アプリコット プリンセス

チューリップ城には
とてもチャーミングなアプリコット姫がおりました

第七章 アプリコットプリンセス 宿命

2015-02-08 08:54:26 | 漫画

背景に 藤城清治絵集クリスマスの鐘3(セル画) を使用しています。
素敵な影絵が絵集やセル画カレンダーになっています。

薄暗い強制収容所に少し明るい場所があった。
よく見ると洞窟の奥に教会のような建物がたっていた。

アプリコット
「まーァ!
ここにも素敵な場所があるのね!」

王子
「ここはもともと皆が集まってお祈りをする場所だったんだよ」

アプリコット
「そうなの?
こんなに暗くて寂しい場所に皆が集まっていたのかしら?」

王子
「パパ王さんが建物ごと埋めちゃったんだよ・・・・」

アプリコット
「まーァ・・・・
でも寒さを凌げる場所があったのは良かったわ!」

王子
「ぼくはこの場所でこの子たちとよく遊んでたんだ」

アプリコット
「そうなの・・・
王子様♪ お友達と仲直りして、また楽しく遊びましょ♪」

王子
「・・・・・・」

アプリコットは、まわりに集まって来た子供達に優しく話しかけた。
「今まで大変な苦労をかけてしまって、ごめんなさいね」

痩せた子供
「・・・・・・」

アプリコット
「私、あの教会に入ってみたいわ!
いいかしら?・・・」

王子
「うん
ぼくと一緒に行こーよ」

アプリコット
「そうね!
王子様!皆と一緒に私を連れて行ってくださいね♪」

王子
「わかったよ・・・
みんなと仲良くするよ・・・」

アプリコット
「お友達と仲直りして
皆で協力し合って、ここから出る方法を考えましょ!」

痩せた子供
「ここからは絶対に出られないんだ・・・」

アプリコット
「大丈夫よ!
絶対に皆さんを自由にしてあげます!
お友達のお父さんもお母さんも家族全員
絶対にここから出してあげます!」

痩せた子供
「アプリコットおねえちゃん・・・・」

アプリコット
「なあに?」

痩せた子供
「おねえちゃん・・・・
・・・おねえちゃん・・・・
おりがとう・・・」



アプリコットが閉じ込められている頃
チューリップ国では革命の嵐が吹き荒れていた。

チューリップ王が不在の間に革命勢力が大きな力をつけて
今まで国に優遇されていた特権階級が非難の矛先になっていた。

そしてネローダも赤炎兵から激しい追及を受けていた。

間延士
「お前は自分の過ちを認め
父親を批判しなければならない」

閑散士
「今まで国に優遇され資産を溜め込んできたのだから
お前が持つ資産はお前のものではないのだ!」

ネローダ
「資産はおろか食料も差し押さえられているのに
さらに何が欲しいのですか!」

アンドレア
「おいおい
変な言いがかりをしないでほしいなァ
俺達が悪者だと言いたいのか!」

ゴーガン
「ネローダくん!
あなたは黙って言うことに従えばよいのだよ
反省はする必要があるがね!」

ネローダは疲れきっていた。
ネローダへの追求は激しさを増していき、
ネローダをかばう者もまた批判の矛先になっていた。

ネローダ
「私の父親は人々のために国のために
命を減らして働いてきたのです。
決して批判されるようなことはしておりません」

間延士
「まだ懲りないようだな!」

閑散士
「お前が強情を張るのは、お前のエゴだ
エゴを捨て去り、自己批判して罪を認めればよい
そして、父親を批判し国民に謝罪するのだ!」

ネローダ
「謝罪は何度も繰り返ししてきました」

アンドレア
「そんなことを言ってるんじゃないよ!」

ゴーガン
「そんなに分からず屋だと反省にならんと
言っとるのが分からんのかァ情けない!」

ネローダ
「私は間違ったことはしていません!」

間延士
「ふざけるな!
謝罪を何度繰り返しても意味がねぇーだろーが!
ふざけた野郎だ!」

閑散士
「お前が強情を張れば追求が厳しくなるぞ
罪を認めて謝罪するのだ!
今度は、町の広場で全体批判集会がある
そこで民衆から批判を浴びることになるのだ!
批判は徹底的に行われる!
決して中途半端には終わらないのだよ」

