アプリコット プリンセス

チューリップ城には
とてもチャーミングなアプリコット姫がおりました

赤穂事件 寄り道

2022-12-25 10:34:25 | 漫画
 
       赤穂事件 ひねたガキ



原惣右衛門 (元辰)
「ちから殿は元禄元年生まれ
十二歳に御成りか」
 
大石主税  (良金)
「元服はまだぢゃが
良金は数え年で14歳じゃぞ!」

原惣右衛門 
「無理を申さぬとも良い」
「十二歳で良いではないか」

大石主税 
「良金は武士じゃ!馬鹿にするな!」
「話は聞いておったぞ!」
「将軍綱吉が仇と申したな!」

原惣右衛門 
「いいや、仇は吉良上野介じゃ」
「其方の聞き違いじゃぞ」

大石主税 
「聞き違うものか!」
「確かにそう申した!」

原惣右衛門
「いやいや、これは参った」
「主税殿の申す通りじゃ」
 
大石主税 
「変ではないか
将軍綱吉が仇であれば
赤穂城を無血開城して逃げるのは間違いじゃ」
「仇と一戦を交えて
断固として主様の無念を晴らす事が忠義じゃぞ!」

原惣右衛門 
「いやいや」
「主税殿は怖い者知らずじゃ」
「この事は
内蔵助大夫との
同意の上で進められておる事」
「無茶を申しては困りますぞ」
 
大石主税 
「父上は腑抜けになってしまわれた」
「情けない」
「これからは、
この力が父上に代わり
大石の家を引き継ぐぞ」
「将軍綱吉と戦うのじゃ!」

原惣右衛門 
「いやいや」
「威勢はよいが
策略は御座るか?」
「勝ち目は御座るか?」

大石主税 
「城に立てこもり
幕府軍と徹底抗戦する」

原惣右衛門 
「無鉄砲に戦えば
悲惨な敗北が見えておる」

大石主税 
「これから、武器、兵糧を蓄えて
戦に備えるのじゃ!」

原惣右衛門 
「まァ
城の前で藩士が揃って切腹するよりはましじゃ」

大石主税
「そうじゃろーが」
「戦い勝てば仇討ちとなり
負ければ潔く
切腹して果てるのみ」
「武士の心意気を見せつけるのじゃ!」

原惣右衛門 
「勝つ見込みはないぞ」

大石主税
「確信など不要じゃぞ」
「戦い敗れるとは限らん」
「主の無念を晴らすには
将軍綱吉を誅殺する必要が御座る!」
 
原惣右衛門
「左様」
「しかしな、まだ早い」
「未だ藩士の意見は割れておる
ましてや、
幕府を仇にして戦おうなどと思っておる者は
皆無じゃぞ」
「其方と儂で幕府に立ち向かう事は出来ん」
「今は、幕府に服従して
赤穂の改易を許して貰う事じゃ」
「赤穂が許されれば
仇討ちもあるまいに」
「そうであろう」
「今は、藩士の意見が割れておる」
「儂は、切腹して抗議する事はしない」
「主殿の願は
赤穂を救う事であったのだ」
 
大石主税 
「いいえ」
「主は切腹して抗議なされた」
「仇の綱吉を誅殺することこそが
主の無念を晴らす事になるのじゃ」
「戦う事が忠義じゃ」

原惣右衛門 
「よしよし」
「もうよい」
「それは、藩士の心意気次第じゃ」
「残念と申すべきか
幕府に逆らい戦おうなどと申す者は
其方と儂くらいじゃぞ」
「二人で何が出来る」
「無駄死にじゃ」

大石主税 
「二人か!」
「おおおォーー」
「其方は、戦う気があるのか!」
「一人でなくて良かったぞ!」

原惣右衛門 
「おいおい」
「威勢ばかりじゃなァ」
「其方、腹は空かんか
何日食べずに戦える
其方、大の大人と対等に戦えるか
戦えたとして何人倒せる」
「幕府の軍勢は強力じゃぞ」
「二人で戦うのは無理じゃ」

大石主税 
「戦ってみなければ分からんぞ」
「腹は空くが
備えをすればよい」
「二人で籠城じゃ!」

原惣右衛門
「戦は遊びではない」
「城は、幕府の許可がなければ
持つことは出来ん」
「今は、幕府に取り上げられておるのじゃぞ」 
「二人で逆賊の汚名を受けて
籠城して戦うのは無謀じゃぞ」

大石主税
「そうじゃ!」
「仲間を募ろう」
「諸藩に書状を送り
幕府に対抗するのじゃ!」
「最初は二人でも良いではないか」
「我らに賛同する者が現れるぞ」
「今の将軍は変人じゃろうが」
「あのような無慈悲で年寄りで我儘な将軍は不要じゃ」
「二人で、犬将軍に天誅を下すのじゃ!」
 
原惣右衛門 
「おおおォーー」
「左様・・」
「んんゥ」
「おもしろいかもしれんな・・」
「よしよし」
「内蔵助太夫に相談してみよう」
「ただし、今は無理じゃぞ」
「今は、幕府に許しを乞う時じゃぞ」
「もしも、最悪の事態となれば
内蔵助太夫も納得なされる筈じゃ」
「赤穂藩士で分裂しておるのに
我ら二人だけで決起はならぬ」

大石主税 
「んんんゥ」
「約束じゃぞ」
「幕府と戦うのじゃぞ」
「犬将軍は仇じゃぞ」

原惣右衛門 
「左様じゃ」
「犬将軍は許してはならぬ仇じゃ!」

大石主税 
「惣右衛門!」
「よう申した!」

原惣右衛門 
「おいおい」
「ひねたガキじゃな」

大石主税 
「馬鹿にするな!」

 
          赤穂事件 老中協議



土屋 政直 (老中首座)
「 脇坂安照(播磨龍野藩主)、
木下公定(備中足守藩主)に対して、
浅野長矩の居城である赤穂城(「赤穂刈屋御城」)を
受け取るように申し渡す事になった」
「取り急ぎ、協議致す」

小笠原 長重 (老中)
「公儀に御座いますか」

秋元 喬知 (老中)
「上様の御墨印は御座いますか?」

阿部正武 (古参の老中) 
「上様(将軍綱吉)が出した黒印状が無ければ
引き渡しは出来ませんぞ」

土屋 政直 
「老中皆々が承知しておる事ではあるが
今回の事件には
上様は関わらぬ事になっておる」
「よって、御墨印は写しで御座る」

小笠原 長重
「写しとは?」

秋元 喬知
「偽造に御座るか?」

土屋 政直
「いや、これは偽造ではない」
「上様に代わり
大老が命じた御墨印で御座る」
 
小笠原 長重
「んんゥ」
「偽物だと知れたら一大事に御座いますぞ!」

秋元 喬知
「左様・・」
「上様の御墨印が必用じゃ」

阿部正武
「儂は、
あまり厳密にする必要はないと思うぞ」

土屋 政直 (老中首座)
「では、正武殿にお願いしたい」

小笠原 長重
「後で問題になっては困るぞ」

阿部正武
「断る」
「左様な事は、新参の務め」
「秋元喬朝殿にお願いしたい」

土屋 政直 
「喬朝殿」
「引き受けて貰えますかな?」

小笠原 長重
「新参とあれば某も・・」

秋元 喬知
「いえいえ」
「某が御指名賜りました」
「脇坂安照を赤穂城在番を命じ
御墨印はその者に渡す事に致します」
「目付が持つ御墨印は
本物である必要は御座いませんので
写しの物であっても
支障は御座いません」

阿部正武
「んんゥ」

土屋 政直 
「では、喬知殿」
「お願い致す」

小笠原 長重
「赤穂浅野藩士は強者揃いと聞きます」
「籠城され抵抗を受ければ
我らもお咎めを受けますぞ」

秋元 喬知
「急いで、
城の明け渡しを求めなければなりません」

土屋 政直 (老中首座)
「気掛かりは御墨印じゃ」
「今回の事件には大奥が関わっておる」
「御台所様の手前
上様はこの事件には関わらぬと申しておる」
「今回の公儀は
上様の命ではない事を、再度確認しておくぞ」
「絶対に発覚せぬように注意致せ」

小笠原 長重
「喬知殿」

秋元 喬知
「承知しました」

土屋 政直 
「浅野家臣や、脇坂安照(播磨龍野藩主)、
木下公定(備中足守藩主)が見破った場合には
いち早く報告致せ」
「よいな!」

秋元 喬知
「見破られた場合
如何致しましょうか?」

土屋 政直 
「見破られぬ様にするのじゃ!」

小笠原 長重
「・・・・」

秋元 喬知
「承知しました」



 
     赤穂事件 堀田家の勃興



 脇坂安照は 御墨印(=将軍綱吉が出した黒印状)を受け取り次第、直ちに、赤穂城に向かう段取りとなっていたが、いつまでたって届かなかった。そこで、赤穂城近くの龍野へ立ち寄り、綿密な準備をすることにした。

脇坂 安照 (大老堀田正俊の兄安政の嫡子)
「同じ脇坂名ではあるが
脇坂の本家は堀田の血筋となった」
「亡父弟の正俊は大老となっが殺され
亡父兄の正信は、悲惨な殉死を遂げた」
「堀田家は名門であるが
儂には幕府の政への御声かけは無かった」
「今回は、嬉しい知らせじゃぞ」
「赤穂城の引き渡しを幕府から命じられたのじゃ」
「祝いの御膳をせねばならぬぞ」

