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ミシェル・ベロフの弾くブラームス ピアノ協奏曲第2番の名演

2019年11月06日 | 名演奏を聴いて思ったこと


 ブラームスのピアノ協奏曲第2番は、交響曲第4番とならんで、ブラームスの中でも特に好きな曲です。「第1番」ほどの劇的な盛り上がりはないものの、どこもかしこも充実感にあふれ、何回聴いても飽きない味があります。
 「ブラームスは好きだけれど、ピアノ協奏曲第2番は苦手だ」という人はいないと思います。
 去年、新日本フィルの、この曲の公開リハーサルを聴く機会がありました。
 老巨匠のローレンス・フォスターが指揮台へ登場すると、冒頭のホルンのメロディーで迎えられ、会場に笑いが起きます。
 この日はオーケストラのみのリハーサルで、ピアニストはいません。ピアノの部分は、フォスターの手が鍵盤を弾く真似をしたり、時には歌ったり。
 それもないところは、心の中でピアノの音を補いながら追いかけていくのですが、初めてピアノなしで聴いたピアノ協奏曲第2番は新鮮でした。イントロのホルンは、ピアノとのかけ合いがなければこんな風に聴こえるんだな!とか、弦のピッチカートがとても美しく、ここで実はこんな音がしていたんだな!とか、発見がたくさんありました。
 第2楽章に入ると、テンポが速くなった分、追いかけるのが大変です。
 第3楽章は、美しいチェロのソロがまず終わると、楽員全員から拍手が起きます。すると、指揮者は、客席で聴いている私たちにも拍手をするよう促します。
 リハーサルの見学は、自分たちも音楽に参加している気分を味わうことができる貴重な機会です。
 最後の第4楽章は、ピアノを抜きにすると滑らかなヴァイオリンの音が際立ちました。普段はピアノに隠れて全然注目したことがないところでした。


 ◆ベロフ(ピアノ) ヨッフム(指揮)~シュターツカペレ・ドレスデン(WEITBLICK(東武ランドシステム) SSS0085/86-2)

 1979年5月25日のライヴ録音です。時にヨッフム76歳、ベロフ29歳。
 ブルックナーを得意とするドイツの巨匠が指揮する、ドイツのオーケストラのもと、フランスの俊英ベロフがブラームスの重厚な協奏曲を弾くという、意外な組み合わせです。御茶ノ水のディスクユニオンで偶然見つけたものです。
 まず第一楽章の、あのホルンの独奏から始まります。これが素晴らしく、今まで聴いたどのCDよりも素晴らしいです。客席で聴いているような気持ちになるくらい、錯覚してしまうほど素晴らしいです。
 CDの帯には、「まるで山のかなたから聞こえて来るような美音でこれだけでも感動的です。」と書いてあります。「これだけでも」というのが、(ピアノ協奏曲なのにホルンの宣伝になっているのですが、)思わずうなずいてしまいます。
 当日コンサートを聞いた人たちは、客席に居ながらにして、「山のかなたから聞こえて来る」音を味わったのでしょう。
 最初からいきなりこんな格別な音で始まると、本当に驚いてしまいます。
 次に来るピアノがまた素晴らしいです。
 ベロフの演奏は、ドビュッシーの前奏曲集(EMI)で知っていましたが、とてもクールな印象でした。しかし、このブラームスは最初から最後まで凄まじく、このピアニストにはこんな一面があったのかと、圧倒される思いです。ピアノの、宝石のような、あるいは雪の結晶のようなクリアで透徹した音が、ものすごい情熱を伴って飛び出してくるからです。
 (6:45)は、この部分が史上最も振幅を大きく演奏された瞬間が記録されています。
 (7:17)は、第1楽章最大の聴かせどころだと思います。大伽藍のような歴史的な建築物か、剱岳や穂高岳のような偉大な山岳を眼前にした瞬間のような、心の昂ぶりにあふれています。
 (10:44)は、なだれ落ちるようなピアノの凄まじさのゆえか、オーケストラが大きくずれているのがライヴならではです。
 (16:41)すべての音が最強に鳴り切ったトリル。オーケストラも大合奏で応えています。
 (16:57)最後の和音、火を噴くようなフォルティッシモの大迫力。


 第2楽章も第1楽章の印象がそのまま続き、晴天の雪山を思わせる輝きの中で火花が飛び散っています。
 (4:27)ティンパニの連打の存在感が印象に残ります。実演はさぞかしすごかったのだろうと思わせます。
 (6:59)から終わりにかけてのピアノの大きさは、この演奏が最も感動的だと思います。
 第3楽章は、チェロのソロが美しいです。(1:39)のように、ソロではない部分も美しいです。
 (4:55)では、ピアノが先に出て、オーケストラが遅れるのにびっくりしてしまいます。第1楽章の(10:44)ではなく、これくらい静かな場面でもこんなことが起こるのかと思うと興味深いですが、本番1回限りという雰囲気が伝わってくる点では貴重です。もっと新しい録音なら、編集作業で修正されてしまったに違いありません。
 最後の第4楽章は、第1楽章と同じく、透明感と盛り上がりが同時にやってくるのが凄いです。演奏の最初から最後まで、この凄さが一貫しているのです。第4楽章では、その迫力をマイクがとらえ切っていないのではという思いもあります。

 演奏会の興奮が直に伝わってくる場面の多い、すばらしいCDでした。いい買い物ができたと思いました。
 このCDは2枚組で、もう1枚、同じブラームスの交響曲第4番も名演でした。

【ブラームス:ピアノ協奏曲第2番の名盤】
 ◆ツィマーマン(ピアノ) バーンスタイン~ウィーン・フィル(グラモフォン POCG30029)
 ◆アシュケナージ(ピアノ) ハイティンク~ウィーン・フィル(DECCA POCL5096)
 ◆ラローチャ(ピアノ) ヨッフム~ベルリン・ドイツ交響楽団(WEITBLICK(東武ランドシステム) SSS0097-2)



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