ブルドクタスは今まで国王に優遇されてきた者たちを
徹底的に批判するように言い渡していた。

そして、今までひもじい思いをしてきた国民の不満の矛先は
ネローダをはじめとする一部の者たちに集中していた。

そのため、ネローダへの追求は止むことはなく
いつまでも続くことになるのだ。



アプリコットと王子が行方不明になったので、エゾンベラ国は大騒動になっていた。
そして王宮には儒術使いが招かれていた。

エゾンベラ王
「そなたは二人の居所が分かると言うのだな!」

儒術使い
「いかにも、わしには見えるぞ! 二人は今、暗闇の中におるぞ!」

エゾンベラ王
「そうか!では、その暗闇は何処にあるのじゃ!」

儒術使い
「それは、今は分からぬわ!」

エゾンベラ王
「おしえてくれ!褒美はいくらでもするぞ!」

儒術使い
「褒美などいらんわ!」

エゾンベラ王は儒術使いの傲慢な態度にイラついていたが二人の居場所を
知るために我慢していた。

儒術使い
「支配者は徳による王道で天下を治めるべきであり
恐怖による覇道をするべぎてはない!
徳を持たぬ支配は破滅を生じるであろう!」

エゾンベラ王は怒りを噛み潰して耐えていた。
そして、二人の居所が分かり次第
この儒術使いを処罰してやろうと考えていた。

チューリップ王
「失礼ですが、あなたは徳治主義を主張されているのですか?」

儒術使い
「いかにもその通りじゃ!
この国は栄枯盛衰の中にある
驕れるもの久しからずじゃ!」

チューリップ王はアプリコットのことが気がかりで仕方なかった。
儒術使いだろうが魔術師であろうが藁にも縋る思いであった。

チューリップ王はエゾンベラ王の機嫌を損なわないように
小さな声で耳打ちをした。

チューリップ王
「儒術使いの言うことを信じましょう!」

エゾンベラ王
「そうだな!だが奴は後で酷い目にあわせてやるわ!
俺様を何だと思っているのだ!」



ブルドクタスによる革命は更にエスカレートしていった。
赤炎兵はネローダのような弱い者への攻撃を足場にして
今度は社会的に強い影響力を持つ者への攻撃に移行していった。

今度、批判の矢面に立たされたのはチューリップ王の御意見番でもある
王立アカデミー名誉教授サイモンド博士であった。

閑散士
「あなたはチューリップ王と親しい関係だと聞いている
チューリップ国の行政決定権はあなたが持っていた
従って、チューリップ国の災難はあなたの責任である!」

サイモンド博士
「いかにも、チューリップ国が旱魃に見舞われる前に
対処することがあったようだ」

間延士
「案外素直に罪をみとめたな!」

閑散士
「あなたはチューリップ王が進めようとした灌漑整備に
反対したのはなぜだ!」

サイモンド博士
「反対などしていない」

間延士
「ほれみろ!こいつも相当の極悪人だ!
素直に反省して謝罪し刑に処すればいいんだ!」

サイモンド博士
「君達はこの国を破壊したいのか!」

間延士
「これは革命なのだ!
いままで王に虐げられた貧しい人々による善意の革命なのだ!」

サイモンド博士
「チューリップ王が国民をいじめていたとでも言うのか!」

閑散士
「チューリップ王はアプリコットに大量の宝石を買い与え
国民が飢えに苦しんでいる事態を放置して海外に遊びに行っている
国民はチューリップ王に騙されているのだ!」

サイモンド博士
「君達は知らないのか!
アプリコット姫に贈られた宝石はエゾンベラ王からの貢物なのだよ
王は宝石を返そうとしたが受け取りを拒否されたのだよ」
「それからもう一点!
チューリップ王は海外に遊びに行っている訳ではないぞ!
クリスマスの奇跡はチューリップ王がエゾンベラ王に頼んで実現したのだ!
チューリップ王は国民を救うために海を渡ったのだよ!」