脇坂玄蕃 (脇坂玄蕃安直 1500石脇坂家家老)
「御気お付け下さいませ」
「大目付の庄田安利殿は浅野内匠頭の処遇を咎められ失脚なされた」

脇坂 安照
「馬鹿を申せ!」
「儂は、左様な事は聞いておらんぞ!」

脇坂玄蕃
「始末書が吟味されているとの事」
「いずれ、大目付は失脚すると思われます」

脇坂 安照
「んんゥ」
「大目付は何を咎められたのじゃ!」

脇坂玄蕃
「浅野内匠頭を即日に切腹させた事に御座います」

脇坂 安照
「ううゥウ」
「何故じゃ!」

脇坂玄蕃
「あまり浮かれぬ方が宜しいかと・・」

脇坂 安照
「そうか・・」
「大役故、浮かれ過ぎておったか」
「・・・・・」
「将軍が出した黒印状を貰えぬ」
「何故であろうか?」

脇坂玄蕃
「噂では御座いますが
御墨印は写しであるとの事」

脇坂 安照
「んんんゥウ」
「そうか、
大目付は公儀の命で切腹をさせたが
始末書を書かされておる」
「今回も同様と申すのじゃな」

脇坂玄蕃
「左様で御座います」
「公儀の命は怪しゅう御座います」
「御墨印が届かぬうちは
此処でおとなしく待って
赤穂藩士を偵察する事が肝要と・・・」

脇坂 安照
「そうか」
「功を焦るなと申すのじゃな」

脇坂玄蕃
「左様に御座います」

脇坂 安照
「しかし、よく分からんぞ」
「何故、大目付は咎められたのじゃ?」
「公儀の命には逆らえぬぞ!」

脇坂玄蕃
「きっと、御墨印が貰えぬ事と関連があると・・・」

脇坂 安照
「公儀の命には逆らえぬが
命に忠実であっても油断はならぬと・・」
「んんゥ」
「上様の気紛れであろうか?」

脇坂玄蕃
「それは十分に考えられます」
「浅野殿を切腹させた後で
皆々の不評を受けて
上様は
早まったと思った可能性が御座います」

脇坂 安照
「では、まだ
赤穂の浅野が許される可能性があると申すか?」

脇坂玄蕃
「大目付の処分次第で御座います」
「大目付が咎められれば
浅野殿が有利になりまする。

脇坂 安照
「んんゥウ」
「難しいのォ」
「急いで城の引き渡しを迫りたいが
急ぎ過ぎても為らんのか」
「如何すればよい?」

脇坂玄蕃
「先ず、目付の顔ぶれを見て判断すれば宜しいかと・・」

脇坂 安照
「そうじゃな」
「此処で待てばよいか?」

脇坂玄蕃
「宜しければ
某の屋敷に集まって宴席を設けましょう」
「そこで、酒などを振る舞い
目付の真意を探ってみれば・・・」

脇坂 安照
「そうじゃな」
「浮かれておっては為らぬな」
「今回は大役じゃ
失敗は出来ん」
「目付に従い
幕府の本意に従う事に致そう」

脇坂玄蕃
「では、早速、準備に取り掛かります」

脇坂 安照
「んんゥ」

           赤穂事件 面子



脇坂安照
「老中!」
「御墨印(=将軍徳川綱吉が出した黒印状)を頂きたい」

阿部正武 (老中)
「おぉ」
「如何した」
「早く、赤穂に行ってくれんか」
「まだ、江戸に留まっておったか?」

脇坂安照
「御墨印を貰い受けた後
赤穂に参ろうかと・・」

阿部正武
「御墨印であるが
たしか、老中・秋元喬朝が
木下公定(備中足守藩主)に渡した筈じゃぞ」

脇坂安照
「うえええェェー」
「何故ぢゃ!」
「故父安政公は実家が譜代大名の堀田家
我らは外様から「願譜代」になったのだぞ」
「何で儂では無く
木下公定に渡すのぢゃ!」
「儂は赤穂城在番を命じられたのぢゃぞ!」

阿部正武
「んんゥ」
「いやいや」
「申し訳御座らん
何かの手違いで御座ろう」
「たしか、
貴方からは
龍野城で準備をするとの申し入れであった筈」
「それ故」
「直接、赤穂城に向かう木下公定に
老中秋元喬朝が渡されたので御座ろう」

脇坂安照
「では、此処で待っておってもしかたない」
「しかし、何でだ!」
「何で、一言の断りも無いのだ!」
「儂の面子が立たんぞ!」

阿部正武
「左様に怒りなさるな」
「全ては老中秋元喬朝の手違いで御座る」

脇坂安照
「あのな、教えて欲しいのじゃが
御墨印には何と書かれておった?」

阿部正武
「赤穂城の明け渡しを命じておる」

脇坂安照
「公儀の命じゃな」

阿部正武
「左様」

脇坂安照
「上様の命令ぢゃな」

阿部正武
「左様」

脇坂安照
「んんゥ」
「老中秋元喬朝殿に合わせて欲しい」

阿部正武
「あいにく、あの者は非番となっておる」
「赤穂事件は儂が担当しておりますから
何でも儂に尋ねればよろしい」

脇坂安照
「んんゥ」
「御墨印は無いのじゃな」

阿部正武
「何度も申すが
御墨印は
老中・秋元喬朝が
木下公定(備中足守藩主)に渡した」

脇坂安照
「んんゥ」
「如何したものか・・・」

阿部正武
「もう諦めて
早く龍野城に帰城為さいませ」

脇坂安照
「んんんゥ」
「儂の面子は・・」

阿部正武
「そうそう」
「幕府から軍資金が出ておる」
「宿やら食事に費用がかさむ筈」
「これで勘弁してくれんか」

脇坂安照
「んんゥ」
「承知致した」

阿部正武
「頼みましたぞ」







         赤穂事件 隠された搾取 



元禄7年(1694年)2月、備中松山藩水谷家が改易となった際、主君・浅野長矩が収城使に任じられた。良雄は先発して、改易に不満で徹底抗戦の姿勢を見せていた松山城に単身入り、水谷家家老鶴見内蔵助を説得して無事に城を明渡させた。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

大石内蔵助
「今度は浅野赤穂が改易となってしもうた・・」

原惣右衛門
「犬将軍の都合で、赤穂城を明け渡しじゃ!」
「今度は、我らが改易に抵抗する番になったのか!」

大石内蔵助
「備中松山藩水谷家の改易は予行演習であった」
「今、あの者共の気持ちが痛い程分かる・・」

原惣右衛門
「幕府は何を考えておるのか!」

大石内蔵助
「藩券の買い戻しじゃが
其方の御蔭で助かったぞ」
「よくぞ、金品を送り返してくれた」
「今頃、江戸屋敷は幕府に接収されておる筈じゃ」

原惣右衛門
「では、藩券の回収資金は間に合ったので・・」

大石内蔵助
「んんゥ」
「間に合いそうじゃ
其方の御蔭じゃぞ」
「感謝する」

原惣右衛門
「何で藩券を回収せねばならんのじゃ?」

大石内蔵助
「それは、我らが作った借款じゃからな」
「後の者に残す訳には参らん」

原惣右衛門
「しかしなァ」
「幕府の取り立ては厳しいと聞いておりますぞ」
「幕府から借りた借款返済で
百姓は餓死しておるそうじゃ」

大石内蔵助
「んんゥ」
「我ら浅野家は藩券を発行して
その資金で塩田を広げ
多くの領民が潤い
豊かになった」
「浅野赤穂藩では餓死者など出た事は無い」

原惣右衛門
「無能な幕府は
借款回収で、百姓を殺しておるのに物足りず
今度は、赤穂領民を苦しめようとしておる」
「やはり、仇は犬将軍じゃ!」

大石内蔵助
「んんゥ」
「もしも、其方の機転が無ければ
我らも藩券回収が出来んかったかも知れん」
「助かった」

原惣右衛門
「あれは、幕府に許しを乞う為の資金であったのじゃがな」
「借金返済に使ってしもうかた」
「んんゥ
無念、残念じゃ」

大石内蔵助
「いやいや」
「我らが回収した藩券は
今度は幕府の資金に振り分けられる」

原惣右衛門
「何ですと!」
「藩券の回収資金も幕府に取られるのか!」

大石内蔵助
「いや、そういう事ではない」
「大元締めに資金が回り
その金が最終的に幕府の手に入る構造じゃ」

原惣右衛門
「なにやら、めんどくせェーなァ」
「素直に横取りしてりゃ分かりやすいのに
何だって、そんな面倒な事をするので御座るか?」

大石内蔵助
「通常は、藩券の回収など出来ぬ藩が殆どじゃからな」
「貧しい藩は、領民から資金を徴収して
藩券を買い取る事に為る」
「そうなれば
貧しき者は、更に貧しくなる」
「その資金も又
幕府が回収するのじゃがな」
「貧しき領民から接収した資金を
幕府が横取りすれば
流石に幕府の評判も落ちるじゃろォ」
「領民には分からぬ様に
資金を回収するのじゃ」

原惣右衛門
「その大元締めっていうのは何処で御座る」

大石内蔵助
「淀屋じゃ」

原惣右衛門
「では、幕府は淀屋から搾取するのですかい?」

大石内蔵助
「いやいや」
「淀屋は、大儲けじゃ」
「そして、幕府も分からぬ様に
蔵金を増やせる」
「泣くのは、領民であり
改易された御家じゃ」
「改易された御家は
領民に恨まれて朽ち果てる」
「しかし、我らは、
領民に恨まれず藩券の回収が出来た
其方の機転じゃ」



原惣右衛門
「実は、儂の機転では御座らん」
「江戸勘定頭の久貝正方殿からの助言であった」

 
       赤穂事件 籠城戦



大石主税
「聞いておったぞ」
「主税は幕府軍と戦うぞ!」

原惣右衛門
「頼りにしていた賂も失った」
「幕府は本気で赤穂を奪うつもりじゃ」
「籠城戦も已む無し!」

大石主税
「父君も重い腰を上げたようだな」
「城には兵糧、武器が山ほどあるぞ!」
「大暴れしてやる」

原惣右衛門
「櫓を確認せねば為らん」
「武器、兵糧はどれだけあるのじゃ」

大石主税
「大櫓に鉄砲276挺」
「米は二の丸の蔵に
少なくとも三千俵(1俵60キログラム)じゃぞ」

原惣右衛門
「それは凄い」
「本気で戦えば
幕府軍もたじろぐぞ!」

大石主税
「お主も本気になったか!」
「主税は戦うぞ!」

原惣右衛門
「火薬と、弾丸は?」

大石主税
「隠しておる」
「籠城が決定すれば直に用意できる」

原惣右衛門
「んんゥ」
「龍野城勢は四千
足守勢が一千の雑兵が迫っておる」
「其方、如何戦う!」

大石主税
「赤穂城は強固で御座る
我らは鉄砲が櫓から打ち放題」
「此処へ近づく事は出来ません」

原惣右衛門
「んんゥ」
「龍野城勢は鉄砲が百挺もあるまい」
「足守勢に至っては鉄砲は殆ど持ってはおるまい」

大石主税
「我らが赤穂城に籠城して戦えば
幕府軍にでも勝てる」
「赤穂は武闘派じゃ!」

原惣右衛門
「後は、幕府軍が城の明け渡しを諦める事じゃが」
「如何するすもりじゃ!」

大石主税
「我ら赤穂の味方がいないのは
我らが幕府軍に勝てないと思われているからだ」
「我らが幕府軍に勝てば
必ず見方が現れるぞ」

原惣右衛門
「んんゥ」
「これだけの武器、兵糧があれば
龍野城勢や足守勢に負けることはあるまい」
「幕府軍に一泡吹かせる事が出来る」
「幕府軍を退けることが出来れば
我らに味方する者共が決起するかも知れぬ」
「悪い考えでは無いな」

