アプリコット プリンセス

チューリップ城には
とてもチャーミングなアプリコット姫がおりました

赤穂事件 悪巧み

2022-10-27 12:42:34 | 漫画
           赤穂事件 芋虫を踏みつける



鷹司信子
「あれあれ」
「芋虫を踏みつけるとこで
ごじゃりました」
「おょ」
「芋虫かとおもーたが
貴方か」

徳川綱吉
「うェ」
「何じゃ?」

鷹司信子
「大奥に引き籠り
ごろごろと転がっておる」
「芋虫か!」

徳川綱吉
「なァ・何を怒っておる?」
「儂は、何もしてはおらんぞ!」

鷹司信子
「何もしてない!」
「何もしてないのかえ!(`´)」
徳川綱吉
「何で怒る?」
「儂は将軍じゃぞ!」
「偉いんじゃぞ!」

鷹司信子
「黙らっしゃい!」

徳川綱吉
「うううゥ」
「また怒るぅぅぅ・・」
「儂は、怒られることが無いから
心が折れるのじゃ」
「辛いのじゃ」
「怒るな」

鷹司信子
「お前は」
「玉にそそのかされて
わらはを折檻するのかえ」

徳川綱吉
「えェ」
「知らんよ・・」

鷹司信子
「本当か!」

徳川綱吉
「本当だよ」
「だから、怒らないで・・」
「チンは、心が折れる」
「あのなァ」
「また、最近、怯えがぶり返してきておるのじゃ」
「また、儂を怯えさせたいのか!」

鷹司信子
「変な企みはしない事じゃ」
「わらはには、お前の企みなど通用せんぞ」
「わらはに、大奥を追い出されることになりますぞ!」

徳川綱吉
「儂を追い出すのか?」

鷹司信子
「わらはに忠実なる公卿女中は
大奥では絶大なる力を持ってごじゃる」
「大奥で、わらはに逆らう女子はおらんぞよ」
「わらはの命令で
お前は、大奥で孤立を深める事になるのでごじゃる」
「それでも良いのですか」

徳川綱吉
「嫌じゃ・・」
「わしは、此処にしか居場所が無い」
「儂を虐めてはならん!」



浄光院 (徳川綱吉の正室 鷹司 信子)
「わらわは、芋虫を追い出そうと思っておりますがね
あの芋虫は、本丸には行かんそうじゃ」

伝 (徳川綱吉の側室)
「如何致さりたので御座いますか?」
「宗上様を追い出すと申されるので・・」

浄光院
「玉が、わらわはを折檻すると言い出した」
「それでね」
「わらわは、仕返しに芋虫を追い出す事にしたのじゃ」
「しかし、芋虫は、本丸には行きたがらんからね」
「三の丸に引き取ってもらおうと
考えてごじゃる」
「これは、大奥公卿女の同意でごじゃるよ」


「宗上様が、伝と暮らすので・・」

浄光院
「綱吉は自身は将軍で偉いのだから言っておるがね」
「大奥では誰にも相手にされない、引き籠りの
孤独な老人でごじゃるよ」
「三の丸で、頭を冷やしてやろうかと
追い出すことに決めたんじょ」


「宗上様は承知なされたので・・」

浄光院
「女子衆が捕まえて
三の丸に連れて行くから
お前が、芋虫の世話をするのじゃ」
「よいな」


「宗上様は、三の丸には居付きません
直ぐに、逃げてしまわれます」
「お伝には、無理で御座います」

浄光院
「では、断れば良いのじょよ」
「綱吉の居場所が狭まり
芋虫は、わらわに降伏する事になる」
「わらわの力を見せてありゃんす」


「はい」
「お伝も」
「御台所様にお願いするのが
一番良いかと・・」

浄光院
「わらわは、其方が味方であると信じておりますよ」
「しかしね」
「わらわを裏切ればどうなるか
考えることじゃよ」
「わらわには、将軍を追い出す程の権威がごじゃる」
「わらわは、左大臣従一位・鷹司教平の娘
母は冷泉為満女(鷹司家譜)兄に関白・鷹司房輔、妹に霊元天皇中宮
わらわを怒らせれば、芋虫は潰される」
「わらわは、それ程の権威を持っておるんじょ」


「はい」
「お伝は
御台所様を
決して裏切る事は御座いません」

浄光院
「玉に言い寄られても
絶対に従っては為らないのだじょ」
「わらわは、卑しい成り上がりの玉などに
折檻を受けては為らんのじゃよ」
「わらわの権威が傷つけば
天皇、上皇様の権威にも傷が付いてしまいますからね」
「それは、絶対にあってはならない事でありんす」


「はい」
「お伝は、御中﨟のおりから
御台所様には良くして頂きました」
「お伝は、
引き続き、御台所様に
御奉公をしたいと思っております」

浄光院
「玉は卑しい身分の八百屋の娘であった」
「その卑しき者に
わらわが、折檻されるなど
有り得ぬ話じゃ」
「わらわの怒りが、どれ程の事か」
「玉の大切な芋虫を、踏み付けにして
叩き出してくれるわ」
「わらわは、怒っておるのじょ」


「はい、
お伝も、卑しき身分で御座います」
「御台所様に、ご奉公致します」

浄光院
「芋虫を庇っては為らんじょ」
「玉に協力しては為らんじょ」
「わらわを、裏切っては為らんじょ」
「良いな」


「はい」
「御台所様」

浄光院
「お前は、いつまでも
わらわの御中﨟じゃの」
「わらわは、お前が可愛い」
「わらわの味方にあれば
わらわが、お前を守ってあげるじょ」
「しかしな、
裏切れば、容赦は無い」
「わらわの格式は、綱吉よりも高いのでありんすじょ」


「はい」
「それは、皆々の承知しております事」
「御台所様が一等に御座います」

浄光院
「そうじゃじょ」
「わらわが、一等じょ」
「芋虫は、
わらわが、踏み潰す」


「はい」




津軽 政兕 (旗本 陸奥国弘前藩分家・黒石領4000石)
「御祖父様、お呼びで御座いますか」

吉良 上野介 (高家旗本 高家肝煎)
「おお、来たか」
「儂はな、赤穂と仙台の和解の仲立ちを止めた」
「もう、赤穂守を犬にする事は無理となったのじゃ」

津軽 政兕
「しかし、弘前本家は和解を勧めております」
「分家も本家に習わねば為りません」

吉良 上野介
「お主が、本家となれ」
「儂の力で本家を潰してやる」
「本家に代わり、其方が領主となれば良い」

津軽 政兕
「何か御座いましたか?」

吉良 上野介
「んんゥ」
「赤穂が疱瘡を患い、顔に痘痕が出来た時から
上様は、赤穂を嫌い始めた」
「そして、今では、赤穂を陥れようとしておられる」
「上様の気が変わったのじゃ」
「赤穂と仙台の和解は
我らの望む事ではなくなった」

津軽 政兕
「某も、上様の小姓として勤めておりましたが
突然の御役御免を申し受け
小普請組に再編入で御座いました」
「上様がお嫌いに為られたとあれば
赤穂殿もただでは済みません」
「我らは、赤穂を遠ざける事が肝要かと」

吉良 上野介
「お前が御役御免に為ったのは
儂のせいじゃ」
「お前を、一旦小普請組に戻して
儂の為に働いてもらう事としたのじゃ」
「そして、今、其方の役目はな
赤穂と仙台の和解を妨害する事なのだ」
「これは、命令じゃぞ」

津軽 政兕
「御義父様!
何故に和解の妨害を為さいますか?」

吉良 上野介
「上様の命令じゃ」

津軽 政兕
「えェ?」
「そこまでして、
上様が赤穂を陥れる理由は何に御座いましょう?」

吉良 上野介
「上様は、赤穂を生贄にしようとの、お考えじゃ」
「生贄に成る赤穂を庇えば
我らもまた、上様に嫌われる」
「上様に嫌われれば
我らもまた、生きてはいけぬ」

津軽 政兕
「では、赤穂を庇っている
本家の信政様は如何為りましょう?」

吉良 上野介
「弘前本家は潰されるな」
「そうなれば、お前が本家を引き継げばよい」

津軽 政兕
「我らが、本家弘前と成るのですか」
「悪い話ではありません」

吉良 上野介
「全ては、上様の御機嫌伺いじゃぞ」
「上様の命令には忠実に従うのじゃ」
「赤穂の事など
我らの知った事ではない」
「赤穂が滅びようが
我らが、安堵ならば
それが一番良いのじゃ」
「赤穂を庇えば
上様に嫌われると思へ」

津軽 政兕
「はい」
「御義父様に従い
赤穂を陥れ
上様の命令を忠実に実行致します」

吉良 上野介
「んんゥ」
「良い心掛けじゃ」
「いずれ、赤穂は始末される」
「赤穂に気使いは無用じゃ」
「赤穂は、もう、存在しないと思え」

津軽 政兕
「はい」
「赤穂は不要に御座います」

吉良 上野介
「左様」



桂昌院 (綱吉の生母)
「お前は、いつも、此処へおるのですね」
「たまには、出かけては如何かな?」

徳川 綱吉 (江戸幕府征夷大将軍)
「ははたま」
「何処かに出かけたいので御座いますか?」

桂昌院
「わしは、いつも出かけておる」

「しかし、お前が
大奥ばかりで、転がっておるから
奥の女衆は、お前を芋虫と呼んでおるぞ」
「確りせんか!」

徳川 綱吉
「ははたま・・」
「母玉は怒っておりますか?」

桂昌院
「怒っております」
「あの生意気な嫁御は
わしを馬鹿にして、卑しい身分の
八百屋の娘だと罵っておる」
「早く、折檻をして
反省させねばなりません」

徳川 綱吉
「母玉がそう為さりたければ
朕は何も申しません」
「母玉にお任せします」

桂昌院
「いいや」
「お前が悪いのじゃぞ!」

徳川 綱吉
「ひョー」
「儂が悪いのか?」

桂昌院
「お前がな、嫁御に甘いから
芋虫と呼ばれて馬鹿にされるのじゃぞ」
「お前だけでは無いのじゃ
わしも同様に馬鹿にされておる」
「全部、お前の責任じゃぞ」

徳川 綱吉
「朕には大奥にしか居場所がない・・」
「黒書院で政をしたら
此処に帰るのじゃ」

桂昌院
「まァよいわ」
「これから、饗応が御座いますからね
嫌でも白書院に出向き挨拶をせねば為らんぞ」
「勅使への奉答文を貰っておいて
間違いのないように読むのじゃぞ」

徳川 綱吉
「んんゥ」
「余興じゃ!」
「余興を忘れておった」
「そうじゃな、余興を準備しましょう
気晴らしに能を舞ってもらう事にするぞ」
「そこで、小石と並び鑑賞することにする」

桂昌院
「そうじゃな」
「生意気な嫁御に
お前の力を見せつける絶好の機会じゃぞ」
「やるのであれば
大枚を叩き、公卿共を圧倒する能会を催すのじゃぞ」
「公卿に馬鹿にされては為らんぞ」

徳川 綱吉
「今回の饗応で、柳沢にあずけている吉里に
松平姓を与え、勅使に伝える運びになっておるからなァ」

桂昌院
「馬鹿を申すな」
「生意気な嫁御を折檻するための
大切な時期ですぞ」
「勅使に願い出るような事では有りません」
「吉里のお披露目は
嫁御を折檻した後の事」
「公卿の力を削ぎ落し
天皇や上皇の権威失墜の後にする事じゃぞ」

徳川 綱吉
「えェ」
「駄目なのか?」
「ちんは、母玉が喜んでくれると思っていた」

桂昌院
「よく考えて見なさい」
「お前が、柳沢の嫁御を奪って出来た子じゃぞ」
「それを、今、お披露目などできるか!」
「わしはな、あの小石を陥れ
赤穂との密会を咎めたいのじゃぞ」
「そんな折に、お前の隠し子をお披露目など出来るか!」
「馬鹿息子が!」

