BLロック王子小説「ディスティニーアンダー・グラウンド-ギターとスターに愛され過ぎた王子-」

 ★過去に傷を持つ美貌のロックギタリスト遠藤麻也(まや)。運命の恋人・日向 諒と東京ドームに立つが…

★BLロック王子小説23-15「ディスティニーアンダーグラウンド」

2020-12-19 22:35:45 | ★ディスティニー第23章

 とはいうものの、麻也はやっぱりこの古い病院が気に入らず、鈴木に、この入院は長くなってしまわないのか…疑わしくて

「短期入院と僕は聞いてますし…でも、今日も夕方でも諒さん来るから大丈夫でしょう?」

「…いや、それはないでしょ」

「来ますよ。あの調子はいつも通りじゃないですか」

 もちろん麻也も来てほしいとは思うが…

 鈴木の予言の通り、その日の麻也の夕食の頃、諒はやってきてくれた。

「あ、諒…」

 いざ2人きりになると、愛しいが、これまでのような慣れた気分にはなれない。

 それをさとられるのも嫌なのだが…


それは諒も同じようだった。

 

まだあの事件から五日しかたっていないのだから… 

 しかし、諒はちょっとおどけた様子で、麻也の夕食のトレイをのぞきこむと

「えっ、それスイカのジュース? おいしそう」

「ーロ飲む?」

「うんうん」

 そう言って、諒は麻也のカップを取り上げて一口飲んだ。

「おいしい~。これっておかわりできないの?」

「ダメもとで頼んでみようか?」

「いやあいいよ、ごめんごめん」

 諒の笑顔がまぶしかった。そして麻也は気づいた。

(諒って、俺のカップ使うの平気なんだ…)

それは事件の前ならば不思議なことではなかったが…

(あ、でももう諒の方からたくさんキスしてくるんだからいいのか…)


「座っていい?」

「うん。少し良くなってきたら、一人は寂しくて」

 諒といたくて、とはまだ言えなかった。

 あと、実は母が来ることになっていたのだが、心労のせいらしく動けなくなって、近所に住んでいる叔母が看病に来たらしい。麻也はそれも言いたくなかった。

「あ、でも諒は気にしないでね。もしかして今日も、俺のせいでオフつぶれて仕事だったんじゃない?」

すると、

「いや、そんなことないよ」

と諒は言いながらも目が泳いでいるのがわかって、麻也は後悔した。

(やっぱり俺のせいだよね…)

 しかし、諒は照れくさそうに、

「実はね、体が固まっちゃったから、いつものエステ屋さんでマッサージしてもらったの…」

「で、何で照れてるの?」

「だってえ、ヤワな男と思われたくなかったんだもん」

まるで以前に戻ったような雰囲気が嬉しい。

「そんなこと思わないよ」

それでも諒はまだ何か言いたそうだ。

「後は? まだ何か言いたそうだよ」

 諒は麻也の笑顔が嬉しかったようににっこりして、

「うーん、バレたか。実は社長に出くわしちゃってざっくり命令を受けたの。新曲出さないかって。新アルバムか新シングルを出そうって。で、麻也さんに伝えられたら伝えておいてって」

「?」

いくら頭を休ませ中のミュージシャンの身とはいえ、麻也はびっくりした。

「ずいぶん急じゃん」

「うん、いつも以上にファンを喜ばせた方がいいだろうと」

 社長は年内に出したいようだという。

「俺は曲書かなくていいんでしょ?」

「まさか。どうして?」

諒はその質問が理解できないといった風に目を丸くしている。

(…あの時、俺の曲が嫌いって言ったくせに…)

 麻也はそんなことを思い出して、腹が立ち、また悲しくもなって言葉に困った。

 それで諒も思い出してしまったらしく、しかし、うつむきながら、

「俺、ずっと麻也さんの曲好きだから」

 と、口角を上げるその表情が何とも照れくさそうで、嘘が感じられなかったので、麻也は何も言えなくなった。あれはきっと、諒が激しいケンカの最中に叫んだ「思ってもいないこと」なのだろう。

 そして、

「ごめんね麻也さん、俺がここに来るだけで、仕事のこと思い出しちゃうよね。

 それで真樹はお見舞いためらってるってのに…」

 それは麻也も初めて知ったことだった。でも、弟にもどんな理由でもいいから心身を休めて欲しかった。

  



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