大石主税
「分かったか、お主、父君を説得しろ」

原惣右衛門
「しかしな」
「まだ確認せねば為らぬ事があるぞ」
「将軍綱吉が本気で赤穂と戦う気があるのか?」
「もし、我らと本気で戦うつもりがあれば
戦いは熾烈を極める事となる」
「もしも、綱吉が怯めば
我らの勝利となる」

大石主税
「あっははは」
「犬将軍など恐るるに足らん」
「尻尾を巻いて逃げ出すぞ」

原惣右衛門
「確かに・・」
「犬将軍は戦を知らぬ」
「我らの本気を見て
怖気づくかも知れんな」
「先ずは、江戸の情勢を探る必要がある」
「今回の事件が
江戸庶民に与えた影響を見定める必要があるぞ」

大石主税
「決まっておる事じゃ」
「吉良は嫌われておる
我らの主殿は慕われておった」
「江戸庶民は
御犬大事の犬畜生など嫌っておるに違いない」
「我らが初戦で勝てば
江戸庶民は我らの味方となる事、請け合いじゃ」

原惣右衛門
「いやいやいや」
「これはこれは」
「畏れ入った」
「年若き者と侮っておったが
其方は、本物の武士じゃ」
「流石、内蔵助太傅の嫡子じゃぞ!」

大石主税
「やっと分かったか」
「主税は赤穂より天下を伺う」
「犬将軍に天誅を下し
赤穂を天下の都とするぞ!」

原惣右衛門
「おおおぉー 貴方
戦乱の世に相応しき猛者じゃ」
「御犬大事の犬将軍など恐るるに足りぬ」
「犬将軍は主の仇じゃ!」

大石主税
「んんゥ」
「幕府軍を蹴散らかせ!」

原惣右衛門
「左様じゃ」
「太傅殿には籠城戦を検討して頂こう」

大石主税
「必ず勝ぞ!」

原惣右衛門
「必ず勝てます!」

大石主税
「生き生きしてきたではないか」
「儂の御蔭じゃぞ
感謝致せ!」

原惣右衛門
「ははッ」

大石主税
「いゃー気持ちいい!」

原惣右衛門
「ひねておる・・」

 
        赤穂事件 光圀の息子



 将軍綱吉は、嗣子殿の暗殺を疑う生母 玉(桂昌院)から愛想を付かれ、大奥に引き籠っていたので、大老格の柳沢は、この時、将軍の後ろ盾を失っていた。

松平 頼常 (水戸藩主・徳川光圀の長男として生まれた 大老の玄関番)
「大老格下部の大目付庄田安利は解任される運びじゃ」
「我ら大老の玄関番も安泰とは為らぬ」
「覚悟すべし」

細川綱利 (肥後国熊本藩3代藩主 大老の玄関番)
「大老は上様の後ろ盾が御座らぬ故
老中には敵わぬと仰せじゃ」

池田綱政 (岡山藩池田家宗家4代 大老の玄関番)
「では、我らは如何すれば宜しいので?」

松平 頼常
「今まで通りでは為らぬぞ!」
「公儀の命は偽りじゃ!」
「闇雲に従えば、我らも失脚する」

細川綱利
「お任せ致したい」
「某、大姫を犬姫に改名させた手前
讃岐(松平頼常)殿には頭が上がらぬ・・」

池田綱政
「赤穂浅野は籠城の構えで御座る」
「隣の藩故
親しき藩士も多数おるし
なにしろ、赤穂城勢は強力ですぞ!」

松平 頼常
「今、赤穂勢に味方する者はおらぬが
これは、幕府軍が赤穂軍に負ける訳が無いと
思っているからじゃ」
「じゃがな、
赤穂が本気で立ち向かってくれば
状況が変わるぞ」
「赤穂に味方したい者共は大勢いる」
「赤穂が優勢になれば
形勢は逆転する」
「そうなれば、上様は怯むじゃろう」
「大奥に引き籠り
我らに責任転嫁する筈じゃぞ」
「公儀の令は偽りじゃ」
「赤穂が徹底抗戦して勝つような事があれば
公儀の令は無いことに為る」
「公儀の令に従った者が罪に問われる事になるのじゃぞ!」

細川綱利
「では」
「赤穂が勝てば赤穂を擁護すれば宜しいのか?」

池田綱政
「公儀の令に背く事には為らぬか?」

松平 頼常
「形勢次第じゃ」
「赤穂が弱腰であれば
そのまま、おとなしく改易となる」
「たたし、籠城して立ち向かってくれば
状況は逆転する可能性が高い」
「なにせ、将軍の黒印状は写しじゃぞ」
「御触れは、何時でも撤回できる」
「そして、偽りの黒印状を掲げた者共は
一斉に裁かれ始末される事になる」

細川綱利
「んんゥ」
「今まで通りに、
柳沢殿に頼っておる訳にも参らぬか・・」

池田綱政
「今は、老中衆に頭が上がらぬ・・」

松平 頼常
「強き者に従う事が
身を守る事に繋がる」
「今は、大老格も指南も力を失っておる」
「強き者が勝者となる」
「赤穂が本気で立ち向かってくれば
赤穂に味方する藩は、多いと思うぞ」
「江戸市中の評判も然りじゃ」

細川綱利
「御犬大事故
幕府の評判は芳しくない」

池田綱政
「上様は、如何為さってしまわれたのか?」

松平 頼常
「上様は、優柔不断で御座る」
「今は、赤穂を改易と申しておられても
明日には、違うかも知れぬ」
「何方に転んでも良いように
我らは、勝利者に付く事が肝要じゃ」

細川綱利
「んんゥ」
「では、準備せねば為りませんぞ」

池田綱政
「左様」

松平 頼常
「では、赤穂を取り囲み
臨戦態勢をとろう」
「池田殿は西側をお守り下され」
「某は、瀬戸内海に軍船を待機致しましょう」

細川綱利
「では、儂は江戸で情勢を見ておる」
「江戸に伝わる情勢を
素早く、お知らせ申す」

池田綱政
「大戦の前触れを感じる・・」

松平 頼常
「全ては、赤穂の志次第じゃ」
「多くの者共は
幕府の実態を知らぬ」
「今、幕府は機能不全に陥っておる」
「本気で戦など、
とても出来たものでは無い」
「武闘派赤穂の本気度が試されておる」

細川綱利
「左様」

池田綱政
「同意じゃ」

 
        赤穂事件 原惣右衛門の説得



原惣右衛門
「籠城して徹底抗戦すれば
必ず勝てる!」
「もう、幕府の許しなど期待出来ませんぞ」

大石 内蔵助
「少し待て」
「今、江戸に使者を出しておる」
「浅野家再興と吉良義央処分の嘆願じゃ」

原惣右衛門
「嘆願だけで御座るか!」

大石 内蔵助
「んんゥ」
「他に何が出来る・・」

原惣右衛門
「幕府に願い出るは間違いじゃ!」
「儂は、幕府を脅す方が良いと思うぞ!」
「犬将軍は戦を知らん」

大石 内蔵助
「儂も、そう思う」
「しかしなァ」
「開城すべきとする恭順派が
抵抗しておるぞ」
「その者共を如何するつもりじゃ」

原惣右衛門
「追い出せばよい!」

大石 内蔵助
「んんゥ」
「追い出すと申せば
抵抗するぞ」
「互いに命懸けじゃからな」
「簡単には追い出せんぞ」

原惣右衛門
「では、切り捨てようぞ!」

大石 内蔵助
「馬鹿を申せ!」
「無茶を申せ!」

原惣右衛門
「んんゥ」
「犬将軍などに負けたくはないぞ」

大石 内蔵助
「お主、赤穂の鉄砲に期待しておるのか?」

原惣右衛門
「左様じゃ」

大石 内蔵助
「それは、正しいが
短期戦での事」
「戦闘が熾烈になるに従い
大筒(大砲)の砲撃があるぞ」
「如何耐える?」

原惣右衛門
「我らは、城の高台で御座る」
「上からの砲撃は有利で御座る」

大石 内蔵助
「左様じゃ」
「早く、城に大筒を備えねばならぬ」

原惣右衛門
「急いで下され」

大石 内蔵助
「その前に、恭順派を追い出す必要がある」

原惣右衛門
「・・・・・」

大石 内蔵助
「んんゥ」
「よし、では、この様にしよう・・」

原惣右衛門
「如何様に?」

大石 内蔵助
「我ら藩士が城の前に集まり
幕府に許しを乞う為に
全員で切腹すると申しつけよ!」

原惣右衛門
「何ですと!」
「それは、酷い!」

大石 内蔵助
「お主なら如何する?」

原惣右衛門
「無念じゃが
城を無条件で明け渡すよりはましじゃ」

大石 内蔵助
「よし、皆々に知らせ
同意する者を募れ」
「同意出来ぬ者は立ち去るように申し付けろ」

原惣右衛門
「まッ」
「左様な気概の無い者は要らぬ」
「良い方法かも知れんな」

大石 内蔵助
「大野知房が立ち去らぬ場合は如何する・・」

原惣右衛門
「切り捨てても宜しいか?」

大石 内蔵助
「致し方ない」

原惣右衛門
「では、その様に」

大石 内蔵助
「んんゥ」



  
        赤穂事件 赤穂の貢献


 
 桂昌院が将軍綱吉に愛想を尽かした事で、後ろ盾を失った大老柳沢の権限は失墜していた。
更に、生類憐みの令により、貧しい藩の百姓には餓死者が出る程の悲惨な状況であった。

 赤穂浅野家は上方と江戸の交易により豊かになり余裕が生まれていた。そして、仙台藩との和解要請に応え、塩の製法を惜しみなく伝授していた。これは、互いにとって有益でもあった。
赤穂藩にとっては、危険な海路で塩を運ぶ手間を省く事であり、陸奥国も地域振興による財源となる筈であった。

