(1のつづき)
◆上岡敏之~新日本フィル(エクストン OVCL00703)
このCDには「タンホイザー」以外にも、2019年5月に横浜で聴いたプログラムのすべてがおさめられています。
・「トリスタンとイゾルテ」 前奏曲と愛の死
・「神々の黄昏」 ”ジークフリートのラインへの旅”・”ジークフリートの死と葬送行進曲”
・「パルジファル」 第一幕 前奏曲・第三幕 フィナーレ
どの曲も音がすっと遠くに伸びて行く感触が素晴らしかったです。これはCDでも再現されていると思います。
2017年3月、新日本フィルの本拠地・すみだトリフォニーホールでマーラーの交響曲第6番「悲劇的」が演奏されました。フライヤーの裏面に、指揮者上岡さんのインタビューが掲載されています。
「~ 上岡は、この『すみだ平和祈念コンサート』を、生きている方たちや未来がある方たちに向けてのメッセージにしたいという。
「自分にとってもオーケストラにとっても難しい曲ですし、皆さんがどう聴いてくれるか楽しみです。音楽は演奏者だけが作るものではなく、聴衆も含めたその空間があって完成されるものですから、お客様一人ひとりが音楽の一部になるのです。」 ~」
(2016年10月18日 インタビュー・文/オヤマダアツシ)
この日の演奏会でも、すべての音に透明感があり、何といっても静けさが楽器の一部になっていました。そうして、自分自身が確かに演奏会に参加していると、実感することができたのです。
特に印象に残ったのは「神々の黄昏」でした。「神々の黄昏」は、有名な、長大な、「指輪」4部作の最後を飾るオペラです。
ワーグナーのオペラを聴くなら、この4部作のどれかが分かりやすい気がします。
「~ 『神々の黄昏』は4部作のなかで、台本としては最初に、音楽としては最後に完成された。すなわちワーグナーは『ジークフリートの死』(後に『神々の黄昏』へと改題)の草稿を書き上げた後に、その導入として3つの物語をさかのぼるように書いていき、作曲はその逆の順序で進められた。北欧神話における世界の終末の日「ラグナロク」。そのワーグナーによる独訳が「Götterdämmerung (神々の黄昏)」であり、英雄ジークフリートは殺され、妻ブリュンヒルデはその亡骸を炎上させて、自らも炎のなかに飛び込んでいく。世界を支配するという黄金の指輪は、再びラインの乙女たちの手に戻り、ライン川は氾濫し、神々もろともすべては炎に包まれていく。 ~」
(石川亮子著 Program Notes『新日本フィルハーモニー交響楽団 2019年5・6月演奏会プログラム』)
まず、「ジークフリートのラインへの旅」が開始されると、(2:00)のホルンが気品のある、美しいとしか言いようのない音を奏でます。
(4:01)で一気に速くなる部分は、似た演奏を聴いたことがなく、会場でとても驚きましたが、改めて聴くと実は自然です。楽譜のまま、あるがままに引き出された自然な音楽です。
音楽が要求していたのは、実はこのテンポだったのか!という発見がありました。
(5:18)~ ホルンの軽やかな上手さにしびれます。しかも、(6:13)で弦楽器が主題へ駆け上がって行った後、(6:18)と(6:21)でホルンが絶妙に強弱を描き分けているところにもう一度しびれます。
また、(7:40)のピッコロのトリルが、まるで遠く山の向こうから聴こえて来るような遠近感を、みなとみらいホールの中に醸し出していました。
続いて、「ジークフリートの死と葬送行進曲」は、葬送行進曲らしい重さのない始まりで、すっと耳の中に入ってきます。
ショスタコーヴィチが、人生で最後に書いた交響曲第15番の第4楽章で、最初にこの音楽を引用した気持ちが分かる気がしました。
(6:07)~ 葬送行進曲はやはりテンポが速いです。(9:52)のような絶頂でも、少しも引っ張りません。その驚きと自然さは、「ラインへの旅」で感じたものと同じでした。
どの部分にも上品さがありましたが、中でも(8:35)の痛切なトランペットが絶品でした。
(つづく)
北八ヶ岳ではないでしょうか?
コメント有難うございます。場所はその通りで、北八ヶ岳の縞枯山に登った時の写真です。