徳川 綱吉
「ちんは、馬鹿じゃな」
「御台所にも、母玉からも叱られる」
「ちんは、馬鹿じゃ」
「ちんには居場所が無い」
「落ち着く、場所が欲しい」

桂昌院
「甘えてはなりません」
「お前は、江戸幕府征夷大将軍じゃぞ」
「威張っていなさい!」

徳川 綱吉
「小石は強いぞ」
「ちんの敵う相手では無い」
「母玉であっても
手を焼いておるのじゃろ」

桂昌院
「もォォ」
「お前は、情けない事を申すではない」
「母はな、官位が低いから
馬鹿にされてきたのじゃぞ」
「お前の力で
母に官位を授けてくれたらよいのじゃ」
「官位が高ければ
生意気な嫁御をねじ伏せる事が出来る」
「そうなれば、
お前を虐める者など此処にはおらんぞ」

徳川 綱吉
「そうじゃなァ」
「・・・・」
「母玉の官位を買うか・・」

桂昌院
「よいですか」
「朝廷に貢いで官位を貰うのです」
「金子、銀子を大量に用意するのです」

徳川 綱吉
「はい、母玉」
「よし、
儂の力を見せつけてやるぞ!」




伊達村豊 (宗春初名)
     (院使の清閑寺熈定の饗応役)

浅野 内匠頭 (長矩)
      (勅使の柳原資廉と高野保春の饗応役)

伊達宗春
「赤穂殿」
「今回の饗応は余興で能会が御座います」
「準備は、指南役から指示されますから
それを、我らから、お伝え致します」

浅野 内匠頭
「おおォ」
「和泉守」
「感謝申し上げます」
「共に協力して、今回の饗応に臨みましょう」

伊達宗春
「しかしながら、斯様に其方と話をすることは
出来難い状況になっております」
「心苦しいので御座いますが、勘弁願います」

浅野 内匠頭
「左様か」
「指南役の嫌がらせですな・・」
「しかしな、
今回の饗応役は連帯責任じゃぞ」
「我らが怠れば、其方の責任にもなる」
「吉良殿の嫌がらせに屈服しては為りません」

伊達宗春
「んんゥ」
「分かっておる」
「しかし、指南役の嫌がらせは常軌を逸しておる」
「失礼じゃが
赤穂殿は、吉良殿に如何なる恨みを買っておるのか
教えてはくれぬか?」

浅野 内匠頭
「某、吉良殿に恨みを買ってはおりません」
「吉良殿の嫌がらせは
もっと深い理由が御座いますが
今は何も申す事は出来ぬので御座る」
「深い理由を申せば、不忠となります」

伊達宗春
「んんゥ」
「何やら不穏な事のようじゃ」
「某、若年で御座るから
込み入った話に対処出来ぬ」
「不忠とあらば、公方様への忠義にあるか?」

浅野 内匠頭
「和泉守」
「公方様は吉良殿に直接会って
指示を授けておる」
「その吉良殿が嫌がらせを強行しておるのじゃ」
「何が起きているのか、誰にでも分かる事」
「皆々は、知らぬふりを装っておる」
「そして、その渦中に我らは放り込まれておる」
「逃げる事は出来んぞ!」

伊達宗春
「では、嫌がらせは上様の指示!」

浅野 内匠頭
「いいや、上様、直接の指示ではない」
「大奥の事情で御座る」

伊達宗春
「大奥の事情?」
「詳しく、お教え願います」

浅野 内匠頭
「知りたいのか?」
「これを知れば、其方はもっと危険な状況に巻き込まれるぞ」
「覚悟はあるのか」

伊達宗春
「んんゥ」
「聞いておかねば、今後、困るやも知れぬ」
「お教え願いたい」

浅野 内匠頭
「吉良殿は、我らを生贄にして
大奥の対立に対処しようとしておる」
「大奥の対立を丸く収める為に
儂は利用されておるのじゃ」

伊達宗春
「左様な?」
「少々、考え過ぎでは御座いませんか?」
「大奥の対立とは
如何なるもので御座る?」

浅野 内匠頭
「実は、儂は覚悟を決め兼ねておる」
「今回の饗応に不手際があれば
我らの責任は重大」
「そして、吉良殿には
責任逃れの確約が上様から約束されておる筈」
「すると、我らの責任は
其方にも飛び火する事は必然じゃ」

伊達宗春
「嫌な事を申されるな・・」
「我らが、とばっちりを受けると申すか!」

浅野 内匠頭
「左様、嫌な事じゃ」
「しかしな、これは逃れようがない現実じゃぞ」
「このまま、饗応が無事に終わったとしても
儂は、吉良殿の罠に嵌り
始末される運命じゃ」
「我らが、始末されれば
其方にも災いが降り注ぐ」
「今、吉良殿が其方に良くしているのは
赤穂と仙台の対立を煽る為」
赤穂を潰せば
今度は、仙台殿に牙を剥く事は明らか」
「よそ事では済みませんぞ」

伊達宗春
「今度は、我らに嫌がらせをするのか?」
「大奥の対立とは何じゃ?」
「公方様の指示とは?」
「・・・・」
「赤穂殿・・」
「やはり、少し考え過ぎじゃぞ」
「悪い事は申さん」
「吉良殿に指南料を余分に支払う事じゃ」
「それで、全ては解決する」

浅野 内匠頭
「いいや」
「吉良殿は、指南料の追加を拒否なされた」
「銀子の問題ではないのだよ」

伊達宗春
「それは、渡し方の問題じゃと思うが?」
「吉良殿の面目を思いやり
上手に渡すのじゃ」
「吉良殿は、悪い御方ではないぞ」
「其方の考えは変じゃ」
「其方は、変人じゃぞ」
「変人故に、虐められておるのじゃぞ」
「反省するべきは其方じゃ!」
「何が、大奥の対立じゃ!」
「何が、上様の指示じゃ!」
「我らは、お主に騙されはせんぞ!」

浅野 内匠頭
「いずれ、分かる事じゃ」
「・・・」
「いや」
「永遠に分からぬ事かもしれん・・」

           赤穂事件 監督不行き


安井 彦右衛門 (赤穂藩浅野氏の家臣。江戸家老。650石。)
「仙台藩が我らに和解金を用意しておるそうですな」

藤井 宗茂 (赤穂藩浅野氏の家臣。上席家老。800石。)
「んんぅ」
「旨く和解が出来そうじゃぞ」
「伊達殿の協力があれば
饗応を無事に乗り切ることが出来る」

安井 彦右衛門
「問題は、お館様じゃ」
「酷く、落ち込んでおられる]

藤井 宗茂
「左様」
「問題は、根が深そうじゃぞ」
「我らも、始末されるかも知れん」

安井 彦右衛門
「えェ」
「何か?」
「吉良殿の嫌がらせで御座いますか?」

藤井 宗茂
「吉良殿が嫌がらせをしても
伊達殿の協力があれば乗り切れる」
「問題は、もっと深刻ぢゃぞ!」

安井 彦右衛門
「えェ?」
「詳しく、お教え願いたい」

藤井 宗茂
「実はな、お館様から相談を受けたのじゃ」

安井 彦右衛門
「おおォ」
「如何なる相談?」

藤井 宗茂
「其方も、知っている事じゃ」
「お館様は、御台所様に呼ばれて大奥に行かれた」

安井 彦右衛門
「なんじゃ」
「左様な事は、皆々が知っておる事」
「呼び出しを受けて出向いたのを
咎められる筋合いは御座らん」

藤井 宗茂
「それからも、再三の呼び出し」
「何かあると思っておった」

安井 彦右衛門
「おい」
「脅かすな・・」

藤井 宗茂
「お館様は、思い悩んでおられる」
「自らの身の振り方を考えておられる」

安井 彦右衛門
「如何なる事ぢゃ?」
「御台所様の呼びつけを拒否するのか?」

藤井 宗茂
「いや、今更、拒否しても
既に手遅れぢゃ」
「もう、拒否する意味は無い」

安井 彦右衛門
「なんぢゃ!」
「何が言いたいのか、はっきりせんか!」

藤井 宗茂
「んんゥ」
「実はな、
お館様と御台所様との密会が企てられておったのぢゃ!」

安井 彦右衛門
「ヴェ」
「ぐェ」
「みみみみ密会じゃとォォォォォーー」

藤井 宗茂
「左様」
「そして、これは全て上様の母君の企て」

安井 彦右衛門
「ななァ何で、分かる?」

藤井 宗茂
「お館様が再三の呼び出しで
御台所様から直接に聞いた情報だ」
「間違いは無い」

安井 彦右衛門
「大変ではないか!」

藤井 宗茂
「んんゥ」
「この事が公になれば
お館様は、重罪で処罰される」
「そして、我らは
現場の責任者として、監督不行きとして切腹となる」
「更には、赤穂は改易ぢゃ」

安井 彦右衛門
「わわわァ儂は、切腹するのか?」

藤井 宗茂
「打ち首の方が良いのか?」

安井 彦右衛門
「ぐェ」



徳川 綱吉
「母君に従一位の官位と宗子という名前を授けることにした」
「これは、女性で最高位の官位じゃ!」

吉良上野介
「はい」
「目出度き事で御座います」
「上様、そして生母様に
御喜び申し上げます」

徳川 綱吉
「んんゥ」
「官位は朝廷から貰わねば為らんから
買い取ることにした」
「至急に幕府の御金蔵から用意しろ」

吉良上野介
「はい、
直ちに、勘定奉行に申し渡し
用意致します」

徳川 綱吉
「朝廷の機嫌を損なうではないぞ」
「既に、母君は官位を得たつもりでおられるのじゃぞ」
「大金で必ず官位を買い取らねば為らん!」
「失敗は許さん!」

吉良上野介
「はい」
「絶対に成功致します」

徳川 綱吉
「んんゥ」
「これで、大奥の争いも無くなる」
「母君も喜ぶ」

吉良上野介
「つきましては」
「先の事、は如何致しましょうか?」」

徳川 綱吉
「先も後も無い」
「母君の申すようにすればよい」

吉良上野介
「はい」
「御台所様と赤穂の密会に御座います」

徳川 綱吉
「密会など無いぞ!」
「誰だ、ふざけた事を言っておるのは!」
「母君と小石は仲直りしたのじゃ!」
「二度と、密会などと申せば
お前の首はちょん切られるのだぞ!」
「馬鹿者が!」

吉良上野介
「ああァァァァァァ・・」
「申し訳御座いません」
「ご無礼をお許し下さい」

徳川 綱吉
「おい、犬」
「泣け」

吉良上野介
「ワン!ワン!」

徳川 綱吉
「お前は犬か!」

吉良上野介
「ワン」

徳川 綱吉
「お前は、今回の饗応で
犬のように、口で御膳を食せ!」

吉良上野介
「ワン!」

徳川 綱吉
「ぎっひひひ」
「犬じゃ」「いぬぢゃ」
「お前は、儂の犬ぢゃぞ!」

吉良上野介
「ワン」

徳川 綱吉
「おい、犬!」
「儂は、偉いか!」

吉良上野介
「御意」
「上様は、江戸幕府第5代征夷大将軍であらせられます」
「幕府の最高権威にあらせられます」

徳川 綱吉
「では、儂と小石は何方が偉い!」

吉良上野介
「当然、上様で御座います」

徳川 綱吉
「よし」
「儂の方が偉いのじゃな!」

吉良上野介
「御意」

徳川 綱吉
「おい犬!」
「お前は、犬か!」

吉良上野介
「ワン、ワン」

徳川 綱吉
「ひひひィ」
「儂は、犬の者しか信じられん」

         赤穂事件 優しい指南役


吉良上野介
「おおぉ」
「赤穂殿」
「其方、勅使御馳走人として、
勅使・院使をお迎えする準備であるが
老中土屋政直殿と高家畠山基玄殿に従い
紹介を受けよ」
「良いな」

浅野 内匠頭
「御貴公は、如何為されますか?」

吉良上野介
「今回は、儂が特別に勅使・院使を招き入れ
接待を任されておるから
其方は、勅使御馳走人に徹するがよい」

浅野 内匠頭
「では、某は勅使・院使様を出迎えるだけで
宜しいので御座いますか?」

吉良上野介
「左様じゃぞ」
「接待役は、儂が直々に仰せ付かった」
「其方は、見ておるだけでよい」

浅野 内匠頭
「では、風折烏帽子に大紋長袴で
お出迎え致します」

吉良上野介
「いやいや」
「長裃でよい」
「接待役は儂が直々にせねば為らんからな」
「儂は風折烏帽子に大紋長袴で接待をする
其方は、長裃で出迎えればよいぞ」

浅野 内匠頭
「しかし、今までは
風折烏帽子に大紋長袴で御座いました」

吉良上野介
「いやいや」
「今回は、特別じゃ」
「儂は、勅使・院使に特別に用事があるのじゃよ」
「とても重要な要件じゃからな
儂の立場が引き立つようにせねば為らん」
「よいな」