津軽 信政 (陸奥国弘前藩4代藩主)
「赤穂殿が不憫じゃ」
「我らの領民は餓死しておるのに
良き大名を潰し、御犬大事で犬小屋を増やし補助金を付けている
無慈悲な事じゃ」

相馬 叙胤 (陸奥相馬中村藩第6代藩主)
「赤穂は如何すると思われる・・?」

津軽 信政
「このまま、改易じゃな・・」

相馬 叙胤
「桂昌院様が上様に愛想を尽かしたとの事で
原因が分かりましたぞ」

津軽 信政
「おおォ」
「教えてくれ」

相馬 叙胤
「紀伊(徳川 綱教)殿の暗殺を
上様が指示為されたとの疑念で御座る」

津軽 信政
「解せぬな・・」

相馬 叙胤
「上様は、御落胤を隠しております故
嗣子殿が邪魔になったと思われます」

津軽 信政
「それにしても、短絡的じゃな」
「上様はどうか為されておるようじゃ」
「そもそも、斯様な事が噂される事自体
許されぬ筈じゃがな」

相馬 叙胤
「いいえ、噂では御座らん」
「上様は塞ぎ込んで
大奥から出て来られぬとの事」
「大老が政を仕切っております」

津軽 信政
「んんゥ」
「斯様に重要なる秘め事が漏れておるのか?」
「幕府も、滅びるかもしれんぞ!」

相馬 叙胤
「今の政権が代わる事を望む者は多く御座います」

津軽 信政
「仮に、赤穂浅野が籠城して徹底抗戦すれば
如何なると思う」

相馬 叙胤
「これだけの不満が渦巻いております
赤穂の勇気に絆される者が決起すると思いますぞ」

津軽 信政
「紀伊家は我らとも親戚関係じゃ」
「暗殺とあれば
我らが決起しても謀反とは呼ばれぬ」
「赤穂の決断が待たれる」

相馬 叙胤
「出雲、水戸、紀伊、陸奥が
一斉に決起する事になりますぞ」

津軽 信政
「いやいや」
「そんなものでは済まぬ」
「今の政権は無能じゃぞ」
「紀伊殿の暗殺指令が明るみに出れば
御三家も立ち上がる」

相馬 叙胤
「赤穂浅野家の動向次第に御座る」

津軽 信政
「んんゥ」
「大石太傅の決断を待つ事じゃ」

相馬 叙胤
「んんゥ」
「赤穂が決起すれば
幕府も終わりとなりましょうな」

津軽 信政
「今の幕府に戦は出来ん」
「力を失えば、誰も付いては来ぬ」
「そうなれば、事態は大きく変わるぞ
赤穂が逆に江戸城の明け渡しを求めるかも知れぬぞ」

相馬 叙胤
「江戸城の明け渡しで御座るか!」
「それは、痛快で御座る!」

津軽 信政
「今の幕府は、馬鹿げた政権じゃ」

相馬 叙胤
「真に馬鹿げております」

 
          赤穂事件 酒井忠清の嫡子



松平 頼常 (光圀の子)
「療養中との事」
「御気分は如何かな」

酒井忠挙 (忠清の子)
「左様な事を申されるな」
「儂は、もう駄目じゃ」

松平 頼常
「駄目で御座るか?」

酒井忠挙
「大留守居については、家格の高い酒井氏に与えた閑職じゃった」
「辞職したのは我らに危機が迫っておったからで
病気は理由ではない」

松平 頼常
「んんゥ」
「では、率直に申す」
「このままでは、酒井家は改易となるぞ!」

酒井忠挙
「んんゥ」
「やはり、改易が為されるか・・」

松平 頼常
「其方、気付いておられたか」
「儂は、大老格の玄関番をしながら情報を集めておった」
「吉良上野介は上野国を手に入れ
大老に成り上がろうとしておったのじゃぞ」
「もしも、浅野殿が果し合いを演じなければ
酒井家は改易とされる公算であった」

酒井忠挙
「まだ助かる見込みは御座るか?」

松平 頼常
「状況次第じゃ」
「吉良上野介に与えられる筈の褒美が
上野国であるから
吉良が失脚すれば、其方は助かる」

酒井忠挙
「左様か・・」

松平 頼常
「儂は、赤穂浅野が籠城して
徹底抗戦すると見込んでいる」
「少なくとも、
儂が赤穂ならば、そうする」
「其方は無謀だと思うだろうな」

酒井忠挙
「んんゥ」
「赤穂に味方為さる御積りか?」

松平 頼常
「直ぐに味方などせんぞ」
「状況を見ておるのだ」
「赤穂は武闘派じゃぞ」
「幕府軍は舐めて掛かっておるから
初戦で勝つ見込みは無い」
「赤穂の抵抗は
諸藩に伝播して、
幕府の脅威に晒されている諸藩を決起させる」

酒井忠挙
「赤穂が勝つと申されるか?」

松平 頼常
「将軍綱吉は大奥に引き籠り怯えておる」
「戦など出来ん」

酒井忠挙
「故父は光圀殿に見捨てられ
無残な最期を遂げ、
儂も辞職となった」
「今度は、其方が儂を見捨てる番じゃ」

松平 頼常
「いや、済まぬ事をした」
「故父に代わり、謝罪致す」
「ただ、故父は忠清様を見捨てた訳では御座らん」
「儂は、故父(光圀)より戒めの書状を引き継いだ」

酒井忠挙
「それじゃぞ」
「その戒めの書状じゃ!」
「それを掲げて、立ち上がれば
将軍綱吉は失脚した筈ではないのか!」

松平 頼常
「いや」
「戒めの書状を掲げても無理であった」
「戒めの書状は、御犬遊びを禁じる事を
先様(徳川家綱)が認め
書状として故父に手渡された」
「先様は御犬遊びを禁じたのじゃ」

酒井忠挙
「左様か・・」

松平 頼常
「じゃがな」
「将軍綱吉は戒めを破ったのじゃ
綱吉は饗応の余興で
浅野内匠頭を犬にして
辱める事を計画しておった」

酒井忠挙
「では、いよいよ
その戒めの書状を掲げるので御座るか!」

松平 頼常
「いや」
「まだ無理じゃ」
「これを掲げるには
多くの諸侯の力添えが必用なのだ」
「儂が一人で粋がっても
ただの虚勢にすきぬ」
「赤穂の抵抗があれば
多くの諸侯が決起するであろう」
「多くの者共の支持が集まれば
この書状は大きな力となる」
「全ては、赤穂藩士の志次第じゃ」

酒井忠挙
「んんゥ」
「同意で御座る」

 
          赤穂事件 大筒の隠し場所



大石内蔵助
「籠城の準備が出来たが
脇坂家家臣(梅原吉右衛門)が
この赤穂城に見分に来るぞ
これから代わる代わる脇坂家家臣が密かに
見分に来るだろう」

原惣右衛門
「これでは、大筒を持ち込むのは困難じゃ」
「見分を拒否せねば為りませんぞ!」

大石内蔵助
「今は無理じゃ」
「江戸に大学様が人質になっておる」

原惣右衛門
「大学様に帰城を求めましょう!」

大石内蔵助
「んんゥ」
「早く帰る事を望んでおるが
無理ならば、何処かへ身を隠す事も必要じゃ」
「今、伝令を向けている」

原惣右衛門
「大学様が拒否すれば
如何致しますか」

大石内蔵助
「大儀を失い、降参するしかなくなる」

原惣右衛門
「降参などするものか!
某が江戸に御迎えに参りますぞ!」

大石内蔵助
「いや、駄目じゃぞ」
「伝令は既に送っておる」
「入れ違いになれば混乱を来す」

原惣右衛門
「大筒は如何するのじゃ!」

大石内蔵助
「心配は無い」
「萩原兵助の屋敷に隠しておる」
「赤穂城には見分が入っておるから
その者の屋敷に隠しておく方が安全じゃぞ」

原惣右衛門
「萩原兵助を信用しても宜しいのか?」

大石内蔵助
「大筒は兵助が所有しておるのじゃぞ」
「我らは、兵助から借り受けて
使用する事になる」

原惣右衛門
「やはり、籠城を早める必要が御座る」
「城に大筒を持ち込み
見分人の立ち入りを禁じる必要が御座る」

大石内蔵助
「んんゥ」
「直に大学様の返事が参ろう」
「返事を待って行動を起こす」

原惣右衛門
「大学様は戦を拒む筈」
「返事を待っていては手遅れに為りますぞ!」

大石内蔵助
「手遅れになれば降参する」

原惣右衛門
「降参は嫌じゃ!」
「戦えば勝てるのじゃぞ!」

大石内蔵助
「この戦には我らの勝利は無い」
「有るのは、妥協じゃぞ」
「幕府軍を退かせ
我らが力を見せつけてから
嘆願するのじゃ」
「その時に人質の大学様が逃げておっては為らぬ」
「大学様が次の赤穂藩主と為らねば
我らの勝利では無いのじゃぞ」
「幕府軍に勝ってはならぬのじゃ!」

原惣右衛門
「完全勝利は無いと申されるか・・」

大石内蔵助
「我らの仇は吉良上野介じゃ
幕府を仇などと申すでは無い
それは、畏れ多き事じゃ」

原惣右衛門
「犬将軍は戦など出来ん」
「我らが本気で戦えば
必ず勝てる!」
「妥協などしたくありませんぞ!」

大石内蔵助
「最善を尽くすのじゃ」
「大学様を立てて、御家の復興を果たせば
それが一番良いのじゃぞ」

原惣右衛門
「仕方が御座らん・・」

 
          赤穂事件 弱気の虫



大石主税
「聞いておったぞ」
「また、父君に弱気の虫が湧いたようだな」
「怖気付いておるぞ!」

原惣右衛門
「左様な事を申されるな」
「大学様が人質じゃぞ
致し方ないではないか」

大石主税
「大学様を立てて、お家の復興を願うのか」
「しかし、それは叶わぬぞ」
「大学様は赤穂には居らず
江戸の住人となっていた」
「赤穂よりも江戸の暮らしを選ぶぞ」
「わざわざ危険を冒して
戦おうとは為さらぬ」
「期待して待つだけ無駄じゃ」
「早く、籠城して戦う準備をするのじゃ!」

