諒が来ない時間、次の日の午前中、麻也は主治医に相談した。いくら大事な人とはいえ諒の前で相談するのは嫌だったのだ。
主治医は、まずは転院でいつもの病院に移ることは許可してくれた。
ただやっぱりああいうことがあった自宅に帰るのは…といった感じだった。
麻也も確かにあの時の諒の表情を思い出してしまうと、諒のあのあまりに傷ついた表情もショックだったが…
愛する諒に、自分があんなオヤジと同じ人間だと叫ばれたのもショックだった。
いくら誤解だったとはいえ、たくさんの人間に騙されたとはいえ、自分のことはもっと信じて欲しかった。
今では誤解だったと二人で分かり合っているけれど…
でももう俺たちは結婚しているようなもんなんだからどんな困難だって二人で乗り越えなきゃ…
そう思って麻也はすぐに諒にメールを送った。
ー転院 OK って言われた。
そこで少し治療してから家に帰った方がいいんじゃないかって。
俺はそうしたいけど諒の都合はどうですか。
するとすぐに諒から電話が来た。
諒はすごく弾んだ声だった。
ーメール見たよ。それでお願いしたい~明日かな?
「うん。俺もそれで押しきっちゃおうかな~なんてね。あれ、諒、今は?」
ー撮影の準備待ち。今日はそっちへは少しおそ…
「いいよ。明日には会えるんだから…あっ…」
その時、ノックをして主治医がまた入ってきたのだ。
「先生来たからごめん。またメールするね」
麻也が電話を切ると、四十代くらいに見える主治医は、実にあっさりと、
「遠藤さん、あ、麻也さん、今日もう転院できるけど」
「は?」
「マネージャーさんとか家族とか、誰か来られない?」
「…で、マネージャーと家族で来たよ…」
と、すぐに来てくれたのは真樹と鈴木だった。
「いやあ忙しいのに、本当にごめんね」
「おふくろを振り切るの大変だったんだから」
真樹は口をとがらせているが、その目は笑っていた。
「諒さんはあちらに来ますって」
鈴木が安心させるようにそう言ってくれた。
すぐにタクシーに乗せられたが、麻也にとっては久しぶりの外界だった。
「…真樹…」
「どしたの?」
「いや、東京ドーム…」
「やるんだよ俺達…って言ってもごめん、もとはといえば兄貴のおかげでここまで来られたのに…」
本当にありがとう、と言いながら、車窓の外に目をやった真樹の目には光るものが見えた…