浅野 内匠頭
「承知致しました」

吉良上野介
「それから、飾りの墨絵じゃが
あれは貧相じゃぞ」
「今回の饗応は
特別に幕府の威厳を示さねば為りませんからな」
「金屏風を壮大に並び立てよ」
「他を圧倒する迫力が必用なんじゃぞ」

浅野 内匠頭
「承知致しました」
「では、某は出迎えに専念致します」
「ところで、出迎えの場所は
何処が宜しいので御座いますか?」

吉良上野介
「おうおう」
「左様じゃ」
「出迎えの場所は赤穂の部屋前でよい」
「決して本丸大廊下に入っては為らんぞ」
「松の廊下は勅使・院使が御通りになる
特別な廊下じゃからな」
「此処からは、儂が中庭の絶景を眺めながら
悠々と勅使・院使を白書院へと案内するのじゃ」
「畳引きの豪華な廊下を通り
厳粛なる白書院に入る道すがら
儂は、重要なる話をする」
「これは、儂にとっての試金石なんじゃ」
「上様の期待に応えなければ
全てが台無しになるんぢゃ!」

浅野 内匠頭
「何が台無しになるので御座いますか?」

吉良上野介
「いやいや」
「赤穂殿には関係は無い」
「儂の独り言ぢゃ」

浅野 内匠頭
「左様で御座いますか」
「では、某は部屋の前で
長裃にて出迎えを致します」

吉良上野介
「んんゥ」
「何か他に分からぬ事はあるかな?」

浅野 内匠頭
「はい」
「上様からの指示が書かれた
指示書を確認させて欲しいのですが」

吉良上野介
「上様の指示書?」
「左様な書状は無いぞ」
「上様は、儂に直接指示を為される」
「指示書は儂の頭の中にある」
「分からぬ事は、儂に聞いたら良い」
「何でも、聞けばよい」

浅野 内匠頭
「では」
「余興の能の催しで御座いますが
我らで準備する事は御座いますか?」

吉良上野介
「あれは、余興ではないぞ」
「今回は将軍主催の能の催しになる」
「勅使・院使が招かれ、
上様は御台所様と並び観覧為される」
「幕府の威厳を知らしめる
壮大で優雅な催しとなる」
「これは、全て儂が準備する
其方は、勅使御馳走人に徹すればよいぞ」
「よいな」

浅野 内匠頭
「では、勅答の儀の前に
能の催しをする事を決定事項として準備致します」

吉良上野介
「それから、精進料理は為らんぞ」
「特別に豪華な御膳を並べるのぢゃ!」
「今回の饗応は儂の試金石ぢゃ!」

浅野 内匠頭
「承知致しました」

             赤穂事件 贐



原 元辰 (赤穂浪士四十七士の一人)
「おおォ」
「久しぶりじゃな」
「お元気か」

久貝 正方 (旗本、勘定頭)
「ああ」
「其方も、威勢が良いのォ」

原 元辰
「儂は、威勢が良いのだが
肝心のお館様が元気が御座らん」

「んゥ」
「火災も聞いてはおらんぞ」
「火付盗賊改方頭のお出ましか」
「また、市中で騒ぎでも起きたのか」

久貝 正方
「いや」
「儂は今、勘定頭じゃ」

原 元辰
「左様か」
「其方は金の計算をしておるのか」
「儂には、火消しが性に合っておる」
「勘定とはなァ・・
難儀な仕事じゃな・・」

久貝 正方
「左様じゃ」
「難儀ぢゃぞ」
「幕府は財政破綻ぢゃ」
「金蔵が空じゃ!」

原 元辰
「無駄遣いするからじゃ」
「節約せんとな」

久貝 正方
「儂は、金蔵の管理はするが
実際に使う事は出来んぞ・・」
「諸大名の借款は返らんし
新たな失費もかさむ」
「金は出ていくばかりじゃ」

原 元辰
「儂に何か用か?」
「赤穂は盛況じゃが
儂には、金の工面は出来んぞ」

久貝 正方
「いやいや」
「赤穂殿も饗応で大金を使っておられるのじゃ
これ以上に甘える訳には参らん」
「幕府財政の逼迫の理由は
無計画な出費にある」

原 元辰
「なァ」
「儂には、難しい話は無理ぢゃぞ」
「儂は、てっきり
火付盗賊改方頭が事件の相談に来たのかと思ぉーたぞ」

久貝 正方
「左様」
「事件じゃ」

原 元辰
「んんゥ」
「事件か?」
「じゃがな
儂には、難しい事は分からんぞ」
「財政破綻とかなァ」
「儂には無理ぢゃ」
「簡単な話をしてくれんか!」

久貝 正方
「吉良殿がな、空の御蔵から
御蔵金を出せと言っておってな」
「空ぢゃと申しても
納得せんのぢゃ」

原 元辰
「何だと!」
「宿敵、仇の吉良か!」
「あ奴の屋敷が燃えて
少しは気が収まるかと思ぉーたが」
「幕府の金蔵から
あ奴の屋敷の建て直し費用が出されたのぢゃ!」
「んんゥ」
「しかし、吉良邸の新築に
左様な大金が必要か?」

久貝 正方
「いやいや」
「そうではない」
「幕府の財政破綻の理由は
無計画な散財ぢゃ」

原 元辰
「あのなァ」
「儂には、難しい話をするな!」

久貝 正方
「んんゥ」
「其方に、話すのが心配に成って来たぞ・・」

原 元辰
「なんぢゃ?」
「儂が信用為らんのか?」

久貝 正方
「誰にも話してはならんぞ」

原 元辰
「儂を信用しろ」

久貝 正方
「実はな、
公方様の生母様が官位を買う事になったのぢゃ」
「それで、大金が必要になった」

原 元辰
「なんぢゃ」
「吉良とは関係がないのか!」
「勿体ぶりおってからに」

久貝 正方
「んんゥ」
「吉良殿がその金を調達して欲しいと申された」

原 元辰
「左様か」
「必要ならば調達せねば為らんなァ」
「諸国から集めたらよいではないのか?」

久貝 正方
「んんゥ」
「長崎近江守に資金調達を依頼しておる」

原 元辰
「なァ」
「其方は、儂に何をして欲しい?」
「儂は、何をすればよい?」

久貝 正方
「んんゥ」
「あのな」
「何もして欲しくないのぢゃ」
「儂はな、其方の無鉄砲を戒めに来た」
「吉良殿がおかしな動きを見せておる
赤穂殿に災いが迫っておるから
警告を告げに来たのじゃ」
「其方は、我武者羅に突っ走ってはならんぞ」
「冷静に迅速に対処する事」
「何が起きても慌てぬ事」
「これは、同じ火消しで苦労した
お主へのはなむけぢゃ」

            赤穂事件 お伝と並べ



徳川綱吉
「なァ」
「本当に、母君に官位をくれるのか?」

小石君 (徳川綱吉の正室 御台所)
「それは、貴方様の心がけ次第でごじゃるよ」
「貴方様は、その力を御示しになられると申しておるのだから
それ相応の心掛けが必用じょな」

徳川綱吉
「如何様な、嗜みか?」

小石君
「節度無き、たしなみじょ」
「最大限に、その力を御示しなさいまし」
「遠慮はいりません」

徳川綱吉 
「おおォォォー」
「儂の力を最大限に示すのか!」
「如何にして?」
 
小石君
「貴方様は、官位を買うそうじょな」
「幾らで買うつもりじょ」

徳川綱吉
「それは、知れん」
「逆に聞きたいのじゃが」
「官位の値を教えてくれんか?」

小石君
「だから、先ほどから申しておる」
「貴方様の誠意を示せと!」
「最大限の誠意じょ!」

徳川綱吉
「んんゥ」
「儂の最大限の力を朝廷に示せば
官位を買えるのか?」

小石君
「玉は、生まれつきの卑しい身分の女子じょ」
「玉に、女子一高き官位を与えるには
一国の価値と同様の金子・銀子が必用じゃと思うじょ」

徳川綱吉
「うッ」
「一国の価値か?」
「どれ程かのォ?」

小石君
「玉はな、
その卑しき身分で
わらわに、折檻すると息巻いておった」
「わらわの怒りは金では収まらん」
「その怒りを収められる程の資産を
朝廷に差し出すのです」

徳川綱吉
「よし」
「儂の力を見ておけ」
「お前が仰天する程の資金を出して」
「官位を買い取ってやるぞ」

小石君
「頼もしいこと」
「貴方様は天下の大将軍」
「わらわに恥をかかせてはなりませんじょ」

徳川綱吉
「なァ」
「今回の能の催しは
お前と一緒に並んで鑑賞する事を決めておる」
「一緒に鑑賞してくれるな」

小石君
「それは、貴方様の心掛け次第じょ」
「わらわに恥をかかせれば
わらわも、其方に恥をかかせますじょ」
「それは、
わらわの力を示す機会となる」
「わらわは、生れ付き高貴な身分」
「天皇、上皇様の権威を示す
良き機会となる」
「全ては其方の心掛け次第じょ」

徳川綱吉
「んんゥ」
「よしよし」
「お前に恥をかかせたりはせん」
「約束するから
共に仲良く鑑賞するのだぞ」
「儂が一人でおれば
皆々が変に思う」

小石君
「むッははは」
「馬鹿な事を申される」
「お伝と共におればよい」
「うッははは」

徳川綱吉
「左様に、可笑しいか?」

小石君
「可笑しゅうごじゃる」
「玉と伝が共に卑しい身分じょ」
「玉に官位を与えたい時に
卑しき伝と共に将軍が並ぶ様を想像したら
可笑しゅうてごじゃる」

徳川綱吉
「左様じゃ」
「お前の申す通りじゃ」

小石君
「分かったら」
「わらわに従い」
「わらわに、誠意を示す事じょ」
「一国を差し出す気概を持つ事じょ」

徳川綱吉
「官位は高く付くのだなァ」

小石君
「当たり前じょ」



吉良 上野介
「恐れながら、申し上げます」
「生母様の官位買い上げの事」
「昨今、幕府の御蔵金が足りませんので
長崎出島からの収益を
お待ち願います」

将軍綱吉
「あァア」
「待てぢゃと!」
「犬の分際で、儂に待てを言うなた!」
「無礼な犬ぢゃ!」

吉良 上野介
「おおお・・・」
「お許し下さい・・」

将軍綱吉
「では、早く大金を用意しろ!」

吉良 上野介
「諸藩は多額の借款を抱えておりますが
返済は出来ぬとの事で御座います」

将軍綱吉
「ああァア」
「毟り取れ!」
「諸藩から毟り取れ!」
「幕府から借りた金を毟り取れ!」

吉良 上野介
「はい」
「もう、毟り取っておりまして
これ以上は無理で御座います」

将軍綱吉
「あああァアア」
「犬の分際で無理ぢゃと!」
「無理でも毟り取れ!」

吉良 上野介
「はい」
「毟り取っております故に
百姓が飢え死にしております」

将軍綱吉
「ん・・」
「死んでおっては毟り取れんのォ・・」
「死なしておいて無策な奴ぢゃ」
何故、百姓を見殺しにした!」
「犬!」

吉良 上野介
「申し訳御座いません」

将軍綱吉
「んんんんゥゥ」
「あッ」
「そうぢゃ!」
「帥の子が藩主の上杉出羽国米沢藩を売れ」
「そうすれば、一国の富が金に変わる」
「なァ」
「我ながら、頭が良い」
「妙案ぢゃぞ!」