原惣右衛門
「城主を欠いて、勝機は御座るか」

大石主税
「あるある、大いにあるぞ」
「策もある」

原惣右衛門
「んんゥ」
「策など有るものか・・」

大石主税
「主税は秘密裡に犬を集めておった」
「色々個性的な犬じゃぞ」

原惣右衛門
「もう、犬の話は聞きたくない」

大石主税
「おい」「待て」「主税の話を聞け」
「あのな、その犬を町に放す事にしたのだ」

原惣右衛門
「おいおい」
「そんな事をしておってはお叱りがあるぞ」
「止めておけ」

大石主税
「お叱り?」
「誰が誰に叱られる」

原惣右衛門
「我らが幕府に咎めを受けるに
決まっておるじゃろーが」

大石主税
「町に放つのじゃ」
「誰が放したか分からんぞ」

原惣右衛門
「馬鹿な事を考えるな」

大石主税
「犬が好き勝手に町を我が物顔でのさばっておれば
幕府軍の足止めになる」

原惣右衛門
「ああ、そうじゃのォ・」
「時間稼ぎにはなるかのォ・」

大石主税
「それから、
今まで禁止していた堀での魚釣りを
見て見ぬふりをする」
「効果がなければ
率先して魚釣りを勧める」

原惣右衛門
「何がしたいのじゃ!」

大石主税
「生類憐みの令が及ぼしている弊害を
領民に感じ取ってもらう事を目的にしている」

原惣右衛門
「まッ 好きなようにしてみるがよい 」
「気晴らしにはなるじゃろーよ」

大石主税
「そうじゃ」
「今まで、窮屈な生活を強いられていた領民に
解放感を持ってもらう事で
我ら赤穂の統治を見直す
切っ掛けになれば成功だ」

原惣右衛門
「赤穂の統治か・・」
「このままでは、全てが終わる・・」
「籠城して戦えば
幕府軍に負けはせん」
「なァ」

大石主税
「二人になっても
諦める事はないぞ」
「仇は犬将軍」
「幕府軍に一泡吹かせる事が出来れば
大きく流れが変わるぞ
幕府の政策で苦しんでいる民は大勢いる
その者達を味方に付けて
幕府軍に対抗すれば
我らにも活路は開かれる」
「弱気の虫は退治せねばなりません」

原惣右衛門
「おおォ 虫だけにしておけよ」
「太傅に逆らっては為らぬぞ」

          赤穂事件 赤穂の実力



脇坂 安照は、赤穂城の絵図と、赤穂町の別の絵図などを見て申し合わせ、作戦を練る。

脇坂 安照 (故大老堀田正俊の兄安政の嫡子)
「兵部や軍大目付は
赤穂と戦になれば
我らには勝ち目は無いと申しておる」
「戦略を考えろ!」

脇坂玄蕃 (脇坂玄蕃安直 1500石脇坂家家老)
「まともに戦えば、
我らに勝は御座いません」
「先ずは、赤穂城の周囲を取り囲み
圧力をかける事です」
「この大軍団に取り囲まれれば
怖気づく筈で御座る」

脇坂 安照 
「赤穂の藩士が籠城して抵抗すれば如何する?」

脇坂玄蕃
「退く以外御座いません」

脇坂 安照 
「我らは大軍じゃぞ」
「逃げろと申すか!」

脇坂玄蕃
「一旦、退く必要が御座います」
「大軍故に兵糧も大量に必要になります」
「長期間居座れば
我らの兵糧は尽きます」

脇坂 安照 
「んんゥ」
「見分からの情報では
赤穂城は籠城の構えをしておるぞ」

脇坂玄蕃
「先ずは、赤穂城に大筒を持ち込ませぬ事で御座る」

脇坂 安照
「んんゥ」
「赤穂には大筒があるのか・・」
 
脇坂玄蕃
「鉄砲は我らの倍を持ち合せ」
「城は強固」

赤穂城は銃砲戦を意識した設計となっており、十字砲火が可能なように稜堡に似た「横矢掛かり」や「横矢枡形」が数多く用いられている。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

脇坂 安照
「赤穂城に大筒が入れば
我らは、尻尾を巻いて逃げるしかないと・・」
 
脇坂玄蕃
「あくまでも、それは
赤穂が籠城して徹底抗戦した場合で御座る」
「まさか、左様に無謀な事を
大石が考えるとは思いません」

脇坂 安照 
「しかしなァ」
「我らが城の明け渡しに失敗してみろ
他の者に手柄を取られるのじゃぞ」
「儂の面子が立たんぞ!」

脇坂玄蕃
「いいえ」
「他の者が現れても同様に御座る」
「赤穂城は簡単に落とす事は不可能で御座る」
「大軍では落とせません」

脇坂 安照 
「大筒が必用か?」

脇坂玄蕃
「はい」
「大筒があれば
赤穂城に打ち込む事が出来ます」
「門を破壊してなだれ込む事も可能です」
「ですから
大筒を見せて脅すのです」

脇坂 安照 
「大石が先に手に入れたら如何なる?」

脇坂玄蕃
「赤穂は勢いづいて手に負えぬ事になりましょう」

脇坂 安照 
「幕府軍が負けると申すか?」

脇坂玄蕃
「左様な事は・・
ただ、手に負えぬと・・・」

脇坂 安照 
「籠城されれば手こずるな・・」

脇坂玄蕃
「はい、
それは確実で御座います」

赤穂城は 10の隅櫓(すみやぐら)、門が12基、曲輪(くるわ)の延長は2847mに及んだ。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

脇坂 安照
「赤穂が隠している大筒を手に入れろ!」
 
脇坂玄蕃
「では、早速
探るように致しましょう」

脇坂 安照
「金に糸目を付けるな」
 
脇坂玄蕃
「御意」

     赤穂事件 寄り道



荒木十左衛門 (幕府城受取目付)
「今回の饗応は
上皇様天皇様をお招きするとの事で御座いましたから
徳川御三家筆頭様も招かれたので御座るが
散々で御座いました」
「お疲れでは御座らぬか」

徳川 吉通 (徳川御三家筆頭)
「結局、上様にお会いする事も叶わず
上皇様天皇様は招待を拒否為された」
「何の為に江戸まで赴いたか分からぬぞ」

荒木十左衛門
「徳川御三家は参勤が免除されておりますから
尾張で御ゆるりと、お過ごし為さいませ」

徳川 吉通
「遠方の大名は大変じゃな」
「ところで、其方は赤穂城の受け取りに参るのか?」

荒木十左衛門
「はい、これから赤穂に赴きます」

徳川 吉通
「何故、寄り道をしておる?」

荒木十左衛門
「はい、吉通様が
安全に尾張にお帰りになるように
見届けたので御座る」

徳川 吉通
「其方、幕府の目付であろうが!」
「某の身の上は、尾張の者共が担っておるぞ」
「変な言い訳をするな!」

荒木十左衛門
「これは、これは
大変、ご無礼を申し上げた」
「お許し下さいませ」

徳川 吉通
「もう、吉通の監視は十分じゃ」
「早く、赤穂に行け!」

荒木十左衛門
「左様に、お怒り為さいますと
幕府からの監視が強くなってしまいます
十分に御気お付け下さいませ」

徳川 吉通
「吉通は監視されておるのか?」

荒木十左衛門
「いえいえ」
「幕府は吉通様を見守っているのです」
「誤解無き様に
お願い申し上げます」

徳川 吉通
「しかし、赤穂城の受け取りを命じられているのに
其方、何でのんびりと道草を食っておるのじゃ」

荒木十左衛門
「急いでは為らぬのです」
「吉通様の安全を見届け
ゆっくりと赤穂に赴く事が必用で御座る」

徳川 吉通
「目付が遅れれば支障があろう
急いで参れ!」

荒木十左衛門
「先ずは、幕府の代官が赤穂に到着する手筈」
「その後、城の明け渡しが成立した後に
目付が城見分する事になります」
「目付は城見分をするのが役目で御座いまして
戦に参る訳では御座いません」

徳川 吉通
「赤穂が戦を挑むのか?」

荒木十左衛門
「はい」
「赤穂は武闘派で御座います」
「必ず、籠城して抵抗する筈で御座います」
「幕府の目付が、
戦に巻き込まれる訳には参りません」

徳川 吉通
「赤穂は幕府と争うのか?」
「無謀ではないのか?」
「戦禍が拡大すれば
我らも参戦する事になるのか?」

荒木十左衛門
「ご安心下さいませ
尾張に戦の要請など御座いませんぞ」

徳川 吉通
「戦など過去の事と思っておった」
「赤穂は、強いのか?」

荒木十左衛門
「籠城して抵抗されれば
我らは何も出来ません」
「出来る事と申せば
兵糧攻めとなります」

徳川 吉通
「長い戦になると申すか?」

荒木十左衛門
「はい」
「長い戦となります」
「今、勇んで乗り込んでおる者共は
疲れ果てて退却する事となります」

徳川 吉通
「其方は、此処で高みの見物か?」

荒木十左衛門
「いいえ」
「状況次第で御座います」
「赤穂が諦めて
無血開城に応じれば
我らは城に入り見分を済ませ
江戸に報告に参る手筈」
「全ては、赤穂次第で御座る」

