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ヴァイオリン協奏曲の中で最も好きなのが、このバルトークの第2番です。
バルトークのヴァイオリン協奏曲は2曲しかありません。そのうち、生前に発表されたのは第2番だけでした。彼の死後にもう一曲が発表されてそちらが1番になり、もともと知られていた方は2番となりました。
ここには、他の曲からは聴けない種類の驚きがあり、全曲から大地の鼓動のような音が続出し、スリルと迫力に満ちています。
「~ しかし、つねに強調して置かなければならないのは、完全に純粋に響いて、一色の光しか放射しないような要素は現実には存在しないこと、「基本的、あるいは原要素的」と呼べるような要素は素朴ではなく、複雑な性質のものだということである。 ~」
(『点と線から面へ』 ヴァシリー・カンディンスキー、宮島久雄訳(ちくま学芸文庫))
不協和音が連続するこの曲は、一言で言って「複雑な性質」で、とても一筋縄でいくものではありません。しかし、表されているものは「「基本的、あるいは原要素的」と呼べるような要素」ばかりで、他の作曲家の誰も見出すことができなかったものに違いありません。
◆コパチンスカヤ エトヴェシュ~フランクフルト放送交響楽団(エイベックス・クラシックス AVCL25766)
これは素晴らしい名演で、どこをとっても凄まじさが出ています。1945年に亡くなったバルトークが、まだ生まれてもいない未来のヴァイオリニストのために書いた曲だったのかという気がするほどです。
第一楽章は、アクセントのはっきりした音が頻出し、聴こえるだけでなく弓の動く様子が目に見えるようです。
(2:41)~ 音の粒が目の前をコロコロ転がっていくような、曲芸のような音楽があります。その後でテンポをぐっと落とすところも素晴らしいです。
(4:06)~ 第一楽章最大の聴きどころで、メチャクチャな不協和音が4連発!オーケストラからこの音の鳴る瞬間は何回聴いてもたまりません。
その後はヴァイオリンから書家の揮毫のような音が鳴り響き、とめ、跳ねのたびに印象を残していきます。(4:23)は、スピーカーから本当に火花が飛び散っている気がします。
(7:05)~ かすれそうなくらいのピアニッシモ(とても弱い)と、火を噴くようなフォルティッシモ(とても強い)の対比。
(9:52)~ 燃え盛る音楽からいったん退いて、それを遠くから見つめる瞬間が訪れます。
(11:33)~ 地底までひきずられそうな、もの凄いグリッサンド。
(15:10) 一瞬、ショスタコーヴィチに似ていると思うところです。「ラシ♭ドレ♭~」の、レのフラットがそう思わせるからです。しかし、すぐにもとのバルトークに戻ります。
第二楽章は、楽譜の指示はアンダンテ(歩くような速さ)ですが、他のアンダンテの音楽とは全く趣きを異にしています。
(3:03)~ ハープとのかけ合いが印象的です。バルトークの考えた生命か自然の神秘が表されている音楽です。
(6:57)~の目まぐるしく変わる展開を経て、(7:32)~の面白さは筆舌に尽くし難いほどの名演です。ある音はスピーカーから横に進み、ある音は縦に向かって進み、ある音は机の上を玉のように転がり、ある音は窓の向こうに虹の線を描きます。一挺のヴァイオリンが、まったく違う音を同時に演奏しているような錯覚すらあります。
第三楽章は、第一楽章ほど場面の転換は多くない気がしますが、一気呵成の迫力が味わえます。不協和音を1つずつに分解したような音のすべてが心を鷲づかみにします。凄まじい気迫と情熱と超絶技巧の連続です。
中でも、(4:00)~で、ヴァイオリンからゴリゴリする音が出てくるのが凄いです。
独奏も凄ければ指揮者もオーケストラも凄まじく、(6:24)~の豪快なクレッシェンド(次第に強くする)を経て、(6:45)のピッコロの強烈なフォルティッシモ。
(9:27)は、人間がヘッヘッヘ!と大声で笑っている様子が、そのままヴァイオリンの音になったくらいの面白さがありました。
◆メニューイン フルトヴェングラー~フィルハーモニア管弦楽団(EMI TOCE-6072)
ドイツの大指揮者フルトヴェングラーが残した、唯一のバルトークの録音です。
1953年のモノラル録音で、当然本番そのままの音は入っていません。コパチンスカヤのような面白さや迫力やテクニックは、どこにもありません。
オーケストラも録音が古いのは同じで、それどころか、どうも意図的に音量を弱くしている(それも、指揮者ではなくエンジニアが)と思ってしまうのが気になります。
しかし、宝探しをするようにオーケストラをなぞって聴いていくと、古い録音の中からとても深い音がしているところが見つかります。これこそ、フルトヴェングラーの気高さに他なりません。ティンパニには、音量では語れない深遠な響きがあります。ベートーヴェンやブラームスの音楽に似た感情がミックスされ、バルトークの音楽が、何ともいえない気品と一緒に聴こえてきます。