吉良 上野介
「誰に売るので御座いますか?」

将軍綱吉
「お前が探せ」

吉良 上野介
「幕府が破綻しておりますから
買える者は御座いません」

将軍綱吉
「あああァアアアア」
「幕府が破綻ぢゃと!」
「ふざけた事を言う犬ぢゃ!」
「お前が破綻させたのか!」

吉良 上野介
「いいいィィィ いいえ」
「某には、左様な権限は御座いません。はい」

将軍綱吉
「ん?」
「儂の散財か?」
「んんゥ」
「おおおおォ」
「ではな、清国に売れ」
「清国は金持ちぢゃぞ!」

吉良 上野介
「外国に売れば
領土を奪われてしまいます」
「取り返しが付かぬ事になってしまいます」

将軍綱吉
「後から金など返せば良いではないか」

吉良 上野介
「では」
「淀屋に買い取らせては如何で御座いましょうか?」

将軍綱吉
「ほォ」
「淀屋か?」
「よし、淀屋を幕府が接収する」
「淀屋の資産を没収するぞ」

吉良 上野介
「淀屋を潰せば
上方の経済が混乱して
朝廷が怒るのでは御座いませんか?」

将軍綱吉
「お前が、没収すると言ったのぢゃぞ」
「犬が!」

吉良 上野介
「淀屋に赤穂藩を買い取らせては如何でしょうか?」

将軍綱吉
「もう、赤穂は改易とする手筈でゃぞ」

吉良 上野介
「赤穂は上方交易で栄えております」
「吉良は赤穂は高く売れると
浅はかながら考え及んでおります」

将軍綱吉
「面倒ぢゃのォ」
「兎に角、大金を用意しろ!」
「清国でも淀屋でも
何でもよい」
「金目の物を売っぱらって
一国の価値に相当する大金を直ぐに作れ!」

吉良 上野介
「はい」
「お任せ下さい」
「赤穂の資産を全て没収致し
上様に献上致します」

将軍綱吉
「母君は官位を楽しみに待っておる」
「だからな」
「大金は絶対に必要なんぢゃぞ」
「朝廷を驚愕させる大金を用意するのぢゃ!」
「大金が用意出来なければ
犬の命は無いぞ!」
「死ぬ気で用意しろ!」

吉良 上野介
「御意」
「必ず、上様の期待に応えます故」
「今、暫くお待ち願います」

将軍綱吉
「犬!」
「儂に待ては申すな!」

吉良 上野介
「申しません」
「直ちに、用意致します」

将軍綱吉
「直ぐぢゃ!」


            赤穂事件 秘密の話



安井 彦右衛門 (赤穂藩浅野氏の家臣。江戸家老。650石。)
「吉良殿が追加の指南料を受け取ると申されるのか?」
「我らに協力して下さるのか?」

藤井 宗茂 (赤穂藩浅野氏の家臣。上席家老。800石。)
「いや、そうでは御座らん・・」
「赤穂の資産を全て没収すると申された」

安井 彦右衛門
「いきなり左様な・・」
「赤穂の資産を没収とは・・」
「これは、驚いた・・」
「やはり、上様が赤穂を取り潰しにかかったのか?」

藤井 宗茂
「んんゥ」
「しかし、改易の前に資産を没収とは変じゃぞ」
「もしかしたら、赤穂の改易は免れるかも知れんぞ」

安井 彦右衛門
「おおォ」
「如何にして?」

藤井 宗茂
「お館様は、御台所様との密会を画策され
罪に問われ、処罰される」
「この場合、我らは連帯責任で切腹となり
赤穂は自動的に改易じゃ」
「黙っていても、赤穂の資産は没収され
幕府の物となる」
「今、急いで資産を奪う意味はない」

安井 彦右衛門
「赤穂は改易を逃れる事が出来ると申すか?」

藤井 宗茂
「このまま何もせずにおれば
必ず赤穂は改易となる」
「ただ、我らが行動を起こせば
一縷の望みがあるのだ」

安井 彦右衛門
「おおォ」
「如何やる?」

藤井 宗茂
「発狂じゃ!」

安井 彦右衛門
「えェ」
「発狂か?」

藤井 宗茂
「左様」
「お館様が密会で裁きを受ければ
重罪となり、我らも赤穂も滅びるが
お館様が発狂すれば
全ての罪はお館様だけに被される」

安井 彦右衛門
「儂らが、お館様の身代わりには成れんのか?」

藤井 宗茂
「罪を着せられているのは、お館様じゃ」
「我らが身代わりには成れん」

安井 彦右衛門
「んんゥ」
「儂は、嫌じゃぞ!」

藤井 宗茂
「左様」
「儂も左様な不忠は出来ん」

安井 彦右衛門
「発狂する以外に
改易を逃れる策は無いのか?」

藤井 宗茂
「吉良に責任を持って貰う事じゃな」

安井 彦右衛門
「んんゥ」
「吉良は自らの指南役を利用して
数々の嫌がらせを繰り返し
お館様を罠に嵌め
今度は、赤穂の資産を全て没収するとの事」
「全ての責任は吉良にある」
「我らで吉良を討つか!」

藤井 宗茂
「我らが討っては意味が無い」
「吉良を討つのはお館様じゃぞ」

安井 彦右衛門
「お館様が発狂して吉良を討つ」
「これ以外に赤穂を救う手立ては無いのぢゃな」

藤井 宗茂
「左様」

            赤穂事件 資産を隠せ



浅野 内匠頭
「赤穂の資産を全て没収すると申されるのか」
「やはり、赤穂は改易で御座いますか」

久貝 正方 (勘定頭)
「いや」
「儂は、赤穂殿に資産を隠すように
言い付けに参ったのじゃ」
「取り上げられる前に
資産を赤穂に移しておけ」

浅野 内匠頭
「鉄炮洲上屋敷の資産を赤穂に移すので御座いますか?」

久貝 正方
「んんゥ」
「いずれ、資産が必用になる筈じゃ」
「取られてからでは遅いからな」

浅野 内匠頭
「やはり、赤穂は改易で御座いますか?」

久貝 正方
「いや」
「改易をま逃れる為の策は御座る」
「吉良殿は指南役の役目を逸脱した
暴挙を行いっておる」
「そもそも、赤穂の資産没収を指南役が命じる事は出来んのだ」
「吉良殿は焦っておるようじゃぞ」

浅野 内匠頭
「如何なる策略で御座いますか?」

久貝 正方
「この暴挙を、訴え出る事ぢゃ!」

浅野 内匠頭
「しかし、吉良殿の嫌がらせは
皆々が知っております」
「斯様に大胆なる嫌がらせが出来るのは
大老が許しておるからかと・・」
「いったい、誰に訴え出れば宜しいので御座いますか?」

久貝 正方
「味方になる者はおらんのか!」

浅野 内匠頭
「・・・・」

久貝 正方
「んんゥ・・」
「周りは、全て敵か、知らぬ振りをしておるのじゃな」
「んんゥ・・・・」
「では、味方になる者を探さねばなりませんぞ」

浅野 内匠頭
「皆々は、この饗応で頭が一杯になっております故
某に対する吉良殿の暴挙には
構ってはおられません」
「皆々は、自らの事で精一杯なので御座います」

久貝 正方
「んんゥ」
「訴える事も出来ぬのか・・」
「しかしな」
「この事を、このままにしておいては為らぬぞ」
「今、幕府の御蔵金は枯渇しておるから
急遽、長崎から資金援助を求めておる状況なのじゃ」
「時を稼げば解決する筈じゃぞ」

浅野 内匠頭
「・・・・」
「やはり、無理で御座います」
「実は、この事は、もう金の問題では無いのです」

久貝 正方
「んんゥ」
「吉良殿の暴挙は、大きな後ろ盾の証拠ぢゃ」
「其方、何か弱みでも握られておるのか?」

浅野 内匠頭
「左様な事は御座いません」
「今は、この饗応の勅使御馳走役を
無事にやり遂げたいとの思いで御座います」

久貝 正方
「正直に申せ!」
「其方は、この事は金の問題では無いと申したではないのか!」
「悪いようにはせん」
「儂に打ち明けろ」

浅野 内匠頭
「その事は、今、話す事は出来ぬ」
「いや、生涯、話すことは無い」
「儂は、赤穂の為に犠牲になる覚悟じゃ」
「儂は、これから打ち首に成る運命じゃ」
「其方も巻き添えに成らぬ様に
某に関わるのを遠慮為さいませ」

久貝 正方
「んんゥ」
「覚悟を決めておると申すか!」

浅野 内匠頭
「せめて、切腹にて事をおさめたいと・・」

久貝 正方
「やはり、上様の御意志か?」

浅野 内匠頭
「某は、何も申し上げる訳には参りません」

久貝 正方
「赤穂が改易をま逃れる手段は有るぞ」
「吉良との遺恨とする事ぢゃ!」
「上様を持ち出しては為らぬぞ」
「あくまでも、この問題は吉良殿への遺恨ぢゃぞ」
「吉良殿の嫌がらせは皆々が承知しておるのじゃ」
「吉良との遺恨であれば
喧嘩両成敗で痛み分けとなる」
「赤穂は改易をま逃れる」


             赤穂事件 悪巧み


柳沢 吉保 (大老格)
「御蔵金が枯渇してる」
「早々に資金を集めなければ為らんぞ」

吉良 義央 (上野介)
「お任せ致す」

柳沢 吉保
「任せると申されても困った・・」

吉良 義央
「如何為された」

柳沢 吉保
「んんゥ」
「其方も承知しておる事ぢゃぞ!」

吉良 義央
「儂は、幕府の資金を動かす立場では御座らん」
「むしろ、幕府に資金の供給を受ける者じゃ」
「資金の枯渇は、幕府重鎮の責任で御座る」

柳沢 吉保
「あのなァ」
「左様な事は百も承知じゃ」
「上様の生母様が官位を買う事になったが
肝心の御蔵金が無いのぢゃぞ!」

吉良 義央
「無いのか?」
「それは、困りましたな」

柳沢 吉保
「ああああァア」
「何じゃ!その態度は!」
「他人事では済まんぞ!」
「お主も、上様から催促されておるのではないのか?」

吉良 義央
「ですから、御蔵金の枯渇は
幕府重鎮の責任かと存じ上げますぞ」

柳沢 吉保
「んんゥ」
「頼むから、協力してくれんか」
「上様は、朝廷への奉納金を急いでおる」
「一時の猶予もないのじゃぞ」
「遅れれば、お主も我らと同罪じゃぞ」

吉良 義央
「では、其方は儂にも協力する事ぢゃな」

柳沢 吉保
「おおォ」
「何でも協力する」
「やってくれるか?」

吉良 義央
「んゥ?」
「何をやるのじゃな?」

柳沢 吉保
「あああァーン」
「分かっておるじゃろーが」
「赤穂の資産没収じゃ!」

吉良 義央
「あっははは」
「これはこれは」
「大老様 直々の御命令で御座るな」
「命令とあれば従うしか御座いません」
「しかし、この件の責任は全て
命令を下した大老様に御座います」
「後始末は、
大老の進退を賭けて対処して頂く事を
約束して頂きますぞ」

柳沢 吉保
「んんゥ」
「あのなァ」
「其方も同罪じゃぞ」

吉良 義央
「ん?」
「儂は、命令を受けて従っておるのじゃぞ」
「嫌なら、他の者に頼む事じゃな」

柳沢 吉保
「おおォ・・おろおろ」
「んんゥ」
「斯様な事を頼めるのは其方以外にはおらん」
「なァ」
「赤穂の資産没収が成功すれば
其方に上野国を授けてやろう」
「上様に働き掛けるから、
酒井を追い出して、其方が上野国を手に入れよ」

吉良 義央
「真か!」
「悪い話では無いな」

柳沢 吉保
「上野国は其方が一番欲しがっておった領地じゃろォーが」
「酒井忠清の末裔を追い出さば
上様もお悦びに為られる」
「一石二鳥ぢゃぞ」

吉良 義央
「ぎゃははは」
「上野国が手に入るのか!」
「これで、胸を張って上野介を名乗る事が出来るぞ!」

柳沢 吉保
「お互い協力して
この難局に臨む事が肝要」
「上様の機嫌を損なわぬように
大金を即座に用意せねば為らんのじゃぞ」
「成功すれば、十分の褒美がある」
「其方には、上野国じゃ」

吉良 義央
「儂が大領を獲得するのであれば
儂も大老に為らねば
釣り合いが取れんな」
「二大老体制に成るのじゃな」
「なァ」
「儂も、大老か?」

赤穂事件 和睦推進派の結束

2022-10-13 11:14:23 | 漫画
           赤穂事件 密会騒動



浅野内匠頭
「御台所様は、お見え為さりませんので
日を改めて打ち合わせする事と致しました」

吉良上野介
「何だと!」
「会わずに帰ってきたのか!」

・・・・・それでは、段取りが狂うぞ 如何するか?・・・・・

浅野内匠頭
「北の丸新御殿での打ち合わせには問題が御座います」
「場所を改めて頂きたい」

吉良上野介
「左様か・・」

浅野内匠頭
「某、御台所様と二人で会う事は遠慮致したい」

吉良上野介
「我儘を申すな!」
「御台所様は勅使・院使のもてなしを良く知っておるし
上様の好みも承知しておる」
「勅使御馳走人は、御台所様から
直接指示を受けなければ為らん」
「北の丸新御殿が嫌なら
大奥に出向け!」

