赤穂事件 芋虫を踏みつける
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/46/64/e5bf2c49669093fcb6778efe79cb7fee.jpg)
鷹司信子
「あれあれ」
「芋虫を踏みつけるとこで
ごじゃりました」
「おょ」
「芋虫かとおもーたが
貴方か」
徳川綱吉
「うェ」
「何じゃ?」
鷹司信子
「大奥に引き籠り
ごろごろと転がっておる」
「芋虫か!」
徳川綱吉
「なァ・何を怒っておる?」
「儂は、何もしてはおらんぞ!」
鷹司信子
「何もしてない!」
「何もしてないのかえ!(`´)」
徳川綱吉
「何で怒る?」
「儂は将軍じゃぞ!」
「偉いんじゃぞ!」
鷹司信子
「黙らっしゃい!」
徳川綱吉
「うううゥ」
「また怒るぅぅぅ・・」
「儂は、怒られることが無いから
心が折れるのじゃ」
「辛いのじゃ」
「怒るな」
鷹司信子
「お前は」
「玉にそそのかされて
わらはを折檻するのかえ」
徳川綱吉
「えェ」
「知らんよ・・」
鷹司信子
「本当か!」
徳川綱吉
「本当だよ」
「だから、怒らないで・・」
「チンは、心が折れる」
「あのなァ」
「また、最近、怯えがぶり返してきておるのじゃ」
「また、儂を怯えさせたいのか!」
鷹司信子
「変な企みはしない事じゃ」
「わらはには、お前の企みなど通用せんぞ」
「わらはに、大奥を追い出されることになりますぞ!」
徳川綱吉
「儂を追い出すのか?」
鷹司信子
「わらはに忠実なる公卿女中は
大奥では絶大なる力を持ってごじゃる」
「大奥で、わらはに逆らう女子はおらんぞよ」
「わらはの命令で
お前は、大奥で孤立を深める事になるのでごじゃる」
「それでも良いのですか」
徳川綱吉
「嫌じゃ・・」
「わしは、此処にしか居場所が無い」
「儂を虐めてはならん!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/60/e2/0af8ca6f79222ee3ba490fed60679547.jpg)
浄光院 (徳川綱吉の正室 鷹司 信子)
「わらわは、芋虫を追い出そうと思っておりますがね
あの芋虫は、本丸には行かんそうじゃ」
伝 (徳川綱吉の側室)
「如何致さりたので御座いますか?」
「宗上様を追い出すと申されるので・・」
浄光院
「玉が、わらわはを折檻すると言い出した」
「それでね」
「わらわは、仕返しに芋虫を追い出す事にしたのじゃ」
「しかし、芋虫は、本丸には行きたがらんからね」
「三の丸に引き取ってもらおうと
考えてごじゃる」
「これは、大奥公卿女の同意でごじゃるよ」
伝
「宗上様が、伝と暮らすので・・」
浄光院
「綱吉は自身は将軍で偉いのだから言っておるがね」
「大奥では誰にも相手にされない、引き籠りの
孤独な老人でごじゃるよ」
「三の丸で、頭を冷やしてやろうかと
追い出すことに決めたんじょ」
伝
「宗上様は承知なされたので・・」
浄光院
「女子衆が捕まえて
三の丸に連れて行くから
お前が、芋虫の世話をするのじゃ」
「よいな」
伝
「宗上様は、三の丸には居付きません
直ぐに、逃げてしまわれます」
「お伝には、無理で御座います」
浄光院
「では、断れば良いのじょよ」
「綱吉の居場所が狭まり
芋虫は、わらわに降伏する事になる」
「わらわの力を見せてありゃんす」
伝
「はい」
「お伝も」
「御台所様にお願いするのが
一番良いかと・・」
浄光院
「わらわは、其方が味方であると信じておりますよ」
「しかしね」
「わらわを裏切ればどうなるか
考えることじゃよ」
「わらわには、将軍を追い出す程の権威がごじゃる」
「わらわは、左大臣従一位・鷹司教平の娘
母は冷泉為満女(鷹司家譜)兄に関白・鷹司房輔、妹に霊元天皇中宮
わらわを怒らせれば、芋虫は潰される」
「わらわは、それ程の権威を持っておるんじょ」
伝
「はい」
「お伝は
御台所様を
決して裏切る事は御座いません」
浄光院
「玉に言い寄られても
絶対に従っては為らないのだじょ」
「わらわは、卑しい成り上がりの玉などに
折檻を受けては為らんのじゃよ」
「わらわの権威が傷つけば
天皇、上皇様の権威にも傷が付いてしまいますからね」
「それは、絶対にあってはならない事でありんす」
伝
「はい」
「お伝は、御中﨟のおりから
御台所様には良くして頂きました」
「お伝は、
引き続き、御台所様に
御奉公をしたいと思っております」
浄光院
「玉は卑しい身分の八百屋の娘であった」
「その卑しき者に
わらわが、折檻されるなど
有り得ぬ話じゃ」
「わらわの怒りが、どれ程の事か」
「玉の大切な芋虫を、踏み付けにして
叩き出してくれるわ」
「わらわは、怒っておるのじょ」
伝
「はい、
お伝も、卑しき身分で御座います」
「御台所様に、ご奉公致します」
浄光院
「芋虫を庇っては為らんじょ」
「玉に協力しては為らんじょ」
「わらわを、裏切っては為らんじょ」
「良いな」
伝
「はい」
「御台所様」
浄光院
「お前は、いつまでも
わらわの御中﨟じゃの」
「わらわは、お前が可愛い」
「わらわの味方にあれば
わらわが、お前を守ってあげるじょ」
「しかしな、
裏切れば、容赦は無い」
「わらわの格式は、綱吉よりも高いのでありんすじょ」
伝
「はい」
「それは、皆々の承知しております事」
「御台所様が一等に御座います」
浄光院
「そうじゃじょ」
「わらわが、一等じょ」
「芋虫は、
わらわが、踏み潰す」
伝
「はい」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/71/29/cc1a38913efcfef32abf55bb78a29502.jpg)
津軽 政兕 (旗本 陸奥国弘前藩分家・黒石領4000石)
「御祖父様、お呼びで御座いますか」
吉良 上野介 (高家旗本 高家肝煎)
「おお、来たか」
「儂はな、赤穂と仙台の和解の仲立ちを止めた」
「もう、赤穂守を犬にする事は無理となったのじゃ」
津軽 政兕
「しかし、弘前本家は和解を勧めております」
「分家も本家に習わねば為りません」
吉良 上野介
「お主が、本家となれ」
「儂の力で本家を潰してやる」
「本家に代わり、其方が領主となれば良い」
津軽 政兕
「何か御座いましたか?」
吉良 上野介
「んんゥ」
「赤穂が疱瘡を患い、顔に痘痕が出来た時から
上様は、赤穂を嫌い始めた」
「そして、今では、赤穂を陥れようとしておられる」
「上様の気が変わったのじゃ」
「赤穂と仙台の和解は
我らの望む事ではなくなった」
津軽 政兕
「某も、上様の小姓として勤めておりましたが
突然の御役御免を申し受け
小普請組に再編入で御座いました」
「上様がお嫌いに為られたとあれば
赤穂殿もただでは済みません」
「我らは、赤穂を遠ざける事が肝要かと」
吉良 上野介
「お前が御役御免に為ったのは
儂のせいじゃ」
「お前を、一旦小普請組に戻して
儂の為に働いてもらう事としたのじゃ」
「そして、今、其方の役目はな
赤穂と仙台の和解を妨害する事なのだ」
「これは、命令じゃぞ」
津軽 政兕
「御義父様!
何故に和解の妨害を為さいますか?」
吉良 上野介
「上様の命令じゃ」
津軽 政兕
「えェ?」
「そこまでして、
上様が赤穂を陥れる理由は何に御座いましょう?」
吉良 上野介
「上様は、赤穂を生贄にしようとの、お考えじゃ」
「生贄に成る赤穂を庇えば
我らもまた、上様に嫌われる」
「上様に嫌われれば
我らもまた、生きてはいけぬ」
津軽 政兕
「では、赤穂を庇っている
本家の信政様は如何為りましょう?」
吉良 上野介
「弘前本家は潰されるな」
「そうなれば、お前が本家を引き継げばよい」
津軽 政兕
「我らが、本家弘前と成るのですか」
「悪い話ではありません」
吉良 上野介
「全ては、上様の御機嫌伺いじゃぞ」
「上様の命令には忠実に従うのじゃ」
「赤穂の事など
我らの知った事ではない」
「赤穂が滅びようが
我らが、安堵ならば
それが一番良いのじゃ」
「赤穂を庇えば
上様に嫌われると思へ」
津軽 政兕
「はい」
「御義父様に従い
赤穂を陥れ
上様の命令を忠実に実行致します」
吉良 上野介
「んんゥ」
「良い心掛けじゃ」
「いずれ、赤穂は始末される」
「赤穂に気使いは無用じゃ」
「赤穂は、もう、存在しないと思え」
津軽 政兕
「はい」
「赤穂は不要に御座います」
吉良 上野介
「左様」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/52/29/a299dffd2fc9923b886178b900e2479a.jpg)
桂昌院 (綱吉の生母)
「お前は、いつも、此処へおるのですね」
「たまには、出かけては如何かな?」
徳川 綱吉 (江戸幕府征夷大将軍)
「ははたま」
「何処かに出かけたいので御座いますか?」
桂昌院
「わしは、いつも出かけておる」
「しかし、お前が
大奥ばかりで、転がっておるから
奥の女衆は、お前を芋虫と呼んでおるぞ」
「確りせんか!」
徳川 綱吉
「ははたま・・」
「母玉は怒っておりますか?」
桂昌院
「怒っております」
「あの生意気な嫁御は
わしを馬鹿にして、卑しい身分の
八百屋の娘だと罵っておる」
「早く、折檻をして
反省させねばなりません」
徳川 綱吉
「母玉がそう為さりたければ
朕は何も申しません」
「母玉にお任せします」
桂昌院
「いいや」
「お前が悪いのじゃぞ!」
徳川 綱吉
「ひョー」
「儂が悪いのか?」
桂昌院
「お前がな、嫁御に甘いから
芋虫と呼ばれて馬鹿にされるのじゃぞ」
「お前だけでは無いのじゃ
わしも同様に馬鹿にされておる」
「全部、お前の責任じゃぞ」
徳川 綱吉
「朕には大奥にしか居場所がない・・」
「黒書院で政をしたら
此処に帰るのじゃ」
桂昌院
「まァよいわ」
「これから、饗応が御座いますからね
嫌でも白書院に出向き挨拶をせねば為らんぞ」
「勅使への奉答文を貰っておいて
間違いのないように読むのじゃぞ」
徳川 綱吉
「んんゥ」
「余興じゃ!」
「余興を忘れておった」
「そうじゃな、余興を準備しましょう
気晴らしに能を舞ってもらう事にするぞ」
「そこで、小石と並び鑑賞することにする」
桂昌院
「そうじゃな」
「生意気な嫁御に
お前の力を見せつける絶好の機会じゃぞ」
「やるのであれば
大枚を叩き、公卿共を圧倒する能会を催すのじゃぞ」
「公卿に馬鹿にされては為らんぞ」
徳川 綱吉
「今回の饗応で、柳沢にあずけている吉里に
松平姓を与え、勅使に伝える運びになっておるからなァ」
桂昌院
「馬鹿を申すな」
「生意気な嫁御を折檻するための
大切な時期ですぞ」
「勅使に願い出るような事では有りません」
「吉里のお披露目は
嫁御を折檻した後の事」
「公卿の力を削ぎ落し
天皇や上皇の権威失墜の後にする事じゃぞ」
徳川 綱吉
「えェ」
「駄目なのか?」
「ちんは、母玉が喜んでくれると思っていた」
桂昌院
「よく考えて見なさい」
「お前が、柳沢の嫁御を奪って出来た子じゃぞ」
「それを、今、お披露目などできるか!」
「わしはな、あの小石を陥れ
赤穂との密会を咎めたいのじゃぞ」
「そんな折に、お前の隠し子をお披露目など出来るか!」
「馬鹿息子が!」
徳川 綱吉
「ちんは、馬鹿じゃな」
「御台所にも、母玉からも叱られる」
