
千枚岳(2,880m)・悪沢岳(3,141m)・赤石岳(3,121m)・聖岳(3,013m)
(つづき)
「どの山の頂上もそれぞれの特徴を持っている。猫額の地もあれば、斜面のつづきのような広地もある。懸崖の上に位置するものもあれば、森林に囲まれたものもある。しかし、私の記憶にあるあらゆる頂上のなかで、赤石岳のそれほど立派なものはない。それは実におおらかな風貌をそなえている。広々としているがただの緩慢ではなく、キリッとした緊まりがある。これほど寛容と威厳を兼ねそなえた頂上はほかにあるまい。」
(深田久弥『日本百名山』(新潮社版))
気が急きながら最後の斜面を登って背中を振り返ると、小赤石岳から赤石岳まで稜線が複雑な線で続き、雲が薄く絡んでいました。大きな山だと思いました。悪沢岳から赤石岳はそんなに離れていないなと思ったのに、逆に赤石岳から悪沢岳を眺めると、とても遠くにそびえる山に見えました。赤石岳までの道中はすべてが素晴らしく、山頂は無事に辿り着けた安堵感にふさわしい場所でした。
今日は、悪沢岳に続いて2座目の百名山です。一日で百名山に2座登ったことは、4年前に北アルプスで薬師岳と黒部五郎岳を同じ日に登頂して以来です。しかも今日は、2座の両方が3,000mより高い山です。もしあと1回同じ経験ができるとすれば、それは将来北岳と間ノ岳を同じ日に登れた時でしょう。三千メートル峰には特別な空気が流れています。
山頂には赤石岳避難小屋が建っています。同じ避難小屋でも荒川中岳の小屋より立派に見えました。
赤石岳には一等三角点が設置されています。これは、最も標高が高い場所に設置されている一等三角点です。
ここから百間洞山の家まで下りました。百間平からの最後の下りが長かったです。「洞」の字にふさわしく、稜線から隠されたような場所に建っている小屋でした。雄大な眺望とアップダウンが幾度も続く道のりに、南アルプスの山の大きさを実感した一日でした。
明日は、波打つようなこの稜線を南下します。
(登頂:2016年9月上旬) (つづく)