浅野内匠頭
「御指南は、
上様は何でも御召し上がり為さると
申しておりましたので
鳥肉、魚、海老、貝などの食材を
取り寄せる段取りをしておりましたが
仙台殿には精進料理にするようにとの御指示」
「変更で御座いますか?」
「素菜、素食での宴席と為りますか?」

吉良上野介
「精進日の宴席だけは精進料理となるのじゃぞ
左様な事は、いちいち指図されなくても分かる事」
「くだらぬ質問をするな!」

浅野内匠頭
「申し訳御座いません」
「では、素菜、素食は精進日のみに致します」
「某、不勉強で御座います・・」
「精進日を教えては頂けませんか?」

吉良上野介
「それは、決まってはおらん」

浅野内匠頭
「えッ」
「左様で御座いますか?」
「・・・・」
「精進日が分からねば
料理は用意出来ません・・」

吉良上野介
「だから、
御台所様と打ち合わせせよと申しておるのじゃぞ!」

浅野内匠頭
「しかし、某が大奥に近づくと
奥女中が騒めくのを感じるのです」
「某は、大奥には近づかぬ方が良いかと・・」

吉良上野介
「儂ならは、大奥に立ち入っても宜いと申すか!」
「儂に出来る事ならば
其方にも出来る」
「其方、大奥に行け!」

浅野内匠頭
「・・・・・」
「左様な事は・・・」
「やはり、ご指南にお願い致しとう御座います」

吉良上野介
「御台所様は、其方と打ち合わせしたいと願っておられる」
「儂が、代わりに行ったりしたおりには
御台所様、お怒りに為りますぞ!」
「御台所様は、お待ちかねぢゃ!」
「儂が、段取りするから
大奥で打ち合わせをしろ」
「今度、会わずに帰る事をすれば
御台所様は、許さぬと仰せじゃ」
「其方が、行くのじゃ!」

浅野内匠頭
「では、ご指南と共に参上致します」
「上様とご指南、そして、某が揃い
御台所様との打ち合わせに臨みとう御座います」

吉良上野介
「上様は、其方を良き御犬にしたいのじゃぞ」
「上様は、其方を寵愛為されておられる」
「上様は、其方が御台所様と親しくなることを望まれておられる」
「其方が御台所様と結ばれれば
上様はお悦び為される」

浅野内匠頭
「では、尚更で御座る」
「某、御台所様と二人きりで会う事は出来ません」

吉良上野介
「駄目ぢゃ!」
「其方は、御台所様と結ばれる運命ぢゃ!」

浅野内匠頭
「無茶を申しては為りません!」
「某、左様な恐れ多き事
絶対に出来ません!」
「如何してもと申せば」
「其方を切り伏せますぞ!」

吉良上野介
「儂を切っても解決せんぞ」
「それが嫌ならば、お主への指南はせん!」

浅野内匠頭
「んんんゥ」
「仙台殿と共にやる」
「儂は、仙台殿に従う!」

吉良上野介
「赤穂と仙台は絶縁関係じゃ」
「仙台から断られる」
「無駄じゃ」

浅野内匠頭
「儂は、仙台殿に頭を下げ
協力を仰ぐ」

吉良上野介
「無駄ぢゃ!」
「仙台には
儂から圧力をかけておる」
「絶対に赤穂には協力しない」
「よいか!儂に従へ!」
「お主は、御台所様と結ばれる運命ぢゃ!」
「二人きりで密会するのじゃぞ」
「お主に逃げ場は無い」
「諦めろ!」

浅野内匠頭
「んんんゥ」
「上様にお会いして、
其方の不埒を直訴する!」

吉良上野介
「上様は、老中にもお会いせぬのに
犬にも成っておらん田舎大名に謁見などするものか」
「如何してと申せば
儂が代わりに聞いてきてやろう」
「儂が上様から許可を得る」
「上様の命令ならば
従えるのかな?」

浅野内匠頭
「上様は左様な命令など為さらぬ!」
「御指南は
上様を侮辱しておりますぞ!」

吉良上野介
「決め付けるな!」
「全て、上様の命令ぢゃぞ!」
「あのな」
「心配するな
御台所様は、もう中老女」
「間違っても懐妊する事はない」
「御台所様は寂しいのじゃ」
「其方が慰めて参れ」

浅野内匠頭
「嫌で御座る!」

吉良上野介
「しかし、其方は
北の丸殿と北の丸新御殿で
密会しておるではないか
北の丸殿とは密会したが
御台所様の誘いは断るのかな」

浅野内匠頭
「密会では無い」

吉良上野介
「いいや、密会じゃ!」



         赤穂事件 梶川頼照の役割



梶川頼照 (旗本)
「赤穂殿は御馳走人で手が回りませんので
儂が代わりにお伺い致します」

鷹司 信子(御台所)
「お前と話しても意味は無い」
「赤穂の君を呼べ」

梶川頼照
「はい」
「赤穂殿は手が回りません・・」

鷹司 信子
「何故、邪魔立てする!」
「わらはに逆らうつもりか!」

梶川頼照
「申し訳御座いません・・・」

鷹司 信子
「役に立たぬ者は不要じゃぞ!」
「お前を、江戸から追放してやろぉーか!」

梶川頼照
「お許し下さい」
「赤穂殿は大奥には毒に御座います」
「儂が、赤穂殿に代わり此処へ参りました」

鷹司 信子
「赤穂の君が毒ぢゃと!」
「戯けが!」
「早く!赤穂の君を呼べ!」

梶川頼照
「赤穂殿が大奥に近づくと奥女中がざわついております」
「儂であれば、大丈夫で御座る」
「儂は、安心して此処へ来ることが出来ます」
「上様も、安心して儂に任せてくれますぞ」

鷹司 信子
「日頃、将軍が会うのは柳沢と吉良だけじゃ」
「お前では無い!」
「わらはがお前と会うのは
赤穂の君を呼びたいが為」
「それが適わぬのであれば
其方は不要じゃ」
「お前の代わりに
茶坊主を控えさせる」

梶川頼照
「赤穂殿の色気が大奥にはそぐはないので御座います」
「間違いが有るとは申しませんが
上様の大奥に
若い色男を近づけては為りません」
「代わりに、儂が来ましたぞ」
「儂が御台所様の話を聞きますぞ!」

鷹司 信子
「左様か」
「お前の心配はよく分かった」
「しかしな」
「要らぬ心配じゃぞ」
「わらはと赤穂の君の密会は
桂昌院の企てじゃぞ」
「玉が赤穂の君を
わらはの下に寄越したのじゃ」
「玉と綱吉は結託して企てておる」
「赤穂の君が此処へ来るのは
将軍と桂昌院の策略じゃぞ」
「将軍は全て承知しておる」
「知られたとて何も怖がる必要はない」
「既に、全ては、玉と綱吉の知る所じゃ」
「其方もわらはに味方して
証人になれ」
「これは、全て、将軍と桂昌院の策略じゃぞ」

梶川頼照
「策略であれば尚更です」
「やはり、赤穂殿は此処へ来ては為りません」

鷹司 信子
「分からぬ事を申すな」
「お前は、綱吉の犬ではないのか?」
「それとも、吉良の犬か?」

梶川頼照
「両方で御座る・・」

鷹司 信子
「おっほほほ・・」
「左様か・・」
「では、これからは
わらはの犬にも成れ!」
「如何じゃ!」
「わらはの犬になれば
怖いもの無しじゃぞ」
「玉、綱吉、そして、わらはが其方の主人となり
お前を守る」
「如何じゃ!」
「お前は、わらはの犬となれ!」

梶川頼照
「はい」
「有難きお言葉に
敬服致します」
「儂は、御台所様の犬となりました」

鷹司 信子
「よし!犬」
「赤穂の君を連れて参れ!」

梶川頼照
「はい」
「上様、桂昌院様、御台所様の命を受け
赤穂殿を連れて参ります」

鷹司 信子
「ほっほほ・・」
「早く行け!」




松平 綱近 (越前松平家)
「志半ばでの突然の知らせで御座いました」
「水戸の御老公様が逝去為された事
未だに信じられません」
「偉大なお方を失いました」
「悲しみが絶望に代わり
深い悲しみに打ちひしがれて・・・」

松平 頼道 (水戸支流)
「んんぅ」
「気力を失ったのは、我らとて同じ事」
「ただ、御老公が成し遂げられなかった事は
我らが引き継ぐ」
「力を落とすではないぞ」

松平 綱近
「はい」
「この饗応の機会に
何卒、我らが念願を叶えたく・・」

松平 頼道
「んんゥ」
「このままでは、幕府の衰退は避けられまい」
「東北といい、西国といい
財政は逼迫して領民は飢え
新田開拓は廃れ、小作人は減少しておる」
「なァ出雲殿」
「出雲の石見銀山は幕府の貴重な財源となっておるが・・」

松平 綱近
「はい、銀産出量は次第に減少しており
幕府の期待に応えられません」
「鉱夫は、奴隷のごとく働いております」
「鉱夫は、島流しの刑に等しい扱いを
甘んじて受け入れている状態で御座る」

鉱山での劣悪な環境も相まって、当時の鉱夫は短命であり、30歳まで生きられた鉱夫は尾頭付きの鯛と赤飯で長寿の祝いをしたほどであった。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

松平 頼道
「我が尊父は、地方の領民の困窮を防ぐ手立てを
大老に伝え託したが、権力は柳沢に移り
井伊殿は失脚した」
「幕府は、我らに多額の借款をさせて
この困窮を極めている時期に返済を求めている」
「今、この困難を乗り切らねば
幕府の存亡に関わる、大きな人災となるぞ!」

松平 綱近
「はい」
「諸藩は飢餓で苦しんでおります」
「全ての富は、上方と江戸に集中しており
我らは、貧窮に苦しむばかり
ここは、水戸様に御縋りする以外
立ち直る見込みは御座いません」

松平 頼道
「んんゥ」
「尊父の遺産を引き継ぎ
必ず達成させねば為らん」

松平 綱近
「では、周回廻海運構想は潰れてはいないので
御座いますか?」

松平 頼道
「んんゥ」
「周回廻海運構想は我らの希望であり、期待するところでもある」
「水戸の特産品を北から南、
東から西、多くの諸藩に船で大量に運搬できる」

松平 綱近
「銀の産出は減少し続けておるゆえ
これからは、木綿、人参、そして製鉄、馬を海上輸送したい
しかし、我らは西廻海運の船を持たぬから
周回廻海運構想で船と湊を諸藩で共有することが望ましい」
「我らには、手船を持つ資産は無いので御座る」

松平 頼道
「我らとて、同じ事」
「東廻海運は犬吠崎から利根川を登り江戸に商品を
輸送していたが海上経路が開拓されて
犬吠崎は素通りとなった」
「だから、我らの役割も無くなってしまった」
「手船を持たぬ諸藩の湊は敬遠されてしまうから
上方と、江戸の船主が全ての商品を担ってしまうのじゃ」

松平 綱近
「特産品を売りたくても手段が御座いません」
「銀は中国山脈を越えて人足で運ぶありさま」
「何としても、周回廻海運が必用で御座る」

松平 頼道
「んんゥ」
「これには、仙台殿と赤穂殿の和解が必用じゃ」

松平 綱近
「今回の饗応で、仙台殿と赤穂殿が和解するようにとの思いは
共通で御座る」
「これは、全ての諸藩の願いで御座る」

松平 頼道
「んんゥ」
「饗応の準備は全ての諸藩の協力が必要となる
なにせ、料理一つとっても
東から西の広くから仕入れねばならんからな」

松平 綱近
「我らは、協力して
仙台殿と赤穂殿の絶縁関係解消に務めましょうぞ」

松平 頼道
「んんゥ」
「これは、水戸と出雲だけの問題ではない」
「幕府の存亡に関わる
非常に重要な事だと思うぞ」

松平 綱近
「諸大名の協力を仰ぎましょう」

松平 頼道
「んんゥ」
「皆で力を合わせて
全領民の困窮を解消せねばならん」



岡部 長泰 (和泉国岸和田藩3代藩主)
「我が藩財政は豊かで、盛況じゃ」
「儂の評価も大いに高まっておる」

岡部長泰は儒学を好んで林鳳岡に儒学を学び、自らも講師として藩士などに儒学を講じている。和歌をたしなみ、武芸を好むという智勇に優れた人物でもあった。民政においても善政を布いたことから、「誉ある将」と賞賛されている
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