徳川 吉通
「赤穂が籠城して戦えば
幕府軍は撤収せねば為らず
長期間の兵糧攻めを余儀なくされるのじゃな」

荒木十左衛門
「左様で御座います」

徳川 吉通
「しかし、長期間の籠城戦
兵糧攻めは大軍には不利じゃぞ」
「幕府軍の兵糧が尽きる方が早いぞ」
「如何するつもりじゃ!」

荒木十左衛門
「それは、大軍を率いる
城受取大名の責任で御座る」
「吉通様は何も為さらぬ事で御座る」

徳川 吉通
「藪蛇と申すか!」

荒木十左衛門
「左様に御座います」

徳川 吉通
「しかし、何で赤穂の浅野内匠頭は
乱心したのかなァ?」
「其方、理由を知っておれば
吉通にも教えてくれんか?」

荒木十左衛門
「内匠頭様は吉良上野介様に
恨みを持っていたようで御座います」

徳川 吉通
「しかし、変じゃ
内匠頭様は
前にも後にも、毅然と為されておった」
「乱心とは思えん」

赤穂事件 事件の知らせ

2022-12-11 12:37:18 | 漫画
 

       赤穂事件 庄田安利の焦り



事件即日の夕刻、辺りが薄暗くなってから、切腹の刑が執り行われた。

庄田三左衛門 (大目付)
「浅野は庭に転がっておる
其方は、すきに検死するがよい」

多門伝八郎 (目付)
「あれあれ、これは困った事になりましたぞ」
「大切な事件の当事者を即日に切腹とは
如何なる理由に御座いますか?」

磯田武太夫 (徒目付)
「公儀の命により
拙者が介錯致しました」

庄田三左衛門
「後は、浅野の付き添いの者に引き渡せばよい」
「もう、事は終わった」
「其方は、すきに検死しろ」

多門伝八郎
「実は、御指南役吉良殿を取り調べておりましたが
吉良殿の証言が二転三転しておりましてな」
「公儀の方針も定まらぬのじゃ」

磯田武太夫
「公儀の命では御座らんのか?」

庄田三左衛門
「バァ 馬鹿を申すな!」
「浅野は咎め人として切腹じゃぞ!」

多門伝八郎
「ほォー」
「まだ、罪状が定まっておりませんぞ」
「一国の大名を
左様なふやふやな動機で
公儀の命と称して切腹させたので御座いますか」

磯田武太夫
「儂の罪か?」

庄田三左衛門
「ああァァ」
「煩い!」
「事は終わったのじゃぞ!」
「つべこべ申すな!」

多門伝八郎
「あれあれ、
これは困った事になりましたぞ」
「これより、権左衛門殿が多数の小人を従えて
当事者の浅野殿を証人として迎える運びになっておるがのォ」
「まさか、即日に切腹はあるまい」
「それも、斯様な夕暮れ時」
「それも、斯様な庭先でのォー」
「何故、焦って実行したのじゃ?」

磯田武太夫
「・・・・・・」

庄田三左衛門
「公儀の命じゃ!」

多門伝八郎
「んんゥ」
「恐れ入るが、誰の命令に御座る!」

磯田武太夫
「儂は、大目付殿の命で
介錯致した」
「儂は、断ったのじゃ」
「儂は、断ったぞ!」

庄田三左衛門
「おい!武太夫!」
「介錯は卑しき者の務めじゃ!」
「黙っておれ!」

多門伝八郎
「公儀の命令は誰から受けたので御座いますか?」

磯田武太夫
「大目付様じゃ!」

庄田三左衛門
「あのなァ」
「公儀の命であれば
上様の命令に決まっておるじゃろーが」
「戯けが!」

多門伝八郎
「あれあれ、
これも又、困った事じゃ」
「上様は今回の事件に関与為さらぬ方針と聞いておりますぞ」
「上様の命令でなければ
誰の命令じゃな?」

磯田武太夫
「ええェ・・」

庄田三左衛門
「上様の命令じゃ!」

多門伝八郎
「隠し立て申すな」
「吉良殿の嘘は次々と明らかに為っておりますぞ」
「其方は、大老の命で急いだのであろう」
「なァ 今のうちに本当の事を申しておきなされ」
「大老の命じゃな」

磯田武太夫
「大老の命なのか?」

庄田三左衛門
「煩い!」
「黙れ!」

 
          赤穂事件 大久保 忠鎮



大久保 忠鎮 (目付)
「大目付により夕刻、
浅野殿の切腹の刑が執り為されました」

柳沢 吉保 (大老格)
「んんゥ」
「ご苦労」

大久保 忠鎮
「ただ、某は刑の執行を見届けてはおりません」
「拙者が大勢の子人を引き連れて
屋敷に参ったおりには
刑の執行は為されておりました」

柳沢 吉保
「左様か」
「それで、其方は検死はしたのか」

大久保 忠鎮
「検死は致しました」

柳沢 吉保
「んんゥ」
「ご苦労」
「もうよい」

大久保 忠鎮
「実は、今回の件で
御台所様がお怒りで御座います」

柳沢 吉保
「んんゥ」
「左様か、
では、御台所様のご機嫌を伺って対処する」
「もうよい」
「事は終わった」

大久保 忠鎮
「今回の事件で御座いますが
上様は関わらないと聞いておりますが・・」

柳沢 吉保
「んゥ?」
「・・・・・」
「何故知った?」

大久保 忠鎮
「御台所様が申しております」

柳沢 吉保
「左様か・・」
「今の事、誰にも話してはならんぞ!」
「話せば、貴様の命は無い」

大久保 忠鎮
「しかし、この事は老中も知っております」

柳沢 吉保
「んんゥウ」
「面倒じゃ!」
「面倒じゃぞ!」

大久保 忠鎮
「如何為されましたか?」

柳沢 吉保
「面倒じゃと申しておる!」

大久保 忠鎮
「今回、公儀の命で切腹が執り成されましたが
上様の命令でなければ
大老の命令となります」
「上様の命令を受けず
即日に急ぎ刑を執行した事が
面倒を引き起こしたので御座る」

柳沢 吉保
「無礼者が」
「儂を怒らせる気か」

大久保 忠鎮
「いいえ
そうでは御座いません」
「怒らせて得する事など
何も御座いません」

柳沢 吉保
「では、儂を怒らせるな」
「黙って退散しろ」

大久保 忠鎮
「拙者を始末しても
何も問題は解決致しません」
「恐れながら申し上げます」
「大目付庄田三左衛門に罪を着せては如何かと」

柳沢 吉保
「大目付を辞めさせろと申すか」

大久保 忠鎮
「大老様の身代わりで御座る」

柳沢 吉保
「んんゥ」
「考えておく」
「・・・・・・」
「今から申しておくが
其方、出過ぎた真似をすれば
命が縮むぞ」
「用心しておれ」

大久保 忠鎮
「拙者、もう歳で御座います
残された命も短う御座います」
「あまり、脅かさないで下さいませ」

柳沢 吉保
「これは脅しではない」
「警告じゃ!」
「儂を見縊るなよ」

大久保 忠鎮
「お許し下さい」
「見くびるなど・・」
「この事は、拙者の任務で御座る」
「目付の務めで御座る」
「全ては上様の為」
「全ては、幕府の為」
「全ては、大老及び老中、そして幕僚、為」
「拙者は目付の務めを忠実に果たしております」
「目付の務めで御座る」

柳沢 吉保
「左様か」
「もうよい」
「下がれ!」

大久保 忠鎮
「無礼申し上げ
恐縮至極に御座いました」
「では、失礼致します」

柳沢 吉保
「もう、よい」

大久保 忠鎮
「ははッ」


        赤穂事件 大老の約束



吉良上野介
「約束した事じゃぞ!」
「儂を大老にしろ」
「浅野の資産を奪えば
儂の手柄じゃぞ」

柳沢 吉保
「何と申す!」
「手柄などあるか!」

吉良上野介
「嘘つきじゃのォー」
「約束を破る気か」

柳沢 吉保
「約束などしてはおらん」
「暫く、おとなしくしてくれんか・・」

吉良上野介
「嘘つき」

柳沢 吉保
「貴方の嘘には敵わぬ・・」

吉良上野介
「左様か」
「儂を見捨てるつもりじゃな」

柳沢 吉保
「んんゥ・・・」
「儂は、大目付を解任しようと思っておる」
「其方も、蜥蜴の尻尾切を考えておいて欲しい」

吉良上野介
「何じゃ?」
「褒美は無いのに
処罰だけ受けるのか・・」
「儂は、浅野に殺されかけたのじゃぞ」
「褒美をよこせ」

柳沢 吉保
「無理じゃぞ」
「処罰されても不服はない筈」
「褒美など無理じゃ」

吉良上野介
「儂を見放すつもりじゃな」
「儂を裏切れば
仕返しするぞ!」

柳沢 吉保
「んんゥ・・・」
「如何せよと申す!」

吉良上野介
「上野の国をくれ」

柳沢 吉保
「はァア」
「無茶を申すな!」
「今回の事件は上様が関与出来ぬ故
我らには後ろ盾がないのじゃぞ!」

吉良上野介
「大老権限じゃ」
「其方が独断で決めればよい」

柳沢 吉保
「無理じゃぞ」
「今回の事件で
上様の関与がなく、
我らに上様の後ろ盾がない事を
老中が知ってしまった」
「我らに危機が迫っておるのじゃぞ」
「上様の後ろ盾がなければ
我らは老中に太刀打ち出来ん」
「今までの嘘が露見すれば
我らは罰をま逃れん」

吉良上野介
「其方が、解任されても儂がおるぞ」
「だから、二人で大老となれば安泰じゃ」
「どさくさに紛れて
儂を引き立てろ」
「約束を破るな」

柳沢 吉保
「兎に角、今直ぐは無理じゃ」
「今は、 ほとぼりが冷めるのを待ってくれ」
「いずれ、約束は守る」

吉良上野介
「左様か」
「今度、約束を破れば如何為るか」
「儂を怒らせれば、如何為るか」
「よくよく、考えておくのじゃ」
「儂を潰せば
其方も道連れじゃぞ」
「覚えておけ」

柳沢 吉保
「ああァ・・」
「必ず、約束は守る」
「安心して待っておれ」

吉良上野介
「んんぅ」
「期待しておるぞ」

柳沢 吉保
「・・・・・」
「貴方、御台所様に無礼をしたか?」

吉良上野介
「知らん」

柳沢 吉保
「御台所様がお怒りじゃ」

吉良上野介
「知らんな」

柳沢 吉保
「・・・・・・
其方、御台所様に「中老女故、懐妊はない」と申したのか?」

吉良上野介
「あッ」
「いやいや」
「それは、浅野が口を滑らせたのじゃ」
「いやいや」
「浅野が申した事」
「儂は、知らん」

柳沢 吉保
「御台所様を刺激してはならんぞ」
「御台所様は我らを煙たがっておられる」
「注意して欲しい」

吉良上野介
「偉そうに申すな」
「分かっておる」

柳沢 吉保
「・・・・・・」
「奥高家大友義孝(吉良義央の部下)
書院番士東条冬重(吉良義央の実弟)
其方に近い旗本達を解任させるぞ」
「儂も、大目付を解任させる」
「痛み分けじゃ」

吉良上野介
「勝手に決めるな」
「其方に言われずとも
儂が決める」

    
       赤穂事件 最強の助公卿女


 
 小石君は今回の事件で野蛮な武人に嫌気がさしていた。将軍綱吉は大老の柳沢に頼りきりで、
自ら進んで政は為されず、肝心の大老も又、将軍の後ろ盾がなければ何も出来ないのだ。