間延士
「黙れ!殴られたいのか!」

サイモンド博士
「城から公式文書が公開されている確認してほしい!」

間延士
「強情な奴だ牢に入れておけ!」

赤炎兵
「来い!酷い目に合わせてやる!」

赤炎兵による弾圧は暴力的になり歯止めが利かなくなっていった。
弾圧は弱者から社会的に強い立場の者へ
そして、今度は医師や教育者などに広がっていった。



サイモンド博士はネローダ達のいる牢に一緒に入れられていた。

サイモンド博士
「御王が留守の間に大変なことになってしまった」

ネローダ
「いったい何が起こっているのですか?」

サイモンド博士
「君は何も分からずに牢獄されたのかい?」

ネローダ
「はい」

サイモンド博士
「今、この国は革命勢力が支配している
きっと、ネローダ君には反革命分子のレッテルが張られたのでしょう」

ネローダ
「僕は皆から自己批判するように言われるんです
そして、尊敬する父親の批判も強要されています」

サイモンド博士
「君は親孝行な少年なんだね
だけど、今は彼らに従うふりをしたほうが良いと思う」
「不条理な世界に人情は後退しているのだから・・・・」

ネローダ
「彼らは何がしたいのでしょうか?」

サイモンド博士
「飢饉が国を荒廃させてしまったのだよ
荒廃した国の人々は心まで歪んでしまったようだ!」

ネローダ
「僕はこれから何をすれば良いのでしょうか?」

サイモンド博士
「君が何をするべきかは分からないが
私はこの国を離れようと考えている。
もし、君が逃げ出そうと思っているのなら
一緒に行動することも可能ですよ」

ネローダ
「でも、私には認知症の母がいるので
自由に動くことができないのです」

サイモンド博士
「確かに・・・
一緒に行動すると捕まってしまう可能性が高くなる」

ネローダ
「母親をおいて逃げ出すことはできません」

サイモンド博士
「んーそうだな・・・
君はここに残っていたほうが良いだろう」
「きっと御王を連れて帰ってくるから、その時まで耐えていて欲しい。
絶対に諦めないで待っていてください」

ネローダ
「彼らはチューリップ王の言うことも聞かないと思います」

サイモンド博士
「今、民衆は革命の高揚の中にいる
この中に御王を帰してしまえば極めて危険な状況になるだろう」

ネローダ
「彼らは王家を滅ぼすために恐ろしい計画を立てています」

サイモンド博士
「分かっている」

ネローダ
「私にはその計画を実行するようにとの命令が下されているのです」

サイモンド博士
「彼らは自らの手は汚さずに王家を滅ぼしたいのだよ」

ネローダ
「私は利用されているのですか?」

サイモンド博士
「君は利用され続けることになる
そして逃げることもできない・・・」

ネローダ
「耐えるしかないのですね!」

サイモンド博士
「許して欲しい
私がもっとしっかりしていれば
君をこんな目に合わすことはなかったのだから・・・・・」

ネローダ
「耐えるしかないのですね・・・・」



サイモンド博士は一旦投獄されていたが、自由に外に出ることもできた。

革命勢力はサイモンド博士を完全に失脚させたかったが
チューリップ王の権威は健在でありサイモンド博士を
慕う者達もたくさんいたのである。

アンドレアとゴーガンもサイモンド博士には頭が上がらなかった。
そもそも、町の代表になりたがっていたゴーガンにとっては、
サイモンド博士の承諾がなければ、その地位と名誉は約束されないのである。

サイモンド博士
「ネローダ君やその家族を投獄したのは貴方達だと聞いているが?」

ゴーガン
「いいえそんなことは・・・・」

サイモンド博士
「罪がない者をいつまでも投獄することは許されないぞ!」

アンドレア
「あのー・・・・サイモンド博士」

サイモンド博士
「何ですかな?」

アンドレア
「革命勢力が監禁していると思うのですが?」

サイモンド博士は全ての成り行きを知っていたが
黙っていた。

ゴーガンは自分達でネローダ家族を監禁したことを
サイモンド博士に知られたくなかった。

ゴーガンはサイモンド博士に聞こえないように
アンドレアとひそひそ話しをした。

ゴーガン
「サイモンド博士はチューリップ王の御意見番であり
大きな権威をもつ大物だ」

アンドレア
「全部の責任を革命勢力に押し付けたらどうかなァ・・・」

ゴーガン
「んー・・・・」

サイモンド博士
「ネローダ君やその家族に責任はないのだから
君達が監禁したのであれば、ただちに釈放してほしい!」

アンドレア
「全ては革命勢力が仕組んだものであって
我々は何も知らないのです」

サイモンド博士
「そうですか・・・・
では貴方達も革命勢力側に付くのですかな?」

ゴーガン
「めっそうもありません・・・・・
我々は善良な小市民ですから
国家転覆の片棒を担ごうなど
めっそうもございませんです・・・・」

サイモンド博士
「そうか・・・
それならば安心だ!ネローダ君の家族を釈放して
君達が面倒を見てやってほしい!
よろしく頼んだぞ!」

ゴーガン
「・・・・・・」

そして、ネローダ達の面倒を託してサイモンド博士は立ち去っていった。

ゴーガン
「サイモンド博士は大物だからなァ・・・・」

アンドレア
「チューリップ王から絶対の信頼を持たれている・・・・」

ゴーガン
「町の者も皆、サイモンド博士には頭が上がらんのよ・・・・」

アンドレア
「サイモンド博士に頼んで町の代表になったのはゴーガンさん
だったかのォー・・・・」

ゴーガン
「サイモンド博士に頼んで地区の相談役になったのは
アンドレア婦人だったかのォー・・・・・」

ゴーガン
「やっぱり頭が上がらんワイ
ガッハハハ」

アンドレア
「ニッヒヒヒ」



儒術使いを招いてから程なくしてエゾンベラ王の健康状態が悪化していった。
エゾンベラ王は行方不明の王子や国の行く末を心配していたが、
国民には知られない様に健在を示していたかった。