浅野内匠頭 (播磨赤穂藩の第3代藩主)
「赤穂藩は、筆頭家老内蔵助の誉れで盛況で御座る」

岡部 長泰
「これは、全て上方と江戸の交易によるのも」
「西廻り海路の発展による恩恵じゃ」

浅野内匠頭
「はい、左様に御座います」

岡部 長泰
「ところで、儂に相談があるとか?」

浅野内匠頭
「はい」
「今回の饗応に於かれまして
精進の日の確認に御座います」

岡部 長泰
「はて?」
「饗応の日取りの確認かな?」
「それは、ご指南殿にお聞き願いたい」

浅野内匠頭
「いいえ」
「日取りでは御座いません」
「生類憐みの令により鳥や魚、貝やエビの料理に関して
精進の日には遠慮すべきとの事」
「美濃守は何かご存知かと?」

岡部 長泰
「左様な事は知らん」
「精進の日など、儂は知らんぞ」

浅野内匠頭
「左様に御座いますか」
「実は、ご指南も知らぬと申される・・・」

岡部 長泰
「ほォ―」
「吉良殿も知らぬと?」

浅野内匠頭
「はい」
「それ故、料理の準備に難儀しております」

岡部 長泰
「んんゥ」
「これは、危険じゃぞ!」
「桑山一尹の二の舞になるぞ!」

浅野内匠頭
「其の者、院使饗応役で怠りを咎められ、
改易となったので御座いますな」

岡部 長泰
「吉良は、上様の御意志を確認出来ずにいると思うぞ」
「失敗を、お主に押し付けるつもりでは有るまいか?」

浅野内匠頭
「美濃守から良きお知恵を頂けませんか!」

岡部 長泰
「んんゥ」
「饗応の料理は儀式の一環じゃ」
「先ずは膳の数、
続いて運び出される膳と汁と菜の数、
菜の種類、菓子の種類、
膳の器の種類、
膳と器の組み付け」
「これが
本膳、二の舞、三の舞、四っ目、
五つ目、吸い物、銚子、奈良臺、
取肴、折三合、二つ、三つ、菓子九種

浅野内匠頭
「はい」
「食材は
鮫盛、巻するめ、貝盛
サヨリ、干し鮎盛、海老
鱒、赤貝、アワビ、焼き鳥
鶉、鱸、鯔長作り、鯛
塩鴨、くしこ、むき芋
皮ごぼう、焼きとうふ
大こん、うと、ふき
菓子は 雪みとり、枝かき
やうかん、かや、かすてら
まんづう、有平、大平せんへい」
「客一行を身分に応じて順番に配置
御膳や器を身分に応じて区別する事」

「前例と格式が重要であると・・・」

岡部 長泰
「んんぅ」
「前例に従うば良いと思うぞ」

浅野内匠頭
「精進の日は考える必要無しと・・」

岡部 長泰
「前例に従い
精進料理には対処出来るように手筈をしておく事じゃ」

浅野内匠頭
「如何にも、左様に御座る」

             赤穂事件 御三家筆頭



徳川 吉通 (徳川御三家筆頭)
     (後に、6代将軍徳川家宣の養嗣に擬されたことがある)

「今回の饗応で、儂は如何すればよいのじゃ」

岡部 長泰 (和泉国岸和田藩3代藩主)
「はい、 尾張様は徳川御三家の筆頭で御座いますから
上座の最上位で御膳が用意されております」
「御膳を召し上がり頂き、公方様の御言葉をお待ち下さいませ」

徳川 吉通
「食しながらでは無礼ではないのか?」

岡部 長泰
「ご安心下さい」
「将軍のお言葉は、勅使様を通して上皇様、天皇様に
伝えられるこで御座いますから
聞き逃さず注意を払っておれば御無礼は御座いません」

徳川 吉通
「左様か」
「公方様の御言葉を良く聞いておるのじゃな」

岡部 長泰
「左様に御座います」

徳川 吉通
「ところで、其方は儂に相談があると聞いておるが
如何なる事じゃ」

岡部 長泰
「はい」
「尾張様は御三家筆頭」
「将来有望で御座いますから
必ず、上様との謁見が御座います」
「謁見が適えば、確認をしたき事が御座います」

徳川 吉通
「確認とは何じゃ?」

岡部 長泰
「はい」
「尾張様も承知しておられる生類憐みの令に関わる事」
「今回の饗応御膳に出される肉や魚を
如何にするか、上様の御考えをお聞き頂きたい」

徳川 吉通
「儂が聞くのか?」
「お主が直接聞けぬのか?」
「指南役は如何しておる?」

岡部 長泰
「我らは、上様の謁見が叶いません」
「指南役も上様の意向を図りかねております」

徳川 吉通
「んゥ」
「左様か・・」
「では、上様のお呼びがあれば
馳走の事を聞いてみよう」

岡部 長泰
「我らは、柳沢殿に連絡を取り
上様の御考えを確認しておりますが
いつまでたっても返事が御座いません」
「尾張様が最後の望みで御座います」

徳川 吉通
「何じゃ?」
「大袈裟ではないのか?」

岡部 長泰
「上様の御意志を知らずに
饗応の準備をすることは叶いません」
「尾張様は最後の望み」
「お願い申し上げます」







井伊 直通 (井伊直興の嫡子)
     (大老井伊直興は病気を理由に辞任して国に帰る)

「某、尊父の代理にて初めてのお勤めで御座る」
「周りは、年配ばかり故
心細いところ、お声かけ頂き感謝申し上げます」

徳川吉通
「左様な・・」
「某の方こそ貴方より年少故
頼りにしております」

井伊 直通
「生まれ年は同じですかな?」
 
徳川吉通
「はい」
「わたしは、ひと月ほど遅く生まれました」

井伊 直通 
「やはり、同じ年生まれじゃ!」

徳川吉通
「あっははは」
「左様!」

井伊 直通 
「わたしは、まだ家督を得ておりませんから
饗応の席には入れないと思うが・・」

徳川吉通
「ああッ」
「其方の父君は病気と聞いたが
如何しておりますか?」
「重いのか?」

井伊 直通
「内緒で御座」
「ここだけの話・・」
「尊父は元気に御座る」
「仮病じゃ」
 
徳川吉通
「左様か!」
「我ら二人の秘密じゃな」

井伊 直通 
「はい」
「秘密で御座る」

徳川吉通
「今回、公方様からの謁見が無くてな」
「心配しておる」
「儂は、公方様から嫌われておるのか?」

井伊 直通 
「いいえ、心配は御座いません」
「尊父が仮病で国に帰ったのには理由が御座ざる」
「上様は、政を側用人に任せておるそうな」
「大老は上様に合う事も
直接命令を受ける事もなく
側用人を介してのみ連絡があるとの事」
「今や、側用人が大きな力を持ち
大老は不要となった」
「尊父は失脚したのじゃ!」
「謁見が無いのは、側用人が止めておるからじゃな」

徳川吉通
「左様か?」

井伊 直通 
「あまり気にせぬとも
大丈夫じゃ」
「この事も、二人の秘密じゃぞ!」

徳川吉通
「んんゥ」
「秘密じゃ」

「しかし、謁見が無いと困る・・」

井伊 直通 
「如何しました?」

徳川吉通
「頼まれておるのじゃ」
「生類憐みの令で肉や魚、貝やエビの馳走の準備に
変更が生じるかも知れぬと・・」
「上様の意向を確認する事が必用じゃと・・」

井伊 直通 
「左様か・・」
「儂が聞いた話だと
馳走は御台所様がお決めになるとの事
上様は勅使の対応でお忙しいのだと・・」

徳川吉通
「では、上様に馳走の事を聞いたりすれば
不謹慎じゃな・・」

井伊 直通 
「左様じゃ」
「左様な事を出しゃばれば
上様の機嫌を損なうかも知れぬぞ・・」
「謁見が無くて良かったのではないのか・・」

徳川吉通
「んんン」
「帥の申す通りじゃ」
「危うく、上様に嫌われる所であったわ」

井伊 直通 
「君子、危うきに近寄らずじゃ」

徳川吉通
「あっははは」
「君子、危うきに近寄らず!」

井伊 直通
「我らは蚊帳の外」
 
徳川吉通
「蚊帳の外か?」



安井 彦右衛門 (赤穂藩浅野氏の家臣。江戸家老。650石。)
「饗応役は我らだけでは無い」
「仙台藩とは争いたくないぞ!」

藤井 宗茂 (赤穂藩浅野氏の家臣。上席家老。800石。)
「ご指南役が仙台を庇っておるようじゃ」
「指南料の上乗せが拙かったか?」

安井 彦右衛門
「んんぅ」
「指南料の問題では無いと思うぞ」
「ご指南は
我らと仙台を競わせておるのではないのか?」

藤井 宗茂
「いいや、競わせているのでは無い」
「我らに嫌がらせをしているとしか思えん!」
「指南料も上乗せを拒否してきた」

安井 彦右衛門
「んんゥ」
「銀子の問題では無いと?」
「では」
「何故に、赤穂に嫌がらせをするのじゃ?」

藤井 宗茂
「んんゥ」
「噂は本当かもしれん・・」

安井 彦右衛門
「如何なる噂で御座る?」

藤井 宗茂
「公方様の命令のようじゃ」

安井 彦右衛門
「えッ!」
「我に不届きがあると?」

藤井 宗茂
「しッ」
「大きな声を出すな!」

安井 彦右衛門
「んんゥ」
「しかし、何故、公方様は左様な命令を?」

藤井 宗茂
「噂じゃぞ。
お館様は、御台所様に誘惑されておるそうじゃ」

安井 彦右衛門
「嘘じゃろォ・・・」
「まさか・・左様な事・・・」
「こりゃ、大きな声では話せんな・・」

藤井 宗茂
「お館様は大奥に近づかぬように注意しておるが
指南役の吉良殿が密会を強要しているとの噂・・」

安井 彦右衛門
「うッ」
「えげつないのォ・・」

藤井 宗茂
「吉良殿は執念深く嫌がらせを続け
お館様を屈服させようと目論んでおるようじゃ」

安井 彦右衛門
「んんゥ」
「指南役を敵に回しておるから
畳替えも馳走の用意にも大金を要してしまったのじゃな」
「難儀じゃぞ」

藤井 宗茂
「馳走は今までの御膳に加え
精進料理も用意せよとの事」
「これからが本番じゃぞ」

安井 彦右衛門
「馳走に倍の資金が掛かるのか・・」

藤井 宗茂
「いや、倍では済まぬ」
「指南役の吉良殿は
お館さまに密会の罪を着せ
我らが赤穂を改易させ
自らの手柄にせんとしておるぞ」

安井 彦右衛門
「ちと待て」
「何故。吉良の手柄となる?」

藤井 宗茂
「吉良は上様と共謀しておる・・」

安井 彦右衛門
「うぇ」
「・・・・・」
「そりゃ 勝ち目は無い・・・」
「無理じゃ・・」

藤井 宗茂
「いやいや」
「あくまでも、噂話・・・」




淺井彦五郎  (仙台藩大番頭)
「水戸の使者から口上書が御座いました」

伊達綱村 (仙台藩4代藩主)
「んんゥ」
「赤穂が頭を垂れ、
我らに謝罪を申し入れておるそうぢゃな・・」

淺井彦五郎
「如何致しましょうか?」

伊達綱村
「んんゥ」
「赤穂との和解は我らの念願でもある
断る道理はない」
「赤穂との和解で廻り海路が東西で連結する
交易が盛んに為り
仙台藩の復興に繋がる」
「これは、水戸殿の願でもあるのぢゃぞ」