 甲府家の上屋敷である桜田御殿は江戸城とは目と鼻の先、そこに、第5代将軍徳川綱吉の正室の鷹司信子の従姉妹にあたる近衛熙子が移り住んでいた。

近衛 熙子 (父は関白・太政大臣の近衛基熙、母は後水尾天皇第十五皇女の(品宮)常子内親王   
 曾祖父に後陽成天皇、叔父に霊元天皇)

「こりゃは、おぼ姐様」
「かような所に御出であそばれ、
嬉しやうれしや」

鷹司 信子
「そなたに、よき知らせじょよ」
「綱豊君を養子にて江戸に招こうと思おてな」

近衛 熙子
「おろおろ」
「殿君を推挙して下さいますのかえ」
「嬉しやうれしや」

鷹司 信子
「これより準備を整える故
数年後を見据えて
殿君と一緒に三の丸に入られような」
「ただ、三の丸には
あの卑しき芋虫の親御がおりますぞょ」

近衛 熙子
「おろおろ
そりはまた、おもしろき事」
「芋虫とは誰じょよ」

鷹司 信子
「芋虫は、毎日、大奥でごろごろと引き籠っておる卑しき者じょ」
「その親芋虫は、更に酷く卑しき者じょよ」
「三の丸には、左様な卑しき親御がお住まいにごじゃるぞ
そなた、不安はあるまいか?」

近衛 熙子
「こりあ、こりあ」
「おもしろき事、おもしろき事」
「おぼ姐さまは
芋虫は、お嫌いか?」

鷹司 信子
「答えるまでも、ごじゃらんこと」
「わらわは、高貴なる者じょ」
「そなたも、わらわに劣らぬ家系じょよ」
「卑しき者、野蛮なる武人をひれ伏して
公家の世を創るのじょ」

近衛 熙子
「わらわは、三の丸で芋虫の親御を監視するのかえ?」

鷹司 信子
「どうじゃ、そなたであれば安心して任せられる」
「たかが卑しき者じょ」
「卑しき者が官位を買おうとしておる」
「わらわは、一国に相当する金子、銀子を用意する様に申した」

近衛 熙子
「あれあれ」
「官位を得るのも大変じょよな」
「一国とな、大金じょ」

鷹司 信子
「高い官位など受けても
生まれた身分は変わらぬのに
馬鹿な事じょ」
「このままでは、公卿の力は衰えて
野蛮な武人の国になってしまう」
「わらわは
高貴なる国を目指し、
卑しき芋虫を退治したいと思っておるのじょ」

近衛 熙子
「はや、はや」
「こりあ、こりあ」
「わらわも一緒に高貴なる国を創れるのかえ」
「うれしや、うれしや」

鷹司 信子
「さいわい、芋虫には子がおらん」
「綱豊君を養子にて江戸に招くには
今が絶好の機会じょ」
「さすれば、そなたは次の御台所じょ」
「わらわの後を、そなたに託すじょよ」

近衛 熙子
「おろおろ」
「一緒に、江戸のお城を支配致しましょうじょ」
「わらわは、おぼ様と一緒に
芋虫とやらと戦いとうごぢゃります」

鷹司 信子
「おうおう」
「そなたは、やはり、
わらわの思うた通りの強きおなごぢょ」
「そなたが、
三の丸に入る日が待ち遠しいぢょ」

近衛 熙子
「お任せくださいませ」
「わらわは、かようなお誘いを待っておりました」
「早く、お城に入りたいものでごじゃります」

鷹司 信子
「よしよし」
「そなたの、気持ちが聞けた」
「わらわは、そなたを一番信頼しておる
城の暮らしは楽ではないぞじょよ」
「覚悟はよいかえ」

近衛 熙子
「あやあや」
「覚悟もなにも
わらわは、うれしや、うれしや」
「心ときめいてごぢゃいます」

鷹司 信子
「さようか」
「まだ、受け入れの準備がある故」
「正式に入城が決まれば
報告がごぢゃろう」
「期待しておりますよ」

近衛 熙子
「はい、おぼ様」
「二人で、最強の大奥に致しましょう!」

鷹司 信子
「おっほほ
「そなたがおれば安心じょ」
「そなたが入城すれば最強じょ」


      赤穂事件 嗣子殿 徳川綱教



徳川 綱教
「御祖母様」
「御用に御座いますか?」

桂昌院
「おおォ」
「近うに参れ」
「ほれ、わしに顔を摩らせろ」

徳川 綱教
「どうぞ」
「御触り下され」
「存分に、御触り為さいませ」

桂昌院
「おおおォ」
「嗣子殿」
「頼むぞ、わしの血を引く
跡取りを頼むぞ」

徳川 綱教
「如何いうものか
子が出来ません」
「是許りは、
如何ともし難い事で御座います」

桂昌院
「いや」
「努力が足りんのじゃぞ」
「孫姫を粗末にしておるぞ」
「もう、紀伊に帰ってはならぬ」
「何時も、仲良くしておれ」
「たのむぞ」

徳川 綱教
「はい」
「御祖母様」
「お任せ下さい」

桂昌院
「よしよし」
「そのように、素直に答えるのじゃ」
「よいな」

徳川 綱教
「はい」
「必ず、嫡子をつります故」
「ご安心下され」

桂昌院
「待ち遠しい、待ち遠しい」
「早く、見たい」
「待ち遠しいぞ」

徳川 綱教
「はい・・・」

桂昌院
「・・・・・」

徳川 綱教
「では、いろいろ此方の務めが御座います故
之にて失礼仕る」

桂昌院
「もォー」
「何じゃ」
「まだ、用事を申してないぞ」

徳川 綱教
「失礼致しました」
「如何なる用事に御座いますか?」

桂昌院
「お前の妹の栄姫の事じゃ・・」

徳川 綱教
「はい」
「延宝6年で御座いましたか?
上杉家に嫁ぎました」

桂昌院
「吉良の無礼を咎める者がおる」

徳川 綱教
「左様で御座いますか?」

桂昌院
「お前の経歴に傷を付けたくないのじゃ」

徳川 綱教
「是許りは、
如何ともし難い事で御座います」

桂昌院
「もォー」
「素直に答えよと申しておろーが!」

徳川 綱教
「はい」
「如何致しましょうか?」

桂昌院
「離縁させろ」

徳川 綱教
「それは、為さらぬ方かよろしいかと・・」

桂昌院
「駄目か?」

徳川 綱教
「はい」

桂昌院
「では
嗣子どのは
如何すれば良いと思う?」

徳川 綱教
「やはり、吉良殿を擁護する事で御座います」
「吉良殿の過失を認めては為りません」

桂昌院
「そうか」
「吉良殿を庇うのか・・」

徳川 綱教
「はい」
「斯様な事に
いちいち対処していれば
大切な味方を失ってしまいます」
「吉良殿を庇う事が
御祖母様の利益に御座います」

桂昌院
「ほォー」
「流石、嗣子殿」
「たよりにしておりますぞ」

徳川 綱教
「はい」
「お任せください」


 
      赤穂事件 本家と分家の対立



 陸奥国弘前藩は仙台藩と赤穂藩との和解解消の影響を強く受けていた。弘前藩は仙台藩と共に
和解の恩恵を受けていたのだが、今回の事件で本家と分家で意見が分かれ、対立関係が激化することになったのだ。

津軽信政 (氏族 津軽氏本家)
「吉良殿は評判がよろしくないぞ」
「其方は、如何考えておるのだ」

津軽 政兕 (氏族 津軽氏分家)
「宗家殿には関係御座らん」

津軽信政
「大石太傅から受けた恩を
仇で返すつもりか」 

津軽 政兕
「内蔵助はもう終わりじゃ」
「赤穂は改易と決まり
資産は没収される」
「伊達殿との和解も解消された」
「我らも、巻き添えを受けぬとも限りません」

津軽信政
「吉良殿も窮地に陥っておるのじゃぞ」

津軽 政兕
「・・・・」
「わが妻は上杉綱憲養女・阿久里姫」
「実の親は吉良義央殿」
「上野介様は我が父親で御座る」

津軽信政
「吉良殿は将軍の後ろ盾を失ったそうじゃ」

津軽 政兕
「・・・・・」
「左様な事は、聞いてはおりません」
「左様な噂話を、信じる事は出来ません」

津軽信政
「あのな、
栄姫(上杉綱憲正室)じゃが
離縁の噂があるのだぞ」
「栄姫は
城中で嗣子様と呼ばれておる紀伊様の妹
吉良殿の悪い噂を受けての事じゃ」
「其方も、離縁を考えておけ」

津軽 政兕
「左様な噂で
縁を切る事など出来ません」
「既に、阿久里姫も喪っておりますし
娘も高家畠山義躬に嫁いでおります」

津軽信政
「これはな、高家畠山義寧の要請じゃぞ!」

津軽 政兕
「何と・・」
「娘の義父殿の要請ですと・・」

津軽信政
「それほど、吉良殿は信頼を失っているのだ」

津軽 政兕
「しかし、妻はもう亡くなっております」

津軽信政
「栄姫(上杉綱憲正室 徳川綱教の娘)が離縁となれば
如何する!」

津軽 政兕
「馬鹿な!」
「誰が許すものか!」

津軽信政
「いいや」
「桂昌院様が、吉良殿の悪い噂を受けて
離縁させる事を考えているのだぞ」

津軽 政兕
「んんゥ」

津軽信政
「如何じゃ!」
「悪い事は申さん」
「吉良殿とは縁を切れ!」

津軽 政兕
「それは、無理で御座る・・」

津軽信政
「阿久里姫とは短き間の縁で御座ろう
意地を張れば
綾姫が不憫じゃぞ」
「娘の為じゃ」
「吉良を見捨てろ」

津軽 政兕
「妻の阿久里は、もうおらんのじゃぞ」
「子の綾姫が、不憫ではないか!」
「いったい如何すればよいのじゃ」

津軽信政
「申しておくがな
綾姫は其方の子ではないぞ」

津軽 政兕
「えええェ」
「出鱈目を申すな!」

津軽信政
「よくよく、考えてみなされ
吉良は嘘を付いておりますぞ」
「上杉を乗っ取り
そして、今度は、津軽分家を乗っ取ったのじゃ」
「綾姫は吉良の子じゃ」

津軽 政兕
「如何いう事じゃ?」
「変じゃ、変じゃぞ!」
「では、なにか
吉良は実の娘に手を付けて
儂に押し付けたのか!」

津軽信政
「阿久里姫は其方が見受けした時に
既に懐妊しておった」
「そして、結婚し直ぐに生まれたのが
綾姫じゃ」
「綾姫が生まれるのが早すぎる」
「これが真相ではないのか」

