次の日は夕方までは、いつものように鈴木しか来なかった。
あの日、病室で父に怒鳴られたのが何となく懐かしく思い出された…と、ため息をついていたら、母から携帯に電話がきた。
今日もめまいがとれないので、父だけがこちらに来るという。
そう言いながらも母が「病室でも事務所にこき使われているのでは」と怪しんでいるのが伝わってくるので、鈴木がいる気配を感じさせないようにしたが…
鈴木が帰り支度を始めた頃、父がやってきた。
「ああ、鈴木さん、どうも。打ち合わせか何かですか?」
(父さんも母さんと同じ考えなんだろうな…)
すると、それを察したらしい鈴木は笑顔で、
「いえ、お見舞いです。麻也さんに寂しいと言われまして。近々また社長がお詫びにお伺いしたいと申しておりました」
「いやいやそれは…」
と、うやむやになったうちに、鈴木は帰っていった。
それを見送ると父は、
「鈴木さんは毎日来るのか?」
麻也はどう答えたものか困ったが、
「うん。小さくてアットホームな事務所だから…でも人手不足だから来られるのは鈴木さんだけ」
「そうか」
父は言いたいことを我慢している様子だった。
すると、
「これ、お母さんから」
と、和菓子でも入ったような立派な紙袋をテーブルに置き、中から缶のオレンジジュースを一本取り上げて見せてくれながら、
「母さんがどうしても持っていけ、って。もうこれぐらいなら飲めるんだろう?」
「うん」
それは麻也の大好物だった。
父はソファに腰を下ろすと、
「ここを退院したら、ウチで休めるのか?」
麻也は困ってしまった。