エゾンベラ王
「この国は我の絶対権限で統治されている・・・・・
我が病に伏しておることがあからさまになれば
国の転覆を目論む者が対等するだろう・・・・・
そこで、御小王殿にお願いじゃ!
我が健在であることを国民に示し
我が病に伏していることは極秘にしていてほしいのじゃ・・・・」

チューリップ王
「御大王様! 貴殿は心労が重なり休養を必要としているのです。
ゆっくり休んで心配事をしないことですぞ」

エゾンベラ王
「我はもう長くは生きられんようじゃ・・・」

チューリップ王
「そんな気弱なことを言ってはいけません」

エゾンベラ王
「分かっておる・・・
そなたには世話になる・・・・
我は、この国を混乱させたくはないのじゃ・・・
頼んだぞ・・・」

チューリップ王
「・・・・・御大王様・・・・
この国のことは安心してお任せください!
今は何も心配せずにゆっくりと静養することです」

エゾンベラ王
「そうだな・・・・・
悪いがお湯を飲みたいのじゃ・・・
給仕に内緒で用意してほしい・・・
んん・・・少し寝るか・・・・」

チューリップ王はアプリコットのことが心配で堪らなかったが
エゾンベラ王を放置しておくこともできず途方に暮れていた。



エゾンベラ王は儒術使いに不信感を募らせていった。
そして、体調が悪くなったのは
儒術使いが自分に呪いの魔術をかけたせいだと確信していった。

儒術使い
「エゾンベラ王は悪そうだな」

チューリップ王
「・・・・・・」

儒術使い
「そなたは迷っておるな」

チューリップ王
「分かるのですか!」

儒術使い
「エゾンベラ王はわしを殺そうと思っておる」

チューリップ王
「なぜ、そう思うのでしょうか?」

儒術使い
「わしが思うのではない」
「奴が思っているのだ」

チューリップ王
「貴方は全てを知っておられるようだ」

儒術使い
「いかにも」

チューリップ王
「実は、貴方を殺める命令が託されておるのです」

チューリップ王には儒術使いを殺すことは出来なかった。
むしろ、儒術使いの魔力でアプリコットを助けたいと考えていた。

儒術使い
「わしを生かしておると貴殿に災いが生ずることになるぞ!」

チューリップ王
「重要なことは多くの国民の幸せを保つことであり
己の身の保身ではないと思っている」

儒術使い
「貴殿に忠告しておく
戦うのであれば殺されよ
負ければ逃げよ
名誉の自決は一生の後悔となる
名誉は一瞬のものであるが
生き恥をさらしても生き続けることは
永遠の誉れである」

チューリップ王
「王家は名誉のため己の命を惜しまないことを
信条としている。
王家の名誉のために
生き恥をさらして生き続けることはできない」

儒術使い
「もう一度同じことを言う
戦うのであれば殺されよ
負ければ逃げよ
名誉の自決は一生の後悔となる
名誉は一瞬のものであるが
生き恥をさらしても生き続けることは
永遠の誉れである」

チューリップ王
「やはり・・・・
戦えば負けると仰りたいのですね・・・」

儒術使い
「必ず負ける!」

チューリップ王
「貴方を信じましょう
今は戦う時期ではないようだ」

儒術使い
「いや、今なら勝てるかもしれないが
これからは絶対に勝つことはできないのだ!
貴殿は誇り高い王じゃが
誇りを保つことを主眼とした行動は
新たなカルマをつくる
そろそろ気が付く必要があるはずだ」

チューリップ王
「では、私は戦って死ぬのですか?」

儒術使い
「宿命は変えられないが
運命は切り開いていける。
誇りを捨てて
人類愛のために生き続けるのだ
貴殿の宿命は戦って死ぬことではないぞ
ましてや自決して名誉を保つことでもない!」

チューリップ王には儒術使いの言っていることが
よく分からなかった。
そもそも、チューリップ国が革命勢力によって混乱していることも
知らなかったのである。