「ちんは、馬鹿じゃ」
「ちんには居場所が無い」
「落ち着く、場所が欲しい」
桂昌院
「甘えてはなりません」
「お前は、江戸幕府征夷大将軍じゃぞ」
「威張っていなさい!」
徳川 綱吉
「小石は強いぞ」
「ちんの敵う相手では無い」
「母玉であっても
手を焼いておるのじゃろ」
桂昌院
「もォォ」
「お前は、情けない事を申すではない」
「母はな、官位が低いから
馬鹿にされてきたのじゃぞ」
「お前の力で
母に官位を授けてくれたらよいのじゃ」
「官位が高ければ
生意気な嫁御をねじ伏せる事が出来る」
「そうなれば、
お前を虐める者など此処にはおらんぞ」
徳川 綱吉
「そうじゃなァ」
「・・・・」
「母玉の官位を買うか・・」
桂昌院
「よいですか」
「朝廷に貢いで官位を貰うのです」
「金子、銀子を大量に用意するのです」
徳川 綱吉
「はい、母玉」
「よし、
儂の力を見せつけてやるぞ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/0d/89278f0b975967151c23df0588614d3e.jpg)
伊達村豊 (宗春初名)
(院使の清閑寺熈定の饗応役)
浅野 内匠頭 (長矩)
(勅使の柳原資廉と高野保春の饗応役)
伊達宗春
「赤穂殿」
「今回の饗応は余興で能会が御座います」
「準備は、指南役から指示されますから
それを、我らから、お伝え致します」
浅野 内匠頭
「おおォ」
「和泉守」
「感謝申し上げます」
「共に協力して、今回の饗応に臨みましょう」
伊達宗春
「しかしながら、斯様に其方と話をすることは
出来難い状況になっております」
「心苦しいので御座いますが、勘弁願います」
浅野 内匠頭
「左様か」
「指南役の嫌がらせですな・・」
「しかしな、
今回の饗応役は連帯責任じゃぞ」
「我らが怠れば、其方の責任にもなる」
「吉良殿の嫌がらせに屈服しては為りません」
伊達宗春
「んんゥ」
「分かっておる」
「しかし、指南役の嫌がらせは常軌を逸しておる」
「失礼じゃが
赤穂殿は、吉良殿に如何なる恨みを買っておるのか
教えてはくれぬか?」
浅野 内匠頭
「某、吉良殿に恨みを買ってはおりません」
「吉良殿の嫌がらせは
もっと深い理由が御座いますが
今は何も申す事は出来ぬので御座る」
「深い理由を申せば、不忠となります」
伊達宗春
「んんゥ」
「何やら不穏な事のようじゃ」
「某、若年で御座るから
込み入った話に対処出来ぬ」
「不忠とあらば、公方様への忠義にあるか?」
浅野 内匠頭
「和泉守」
「公方様は吉良殿に直接会って
指示を授けておる」
「その吉良殿が嫌がらせを強行しておるのじゃ」
「何が起きているのか、誰にでも分かる事」
「皆々は、知らぬふりを装っておる」
「そして、その渦中に我らは放り込まれておる」
「逃げる事は出来んぞ!」
伊達宗春
「では、嫌がらせは上様の指示!」
浅野 内匠頭
「いいや、上様、直接の指示ではない」
「大奥の事情で御座る」
伊達宗春
「大奥の事情?」
「詳しく、お教え願います」
浅野 内匠頭
「知りたいのか?」
「これを知れば、其方はもっと危険な状況に巻き込まれるぞ」
「覚悟はあるのか」
伊達宗春
「んんゥ」
「聞いておかねば、今後、困るやも知れぬ」
「お教え願いたい」
浅野 内匠頭
「吉良殿は、我らを生贄にして
大奥の対立に対処しようとしておる」
「大奥の対立を丸く収める為に
儂は利用されておるのじゃ」
伊達宗春
「左様な?」
「少々、考え過ぎでは御座いませんか?」
「大奥の対立とは
如何なるもので御座る?」
浅野 内匠頭
「実は、儂は覚悟を決め兼ねておる」
「今回の饗応に不手際があれば
我らの責任は重大」
「そして、吉良殿には
責任逃れの確約が上様から約束されておる筈」
「すると、我らの責任は
其方にも飛び火する事は必然じゃ」
伊達宗春
「嫌な事を申されるな・・」
「我らが、とばっちりを受けると申すか!」
浅野 内匠頭
「左様、嫌な事じゃ」
「しかしな、これは逃れようがない現実じゃぞ」
「このまま、饗応が無事に終わったとしても
儂は、吉良殿の罠に嵌り
始末される運命じゃ」
「我らが、始末されれば
其方にも災いが降り注ぐ」
「今、吉良殿が其方に良くしているのは
赤穂と仙台の対立を煽る為」
赤穂を潰せば
今度は、仙台殿に牙を剥く事は明らか」
「よそ事では済みませんぞ」
伊達宗春
「今度は、我らに嫌がらせをするのか?」
「大奥の対立とは何じゃ?」
「公方様の指示とは?」
「・・・・」
「赤穂殿・・」
「やはり、少し考え過ぎじゃぞ」
「悪い事は申さん」
「吉良殿に指南料を余分に支払う事じゃ」
「それで、全ては解決する」
浅野 内匠頭
「いいや」
「吉良殿は、指南料の追加を拒否なされた」
「銀子の問題ではないのだよ」
伊達宗春
「それは、渡し方の問題じゃと思うが?」
「吉良殿の面目を思いやり
上手に渡すのじゃ」
「吉良殿は、悪い御方ではないぞ」
「其方の考えは変じゃ」
「其方は、変人じゃぞ」
「変人故に、虐められておるのじゃぞ」
「反省するべきは其方じゃ!」
「何が、大奥の対立じゃ!」
「何が、上様の指示じゃ!」
「我らは、お主に騙されはせんぞ!」
浅野 内匠頭
「いずれ、分かる事じゃ」
「・・・」
「いや」
「永遠に分からぬ事かもしれん・・」
赤穂事件 監督不行き
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2e/1d/24383f22cad00d8fb57d34391550e59b.jpg)
安井 彦右衛門 (赤穂藩浅野氏の家臣。江戸家老。650石。)
「仙台藩が我らに和解金を用意しておるそうですな」
藤井 宗茂 (赤穂藩浅野氏の家臣。上席家老。800石。)
「んんぅ」
「旨く和解が出来そうじゃぞ」
「伊達殿の協力があれば
饗応を無事に乗り切ることが出来る」
安井 彦右衛門
「問題は、お館様じゃ」
「酷く、落ち込んでおられる]
藤井 宗茂
「左様」
「問題は、根が深そうじゃぞ」
「我らも、始末されるかも知れん」
安井 彦右衛門
「えェ」
「何か?」
「吉良殿の嫌がらせで御座いますか?」
藤井 宗茂
「吉良殿が嫌がらせをしても
伊達殿の協力があれば乗り切れる」
「問題は、もっと深刻ぢゃぞ!」
安井 彦右衛門
「えェ?」
「詳しく、お教え願いたい」
藤井 宗茂
「実はな、お館様から相談を受けたのじゃ」
安井 彦右衛門
「おおォ」
「如何なる相談?」
藤井 宗茂
「其方も、知っている事じゃ」
「お館様は、御台所様に呼ばれて大奥に行かれた」
安井 彦右衛門
「なんじゃ」
「左様な事は、皆々が知っておる事」
「呼び出しを受けて出向いたのを
咎められる筋合いは御座らん」
藤井 宗茂
「それからも、再三の呼び出し」
「何かあると思っておった」
安井 彦右衛門
「おい」
「脅かすな・・」
藤井 宗茂
「お館様は、思い悩んでおられる」
「自らの身の振り方を考えておられる」
安井 彦右衛門
「如何なる事ぢゃ?」
「御台所様の呼びつけを拒否するのか?」
藤井 宗茂
「いや、今更、拒否しても
既に手遅れぢゃ」
「もう、拒否する意味は無い」
安井 彦右衛門
「なんぢゃ!」
「何が言いたいのか、はっきりせんか!」
藤井 宗茂
「んんゥ」
「実はな、
お館様と御台所様との密会が企てられておったのぢゃ!」
安井 彦右衛門
「ヴェ」
「ぐェ」
「みみみみ密会じゃとォォォォォーー」
藤井 宗茂
「左様」
「そして、これは全て上様の母君の企て」
安井 彦右衛門
「ななァ何で、分かる?」
藤井 宗茂
「お館様が再三の呼び出しで
御台所様から直接に聞いた情報だ」
「間違いは無い」
安井 彦右衛門
「大変ではないか!」
藤井 宗茂
「んんゥ」
「この事が公になれば
お館様は、重罪で処罰される」
「そして、我らは
現場の責任者として、監督不行きとして切腹となる」
「更には、赤穂は改易ぢゃ」
安井 彦右衛門
「わわわァ儂は、切腹するのか?」
藤井 宗茂
「打ち首の方が良いのか?」
安井 彦右衛門
「ぐェ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/6a/9577c8303c56556ff62849c724497e90.jpg)
徳川 綱吉
「母君に従一位の官位と宗子という名前を授けることにした」
「これは、女性で最高位の官位じゃ!」
吉良上野介
「はい」
「目出度き事で御座います」
「上様、そして生母様に
御喜び申し上げます」
徳川 綱吉
「んんゥ」
「官位は朝廷から貰わねば為らんから
買い取ることにした」
「至急に幕府の御金蔵から用意しろ」
吉良上野介
「はい、
直ちに、勘定奉行に申し渡し
用意致します」
徳川 綱吉
「朝廷の機嫌を損なうではないぞ」
「既に、母君は官位を得たつもりでおられるのじゃぞ」
「大金で必ず官位を買い取らねば為らん!」
「失敗は許さん!」
吉良上野介
「はい」
「絶対に成功致します」
徳川 綱吉
「んんゥ」
「これで、大奥の争いも無くなる」
「母君も喜ぶ」
吉良上野介
「つきましては」
「先の事、は如何致しましょうか?」」
徳川 綱吉
「先も後も無い」
「母君の申すようにすればよい」
吉良上野介
「はい」
「御台所様と赤穂の密会に御座います」
徳川 綱吉
「密会など無いぞ!」
「誰だ、ふざけた事を言っておるのは!」
「母君と小石は仲直りしたのじゃ!」
「二度と、密会などと申せば
お前の首はちょん切られるのだぞ!」
「馬鹿者が!」
吉良上野介
「ああァァァァァァ・・」
「申し訳御座いません」
「ご無礼をお許し下さい」
徳川 綱吉
「おい、犬」
「泣け」
吉良上野介
「ワン!ワン!」
徳川 綱吉
「お前は犬か!」
吉良上野介
「ワン」
徳川 綱吉
「お前は、今回の饗応で
犬のように、口で御膳を食せ!」
吉良上野介
「ワン!」
徳川 綱吉
「ぎっひひひ」
「犬じゃ」「いぬぢゃ」
「お前は、儂の犬ぢゃぞ!」
吉良上野介
「ワン」
徳川 綱吉
「おい、犬!」
「儂は、偉いか!」
吉良上野介
「御意」
「上様は、江戸幕府第5代征夷大将軍であらせられます」
「幕府の最高権威にあらせられます」
徳川 綱吉
「では、儂と小石は何方が偉い!」
吉良上野介
「当然、上様で御座います」
徳川 綱吉
「よし」
「儂の方が偉いのじゃな!」
吉良上野介
「御意」
徳川 綱吉
「おい犬!」
「お前は、犬か!」
吉良上野介
「ワン、ワン」
徳川 綱吉
「ひひひィ」
「儂は、犬の者しか信じられん」
赤穂事件 優しい指南役
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/42/8e/f227780b853d9ac561b9b93f688716c4.jpg)
吉良上野介
「おおぉ」
「赤穂殿」
「其方、勅使御馳走人として、
勅使・院使をお迎えする準備であるが
老中土屋政直殿と高家畠山基玄殿に従い
紹介を受けよ」
「良いな」
浅野 内匠頭
「御貴公は、如何為されますか?」
吉良上野介
「今回は、儂が特別に勅使・院使を招き入れ
接待を任されておるから
其方は、勅使御馳走人に徹するがよい」
浅野 内匠頭
「では、某は勅使・院使様を出迎えるだけで
宜しいので御座いますか?」
吉良上野介
「左様じゃぞ」
