に持ってきたのを、意識したのではないでしょうか?
 第5曲「鬼火」のコミカルさには、ショパンの5番目の練習曲”黒鍵”の雰囲気がかすかに感じられます。
 締めくくりの第12曲「雪あらし」は、やはりショパンの練習曲(作品25)第12番・”大洋”のスケールを一気に拡大し、第11番”木枯らし”から激しさを取り除いて、ピアノでしか表現できない新しい世界を創り上げた名曲だと思います。


 ◆アリス=紗良・オット(ピアノ) (グラモフォン・UCCG50093)

 「超絶技巧」の中では一番の名演だと思います。
 中でも、特に好きな「雪あらし」で、素晴らしい名演が繰り広げられているのがうれしいです。
 弾くのがとんでもなく難しい曲であることは、何の疑いもありません。試しに楽譜を見てみたら、譜読みをしようという気すら起きませんでした。今までに聴いた演奏からは、「雪あらし」が難しいことはよく分かっても、技巧の部分だけが強調されて聴こえ、曲の本当の姿は見えてこなかったのです。
 しかしこのCDには冒頭から惹かれました。
 雪あらしを示す音形は、次第に複雑になっていっても、まったく強さ、うるささを感じさせません。決して曖昧なのではなく、1つ1つの音ははっきり弾かれているに違いないのです。
 雪の1粒1粒ははっきりしているのに、それをわざと隠してしまう贅沢さ。
 あの複雑な楽譜から、どうやったらこの霧がかった音を引き出せるのでしょうか。
 北海道で、オホーツク海沿いを走る路線バスから見た景色を想い出します。晴れていた天気が弱い吹雪に変わり、積もった雪が風で舞い上がり、道路の上で踊るように真っ白な模様となるのです。
 (2:10)吹雪の中から、一瞬ひとすじの陽光が差した様子。必要以上に迫力が強調されることはありません。
 (2:32)つむじ風のような伴奏に乗せて聴こえるメロディーに最高の静けさがあります。この静けさが効いているから、対照的に(3:18)では、少しも絶叫していないのに最高のクライマックスが聴こえてきます。
 (4:39)一番激しい嵐が過ぎ去った後の静かさ。なお続く緊張感と寂寥感。
 (5:25)~最後の音が、雪景色の中へ、本当に消え入るように消えていきます。消えてしまうのが惜しいと思いながら終わります。
 リストの音楽はこんなに深いものだったのか!という感動がありました。


 (つづく)



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