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中央アルプス・恵那山(2,191m)
「~ その壮麗な展望についてはとても筆紙には尽されない。その展望の広さは高い隣りの駒ケ岳 ‥(中略)‥ の展望に非常に似ている。視界には半円形にたくさんの巨山がそびえ立ち、展開し、その山々はどれもまたどっしりした肩に処女雪の白い衣をつけている。すべてのうちで恐らく一番目だつ山の姿は、真東にそびえる赤石山の優美な姿である。その南の肩から類ない富士の截頭円錐形の山頂が雪を頂き、くっきりと外郭を示して澄みわたった空にそびえている。 ~」
(『日本アルプス 登山と探検』ウォルター・ウェストン著・岡村精一訳(平凡社))
ウェストンはこの恵那山へ明治26年に登っています。その後、一行は天竜川を下り、遂に「日出づる国の中で一番高い本当の絶頂」(『日本アルプス 登山と探検』)へ達するのです。明治時代にこれだけの行程をなしえるのはとても困難だったと思います。そして、「すべてのうちで恐らく一番目だつ山の姿は、真東にそびえる赤石山の優美な姿である」という一節も面白いです。遠く離れた恵那山から南アルプスの山並みが見えていたという、その日の様子が伝わってきます。
南アルプスや中央アルプスの、他の山々に比べると標高は低い恵那山ですが、存在感はしっかりしたものがあります。南アルプスの聖岳(3,013m)の頂上からは、雲海に浮かぶ恵那山が見えたし、「高い隣りの駒ケ岳」である2,956mの木曽駒ヶ岳から見下ろしたのも覚えています。恵那山の姿は、高い山だけが立派な山ではないということをよく表しています。
前日の22時50分に東京駅を出発する二階建ての夜行バスで名古屋まで行き、中央線で中津川駅へ向かいます。東京から中津川へ直接向かうバスは満席でした。中津川駅の改札の中には、庭のような一角があり、ゆったりした空気の流れる駅でした。
タクシーは細い一本道をぐんぐん登り、登山口の神坂峠(みさかとうげ)に着きました。タクシーを降りると、ウグイスの鳴き声以外何も音がしなくなりました。6月なのに、上着がほしくなるような気温でした。
登山口の標高は1,569mですが、ここから頂上まではアップダウンが多く、単純に600m登ればよいわけではありません。30分かけて丘のように小さい山を登ると目指す恵那山が見えました。2週間前に登った櫛形山に似ていますが、より力強い姿でした。笹の中に点在する巨木の姿もよいです。せっかく100m以上標高を稼いでも、今度はそれ以上に下り、鳥越峠へ至ります。
このコースは眺望が最高です。最も目をひくのが木曽御嶽山で、左右から稜線がすっと立ち上がる姿が美しいです。噴煙が真上に、まっすぐに上がっていました。さらに進むと、御嶽山の向こうには乗鞍岳。こちらも格好いい山で、残雪は乗鞍の方が多いように見えます。遠くの空には加賀の白山も見えます。木曽駒ヶ岳から空木岳・南駒ヶ岳へと続く中央アルプスの姿もよいです。木曽駒の横に、小さな宝剣岳のピークもはっきり分かりました。空木岳は重量感のある山容で、見る方角によって全然違う山に見えると思いました。細かな山ひだの1本1本に雪がしっかり残っていました。
(登頂:2017年6月上旬) (つづく)