「接待役は、儂が直々に仰せ付かった」
「其方は、見ておるだけでよい」
浅野 内匠頭
「では、風折烏帽子に大紋長袴で
お出迎え致します」
吉良上野介
「いやいや」
「長裃でよい」
「接待役は儂が直々にせねば為らんからな」
「儂は風折烏帽子に大紋長袴で接待をする
其方は、長裃で出迎えればよいぞ」
浅野 内匠頭
「しかし、今までは
風折烏帽子に大紋長袴で御座いました」
吉良上野介
「いやいや」
「今回は、特別じゃ」
「儂は、勅使・院使に特別に用事があるのじゃよ」
「とても重要な要件じゃからな
儂の立場が引き立つようにせねば為らん」
「よいな」
浅野 内匠頭
「承知致しました」
吉良上野介
「それから、飾りの墨絵じゃが
あれは貧相じゃぞ」
「今回の饗応は
特別に幕府の威厳を示さねば為りませんからな」
「金屏風を壮大に並び立てよ」
「他を圧倒する迫力が必用なんじゃぞ」
浅野 内匠頭
「承知致しました」
「では、某は出迎えに専念致します」
「ところで、出迎えの場所は
何処が宜しいので御座いますか?」
吉良上野介
「おうおう」
「左様じゃ」
「出迎えの場所は赤穂の部屋前でよい」
「決して本丸大廊下に入っては為らんぞ」
「松の廊下は勅使・院使が御通りになる
特別な廊下じゃからな」
「此処からは、儂が中庭の絶景を眺めながら
悠々と勅使・院使を白書院へと案内するのじゃ」
「畳引きの豪華な廊下を通り
厳粛なる白書院に入る道すがら
儂は、重要なる話をする」
「これは、儂にとっての試金石なんじゃ」
「上様の期待に応えなければ
全てが台無しになるんぢゃ!」
浅野 内匠頭
「何が台無しになるので御座いますか?」
吉良上野介
「いやいや」
「赤穂殿には関係は無い」
「儂の独り言ぢゃ」
浅野 内匠頭
「左様で御座いますか」
「では、某は部屋の前で
長裃にて出迎えを致します」
吉良上野介
「んんゥ」
「何か他に分からぬ事はあるかな?」
浅野 内匠頭
「はい」
「上様からの指示が書かれた
指示書を確認させて欲しいのですが」
吉良上野介
「上様の指示書?」
「左様な書状は無いぞ」
「上様は、儂に直接指示を為される」
「指示書は儂の頭の中にある」
「分からぬ事は、儂に聞いたら良い」
「何でも、聞けばよい」
浅野 内匠頭
「では」
「余興の能の催しで御座いますが
我らで準備する事は御座いますか?」
吉良上野介
「あれは、余興ではないぞ」
「今回は将軍主催の能の催しになる」
「勅使・院使が招かれ、
上様は御台所様と並び観覧為される」
「幕府の威厳を知らしめる
壮大で優雅な催しとなる」
「これは、全て儂が準備する
其方は、勅使御馳走人に徹すればよいぞ」
「よいな」
浅野 内匠頭
「では、勅答の儀の前に
能の催しをする事を決定事項として準備致します」
吉良上野介
「それから、精進料理は為らんぞ」
「特別に豪華な御膳を並べるのぢゃ!」
「今回の饗応は儂の試金石ぢゃ!」
浅野 内匠頭
「承知致しました」
赤穂事件 贐
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/34/f7/37b384fc128e92262fd3e0d6deaa8c42.jpg)
原 元辰 (赤穂浪士四十七士の一人)
「おおォ」
「久しぶりじゃな」
「お元気か」
久貝 正方 (旗本、勘定頭)
「ああ」
「其方も、威勢が良いのォ」
原 元辰
「儂は、威勢が良いのだが
肝心のお館様が元気が御座らん」
「んゥ」
「火災も聞いてはおらんぞ」
「火付盗賊改方頭のお出ましか」
「また、市中で騒ぎでも起きたのか」
久貝 正方
「いや」
「儂は今、勘定頭じゃ」
原 元辰
「左様か」
「其方は金の計算をしておるのか」
「儂には、火消しが性に合っておる」
「勘定とはなァ・・
難儀な仕事じゃな・・」
久貝 正方
「左様じゃ」
「難儀ぢゃぞ」
「幕府は財政破綻ぢゃ」
「金蔵が空じゃ!」
原 元辰
「無駄遣いするからじゃ」
「節約せんとな」
久貝 正方
「儂は、金蔵の管理はするが
実際に使う事は出来んぞ・・」
「諸大名の借款は返らんし
新たな失費もかさむ」
「金は出ていくばかりじゃ」
原 元辰
「儂に何か用か?」
「赤穂は盛況じゃが
儂には、金の工面は出来んぞ」
久貝 正方
「いやいや」
「赤穂殿も饗応で大金を使っておられるのじゃ
これ以上に甘える訳には参らん」
「幕府財政の逼迫の理由は
無計画な出費にある」
原 元辰
「なァ」
「儂には、難しい話は無理ぢゃぞ」
「儂は、てっきり
火付盗賊改方頭が事件の相談に来たのかと思ぉーたぞ」
久貝 正方
「左様」
「事件じゃ」
原 元辰
「んんゥ」
「事件か?」
「じゃがな
儂には、難しい事は分からんぞ」
「財政破綻とかなァ」
「儂には無理ぢゃ」
「簡単な話をしてくれんか!」
久貝 正方
「吉良殿がな、空の御蔵から
御蔵金を出せと言っておってな」
「空ぢゃと申しても
納得せんのぢゃ」
原 元辰
「何だと!」
「宿敵、仇の吉良か!」
「あ奴の屋敷が燃えて
少しは気が収まるかと思ぉーたが」
「幕府の金蔵から
あ奴の屋敷の建て直し費用が出されたのぢゃ!」
「んんゥ」
「しかし、吉良邸の新築に
左様な大金が必要か?」
久貝 正方
「いやいや」
「そうではない」
「幕府の財政破綻の理由は
無計画な散財ぢゃ」
原 元辰
「あのなァ」
「儂には、難しい話をするな!」
久貝 正方
「んんゥ」
「其方に、話すのが心配に成って来たぞ・・」
原 元辰
「なんぢゃ?」
「儂が信用為らんのか?」
久貝 正方
「誰にも話してはならんぞ」
原 元辰
「儂を信用しろ」
久貝 正方
「実はな、
公方様の生母様が官位を買う事になったのぢゃ」
「それで、大金が必要になった」
原 元辰
「なんぢゃ」
「吉良とは関係がないのか!」
「勿体ぶりおってからに」
久貝 正方
「んんゥ」
「吉良殿がその金を調達して欲しいと申された」
原 元辰
「左様か」
「必要ならば調達せねば為らんなァ」
「諸国から集めたらよいではないのか?」
久貝 正方
「んんゥ」
「長崎近江守に資金調達を依頼しておる」
原 元辰
「なァ」
「其方は、儂に何をして欲しい?」
「儂は、何をすればよい?」
久貝 正方
「んんゥ」
「あのな」
「何もして欲しくないのぢゃ」
「儂はな、其方の無鉄砲を戒めに来た」
「吉良殿がおかしな動きを見せておる
赤穂殿に災いが迫っておるから
警告を告げに来たのじゃ」
「其方は、我武者羅に突っ走ってはならんぞ」
「冷静に迅速に対処する事」
「何が起きても慌てぬ事」
「これは、同じ火消しで苦労した
お主へのはなむけぢゃ」
赤穂事件 お伝と並べ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3f/2b/ae432def0bc86de80847d5af14a334ca.jpg)
徳川綱吉
「なァ」
「本当に、母君に官位をくれるのか?」
小石君 (徳川綱吉の正室 御台所)
「それは、貴方様の心がけ次第でごじゃるよ」
「貴方様は、その力を御示しになられると申しておるのだから
それ相応の心掛けが必用じょな」
徳川綱吉
「如何様な、嗜みか?」
小石君
「節度無き、たしなみじょ」
「最大限に、その力を御示しなさいまし」
「遠慮はいりません」
徳川綱吉
「おおォォォー」
「儂の力を最大限に示すのか!」
「如何にして?」
小石君
「貴方様は、官位を買うそうじょな」
「幾らで買うつもりじょ」
徳川綱吉
「それは、知れん」
「逆に聞きたいのじゃが」
「官位の値を教えてくれんか?」
小石君
「だから、先ほどから申しておる」
「貴方様の誠意を示せと!」
「最大限の誠意じょ!」
徳川綱吉
「んんゥ」
「儂の最大限の力を朝廷に示せば
官位を買えるのか?」
小石君
「玉は、生まれつきの卑しい身分の女子じょ」
「玉に、女子一高き官位を与えるには
一国の価値と同様の金子・銀子が必用じゃと思うじょ」
徳川綱吉
「うッ」
「一国の価値か?」
「どれ程かのォ?」
小石君
「玉はな、
その卑しき身分で
わらわに、折檻すると息巻いておった」
「わらわの怒りは金では収まらん」
「その怒りを収められる程の資産を
朝廷に差し出すのです」
徳川綱吉
「よし」
「儂の力を見ておけ」
「お前が仰天する程の資金を出して」
「官位を買い取ってやるぞ」
小石君
「頼もしいこと」
「貴方様は天下の大将軍」
「わらわに恥をかかせてはなりませんじょ」
徳川綱吉
「なァ」
「今回の能の催しは
お前と一緒に並んで鑑賞する事を決めておる」
「一緒に鑑賞してくれるな」
小石君
「それは、貴方様の心掛け次第じょ」
「わらわに恥をかかせれば
わらわも、其方に恥をかかせますじょ」
「それは、
わらわの力を示す機会となる」
「わらわは、生れ付き高貴な身分」
「天皇、上皇様の権威を示す
良き機会となる」
「全ては其方の心掛け次第じょ」
徳川綱吉
「んんゥ」
「よしよし」
「お前に恥をかかせたりはせん」
「約束するから
共に仲良く鑑賞するのだぞ」
「儂が一人でおれば
皆々が変に思う」
小石君
「むッははは」
「馬鹿な事を申される」
「お伝と共におればよい」
「うッははは」
徳川綱吉
「左様に、可笑しいか?」
小石君
「可笑しゅうごじゃる」
「玉と伝が共に卑しい身分じょ」
「玉に官位を与えたい時に
卑しき伝と共に将軍が並ぶ様を想像したら
可笑しゅうてごじゃる」
徳川綱吉
「左様じゃ」
「お前の申す通りじゃ」
小石君
「分かったら」
「わらわに従い」
「わらわに、誠意を示す事じょ」
「一国を差し出す気概を持つ事じょ」
徳川綱吉
「官位は高く付くのだなァ」
小石君
「当たり前じょ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/6a/9577c8303c56556ff62849c724497e90.jpg)
吉良 上野介
「恐れながら、申し上げます」
「生母様の官位買い上げの事」
「昨今、幕府の御蔵金が足りませんので
長崎出島からの収益を
お待ち願います」
将軍綱吉
「あァア」
「待てぢゃと!」
「犬の分際で、儂に待てを言うなた!」
「無礼な犬ぢゃ!」
吉良 上野介
「おおお・・・」
「お許し下さい・・」
将軍綱吉
「では、早く大金を用意しろ!」
吉良 上野介
「諸藩は多額の借款を抱えておりますが
返済は出来ぬとの事で御座います」
将軍綱吉
「ああァア」
「毟り取れ!」
「諸藩から毟り取れ!」
「幕府から借りた金を毟り取れ!」
吉良 上野介
「はい」
「もう、毟り取っておりまして
これ以上は無理で御座います」
将軍綱吉
「あああァアア」
「犬の分際で無理ぢゃと!」
「無理でも毟り取れ!」
吉良 上野介
「はい」
「毟り取っております故に
百姓が飢え死にしております」
将軍綱吉
「ん・・」
「死んでおっては毟り取れんのォ・・」
「死なしておいて無策な奴ぢゃ」
何故、百姓を見殺しにした!」
「犬!」
吉良 上野介
「申し訳御座いません」
将軍綱吉
「んんんんゥゥ」
「あッ」
「そうぢゃ!」
「帥の子が藩主の上杉出羽国米沢藩を売れ」
「そうすれば、一国の富が金に変わる」
「なァ」
「我ながら、頭が良い」
「妙案ぢゃぞ!」
吉良 上野介
「誰に売るので御座いますか?」
将軍綱吉
「お前が探せ」
吉良 上野介
「幕府が破綻しておりますから