淺井彦五郎
「では、早速に和解を承諾いたします!」

伊達綱村
「んんぅ」
「しかしな、赤穂が和解の手土産として
塩の製法を伝授したいとの申し入れが書かれておる」
「我らも、何か土産を用意したい」

淺井彦五郎
「では、和解金を用意致します」

伊達綱村
「んんゥ」
「それから、伊予の村豊に消息を書くのぢゃ」
「伊予殿にも、赤穂との和解を承諾させねばならん」

淺井彦五郎
「ちょうど赤穂殿と伊予殿は江戸で
饗応役を仰せつけられておりますから
都合が宜しいかと・・」

伊達綱村
「天の助けぢゃ」
「我らは、財政が逼迫し
百姓は飢餓に苦しんでおる」
「そんなおり、
仙台藩にも饗応による資金供与の打診がある」
「伊予の村豊には、赤穂と協力して
饗応を無事にやり遂げる必要があるのだ」

淺井彦五郎
「この和解が成功すれば
旧勢力の反抗は抑えられます」
「改革は、馬の市の復活
新田開発、年貢の負担を減らし百姓を保護すること」
「芝居小屋も復活させたい」
「功労者には、下賜金も用意する」
「和解により良い改革が為される筈で御座る」

伊達綱村
「廃れた湊を復活できれば
藩の建て直しが出来る」
「藩券の乱発も防げる」
「我が仙台藩は飢饉の最中ぢゃ」

淺井彦五郎
「水戸殿と協力して
和解を達成致します」

伊達綱村
「しかし、何故
大切な塩の製法を伝授するとまで申すのか?」
「少々、話が甘すぎないか?」

淺井彦五郎
「いいえ」
「赤穂の筆頭家老大石殿は
利益を我らと共有したいと考えております」
「西廻り海路は
赤穂を豊かにしたのだと」
「これを、周回海路に延長すれば
交易は更に盛んになり
諸藩で問題になっている
飢饉は防げると申された」
「諸藩の問題は、赤穂にも通じる事だと」
「赤穂だけが豊かでは為らぬと申された」

伊達綱村
「赤穂には良き家老がおるのぢゃな」
「しかし、我らにも
良き大番頭がおるぞ」
「それは、其方ぢゃ」

淺井彦五郎
「おおぉ」
「これは、恐れ入ります」
「某、期待に応えるべき
精進仕り、お仕え致します」

伊達綱村
「んんぅ」
「では、浅野様と伊達は和解ぢゃ」
「以後、反対勢力には口出し不要に御座る」

淺井彦五郎
「御意に御座います」
「反対派には、厳しく申し付け致します」

伊達綱村
「んんゥ」



梶川 頼照 (幕府旗本大奥御台所付き留守居番 切米600俵)
「赤穂殿!」
「御台所様がお待ちで御座います」
「大奥で御台所様がお待ちで御座います」
「お待ちで御座いますぞ!」

浅野 内匠頭 (播磨赤穂藩の第3代藩主)
「儂は、大奥に行く事は出来ん」
「其方は、大奥御台所付き留守居番で御座ろう!」
「某の立場は分かっておると思うぞ!」

梶川 頼照
「しかし・・・」
「御台所様を待たせておく訳には参りませんぞ」
「お願いで御座います」
「これから直ぐに大奥に行き
御台所様にお会い下さい」

浅野 内匠頭
「んんぅ」
「もはや、遠慮も限界に御座るな・・」
「では、帥と共に参上致しましょう」
「儂が一人で大奥に参ることは
絶対に出来ませんぞ!」
「其方が同行する事で
誤解を防ぐ事になるのじゃぞ」
「同行してくれるな!」

梶川 頼照
「えェ・・」
「お一人では行けぬと申されるか?」
「儂が供をせぬば行かぬと・・」

浅野 内匠頭
「左様」
「如何じゃ」
「一緒に参ろう!」

梶川 頼照
「えぇーーと」
「あのォーー」
「儂は、邪魔だと申される・・」

浅野 内匠頭
「誰が?」

梶川 頼照
「お一人で、お願い致す・・」

浅野 内匠頭
「ますます、可笑し気な事」
「同伴無き場合は、遠慮致す」

梶川 頼照
「儂が叱られる・・」
「儂は、追放処分になっちまう」
「如何したらいいんぢゃ・・」
「ああ」「困った・・」

浅野 内匠頭
「何故、困る事が御座いましょうか」
「とにかく、儂が遠慮を続けるか?
帥と同行して参上するか?
それを選ぶのは、留守居番殿じゃぞ」
「それが、帥の仕事じゃ
役目ではないのか?」

梶川 頼照
「んんゥ・・」
「・・・・」
「知らんよ・・」
「もう、知らんよ・・」
「儂が追放されたら
赤穂殿の責任だよ」
「ねェ」
「儂が追放されたら
如何してくれる?」

浅野 内匠頭
「左様な事は無いと思うぞ」
「同伴して追放は無い」
「安心為さいませ」

梶川 頼照
「追放処分になったら
助けてくれるか?」

浅野 内匠頭
「んんゥ」
「其方には迷惑はかけん」
「全ての責任は、儂が引き受けた」
「だから、同行しておくれ」

梶川 頼照
「本当か?」
「儂に責任を押し付けぬと誓っておくれ」
「儂は、弱小の旗本で
吹けば飛ぶような儚い立場」
「とても弱い存在なのよ・・」

浅野 内匠頭
「何を申される」
「帥は大奥御台所付き留守居番を任されているのですぞ
もっと自信をお持ち下さいませ」

梶川 頼照
「んんゥ」
「それは、儂が用無しの爺じゃからだよ」
「大奥御台所付き留守居番は爺の役目」
「大奥で儂に遠慮する女中はおらんよ」

浅野 内匠頭
「なのな」
「儂は、大奥に近づけんのぢゃぞ」
「儂が行けば、奥女中は色めき立つっているのだ!」
「儂が大奥に入って行くことは
大変に危険な事なんぢゃぞ」
「それを防ぐのが帥の役目ではないのか!」

梶川 頼照
「だけど・・」
「御台所様の命令だから・・」

浅野 内匠頭
「同行しておくれ」

梶川 頼照
「お一人で・・」

浅野 内匠頭
「同行せねば参らん!」



吉良上野介
「御台所様がお待ちぢゃぞ!」
「早く、参れ!」

浅野 内匠頭
「それは御台所付き留守居番の役目で御座る」
「梶川頼照にお願い致したい」

吉良上野介
「何故! お主が参らんのぢゃ!」
「さァ」
「早く参れ!」
「御台所様を待たせたら無礼ではないか!」

浅野 内匠頭
「某が、大奥に入る事は出来ません」

吉良上野介
「何を申すか!」
「御台所様が、直々に御指名為されておられるのぢゃぞ」
「御台所様に恥をかかせるつもりか!」
「早く、参れ!」

浅野 内匠頭
「何故に、御台所様の恥となりましょうか」
「何故に!」

吉良上野介
「御台所は其方と親しくしたいのぢゃ!」
「断る道理は無いぞ!」

浅野 内匠頭
「それでは、尚更参る訳にはいきません」
「お諦め下され」

吉良上野介
「ほォ」
「上意に逆らうと申すか!」
「反逆となるぞ
お主は謀反人になりたいのか!」

浅野 内匠頭
「何と申されても、無理な事は無理で御座る」
「お諦め下され」

吉良上野介
「いいや為らん!」
「早く行け!」
「上様の命令ぢゃ!」
「上意ぢゃぞ!」
「逆らえば、打ち首ぢゃぞ!」

浅野 内匠頭
「首が欲しければくれてやる」
「今、此処で儂を切り捨てよ!」

吉良上野介
「むむむむむぅゥゥゥゥ」
「後悔するなよ」

浅野 内匠頭
「何を後悔する」
「其方の無能が晒されるだけの事」

吉良上野介
「うぎゅーーー」
「うううェ」
「・・・・・・・・」
「意地になっておるのか?」

浅野 内匠頭
「さにあらん!」
「其方のことが、惨めで悲しいだけじゃ・・」

吉良上野介
「んんんんゥ」
「儂が供をしよう!」
「そうじゃ、其方の後ろから
儂が供をしよう!」
「一緒に参ろう!」
「如何じゃ、これならば良かろう」

浅野 内匠頭
「ん?」
「ご指南だけで参ればよい」
「用事が有れば
ご指南に連絡が有る筈」
「それこそ、ご指南が、お一人で参られよ」

吉良上野介
「あのなァ」
「御台所様は其方を指名しておるのぢゃぞ」
「儂が参って如何なる!」
「戯けた事を申すな!」

浅野 内匠頭
「んんゥ」
「御台所様に御出で下さる訳には参りませんか?」
「某は、大奥には参りません!」

吉良上野介
「御台所様に指図するつもりか!」
「無礼者が!」
「早く、大奥へ参れ!」
「早く行け!」
「ぐずぐずするな!」
「ほら」
「早く」

浅野 内匠頭
「何度、同じことを申される」
「無駄な事は、お止め為され」

吉良上野介
「儂が供をするから
一緒に参れ!」
「ほら」
「手間を取らせるな!」
「おい」
「早く来い」
「ほら」

浅野 内匠頭
「引っ張るのは、お止め下され!」



鷹司 信子 (徳川綱吉の正室)
「赤穂の君」
「待っておりましたのよ」

浅野内匠頭
「大奥ゆえ、遠慮しておりました」

鷹司 信子
「大奥が怖いのかえ?」
 
浅野内匠頭
「此処は、
某が安易に立ち寄る事が許される場所では御座いません」

鷹司 信子 
「では、君に安心して貰わねばならんじょな」

浅野内匠頭
「安心で御座いますか?」

鷹司 信子 
「此処はな、わらわの城なんじょ」
「わらわの城では、わらわが一等なんじょ」
「此処で、わらわに逆らえる者はおらんのじょ」

浅野内匠頭
「はい」
「御台所様は一等に御座います」

鷹司 信子
「大奥では、わらわは一等でありんす」
「それは、其方が恐れる綱吉を陵駕しておる」
「綱吉は、大奥に引き籠る
芋虫のごときイモなんじょ」
「君は芋虫を恐れておるのか?」 

浅野内匠頭
「某、上様を慕い、尊敬しております」
「上様に忠義して、命を捧げております」
「上様に寵愛されたいと願っております」

鷹司 信子 
「君!」
「この江戸城は大奥と男子部屋に別れておるよな」
「男子部屋の主は大奥に引き籠り
芋虫のことくうごめいておる」
「芋虫は男子部屋では偉そうにしておるでしょうが
此処におれば、わらわに足蹴にされる芋虫なんじょ」
「わらわに逆らう者は、此処にはおりません」
「まだ、心配ですかえ?」

浅野内匠頭
「いいえ」
「某は、上様に忠義を果たしたいので御座います」
「恐れなどど・・」

鷹司 信子 
「綱吉は、引き籠りでありんすよ」
「白書院は老中の部屋となってますけど
本来は其処で政を行うのでしょ」
「綱吉は黒書院で側用人と話をするだけ」
「今は、柳沢が大老に成り上がり」
「政は引き籠りの芋虫によって
犬の柳沢に伝えられ
老中は、あの芋虫の妄想を信じて
下らぬ事に熱心になっておるんじょ」
「忠義しているなどと言っておるんじょ」

浅野内匠頭
「左様で御座いますか・・」
「・・某には、負担が大きすぎます故」
「もう、そのあたりで、お止め頂きたく・・・」

鷹司 信子 
「いいえ」
「其方には、本当の綱吉の事をもっと知って欲しいのですよ」
「此処は、わらわが一等でありんす」
「其方のことは、わらわが守りますから
心配は致さぬことじゃ」
「わらわは一等じょ」
「綱吉は芋虫だと思えばよい」
「芋虫の権力は、わらわの権威の下にあるんじょ」
「天皇、上皇様の権威の下で将軍は跪く」
「安心して、わらわに縋っておくれ」

浅野内匠頭
「心使い、感謝申し上げます」
「しかし、某、此処に居続ける訳にもいかず
大名部屋に戻らねばなりません」
「此処に長居は出来ません」
「もう、お暇せねば・・」

鷹司 信子
「分かっておる」
「わらわは、君に安心させたかった故
長居させてしもォーたね」
「ただ、忘れてはなりませんよ」
「大奥ではわらわが一等なんじょ」
「綱吉はわらわに足蹴にされ抵抗も出来ん
哀れな芋虫じゃ」
「大奥では、
引き籠りの芋虫を恐れる女子は何処にもおらんのよ」
「わらわの権威があれば
君は無敵じゃよ」
「よいな、また大奥に来るのじゃ」
「芋虫を怖がってはならんじょ」
「綱吉は、わらわに足蹴となっておるんじょ」
「心配は無用じゃ」
「よいな」
 
