病院では「諒に慣れること」ができた気がする…
(…慣れる、か…)
何でもいい。諒を失いたくない。
結局、退院した麻也は、晴れた日の午後に、半月ぶりにマンションの部屋に帰った。
二人の愛の巣に戻るということに、社長たちは反対どころか喜んだが、麻也の両親は猛反対だった。
しかし、セキュリティーが一番充実しているから、ということで押し切った。それでも、母は押しかけてきそうな勢いだったので、麻也は諒と示し合わせて、早い時間に退院してしまった。
「しっかし、どうして俺たちはいつも夜逃げとか駆け落ちみたいになっちゃうんだろうね」
タクシーの中でさすがの諒も嘆いていたが、
「でもドラマチックかも」
と麻也は笑顔を作ってみせた。みんなのことを考えると、それしかなかった。
すると諒もそっかー、確かにそうかもね、と苦笑いしていた。
マンションの地下の駐車場で会社の車から降りると、諒は左手で麻也のバッグを持ち右手で麻也の左手をしっかりと握り、エレベーターに向かって歩き始めた。
玄関までついてきてくれた鈴木を見送ると二人きりになった。
「あれ?」
麻也の記憶にある廊下の絨毯の色と違う。
「少しリフォームみたいなことしたの」
と、諒は苦笑しながら言う。
「社長はここから引っ越すなら協力するって言ってくれたんだけど、ここで一度はまた始めた方がいいかと思って…」
リビングのラグも色は同じ白だが、違うものに変わっており…
あの…ベランダにはハンギング型のプランターが一面に吊り下げられ、緑や花がいっぱいだった。麻也が二度と衝動的に飛び降りることができないようにしたのだろう。
「水やりは俺がやるから安心して。できなくても、おそうじの人がついでにやってくれるって」
おそうじの人、というのは、社長が契約してくれている週一のおそうじ会社の人だ。
それを聞いて麻也は、ああ、ここで変わらぬ暮らしが続けられるのた、とほっとした。
ソファとテーブルは前のままだった。麻也は何となく座った。
「麻也さん、コーラでも飲む…?」
「ごめん、ミネラルウォーターがあったらそっちがいい」
「わかった。俺もそうしようかな」
そしてソファーの上で二人座って落ち着くと、お互い何と言っていいかわからず、もじもじしてしまった。
それは…諒に告白された日のことを、麻也に思い出させた。