買える者は御座いません」
将軍綱吉
「あああァアアアア」
「幕府が破綻ぢゃと!」
「ふざけた事を言う犬ぢゃ!」
「お前が破綻させたのか!」
吉良 上野介
「いいいィィィ いいえ」
「某には、左様な権限は御座いません。はい」
将軍綱吉
「ん?」
「儂の散財か?」
「んんゥ」
「おおおおォ」
「ではな、清国に売れ」
「清国は金持ちぢゃぞ!」
吉良 上野介
「外国に売れば
領土を奪われてしまいます」
「取り返しが付かぬ事になってしまいます」
将軍綱吉
「後から金など返せば良いではないか」
吉良 上野介
「では」
「淀屋に買い取らせては如何で御座いましょうか?」
将軍綱吉
「ほォ」
「淀屋か?」
「よし、淀屋を幕府が接収する」
「淀屋の資産を没収するぞ」
吉良 上野介
「淀屋を潰せば
上方の経済が混乱して
朝廷が怒るのでは御座いませんか?」
将軍綱吉
「お前が、没収すると言ったのぢゃぞ」
「犬が!」
吉良 上野介
「淀屋に赤穂藩を買い取らせては如何でしょうか?」
将軍綱吉
「もう、赤穂は改易とする手筈でゃぞ」
吉良 上野介
「赤穂は上方交易で栄えております」
「吉良は赤穂は高く売れると
浅はかながら考え及んでおります」
将軍綱吉
「面倒ぢゃのォ」
「兎に角、大金を用意しろ!」
「清国でも淀屋でも
何でもよい」
「金目の物を売っぱらって
一国の価値に相当する大金を直ぐに作れ!」
吉良 上野介
「はい」
「お任せ下さい」
「赤穂の資産を全て没収致し
上様に献上致します」
将軍綱吉
「母君は官位を楽しみに待っておる」
「だからな」
「大金は絶対に必要なんぢゃぞ」
「朝廷を驚愕させる大金を用意するのぢゃ!」
「大金が用意出来なければ
犬の命は無いぞ!」
「死ぬ気で用意しろ!」
吉良 上野介
「御意」
「必ず、上様の期待に応えます故」
「今、暫くお待ち願います」
将軍綱吉
「犬!」
「儂に待ては申すな!」
吉良 上野介
「申しません」
「直ちに、用意致します」
将軍綱吉
「直ぐぢゃ!」
赤穂事件 秘密の話
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2e/1d/24383f22cad00d8fb57d34391550e59b.jpg)
安井 彦右衛門 (赤穂藩浅野氏の家臣。江戸家老。650石。)
「吉良殿が追加の指南料を受け取ると申されるのか?」
「我らに協力して下さるのか?」
藤井 宗茂 (赤穂藩浅野氏の家臣。上席家老。800石。)
「いや、そうでは御座らん・・」
「赤穂の資産を全て没収すると申された」
安井 彦右衛門
「いきなり左様な・・」
「赤穂の資産を没収とは・・」
「これは、驚いた・・」
「やはり、上様が赤穂を取り潰しにかかったのか?」
藤井 宗茂
「んんゥ」
「しかし、改易の前に資産を没収とは変じゃぞ」
「もしかしたら、赤穂の改易は免れるかも知れんぞ」
安井 彦右衛門
「おおォ」
「如何にして?」
藤井 宗茂
「お館様は、御台所様との密会を画策され
罪に問われ、処罰される」
「この場合、我らは連帯責任で切腹となり
赤穂は自動的に改易じゃ」
「黙っていても、赤穂の資産は没収され
幕府の物となる」
「今、急いで資産を奪う意味はない」
安井 彦右衛門
「赤穂は改易を逃れる事が出来ると申すか?」
藤井 宗茂
「このまま何もせずにおれば
必ず赤穂は改易となる」
「ただ、我らが行動を起こせば
一縷の望みがあるのだ」
安井 彦右衛門
「おおォ」
「如何やる?」
藤井 宗茂
「発狂じゃ!」
安井 彦右衛門
「えェ」
「発狂か?」
藤井 宗茂
「左様」
「お館様が密会で裁きを受ければ
重罪となり、我らも赤穂も滅びるが
お館様が発狂すれば
全ての罪はお館様だけに被される」
安井 彦右衛門
「儂らが、お館様の身代わりには成れんのか?」
藤井 宗茂
「罪を着せられているのは、お館様じゃ」
「我らが身代わりには成れん」
安井 彦右衛門
「んんゥ」
「儂は、嫌じゃぞ!」
藤井 宗茂
「左様」
「儂も左様な不忠は出来ん」
安井 彦右衛門
「発狂する以外に
改易を逃れる策は無いのか?」
藤井 宗茂
「吉良に責任を持って貰う事じゃな」
安井 彦右衛門
「んんゥ」
「吉良は自らの指南役を利用して
数々の嫌がらせを繰り返し
お館様を罠に嵌め
今度は、赤穂の資産を全て没収するとの事」
「全ての責任は吉良にある」
「我らで吉良を討つか!」
藤井 宗茂
「我らが討っては意味が無い」
「吉良を討つのはお館様じゃぞ」
安井 彦右衛門
「お館様が発狂して吉良を討つ」
「これ以外に赤穂を救う手立ては無いのぢゃな」
藤井 宗茂
「左様」
赤穂事件 資産を隠せ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/30/75/7295b34a62d0f1ba8fec7384d8c84b25.jpg)
浅野 内匠頭
「赤穂の資産を全て没収すると申されるのか」
「やはり、赤穂は改易で御座いますか」
久貝 正方 (勘定頭)
「いや」
「儂は、赤穂殿に資産を隠すように
言い付けに参ったのじゃ」
「取り上げられる前に
資産を赤穂に移しておけ」
浅野 内匠頭
「鉄炮洲上屋敷の資産を赤穂に移すので御座いますか?」
久貝 正方
「んんゥ」
「いずれ、資産が必用になる筈じゃ」
「取られてからでは遅いからな」
浅野 内匠頭
「やはり、赤穂は改易で御座いますか?」
久貝 正方
「いや」
「改易をま逃れる為の策は御座る」
「吉良殿は指南役の役目を逸脱した
暴挙を行いっておる」
「そもそも、赤穂の資産没収を指南役が命じる事は出来んのだ」
「吉良殿は焦っておるようじゃぞ」
浅野 内匠頭
「如何なる策略で御座いますか?」
久貝 正方
「この暴挙を、訴え出る事ぢゃ!」
浅野 内匠頭
「しかし、吉良殿の嫌がらせは
皆々が知っております」
「斯様に大胆なる嫌がらせが出来るのは
大老が許しておるからかと・・」
「いったい、誰に訴え出れば宜しいので御座いますか?」
久貝 正方
「味方になる者はおらんのか!」
浅野 内匠頭
「・・・・」
久貝 正方
「んんゥ・・」
「周りは、全て敵か、知らぬ振りをしておるのじゃな」
「んんゥ・・・・」
「では、味方になる者を探さねばなりませんぞ」
浅野 内匠頭
「皆々は、この饗応で頭が一杯になっております故
某に対する吉良殿の暴挙には
構ってはおられません」
「皆々は、自らの事で精一杯なので御座います」
久貝 正方
「んんゥ」
「訴える事も出来ぬのか・・」
「しかしな」
「この事を、このままにしておいては為らぬぞ」
「今、幕府の御蔵金は枯渇しておるから
急遽、長崎から資金援助を求めておる状況なのじゃ」
「時を稼げば解決する筈じゃぞ」
浅野 内匠頭
「・・・・」
「やはり、無理で御座います」
「実は、この事は、もう金の問題では無いのです」
久貝 正方
「んんゥ」
「吉良殿の暴挙は、大きな後ろ盾の証拠ぢゃ」
「其方、何か弱みでも握られておるのか?」
浅野 内匠頭
「左様な事は御座いません」
「今は、この饗応の勅使御馳走役を
無事にやり遂げたいとの思いで御座います」
久貝 正方
「正直に申せ!」
「其方は、この事は金の問題では無いと申したではないのか!」
「悪いようにはせん」
「儂に打ち明けろ」
浅野 内匠頭
「その事は、今、話す事は出来ぬ」
「いや、生涯、話すことは無い」
「儂は、赤穂の為に犠牲になる覚悟じゃ」
「儂は、これから打ち首に成る運命じゃ」
「其方も巻き添えに成らぬ様に
某に関わるのを遠慮為さいませ」
久貝 正方
「んんゥ」
「覚悟を決めておると申すか!」
浅野 内匠頭
「せめて、切腹にて事をおさめたいと・・」
久貝 正方
「やはり、上様の御意志か?」
浅野 内匠頭
「某は、何も申し上げる訳には参りません」
久貝 正方
「赤穂が改易をま逃れる手段は有るぞ」
「吉良との遺恨とする事ぢゃ!」
「上様を持ち出しては為らぬぞ」
「あくまでも、この問題は吉良殿への遺恨ぢゃぞ」
「吉良殿の嫌がらせは皆々が承知しておるのじゃ」
「吉良との遺恨であれば
喧嘩両成敗で痛み分けとなる」
「赤穂は改易をま逃れる」
赤穂事件 悪巧み
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/e6/cf5b6512f1ab9bf52e64f62fe5cf7a4d.jpg)
柳沢 吉保 (大老格)
「御蔵金が枯渇してる」
「早々に資金を集めなければ為らんぞ」
吉良 義央 (上野介)
「お任せ致す」
柳沢 吉保
「任せると申されても困った・・」
吉良 義央
「如何為された」
柳沢 吉保
「んんゥ」
「其方も承知しておる事ぢゃぞ!」
吉良 義央
「儂は、幕府の資金を動かす立場では御座らん」
「むしろ、幕府に資金の供給を受ける者じゃ」
「資金の枯渇は、幕府重鎮の責任で御座る」
柳沢 吉保
「あのなァ」
「左様な事は百も承知じゃ」
「上様の生母様が官位を買う事になったが
肝心の御蔵金が無いのぢゃぞ!」
吉良 義央
「無いのか?」
「それは、困りましたな」
柳沢 吉保
「ああああァア」
「何じゃ!その態度は!」
「他人事では済まんぞ!」
「お主も、上様から催促されておるのではないのか?」
吉良 義央
「ですから、御蔵金の枯渇は
幕府重鎮の責任かと存じ上げますぞ」
柳沢 吉保
「んんゥ」
「頼むから、協力してくれんか」
「上様は、朝廷への奉納金を急いでおる」
「一時の猶予もないのじゃぞ」
「遅れれば、お主も我らと同罪じゃぞ」
吉良 義央
「では、其方は儂にも協力する事ぢゃな」
柳沢 吉保
「おおォ」
「何でも協力する」
「やってくれるか?」
吉良 義央
「んゥ?」
「何をやるのじゃな?」
柳沢 吉保
「あああァーン」
「分かっておるじゃろーが」
「赤穂の資産没収じゃ!」
吉良 義央
「あっははは」
「これはこれは」
「大老様 直々の御命令で御座るな」
「命令とあれば従うしか御座いません」
「しかし、この件の責任は全て
命令を下した大老様に御座います」
「後始末は、
大老の進退を賭けて対処して頂く事を
約束して頂きますぞ」
柳沢 吉保
「んんゥ」
「あのなァ」
「其方も同罪じゃぞ」
吉良 義央
「ん?」
「儂は、命令を受けて従っておるのじゃぞ」
「嫌なら、他の者に頼む事じゃな」
柳沢 吉保
「おおォ・・おろおろ」
「んんゥ」
「斯様な事を頼めるのは其方以外にはおらん」
「なァ」
「赤穂の資産没収が成功すれば
其方に上野国を授けてやろう」
「上様に働き掛けるから、
酒井を追い出して、其方が上野国を手に入れよ」
吉良 義央
「真か!」
「悪い話では無いな」
柳沢 吉保
「上野国は其方が一番欲しがっておった領地じゃろォーが」
「酒井忠清の末裔を追い出さば
上様もお悦びに為られる」
「一石二鳥ぢゃぞ」
吉良 義央
「ぎゃははは」
「上野国が手に入るのか!」
「これで、胸を張って上野介を名乗る事が出来るぞ!」
柳沢 吉保
「お互い協力して
この難局に臨む事が肝要」
「上様の機嫌を損なわぬように
大金を即座に用意せねば為らんのじゃぞ」
「成功すれば、十分の褒美がある」
「其方には、上野国じゃ」
吉良 義央
「儂が大領を獲得するのであれば
儂も大老に為らねば
釣り合いが取れんな」
「二大老体制に成るのじゃな」
「なァ」