浅野内匠頭
「心配り感謝致します」
「某の真心をもって御台所様に尽くしたいと思います」

鷹司 信子
「ああ」
「御膳の事ですけどね」
「芋虫は、なんでも食べる馬鹿な虫ですから」
「精進料理などは不要なんよ」
「無駄な失費は為さらなくとも、大丈夫ですよ」
 
浅野内匠頭
「では、前例に従い御膳を用意致します」
「御台所様の御墨付で御座いますから
安心で御座います」

鷹司 信子
「おおぉ」
「安心したか!」
「君は、わらわに安心したか!」
 
浅野内匠頭
「はい」
「御台所様は信頼のおける
立派なお方」
「信頼し、
お尽くし致したく思います」

鷹司 信子
「君は、わらわが守るからね」
「芋虫は、わらわが退治する」
「心配は要らんよ」
 
浅野内匠頭
「はい」
「我らは、御台所様に忠義致します」

鷹司 信子 
「よく申された」
「其方の決意を見てみたいものだけど
口先だけなどど申されぬな」
「わらわを悲しませてはならんじょ」

浅野内匠頭
「我らは、御台所様に従いとう御座います」

          赤穂事件 和解するか否か



相馬 叙胤 (陸奥相馬中村藩第6代藩主)
「仙台殿使者から急遽の伝言は
赤穂との和解で御座る」

伊達 村豊 (伊予国伊予吉田藩3代藩主)
「書状を受け取った」
「仙台殿は和解金を用意しているとの事」
「今回の饗応は
赤穂殿と協力して
怠り無きようにとの仰せ」
「・・・・・・・」
「困った・・」

相馬 叙胤
「如何しましたかな?」

伊達 村豊
「赤穂との協力は出来ん!」

相馬 叙胤
「しかし、和解金を用意する程に
進められている交渉事ですぞ」
「拒否は出来んじゃろ」
「そもそも、饗応に怠りがあれば
お主の藩は改易となり
その方は浪人に成り下がるぞ」

伊達 村豊
「んんゥ」
「今まで黙っておりましたが
話さねば為りませんな・・」

相馬 叙胤
「んんゥ」
「何か、訳ありか?」

伊達 村豊
「儂は、まだ経験不足の弱小大名じゃ」
「指南役に逆らうことは出来ん・・」

相馬 叙胤
「吉良殿から何か言われたのか?」

伊達 村豊
「んんゥ」
「吉良殿は我らと赤穂藩を対立させたいと思っている・・」

相馬 叙胤
「馬鹿な!」
「今回の饗応が失敗すれば
指南役の責任となる」
「吉良殿は
伊達と浅野様を協力させて
上手くやろうと考える筈」
「対立を強要するなど
絶対に有り得ない事ぢゃぞ!」

伊達 村豊
「左様」
「じゃがな、
儂は吉良殿から直接に釘を刺されたのぢゃ」
「吉良殿は我らには積極的に指南をするが
赤穂殿には何も教えないと申された」
「我らにも、念を押して
赤穂殿に嫌がらせをするように強要しておるのぢゃ!」
「そして、もしも、我らが赤穂殿に協力すれば
我らも赤穂と同様にして、
不始末を咎めると申された」

相馬 叙胤
「んんゥ」
「不可解ぢゃな?」
「吉良殿は如何してしまつたのか?」
「赤穂殿に恨みでもあるのかな?」

伊達 村豊
「噂では、赤穂の家老が
吉良への指南料を見誤ったのだと・・」

相馬 叙胤
「銀子の問題ならば
何とでもなる筈じゃぞ」
「それから、
左様な事で饗応を台無しにすれば
指南役は解任され
江戸から追放
そして、浪人の身に成り下がる」
「これは、吉良殿個人の御考えでは無い」

伊達 村豊
「噂では、吉良殿と公方様が結託して
赤穂降ろしをしているとか・・」

相馬 叙胤
「解せん!」
「上様が赤穂を改易する為に
左様な事をする必要はないぞ!」
「赤穂殿を処罰する良き方法は
いくらでも有るのぢゃ」
「大切な饗応を台無しにするような事は
絶対に考えたりはしない筈」

伊達 村豊
「だけどな」
「上様は吉良殿には頻繁にお会いになるが
我らには、何も無いのじゃぞ・・」
「あのな、御三家筆頭の尾張様にもな
お会いに為らぬそうじゃ・・」

相馬 叙胤
「それは、御指南へ直接に指示をしておる為じゃぞ」
「その方は、御指南に従えばよいのぢゃ!」

伊達 村豊
「左様」
「だからな、困っておるのぢゃ」
「御指南は、赤穂殿に嫌がらせを強要してくるが
仙台殿は和解して協力せよと申される」
「如何したら良い?」

相馬 叙胤
「和解するのが良いと思うぞ」
「仙台殿から急遽の使者があり
書状を受け取ったのぢゃぞ!」

伊達 村豊
「んんゥ」
「しかし、御指南に逆らえば
我らは、無事には済みませんぞ」

相馬 叙胤
「では」
「御指南に従うのが良いとおもうぞ」

伊達 村豊
「んんゥ」
「そうなれば、和解が為りませんぞ・・」



柳沢吉保 (大老格)
「今回の饗応が終われば、我らは松平姓を名乗ることが許される」
「吉里様はいずれ徳川姓を名乗ることに為ります」

柳沢吉里 (柳沢吉保の長男)
「儂は、もう斯様な奇抜なる恰好は遠慮したい」
「服装が派手すぎる」
「この羽を外してくれ」
「この様な女子のような恰好は嫌じゃ!」

柳沢吉保
「左様か・・」
「吉里様は特別な御身分で御座います」
「将来は、その様な格好がお似合いに為りますぞ」
「今から、吉里様が特別な存在である事を
皆々に示す必要が御座います」

柳沢吉里
「左様か・・」
「では」
「公方様は、儂を養子にするのか?」
「皆々が、斯様に申しておるぞ・・」

柳沢吉保
「左様」
「今から、色々と手筈が御座います」
「上様が、吉里様を特別扱いする理由が
皆々に示されて
正式に決定される手筈に御座います」

柳沢吉里
「しかし、
上様に男子嫡子が生まれれば
儂が養子には成れんぞ」

柳沢吉保
「御心配、御座いません」
「何が御座いましても
吉里様は将来将軍と成られる御身分で御座います」

柳沢吉里
「左様か・・」
「しかし、 腑に落ちん」
「儂は、誰の子であろうか?」

柳沢吉保
「側室ではあるが絶世の美女:飯塚染子の御子じゃぞ」
「吉里様は母に似て男前で御座いますぞ」

柳沢吉里
「儂は、公方様に似ていると言われるぞ」

柳沢吉保
「左様」
「将来は、将軍と成られる御身分
姿や形も似ているので御座る」

柳沢吉里
「んんんゥ」
「母君は、側室であるにも関わらず
何で正室よりも優遇される
母が、美人だからか?」

柳沢吉保
「吉里様が将軍に似ているからで御座います」
「今回の饗応では、正式に、桂昌院様の推薦で
松平姓を名乗る事が許される手筈」
「将軍、上皇、天皇の承諾を得て
正式に偏諱を与えられので御座います」
「そして、吉里様には
次の将軍に成るためのお披露目が御座います」

柳沢吉里
「儂は、将軍に成るのか?」

柳沢吉保
「はい」
「目出度き事で御座います」

柳沢吉里
「なぁ」
「儂は、誰の子ぢゃ?」

柳沢吉保
「はい」
「美女:飯塚染子の御子で御座います」

柳沢吉里
「儂は、母君の事を
良く知らんのじゃ」
「母君は儂を遠ざけておるのか?」

柳沢吉保
「いいえ」
「これも又、吉里様の為で御座います」
「母に甘えていては、立派な将軍には成れません」
「将来は名前も、徳川家吉と成りましょう」

柳沢吉里
「儂は、松平姓から徳川姓を名乗るのか?」

            赤穂事件 和睦推進派の結束



津軽信政 (陸奥国弘前藩4代藩主)
「水戸の使者から聞き受けた事、
赤穂と仙台が和睦する事に了承との事、
其方も同意か?」

伊達村豊 (伊予国伊予吉田藩3代藩主)
「和睦は必要で御座る」
「ただ、反対する者も御座います」
「ここは、一先ず和睦致しましてから
饗応役を無事に果たす事が肝要と」

津軽信政
「お役目を終えた後で
確りと協議すると申されるか」

伊達村豊
「左様に御座います」
「ところで、越中様は
これに同意為さいますか?」

津軽信政
「近年、弘前は大飢饉で3万人以上の死者を出す
大惨事があり、幕府に多額の援助を求めた」
「我らの、権威は失墜して幕府からの信頼も失った」

信政は、自らが藩政を取り仕切るようになると、津軽新田の開発、治水工事、山林制度の整備、植林、検地、家臣団の郊外移住による城下町の拡大、野本道玄を招聘しての養蚕、織物、製糸業、紙漉の発展・育成などに努めた。民政においても善政を敷き、弘前藩の藩政確立と発展に尽力し、藩の全盛期を築き上げた。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

伊達村豊
「弘前藩の全盛期では
越中様の評価は大変に高う御座いました」
「これは、東北から西国にかけての外様藩に共通する事
廻航路の発達による副産業の賜物」
「ただ、その頃の活況は昔の事
今では、交易が上方と江戸に集中して
外様藩は瀕死の状態」

津軽信政
「伊予国は飢餓が無いだけでも良いではないか」
「我らは、百姓を飢えさせてもなを
知行米をむしり取り、
江戸に献上している」
「そして、更なる借款を積み上げておる」

伊達村豊
「不満を持っている事を、誰かに聞かれれば危険で御座いますぞ」

津軽信政
「本来、我らは、自前の交易で
十分に潤っておった」
「弘前藩には、重要な港が多数あり
東北の交易だけでも十分の利益があった」
「しかし、全ての商船は上方と江戸に向かってしまった」
「我らに残されたのは
幕府からの借款だけじゃ」
「弘前藩の復興に必要なのは
水戸様の思い描いていた周回航路構想を実現する事じゃ」

伊達村豊
「深刻な問題で御座る」

津軽信政
「其方も、今回の饗応役を無事に終えたいであろう」
「赤穂殿の力添えが必用じゃぞ」

伊達村豊
「ただ、指南役の吉良殿が妨害為されまして・・」

津軽信政
「指南役は吉良殿だけでは無い筈」

伊達村豊
「いいえ」
「他の高家指南役は、上様に疎まれております」
「上様の意向が分からぬ者は
名ばかりの指南役」
「実際の指南は出来ません」
「実権は全て吉良殿にあります」
「上様は、吉良殿と大老の柳沢殿以外とは、お話を致しません」

津軽信政
「んんゥ」
「いや」
「近々、大老の嫡子の吉里様が上様に呼ばれておるとか・・」

伊達村豊
「所詮、大老の御眼鏡に御座る」

津軽信政
「それがな」
「御眼鏡は、大老ではなくて
上様の御眼鏡だとの噂じゃぞ」

伊達村豊
「やはり、御落胤で御座るか?」

津軽信政
「今回の饗応では
松平姓を賜るとの事」

伊達村豊
「いずれは、御落胤として表舞台に登場するのか」

津軽信政
「何方にしても、外様藩は見捨てられ
領地は寂びれ、百姓は飢える」
「我らは、困窮して
幕府からの借款が増える」
「借款を返すことも出来ずに
我らは、改易となる・・」

伊達村豊
「そもそも、上方と江戸の交易だけでは
幕府の繁栄は無い」
「外様藩の百姓が
幕府の台所を担っておるのになァ」
「百姓が飢えておるのに
ワンワンは肥える」

津軽信政
「左様」
「ワンワンは大きな犬小屋で
何不自由なく、暮らして居るが
米を作っておる百姓は
過酷な年貢の取り立てで飢えておる」
「ワンワンの餌を百姓に恵んでやりたい」

伊達村豊
「某、犬にでも成りましょうかな・・」
「先代(家綱)様」
「先様の時代は良かった」