「儂も、大老か?」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/46/64/e5bf2c49669093fcb6778efe79cb7fee.jpg)
鷹司信子
「あれあれ」
「芋虫を踏みつけるとこで
ごじゃりました」
「おょ」
「芋虫かとおもーたが
貴方か」
徳川綱吉
「うェ」
「何じゃ?」
鷹司信子
「大奥に引き籠り
ごろごろと転がっておる」
「芋虫か!」
徳川綱吉
「なァ・何を怒っておる?」
「儂は、何もしてはおらんぞ!」
鷹司信子
「何もしてない!」
「何もしてないのかえ!(`´)」
徳川綱吉
「何で怒る?」
「儂は将軍じゃぞ!」
「偉いんじゃぞ!」
鷹司信子
「黙らっしゃい!」
徳川綱吉
「うううゥ」
「また怒るぅぅぅ・・」
「儂は、怒られることが無いから
心が折れるのじゃ」
「辛いのじゃ」
「怒るな」
鷹司信子
「お前は」
「玉にそそのかされて
わらはを折檻するのかえ」
徳川綱吉
「えェ」
「知らんよ・・」
鷹司信子
「本当か!」
徳川綱吉
「本当だよ」
「だから、怒らないで・・」
「チンは、心が折れる」
「あのなァ」
「また、最近、怯えがぶり返してきておるのじゃ」
「また、儂を怯えさせたいのか!」
鷹司信子
「変な企みはしない事じゃ」
「わらはには、お前の企みなど通用せんぞ」
「わらはに、大奥を追い出されることになりますぞ!」
徳川綱吉
「儂を追い出すのか?」
鷹司信子
「わらはに忠実なる公卿女中は
大奥では絶大なる力を持ってごじゃる」
「大奥で、わらはに逆らう女子はおらんぞよ」
「わらはの命令で
お前は、大奥で孤立を深める事になるのでごじゃる」
「それでも良いのですか」
徳川綱吉
「嫌じゃ・・」
「わしは、此処にしか居場所が無い」
「儂を虐めてはならん!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/60/e2/0af8ca6f79222ee3ba490fed60679547.jpg)
浄光院 (徳川綱吉の正室 鷹司 信子)
「わらわは、芋虫を追い出そうと思っておりますがね
あの芋虫は、本丸には行かんそうじゃ」
伝 (徳川綱吉の側室)
「如何致さりたので御座いますか?」
「宗上様を追い出すと申されるので・・」
浄光院
「玉が、わらわはを折檻すると言い出した」
「それでね」
「わらわは、仕返しに芋虫を追い出す事にしたのじゃ」
「しかし、芋虫は、本丸には行きたがらんからね」
「三の丸に引き取ってもらおうと
考えてごじゃる」
「これは、大奥公卿女の同意でごじゃるよ」
伝
「宗上様が、伝と暮らすので・・」
浄光院
「綱吉は自身は将軍で偉いのだから言っておるがね」
「大奥では誰にも相手にされない、引き籠りの
孤独な老人でごじゃるよ」
「三の丸で、頭を冷やしてやろうかと
追い出すことに決めたんじょ」
伝
「宗上様は承知なされたので・・」
浄光院
「女子衆が捕まえて
三の丸に連れて行くから
お前が、芋虫の世話をするのじゃ」
「よいな」
伝
「宗上様は、三の丸には居付きません
直ぐに、逃げてしまわれます」
「お伝には、無理で御座います」
浄光院
「では、断れば良いのじょよ」
「綱吉の居場所が狭まり
芋虫は、わらわに降伏する事になる」
「わらわの力を見せてありゃんす」
伝
「はい」
「お伝も」
「御台所様にお願いするのが
一番良いかと・・」
浄光院
「わらわは、其方が味方であると信じておりますよ」
「しかしね」
「わらわを裏切ればどうなるか
考えることじゃよ」
「わらわには、将軍を追い出す程の権威がごじゃる」
「わらわは、左大臣従一位・鷹司教平の娘
母は冷泉為満女(鷹司家譜)兄に関白・鷹司房輔、妹に霊元天皇中宮
わらわを怒らせれば、芋虫は潰される」
「わらわは、それ程の権威を持っておるんじょ」
伝
「はい」
「お伝は
御台所様を
決して裏切る事は御座いません」
浄光院
「玉に言い寄られても
絶対に従っては為らないのだじょ」
「わらわは、卑しい成り上がりの玉などに
折檻を受けては為らんのじゃよ」
「わらわの権威が傷つけば
天皇、上皇様の権威にも傷が付いてしまいますからね」
「それは、絶対にあってはならない事でありんす」
伝
「はい」
「お伝は、御中﨟のおりから
御台所様には良くして頂きました」
「お伝は、
引き続き、御台所様に
御奉公をしたいと思っております」
浄光院
「玉は卑しい身分の八百屋の娘であった」
「その卑しき者に
わらわが、折檻されるなど
有り得ぬ話じゃ」
「わらわの怒りが、どれ程の事か」
「玉の大切な芋虫を、踏み付けにして
叩き出してくれるわ」
「わらわは、怒っておるのじょ」
伝
「はい、
お伝も、卑しき身分で御座います」
「御台所様に、ご奉公致します」
浄光院
「芋虫を庇っては為らんじょ」
「玉に協力しては為らんじょ」
「わらわを、裏切っては為らんじょ」
「良いな」
伝
「はい」
「御台所様」
浄光院
「お前は、いつまでも
わらわの御中﨟じゃの」
「わらわは、お前が可愛い」
「わらわの味方にあれば
わらわが、お前を守ってあげるじょ」
「しかしな、
裏切れば、容赦は無い」
「わらわの格式は、綱吉よりも高いのでありんすじょ」
伝
「はい」
「それは、皆々の承知しております事」
「御台所様が一等に御座います」
浄光院
「そうじゃじょ」
「わらわが、一等じょ」
「芋虫は、
わらわが、踏み潰す」
伝
「はい」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/71/29/cc1a38913efcfef32abf55bb78a29502.jpg)
津軽 政兕 (旗本 陸奥国弘前藩分家・黒石領4000石)
「御祖父様、お呼びで御座いますか」
吉良 上野介 (高家旗本 高家肝煎)
「おお、来たか」
「儂はな、赤穂と仙台の和解の仲立ちを止めた」
「もう、赤穂守を犬にする事は無理となったのじゃ」
津軽 政兕
「しかし、弘前本家は和解を勧めております」
「分家も本家に習わねば為りません」
吉良 上野介
「お主が、本家となれ」
「儂の力で本家を潰してやる」
「本家に代わり、其方が領主となれば良い」
津軽 政兕
「何か御座いましたか?」
吉良 上野介
「んんゥ」
「赤穂が疱瘡を患い、顔に痘痕が出来た時から
上様は、赤穂を嫌い始めた」
「そして、今では、赤穂を陥れようとしておられる」
「上様の気が変わったのじゃ」
「赤穂と仙台の和解は
我らの望む事ではなくなった」
津軽 政兕
「某も、上様の小姓として勤めておりましたが
突然の御役御免を申し受け
小普請組に再編入で御座いました」
「上様がお嫌いに為られたとあれば
赤穂殿もただでは済みません」
「我らは、赤穂を遠ざける事が肝要かと」
吉良 上野介
「お前が御役御免に為ったのは
儂のせいじゃ」
「お前を、一旦小普請組に戻して
儂の為に働いてもらう事としたのじゃ」
「そして、今、其方の役目はな
赤穂と仙台の和解を妨害する事なのだ」
「これは、命令じゃぞ」
津軽 政兕
「御義父様!
何故に和解の妨害を為さいますか?」
吉良 上野介
「上様の命令じゃ」
津軽 政兕
「えェ?」
「そこまでして、
上様が赤穂を陥れる理由は何に御座いましょう?」
吉良 上野介
「上様は、赤穂を生贄にしようとの、お考えじゃ」
「生贄に成る赤穂を庇えば
我らもまた、上様に嫌われる」
「上様に嫌われれば
我らもまた、生きてはいけぬ」
津軽 政兕
「では、赤穂を庇っている
本家の信政様は如何為りましょう?」
吉良 上野介
「弘前本家は潰されるな」
「そうなれば、お前が本家を引き継げばよい」
津軽 政兕
「我らが、本家弘前と成るのですか」
「悪い話ではありません」
吉良 上野介
「全ては、上様の御機嫌伺いじゃぞ」
「上様の命令には忠実に従うのじゃ」
「赤穂の事など
我らの知った事ではない」
「赤穂が滅びようが
我らが、安堵ならば
それが一番良いのじゃ」
「赤穂を庇えば
上様に嫌われると思へ」
津軽 政兕
「はい」
「御義父様に従い
赤穂を陥れ
上様の命令を忠実に実行致します」
吉良 上野介
「んんゥ」
「良い心掛けじゃ」
「いずれ、赤穂は始末される」
「赤穂に気使いは無用じゃ」
「赤穂は、もう、存在しないと思え」
津軽 政兕
「はい」
「赤穂は不要に御座います」
吉良 上野介
「左様」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/52/29/a299dffd2fc9923b886178b900e2479a.jpg)
桂昌院 (綱吉の生母)
「お前は、いつも、此処へおるのですね」
「たまには、出かけては如何かな?」
徳川 綱吉 (江戸幕府征夷大将軍)
「ははたま」
「何処かに出かけたいので御座いますか?」
桂昌院
「わしは、いつも出かけておる」
「しかし、お前が
大奥ばかりで、転がっておるから
奥の女衆は、お前を芋虫と呼んでおるぞ」
「確りせんか!」
徳川 綱吉
「ははたま・・」
「母玉は怒っておりますか?」
桂昌院
「怒っております」
「あの生意気な嫁御は
わしを馬鹿にして、卑しい身分の
八百屋の娘だと罵っておる」
「早く、折檻をして
反省させねばなりません」
徳川 綱吉
「母玉がそう為さりたければ
朕は何も申しません」
「母玉にお任せします」
桂昌院
「いいや」
「お前が悪いのじゃぞ!」
徳川 綱吉
「ひョー」
「儂が悪いのか?」
桂昌院
「お前がな、嫁御に甘いから
芋虫と呼ばれて馬鹿にされるのじゃぞ」
「お前だけでは無いのじゃ
わしも同様に馬鹿にされておる」
「全部、お前の責任じゃぞ」
徳川 綱吉
「朕には大奥にしか居場所がない・・」
「黒書院で政をしたら
此処に帰るのじゃ」
桂昌院
「まァよいわ」
「これから、饗応が御座いますからね
嫌でも白書院に出向き挨拶をせねば為らんぞ」
「勅使への奉答文を貰っておいて
間違いのないように読むのじゃぞ」
徳川 綱吉
「んんゥ」
「余興じゃ!」
「余興を忘れておった」
「そうじゃな、余興を準備しましょう
気晴らしに能を舞ってもらう事にするぞ」
「そこで、小石と並び鑑賞することにする」
桂昌院
「そうじゃな」
「生意気な嫁御に
お前の力を見せつける絶好の機会じゃぞ」
「やるのであれば
大枚を叩き、公卿共を圧倒する能会を催すのじゃぞ」
「公卿に馬鹿にされては為らんぞ」
徳川 綱吉
「今回の饗応で、柳沢にあずけている吉里に
松平姓を与え、勅使に伝える運びになっておるからなァ」
桂昌院
「馬鹿を申すな」
「生意気な嫁御を折檻するための
大切な時期ですぞ」
「勅使に願い出るような事では有りません」
「吉里のお披露目は
嫁御を折檻した後の事」
「公卿の力を削ぎ落し
天皇や上皇の権威失墜の後にする事じゃぞ」
徳川 綱吉
「えェ」
「駄目なのか?」
「ちんは、母玉が喜んでくれると思っていた」
桂昌院
「よく考えて見なさい」
「お前が、柳沢の嫁御を奪って出来た子じゃぞ」
「それを、今、お披露目などできるか!」
「わしはな、あの小石を陥れ
赤穂との密会を咎めたいのじゃぞ」
「そんな折に、お前の隠し子をお披露目など出来るか!」
「馬鹿息子が!」
徳川 綱吉
「ちんは、馬鹿じゃな」
「御台所にも、母玉からも叱られる」
「ちんは、馬鹿じゃ」
「ちんには居場所が無い」
「落ち着く、場所が欲しい」
桂昌院
「甘えてはなりません」
「お前は、江戸幕府征夷大将軍じゃぞ」
「威張っていなさい!」
徳川 綱吉
「小石は強いぞ」
「ちんの敵う相手では無い」
「母玉であっても
手を焼いておるのじゃろ」
桂昌院
「もォォ」
「お前は、情けない事を申すではない」
「母はな、官位が低いから
馬鹿にされてきたのじゃぞ」
「お前の力で
母に官位を授けてくれたらよいのじゃ」
「官位が高ければ
生意気な嫁御をねじ伏せる事が出来る」
「そうなれば、
お前を虐める者など此処にはおらんぞ」
徳川 綱吉
「そうじゃなァ」
「・・・・」
「母玉の官位を買うか・・」
桂昌院
「よいですか」
「朝廷に貢いで官位を貰うのです」
「金子、銀子を大量に用意するのです」
徳川 綱吉
「はい、母玉」
「よし、
儂の力を見せつけてやるぞ!」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3c/0d/89278f0b975967151c23df0588614d3e.jpg)
伊達村豊 (宗春初名)
(院使の清閑寺熈定の饗応役)
浅野 内匠頭 (長矩)
(勅使の柳原資廉と高野保春の饗応役)
伊達宗春
「赤穂殿」
「今回の饗応は余興で能会が御座います」
「準備は、指南役から指示されますから
それを、我らから、お伝え致します」
浅野 内匠頭
「おおォ」
「和泉守」
「感謝申し上げます」
「共に協力して、今回の饗応に臨みましょう」
伊達宗春
「しかしながら、斯様に其方と話をすることは
出来難い状況になっております」
「心苦しいので御座いますが、勘弁願います」
浅野 内匠頭
「左様か」
「指南役の嫌がらせですな・・」
「しかしな、
今回の饗応役は連帯責任じゃぞ」
「我らが怠れば、其方の責任にもなる」
「吉良殿の嫌がらせに屈服しては為りません」
伊達宗春
「んんゥ」
「分かっておる」
「しかし、指南役の嫌がらせは常軌を逸しておる」
「失礼じゃが
赤穂殿は、吉良殿に如何なる恨みを買っておるのか
教えてはくれぬか?」
浅野 内匠頭
「某、吉良殿に恨みを買ってはおりません」
「吉良殿の嫌がらせは
もっと深い理由が御座いますが
今は何も申す事は出来ぬので御座る」
「深い理由を申せば、不忠となります」
伊達宗春
「んんゥ」
「何やら不穏な事のようじゃ」
「某、若年で御座るから
込み入った話に対処出来ぬ」
「不忠とあらば、公方様への忠義にあるか?」
浅野 内匠頭
「和泉守」
「公方様は吉良殿に直接会って
指示を授けておる」
「その吉良殿が嫌がらせを強行しておるのじゃ」
「何が起きているのか、誰にでも分かる事」
「皆々は、知らぬふりを装っておる」
「そして、その渦中に我らは放り込まれておる」
「逃げる事は出来んぞ!」
伊達宗春
「では、嫌がらせは上様の指示!」
浅野 内匠頭
「いいや、上様、直接の指示ではない」
「大奥の事情で御座る」
伊達宗春
「大奥の事情?」
「詳しく、お教え願います」
浅野 内匠頭
「知りたいのか?」
「これを知れば、其方はもっと危険な状況に巻き込まれるぞ」
「覚悟はあるのか」
伊達宗春
「んんゥ」
「聞いておかねば、今後、困るやも知れぬ」
「お教え願いたい」
浅野 内匠頭
「吉良殿は、我らを生贄にして
大奥の対立に対処しようとしておる」
「大奥の対立を丸く収める為に
儂は利用されておるのじゃ」
伊達宗春
「左様な?」
「少々、考え過ぎでは御座いませんか?」
「大奥の対立とは
如何なるもので御座る?」
浅野 内匠頭
「実は、儂は覚悟を決め兼ねておる」
「今回の饗応に不手際があれば
我らの責任は重大」
「そして、吉良殿には
責任逃れの確約が上様から約束されておる筈」
「すると、我らの責任は
其方にも飛び火する事は必然じゃ」
伊達宗春
「嫌な事を申されるな・・」
「我らが、とばっちりを受けると申すか!」
浅野 内匠頭
「左様、嫌な事じゃ」
「しかしな、これは逃れようがない現実じゃぞ」
「このまま、饗応が無事に終わったとしても
儂は、吉良殿の罠に嵌り
始末される運命じゃ」
「我らが、始末されれば
其方にも災いが降り注ぐ」
「今、吉良殿が其方に良くしているのは
赤穂と仙台の対立を煽る為」
赤穂を潰せば
今度は、仙台殿に牙を剥く事は明らか」
「よそ事では済みませんぞ」
伊達宗春
「今度は、我らに嫌がらせをするのか?」
「大奥の対立とは何じゃ?」
「公方様の指示とは?」
「・・・・」
「赤穂殿・・」
「やはり、少し考え過ぎじゃぞ」
「悪い事は申さん」
「吉良殿に指南料を余分に支払う事じゃ」
「それで、全ては解決する」
浅野 内匠頭
「いいや」
「吉良殿は、指南料の追加を拒否なされた」
「銀子の問題ではないのだよ」
伊達宗春
「それは、渡し方の問題じゃと思うが?」
「吉良殿の面目を思いやり
上手に渡すのじゃ」
「吉良殿は、悪い御方ではないぞ」
「其方の考えは変じゃ」
「其方は、変人じゃぞ」
「変人故に、虐められておるのじゃぞ」
「反省するべきは其方じゃ!」
「何が、大奥の対立じゃ!」
「何が、上様の指示じゃ!」
「我らは、お主に騙されはせんぞ!」
浅野 内匠頭
「いずれ、分かる事じゃ」
「・・・」
「いや」
「永遠に分からぬ事かもしれん・・」
赤穂事件 監督不行き
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2e/1d/24383f22cad00d8fb57d34391550e59b.jpg)
安井 彦右衛門 (赤穂藩浅野氏の家臣。江戸家老。650石。)
「仙台藩が我らに和解金を用意しておるそうですな」
藤井 宗茂 (赤穂藩浅野氏の家臣。上席家老。800石。)
「んんぅ」
「旨く和解が出来そうじゃぞ」
「伊達殿の協力があれば
饗応を無事に乗り切ることが出来る」
安井 彦右衛門
「問題は、お館様じゃ」
「酷く、落ち込んでおられる]
藤井 宗茂
「左様」
「問題は、根が深そうじゃぞ」
「我らも、始末されるかも知れん」
安井 彦右衛門
「えェ」
「何か?」
「吉良殿の嫌がらせで御座いますか?」
藤井 宗茂
「吉良殿が嫌がらせをしても
伊達殿の協力があれば乗り切れる」
「問題は、もっと深刻ぢゃぞ!」
安井 彦右衛門
「えェ?」
「詳しく、お教え願いたい」
藤井 宗茂
「実はな、お館様から相談を受けたのじゃ」
安井 彦右衛門
「おおォ」
「如何なる相談?」
藤井 宗茂
「其方も、知っている事じゃ」
「お館様は、御台所様に呼ばれて大奥に行かれた」
安井 彦右衛門
「なんじゃ」
「左様な事は、皆々が知っておる事」
「呼び出しを受けて出向いたのを
咎められる筋合いは御座らん」
藤井 宗茂
「それからも、再三の呼び出し」
「何かあると思っておった」
安井 彦右衛門
「おい」
「脅かすな・・」
藤井 宗茂
「お館様は、思い悩んでおられる」
「自らの身の振り方を考えておられる」
安井 彦右衛門
「如何なる事ぢゃ?」
「御台所様の呼びつけを拒否するのか?」
藤井 宗茂
「いや、今更、拒否しても
既に手遅れぢゃ」
「もう、拒否する意味は無い」
安井 彦右衛門
「なんぢゃ!」
「何が言いたいのか、はっきりせんか!」
藤井 宗茂
「んんゥ」
「実はな、
お館様と御台所様との密会が企てられておったのぢゃ!」
安井 彦右衛門
「ヴェ」
「ぐェ」
「みみみみ密会じゃとォォォォォーー」
藤井 宗茂
「左様」
「そして、これは全て上様の母君の企て」
安井 彦右衛門
「ななァ何で、分かる?」
藤井 宗茂
「お館様が再三の呼び出しで
御台所様から直接に聞いた情報だ」
「間違いは無い」
安井 彦右衛門
「大変ではないか!」
藤井 宗茂
「んんゥ」
「この事が公になれば
お館様は、重罪で処罰される」
「そして、我らは
現場の責任者として、監督不行きとして切腹となる」
「更には、赤穂は改易ぢゃ」
安井 彦右衛門
「わわわァ儂は、切腹するのか?」
藤井 宗茂
「打ち首の方が良いのか?」
安井 彦右衛門
「ぐェ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/6a/9577c8303c56556ff62849c724497e90.jpg)
徳川 綱吉
「母君に従一位の官位と宗子という名前を授けることにした」
「これは、女性で最高位の官位じゃ!」
吉良上野介
「はい」
「目出度き事で御座います」
「上様、そして生母様に
御喜び申し上げます」
徳川 綱吉
「んんゥ」
「官位は朝廷から貰わねば為らんから
買い取ることにした」
「至急に幕府の御金蔵から用意しろ」
吉良上野介
「はい、
直ちに、勘定奉行に申し渡し
用意致します」
徳川 綱吉
「朝廷の機嫌を損なうではないぞ」
「既に、母君は官位を得たつもりでおられるのじゃぞ」
「大金で必ず官位を買い取らねば為らん!」
「失敗は許さん!」
吉良上野介
「はい」
「絶対に成功致します」
徳川 綱吉
「んんゥ」
「これで、大奥の争いも無くなる」
「母君も喜ぶ」
吉良上野介
「つきましては」
「先の事、は如何致しましょうか?」」
徳川 綱吉
「先も後も無い」
「母君の申すようにすればよい」
吉良上野介
「はい」
「御台所様と赤穂の密会に御座います」
徳川 綱吉
「密会など無いぞ!」
「誰だ、ふざけた事を言っておるのは!」
「母君と小石は仲直りしたのじゃ!」
「二度と、密会などと申せば
お前の首はちょん切られるのだぞ!」
「馬鹿者が!」
吉良上野介
「ああァァァァァァ・・」
「申し訳御座いません」
「ご無礼をお許し下さい」
徳川 綱吉
「おい、犬」
「泣け」
吉良上野介
「ワン!ワン!」
徳川 綱吉
「お前は犬か!」
吉良上野介
「ワン」
徳川 綱吉
「お前は、今回の饗応で
犬のように、口で御膳を食せ!」
吉良上野介
「ワン!」
徳川 綱吉
「ぎっひひひ」
「犬じゃ」「いぬぢゃ」
「お前は、儂の犬ぢゃぞ!」
吉良上野介
「ワン」
徳川 綱吉
「おい、犬!」
「儂は、偉いか!」
吉良上野介
「御意」
「上様は、江戸幕府第5代征夷大将軍であらせられます」
「幕府の最高権威にあらせられます」
徳川 綱吉
「では、儂と小石は何方が偉い!」
吉良上野介
「当然、上様で御座います」
徳川 綱吉
「よし」
「儂の方が偉いのじゃな!」
吉良上野介
「御意」
徳川 綱吉
「おい犬!」
「お前は、犬か!」
吉良上野介
「ワン、ワン」
徳川 綱吉
「ひひひィ」
「儂は、犬の者しか信じられん」
赤穂事件 優しい指南役
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/42/8e/f227780b853d9ac561b9b93f688716c4.jpg)
吉良上野介
「おおぉ」
「赤穂殿」
「其方、勅使御馳走人として、
勅使・院使をお迎えする準備であるが
老中土屋政直殿と高家畠山基玄殿に従い
紹介を受けよ」
「良いな」
浅野 内匠頭
「御貴公は、如何為されますか?」
吉良上野介
「今回は、儂が特別に勅使・院使を招き入れ
接待を任されておるから
其方は、勅使御馳走人に徹するがよい」
浅野 内匠頭
「では、某は勅使・院使様を出迎えるだけで
宜しいので御座いますか?」
吉良上野介
「左様じゃぞ」
「接待役は、儂が直々に仰せ付かった」
「其方は、見ておるだけでよい」
浅野 内匠頭
「では、風折烏帽子に大紋長袴で
お出迎え致します」
吉良上野介
「いやいや」
「長裃でよい」
「接待役は儂が直々にせねば為らんからな」
「儂は風折烏帽子に大紋長袴で接待をする
其方は、長裃で出迎えればよいぞ」
浅野 内匠頭
「しかし、今までは
風折烏帽子に大紋長袴で御座いました」
吉良上野介
「いやいや」
「今回は、特別じゃ」
「儂は、勅使・院使に特別に用事があるのじゃよ」
「とても重要な要件じゃからな
儂の立場が引き立つようにせねば為らん」
「よいな」
浅野 内匠頭
「承知致しました」
吉良上野介
「それから、飾りの墨絵じゃが
あれは貧相じゃぞ」
「今回の饗応は
特別に幕府の威厳を示さねば為りませんからな」
「金屏風を壮大に並び立てよ」
「他を圧倒する迫力が必用なんじゃぞ」
浅野 内匠頭
「承知致しました」
「では、某は出迎えに専念致します」
「ところで、出迎えの場所は
何処が宜しいので御座いますか?」
吉良上野介
「おうおう」
「左様じゃ」
「出迎えの場所は赤穂の部屋前でよい」
「決して本丸大廊下に入っては為らんぞ」
「松の廊下は勅使・院使が御通りになる
特別な廊下じゃからな」
「此処からは、儂が中庭の絶景を眺めながら
悠々と勅使・院使を白書院へと案内するのじゃ」
「畳引きの豪華な廊下を通り
厳粛なる白書院に入る道すがら
儂は、重要なる話をする」
「これは、儂にとっての試金石なんじゃ」
「上様の期待に応えなければ
全てが台無しになるんぢゃ!」
浅野 内匠頭
「何が台無しになるので御座いますか?」
吉良上野介
「いやいや」
「赤穂殿には関係は無い」
「儂の独り言ぢゃ」
浅野 内匠頭
「左様で御座いますか」
「では、某は部屋の前で
長裃にて出迎えを致します」
吉良上野介
「んんゥ」
「何か他に分からぬ事はあるかな?」
浅野 内匠頭
「はい」
「上様からの指示が書かれた
指示書を確認させて欲しいのですが」
吉良上野介
「上様の指示書?」
「左様な書状は無いぞ」
「上様は、儂に直接指示を為される」
「指示書は儂の頭の中にある」
「分からぬ事は、儂に聞いたら良い」
「何でも、聞けばよい」
浅野 内匠頭
「では」
「余興の能の催しで御座いますが
我らで準備する事は御座いますか?」
吉良上野介
「あれは、余興ではないぞ」
「今回は将軍主催の能の催しになる」
「勅使・院使が招かれ、
上様は御台所様と並び観覧為される」
「幕府の威厳を知らしめる
壮大で優雅な催しとなる」
「これは、全て儂が準備する
其方は、勅使御馳走人に徹すればよいぞ」
「よいな」
浅野 内匠頭
「では、勅答の儀の前に
能の催しをする事を決定事項として準備致します」
吉良上野介
「それから、精進料理は為らんぞ」
「特別に豪華な御膳を並べるのぢゃ!」
「今回の饗応は儂の試金石ぢゃ!」
浅野 内匠頭
「承知致しました」
赤穂事件 贐
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/34/f7/37b384fc128e92262fd3e0d6deaa8c42.jpg)
原 元辰 (赤穂浪士四十七士の一人)
「おおォ」
「久しぶりじゃな」
「お元気か」
久貝 正方 (旗本、勘定頭)
「ああ」
「其方も、威勢が良いのォ」
原 元辰
「儂は、威勢が良いのだが
肝心のお館様が元気が御座らん」
「んゥ」
「火災も聞いてはおらんぞ」
「火付盗賊改方頭のお出ましか」
「また、市中で騒ぎでも起きたのか」
久貝 正方
「いや」
「儂は今、勘定頭じゃ」
原 元辰
「左様か」
「其方は金の計算をしておるのか」
「儂には、火消しが性に合っておる」
「勘定とはなァ・・
難儀な仕事じゃな・・」
久貝 正方
「左様じゃ」
「難儀ぢゃぞ」
「幕府は財政破綻ぢゃ」
「金蔵が空じゃ!」
原 元辰
「無駄遣いするからじゃ」
「節約せんとな」
久貝 正方
「儂は、金蔵の管理はするが
実際に使う事は出来んぞ・・」
「諸大名の借款は返らんし
新たな失費もかさむ」
「金は出ていくばかりじゃ」
原 元辰
「儂に何か用か?」
「赤穂は盛況じゃが
儂には、金の工面は出来んぞ」
久貝 正方
「いやいや」
「赤穂殿も饗応で大金を使っておられるのじゃ
これ以上に甘える訳には参らん」
「幕府財政の逼迫の理由は
無計画な出費にある」
原 元辰
「なァ」
「儂には、難しい話は無理ぢゃぞ」
「儂は、てっきり
火付盗賊改方頭が事件の相談に来たのかと思ぉーたぞ」
久貝 正方
「左様」
「事件じゃ」
原 元辰
「んんゥ」
「事件か?」
「じゃがな
儂には、難しい事は分からんぞ」
「財政破綻とかなァ」
「儂には無理ぢゃ」
「簡単な話をしてくれんか!」
久貝 正方
「吉良殿がな、空の御蔵から
御蔵金を出せと言っておってな」
「空ぢゃと申しても
納得せんのぢゃ」
原 元辰
「何だと!」
「宿敵、仇の吉良か!」
「あ奴の屋敷が燃えて
少しは気が収まるかと思ぉーたが」
「幕府の金蔵から
あ奴の屋敷の建て直し費用が出されたのぢゃ!」
「んんゥ」
「しかし、吉良邸の新築に
左様な大金が必要か?」
久貝 正方
「いやいや」
「そうではない」
「幕府の財政破綻の理由は
無計画な散財ぢゃ」
原 元辰
「あのなァ」
「儂には、難しい話をするな!」
久貝 正方
「んんゥ」
「其方に、話すのが心配に成って来たぞ・・」
原 元辰
「なんぢゃ?」
「儂が信用為らんのか?」
久貝 正方
「誰にも話してはならんぞ」
原 元辰
「儂を信用しろ」
久貝 正方
「実はな、
公方様の生母様が官位を買う事になったのぢゃ」
「それで、大金が必要になった」
原 元辰
「なんぢゃ」
「吉良とは関係がないのか!」
「勿体ぶりおってからに」
久貝 正方
「んんゥ」
「吉良殿がその金を調達して欲しいと申された」
原 元辰
「左様か」
「必要ならば調達せねば為らんなァ」
「諸国から集めたらよいではないのか?」
久貝 正方
「んんゥ」
「長崎近江守に資金調達を依頼しておる」
原 元辰
「なァ」
「其方は、儂に何をして欲しい?」
「儂は、何をすればよい?」
久貝 正方
「んんゥ」
「あのな」
「何もして欲しくないのぢゃ」
「儂はな、其方の無鉄砲を戒めに来た」
「吉良殿がおかしな動きを見せておる
赤穂殿に災いが迫っておるから
警告を告げに来たのじゃ」
「其方は、我武者羅に突っ走ってはならんぞ」
「冷静に迅速に対処する事」
「何が起きても慌てぬ事」
「これは、同じ火消しで苦労した
お主へのはなむけぢゃ」
赤穂事件 お伝と並べ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/3f/2b/ae432def0bc86de80847d5af14a334ca.jpg)
徳川綱吉
「なァ」
「本当に、母君に官位をくれるのか?」
小石君 (徳川綱吉の正室 御台所)
「それは、貴方様の心がけ次第でごじゃるよ」
「貴方様は、その力を御示しになられると申しておるのだから
それ相応の心掛けが必用じょな」
徳川綱吉
「如何様な、嗜みか?」
小石君
「節度無き、たしなみじょ」
「最大限に、その力を御示しなさいまし」
「遠慮はいりません」
徳川綱吉
「おおォォォー」
「儂の力を最大限に示すのか!」
「如何にして?」
小石君
「貴方様は、官位を買うそうじょな」
「幾らで買うつもりじょ」
徳川綱吉
「それは、知れん」
「逆に聞きたいのじゃが」
「官位の値を教えてくれんか?」
小石君
「だから、先ほどから申しておる」
「貴方様の誠意を示せと!」
「最大限の誠意じょ!」
徳川綱吉
「んんゥ」
「儂の最大限の力を朝廷に示せば
官位を買えるのか?」
小石君
「玉は、生まれつきの卑しい身分の女子じょ」
「玉に、女子一高き官位を与えるには
一国の価値と同様の金子・銀子が必用じゃと思うじょ」
徳川綱吉
「うッ」
「一国の価値か?」
「どれ程かのォ?」
小石君
「玉はな、
その卑しき身分で
わらわに、折檻すると息巻いておった」
「わらわの怒りは金では収まらん」
「その怒りを収められる程の資産を
朝廷に差し出すのです」
徳川綱吉
「よし」
「儂の力を見ておけ」
「お前が仰天する程の資金を出して」
「官位を買い取ってやるぞ」
小石君
「頼もしいこと」
「貴方様は天下の大将軍」
「わらわに恥をかかせてはなりませんじょ」
徳川綱吉
「なァ」
「今回の能の催しは
お前と一緒に並んで鑑賞する事を決めておる」
「一緒に鑑賞してくれるな」
小石君
「それは、貴方様の心掛け次第じょ」
「わらわに恥をかかせれば
わらわも、其方に恥をかかせますじょ」
「それは、
わらわの力を示す機会となる」
「わらわは、生れ付き高貴な身分」
「天皇、上皇様の権威を示す
良き機会となる」
「全ては其方の心掛け次第じょ」
徳川綱吉
「んんゥ」
「よしよし」
「お前に恥をかかせたりはせん」
「約束するから
共に仲良く鑑賞するのだぞ」
「儂が一人でおれば
皆々が変に思う」
小石君
「むッははは」
「馬鹿な事を申される」
「お伝と共におればよい」
「うッははは」
徳川綱吉
「左様に、可笑しいか?」
小石君
「可笑しゅうごじゃる」
「玉と伝が共に卑しい身分じょ」
「玉に官位を与えたい時に
卑しき伝と共に将軍が並ぶ様を想像したら
可笑しゅうてごじゃる」
徳川綱吉
「左様じゃ」
「お前の申す通りじゃ」
小石君
「分かったら」
「わらわに従い」
「わらわに、誠意を示す事じょ」
「一国を差し出す気概を持つ事じょ」
徳川綱吉
「官位は高く付くのだなァ」
小石君
「当たり前じょ」
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/40/6a/9577c8303c56556ff62849c724497e90.jpg)
吉良 上野介
「恐れながら、申し上げます」
「生母様の官位買い上げの事」
「昨今、幕府の御蔵金が足りませんので
長崎出島からの収益を
お待ち願います」
将軍綱吉
「あァア」
「待てぢゃと!」
「犬の分際で、儂に待てを言うなた!」
「無礼な犬ぢゃ!」
吉良 上野介
「おおお・・・」
「お許し下さい・・」
将軍綱吉
「では、早く大金を用意しろ!」
吉良 上野介
「諸藩は多額の借款を抱えておりますが
返済は出来ぬとの事で御座います」
将軍綱吉
「ああァア」
「毟り取れ!」
「諸藩から毟り取れ!」
「幕府から借りた金を毟り取れ!」
吉良 上野介
「はい」
「もう、毟り取っておりまして
これ以上は無理で御座います」
将軍綱吉
「あああァアア」
「犬の分際で無理ぢゃと!」
「無理でも毟り取れ!」
吉良 上野介
「はい」
「毟り取っております故に
百姓が飢え死にしております」
将軍綱吉
「ん・・」
「死んでおっては毟り取れんのォ・・」
「死なしておいて無策な奴ぢゃ」
何故、百姓を見殺しにした!」
「犬!」
吉良 上野介
「申し訳御座いません」
将軍綱吉
「んんんんゥゥ」
「あッ」
「そうぢゃ!」
「帥の子が藩主の上杉出羽国米沢藩を売れ」
「そうすれば、一国の富が金に変わる」
「なァ」
「我ながら、頭が良い」
「妙案ぢゃぞ!」
吉良 上野介
「誰に売るので御座いますか?」
将軍綱吉
「お前が探せ」
吉良 上野介
「幕府が破綻しておりますから
買える者は御座いません」
将軍綱吉
「あああァアアアア」
「幕府が破綻ぢゃと!」
「ふざけた事を言う犬ぢゃ!」
「お前が破綻させたのか!」
吉良 上野介
「いいいィィィ いいえ」
「某には、左様な権限は御座いません。はい」
将軍綱吉
「ん?」
「儂の散財か?」
「んんゥ」
「おおおおォ」
「ではな、清国に売れ」
「清国は金持ちぢゃぞ!」
吉良 上野介
「外国に売れば
領土を奪われてしまいます」
「取り返しが付かぬ事になってしまいます」
将軍綱吉
「後から金など返せば良いではないか」
吉良 上野介
「では」
「淀屋に買い取らせては如何で御座いましょうか?」
将軍綱吉
「ほォ」
「淀屋か?」
「よし、淀屋を幕府が接収する」
「淀屋の資産を没収するぞ」
吉良 上野介
「淀屋を潰せば
上方の経済が混乱して
朝廷が怒るのでは御座いませんか?」
将軍綱吉
「お前が、没収すると言ったのぢゃぞ」
「犬が!」
吉良 上野介
「淀屋に赤穂藩を買い取らせては如何でしょうか?」
将軍綱吉
「もう、赤穂は改易とする手筈でゃぞ」
吉良 上野介
「赤穂は上方交易で栄えております」
「吉良は赤穂は高く売れると
浅はかながら考え及んでおります」
将軍綱吉
「面倒ぢゃのォ」
「兎に角、大金を用意しろ!」
「清国でも淀屋でも
何でもよい」
「金目の物を売っぱらって
一国の価値に相当する大金を直ぐに作れ!」
吉良 上野介
「はい」
「お任せ下さい」
「赤穂の資産を全て没収致し
上様に献上致します」
将軍綱吉
「母君は官位を楽しみに待っておる」
「だからな」
「大金は絶対に必要なんぢゃぞ」
「朝廷を驚愕させる大金を用意するのぢゃ!」
「大金が用意出来なければ
犬の命は無いぞ!」
「死ぬ気で用意しろ!」
吉良 上野介
「御意」
「必ず、上様の期待に応えます故」
「今、暫くお待ち願います」
将軍綱吉
「犬!」
「儂に待ては申すな!」
吉良 上野介
「申しません」
「直ちに、用意致します」
将軍綱吉
「直ぐぢゃ!」
赤穂事件 秘密の話
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/2e/1d/24383f22cad00d8fb57d34391550e59b.jpg)
安井 彦右衛門 (赤穂藩浅野氏の家臣。江戸家老。650石。)
「吉良殿が追加の指南料を受け取ると申されるのか?」
「我らに協力して下さるのか?」
藤井 宗茂 (赤穂藩浅野氏の家臣。上席家老。800石。)
「いや、そうでは御座らん・・」
「赤穂の資産を全て没収すると申された」
安井 彦右衛門
「いきなり左様な・・」
「赤穂の資産を没収とは・・」
「これは、驚いた・・」
「やはり、上様が赤穂を取り潰しにかかったのか?」
藤井 宗茂
「んんゥ」
「しかし、改易の前に資産を没収とは変じゃぞ」
「もしかしたら、赤穂の改易は免れるかも知れんぞ」
安井 彦右衛門
「おおォ」
「如何にして?」
藤井 宗茂
「お館様は、御台所様との密会を画策され
罪に問われ、処罰される」
「この場合、我らは連帯責任で切腹となり
赤穂は自動的に改易じゃ」
「黙っていても、赤穂の資産は没収され
幕府の物となる」
「今、急いで資産を奪う意味はない」
安井 彦右衛門
「赤穂は改易を逃れる事が出来ると申すか?」
藤井 宗茂
「このまま何もせずにおれば
必ず赤穂は改易となる」
「ただ、我らが行動を起こせば
一縷の望みがあるのだ」
安井 彦右衛門
「おおォ」
「如何やる?」
藤井 宗茂
「発狂じゃ!」
安井 彦右衛門
「えェ」
「発狂か?」
藤井 宗茂
「左様」
「お館様が密会で裁きを受ければ
重罪となり、我らも赤穂も滅びるが
お館様が発狂すれば
全ての罪はお館様だけに被される」
安井 彦右衛門
「儂らが、お館様の身代わりには成れんのか?」
藤井 宗茂
「罪を着せられているのは、お館様じゃ」
「我らが身代わりには成れん」
安井 彦右衛門
「んんゥ」
「儂は、嫌じゃぞ!」
藤井 宗茂
「左様」
「儂も左様な不忠は出来ん」
安井 彦右衛門
「発狂する以外に
改易を逃れる策は無いのか?」
藤井 宗茂
「吉良に責任を持って貰う事じゃな」
安井 彦右衛門
「んんゥ」
「吉良は自らの指南役を利用して
数々の嫌がらせを繰り返し
お館様を罠に嵌め
今度は、赤穂の資産を全て没収するとの事」
「全ての責任は吉良にある」
「我らで吉良を討つか!」
藤井 宗茂
「我らが討っては意味が無い」
「吉良を討つのはお館様じゃぞ」
安井 彦右衛門
「お館様が発狂して吉良を討つ」
「これ以外に赤穂を救う手立ては無いのぢゃな」
藤井 宗茂
「左様」
赤穂事件 資産を隠せ
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/30/75/7295b34a62d0f1ba8fec7384d8c84b25.jpg)
浅野 内匠頭
「赤穂の資産を全て没収すると申されるのか」
「やはり、赤穂は改易で御座いますか」
久貝 正方 (勘定頭)
「いや」
「儂は、赤穂殿に資産を隠すように
言い付けに参ったのじゃ」
「取り上げられる前に
資産を赤穂に移しておけ」
浅野 内匠頭
「鉄炮洲上屋敷の資産を赤穂に移すので御座いますか?」
久貝 正方
「んんゥ」
「いずれ、資産が必用になる筈じゃ」
「取られてからでは遅いからな」
浅野 内匠頭
「やはり、赤穂は改易で御座いますか?」
久貝 正方
「いや」
「改易をま逃れる為の策は御座る」
「吉良殿は指南役の役目を逸脱した
暴挙を行いっておる」
「そもそも、赤穂の資産没収を指南役が命じる事は出来んのだ」
「吉良殿は焦っておるようじゃぞ」
浅野 内匠頭
「如何なる策略で御座いますか?」
久貝 正方
「この暴挙を、訴え出る事ぢゃ!」
浅野 内匠頭
「しかし、吉良殿の嫌がらせは
皆々が知っております」
「斯様に大胆なる嫌がらせが出来るのは
大老が許しておるからかと・・」
「いったい、誰に訴え出れば宜しいので御座いますか?」
久貝 正方
「味方になる者はおらんのか!」
浅野 内匠頭
「・・・・」
久貝 正方
「んんゥ・・」
「周りは、全て敵か、知らぬ振りをしておるのじゃな」
「んんゥ・・・・」
「では、味方になる者を探さねばなりませんぞ」
浅野 内匠頭
「皆々は、この饗応で頭が一杯になっております故
某に対する吉良殿の暴挙には
構ってはおられません」
「皆々は、自らの事で精一杯なので御座います」
久貝 正方
「んんゥ」
「訴える事も出来ぬのか・・」
「しかしな」
「この事を、このままにしておいては為らぬぞ」
「今、幕府の御蔵金は枯渇しておるから
急遽、長崎から資金援助を求めておる状況なのじゃ」
「時を稼げば解決する筈じゃぞ」
浅野 内匠頭
「・・・・」
「やはり、無理で御座います」
「実は、この事は、もう金の問題では無いのです」
久貝 正方
「んんゥ」
「吉良殿の暴挙は、大きな後ろ盾の証拠ぢゃ」
「其方、何か弱みでも握られておるのか?」
浅野 内匠頭
「左様な事は御座いません」
「今は、この饗応の勅使御馳走役を
無事にやり遂げたいとの思いで御座います」
久貝 正方
「正直に申せ!」
「其方は、この事は金の問題では無いと申したではないのか!」
「悪いようにはせん」
「儂に打ち明けろ」
浅野 内匠頭
「その事は、今、話す事は出来ぬ」
「いや、生涯、話すことは無い」
「儂は、赤穂の為に犠牲になる覚悟じゃ」
「儂は、これから打ち首に成る運命じゃ」
「其方も巻き添えに成らぬ様に
某に関わるのを遠慮為さいませ」
久貝 正方
「んんゥ」
「覚悟を決めておると申すか!」
浅野 内匠頭
「せめて、切腹にて事をおさめたいと・・」
久貝 正方
「やはり、上様の御意志か?」
浅野 内匠頭
「某は、何も申し上げる訳には参りません」
久貝 正方
「赤穂が改易をま逃れる手段は有るぞ」
「吉良との遺恨とする事ぢゃ!」
「上様を持ち出しては為らぬぞ」
「あくまでも、この問題は吉良殿への遺恨ぢゃぞ」
「吉良殿の嫌がらせは皆々が承知しておるのじゃ」
「吉良との遺恨であれば
喧嘩両成敗で痛み分けとなる」
「赤穂は改易をま逃れる」
赤穂事件 悪巧み
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6c/e6/cf5b6512f1ab9bf52e64f62fe5cf7a4d.jpg)
柳沢 吉保 (大老格)
「御蔵金が枯渇してる」
「早々に資金を集めなければ為らんぞ」
吉良 義央 (上野介)
「お任せ致す」
柳沢 吉保
「任せると申されても困った・・」
吉良 義央
「如何為された」
柳沢 吉保
「んんゥ」
「其方も承知しておる事ぢゃぞ!」
吉良 義央
「儂は、幕府の資金を動かす立場では御座らん」
「むしろ、幕府に資金の供給を受ける者じゃ」
「資金の枯渇は、幕府重鎮の責任で御座る」
柳沢 吉保
「あのなァ」
「左様な事は百も承知じゃ」
「上様の生母様が官位を買う事になったが
肝心の御蔵金が無いのぢゃぞ!」
吉良 義央
「無いのか?」
「それは、困りましたな」
柳沢 吉保
「ああああァア」
「何じゃ!その態度は!」
「他人事では済まんぞ!」
「お主も、上様から催促されておるのではないのか?」
吉良 義央
「ですから、御蔵金の枯渇は
幕府重鎮の責任かと存じ上げますぞ」
柳沢 吉保
「んんゥ」
「頼むから、協力してくれんか」
「上様は、朝廷への奉納金を急いでおる」
「一時の猶予もないのじゃぞ」
「遅れれば、お主も我らと同罪じゃぞ」
吉良 義央
「では、其方は儂にも協力する事ぢゃな」
柳沢 吉保
「おおォ」
「何でも協力する」
「やってくれるか?」
吉良 義央
「んゥ?」
「何をやるのじゃな?」
柳沢 吉保
「あああァーン」
「分かっておるじゃろーが」
「赤穂の資産没収じゃ!」
吉良 義央
「あっははは」
「これはこれは」
「大老様 直々の御命令で御座るな」
「命令とあれば従うしか御座いません」
「しかし、この件の責任は全て
命令を下した大老様に御座います」
「後始末は、
大老の進退を賭けて対処して頂く事を
約束して頂きますぞ」
柳沢 吉保
「んんゥ」
「あのなァ」
「其方も同罪じゃぞ」
吉良 義央
「ん?」
「儂は、命令を受けて従っておるのじゃぞ」
「嫌なら、他の者に頼む事じゃな」
柳沢 吉保
「おおォ・・おろおろ」
「んんゥ」
「斯様な事を頼めるのは其方以外にはおらん」
「なァ」
「赤穂の資産没収が成功すれば
其方に上野国を授けてやろう」
「上様に働き掛けるから、
酒井を追い出して、其方が上野国を手に入れよ」
吉良 義央
「真か!」
「悪い話では無いな」
柳沢 吉保
「上野国は其方が一番欲しがっておった領地じゃろォーが」
「酒井忠清の末裔を追い出さば
上様もお悦びに為られる」
「一石二鳥ぢゃぞ」
吉良 義央
「ぎゃははは」
「上野国が手に入るのか!」
「これで、胸を張って上野介を名乗る事が出来るぞ!」
柳沢 吉保
「お互い協力して
この難局に臨む事が肝要」
「上様の機嫌を損なわぬように
大金を即座に用意せねば為らんのじゃぞ」
「成功すれば、十分の褒美がある」
「其方には、上野国じゃ」
吉良 義央
「儂が大領を獲得するのであれば
儂も大老に為らねば
釣り合いが取れんな」
「二大老体制に成るのじゃな」
「なァ」
「儂も、大老か?」