津軽 政兕
「左様、早すぎる・・・」
「儂は、騙されておったのか・・」

津軽信政
「吉良殿は嘘つきで有名じゃ」
「あの者を信用しては為らん」

津軽 政兕
「しかし、吉良殿は義理の父」
「・・・・」

津軽信政
「其方は、騙されたのじゃぞ!」

津軽 政兕
「んんんゥ」
「出鱈目を申すな!」
「全部、出鱈目じゃ!」

          赤穂事件 小公子 松平信清



松平信清 (御三家加賀前田家と同格の大廊下の格式)
「信清」
「御台所様に御挨拶に参りました」

鷹司 信子 (浄光院)
「大きく立派に、そして美しく御成りじょな」
「君は、野蛮な武人ではない」
「美しく可憐で高貴なるお方じょよ」

松平信清
「お褒めのお言葉で御座いますか」
「ありがたき幸せに御座います」

鷹司 信子
「わらわは、御世辞など申さぬじょ」
「よいか、君は野蛮なる武人になってはならぬぞよ」
「よいな」

松平信清
「はい」
「無骨には為りませぬ故
ご安心下さいませ」

鷹司 信子
「おっほほ・・可愛い君」
「ところで君は、
吉良を如何思う?」

松平信清
「吉良とは何者で御座いますか?」

鷹司 信子
「おーおゥ」
「君は、吉良を知らぬのか?」
「そうよのォ・・」
「もう、知っておいた方がよいな」
「少し早いが
大人の話じょよ」
「驚くではないじょよ」

松平信清
「大人の話で御座いますか?」
「信清はもう子供では御座いません」
「そのお話をお聞かせ下さいませ」

鷹司 信子
「よしよし」
「君の父君は信政じょな」
「そして、信政の父君は信平じょょ」
「その信平の娘が薩摩藩島津氏に嫁いだのじょ」
「その者、島津綱貴と申す薩摩藩の大名じょよ」

松平信清
「はい」

鷹司 信子
「姫の名は米姫、綱貴の正室となった」
「しかしな、米姫は子宝に恵まれず
綱貴に疎まれる事になったのじょよ」

松平信清
「嫌われたので御座いますか」

鷹司 信子
「そうじょよ」
「どうしても跡継ぎが欲しい綱貴は
良い側室を探しておりなさった」
「そして」
「そこに吉良が目をつけたのじょ」

松平信清
「吉良が娘を差し出したので御座いますか」

鷹司 信子
「そうそう」
「吉良は、薩摩を手に入れようと目論んだ」

松平信清
「吉良の娘が側室になっても
薩摩は動じることは無いかと・・」

鷹司 信子
「つづきがあるのじょよ」
「側室の名前は鶴姫と申した
その鶴姫は嫁いで直ぐに懐妊して嫡子を生んだ」

松平信清
「はい」

鷹司 信子
「しかし、この嫡子は後で内密に始末された」

松平信清
「それは、正室の嫉妬で御座いましょう」

鷹司 信子
「そうではない」
「鶴姫は嫁いだが
島津綱貴との交わりはなかったのじょよ」
「島津綱貴は正室に憚り
家老や家来に遠慮して
契りを結ばなかったのじょ」
「鶴姫は嫁いだ時には懐妊しておった」

松平信清
「何と・・」
「これは、吉良の陰謀でございますね」

鷹司 信子
「後で分かった事じょよ
吉良は、実の娘に手お付けて
懐妊を確認してから
各地の諸大名に嫁がせておったのじょよ」

松平信清
「それは、酷い」

鷹司 信子
「島津綱貴は生まれた子に不信感をもって始末したそうじょ」
「ただ、もしや、その子は生きておるかもしれぬ」
「菊次郎と申す不明の者が確認された」
「菊次郎がおれば
吉良の陰謀が明らかになる」

松平信清
「左様な事が御座いましたか・・」
「米姫様は叔母で御座いますね」

鷹司 信子
「吉良は嘘つきで、目敏く油断ならぬ者じょよ」
「わらわは、吉良が嫌いじょよ」

松平信清
「はい」
「信清も吉良と申す者が嫌いで御座います」

鷹司 信子
「よいか」
「これからは、無骨で野蛮な武人を排除して
高貴な公卿の世をつくるのじょよ」
「君は、高貴なお方じょ」
「わらわは、高貴な公卿の世をつくりたい」

松平信清
「はい」
「武人は、野蛮で御座います」

鷹司 信子
「君は、素直で可愛い」
「わらわは、君をお守り致しますじょよ」


     赤穂事件 将軍御嫡男 柳沢吉里



柳沢吉里
「お招き頂きましてありがとうございます」
「初の御勤めにて
身の引き締まる思いに御座います」

将軍綱吉
「おおォ」
「大きくなったのォ」
「兵部」
「お前は、立派な侍になる」
「兵部は武士じゃ」

柳沢吉保
「上様」
「兵部は改め
偏諱を授かりたいと存じ上げます」

柳沢吉里
「偏諱を授かりとう御座います」

将軍綱吉
「んんゥ」
「よし、では吉を授ける」
「これからは、吉里と名乗るが良い」

柳沢吉保
「ありがたき幸せに御座います」

柳沢吉里
「ありがたき事で御座います」

将軍綱吉
「いきなり徳川姓を名乗る訳にも参らんからな
一時、松平姓を名乗ればよい」
「いずれ、吉里は儂の後を継ぎ
将軍となる」

柳沢吉保
「では、お披露目も近いと仰せで御座いますか」

柳沢吉里
「吉里は
正式なる嫡男として名乗りを上げまする」

将軍綱吉
「んんぅ」
「近々、お披露目も必要じゃな・・」

柳沢吉保
「何か、問題が御座いますか」

柳沢吉里
「問題?」

将軍綱吉
「んんんゥう」
「赤穂事件が尾を引いておる・・・」
「浅野を庇う者が大勢おるのだ」
「面倒ぢゃぞ!」

柳沢吉保
「全て、始末致しましょうぞ!」

柳沢吉里
「吉里は武士で御座います」
「戦い、そして将軍様にお仕え致しとう御座います」

将軍綱吉
「いやいや」
「戦っては為らん」

「それから、実はな・・」
「吉里をお披露目するには
母君のお許しも必要じゃ・・」

柳沢吉保
「おぼ様は反対しておられますか!」

柳沢吉里
「・・・・・」

将軍綱吉
「いやいや」
「母君は嗣子殿を推挙しておる・・」

柳沢吉保
「では、吉里は・・」

柳沢吉里
「・・・・・」

将軍綱吉
「んんゥ・・」
「今は無理じゃ」
「しかしな、儂は将軍じゃ
儂の命令は絶対じゃぞ」
「誰の指図も受けん」
「吉里は儂の跡取りじゃ」

柳沢吉保
「しかし、あまり遅く成らぬ方がよろしいかと・・・」
「名乗りが遅れれば、機を逸する事となりましょう」
「大切なる御嫡男に御座いますぞ」

柳沢吉里
「・・・・・」

将軍綱吉
「なに、心配は不要じゃ」
「今は、赤穂事件で混乱しておる
慌ててお披露目もあるまい・・」

柳沢吉保
「しかし、皆々に嗣子殿が認知され始めております」

柳沢吉里
「・・・・・」

将軍綱吉
「んんんゥウ」
「・・・・・・・・」
「綱教は邪魔じゃな」

柳沢吉保
「如何致しますか?」

柳沢吉里
「・・・・・・」

将軍綱吉
「ああ」
「吉里は、もう下がってよいぞ」

柳沢吉保
「吉里!」

柳沢吉里
「はい」
「失礼仕ります」

・・・・・・・・・・


将軍綱吉
「綱教の隙を突け」
「我らの存在を悟られぬよう
細心の注意をはらうのぢゃ!」

柳沢吉保
「御意!」

         赤穂事件 江戸庶民の噂



元禄12年(1699年)
10月2日:世田谷の20ヵ村に対し、中野犬小屋の犬の養育を提案された。1匹につき年に金3分の養育費を支払う。※犬を養育する村はその後増え、宝永3年(1706年から5年(1708年)までに幕府が近郊の百姓に支払った養育金の合計は3万5430両になった(『竹橋余筆』)。1年平均で1万1810両。計算上、犬は1万5747匹養われていたことになる
  
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』仁科邦男 2019, p. 295.


権六 (町人)
「おれも、犬小屋をやってみるかのォー」

伝七 (町人)
「昔は良かったべ」
「昨今、暮らしが苦しゅうて、生きてはいけんぞ」

新八 (小僧)
「番頭はんが、八丈島で飢饉があったと言っておった」

歳三 (頭)
「ああァア」
「丁稚どん、要らぬ事を申すな」

お幸 (頭の娘)
「あら、何で?」
「八丈島で飢饉があったのは事実よ」

伝七
「おれらも同じだべ」
「明日の飯はあるのやら」

永見長良
流人で庶子と言えども、長良は系譜上は徳川家康の男系曾孫にあたる人物であり、八丈島でも厚遇を受けたと言われている。だが、元禄14年(1701年)に同島を襲った飢饉は、流人を含めた島民の大半が死亡するという歴史的な大飢饉であった。このような島の事態の中で長良もまた食料を得る事が出来ずに、金の詰まった千両箱を抱えながら、荻田と共に餓死したといわれている。  出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

歳三 (頭)
「永見長良様は、お為方として
将軍綱吉様に貢献しておった」
「八丈島で飢饉の話はご法度だぞ」

お幸 (頭の娘)
「あらまァ」
「何で?
将軍綱吉様に貢献していたお方が
八丈島にいたのかしら?」

歳三 (頭)
「お前は、奥に行っておれ」
「女が口を挟む話ではない」

お幸 (頭の娘)
「何よ」
「おとっさまの意地悪」

権六 (町人)
「頭どの」
「その永見長良というお方は何者ですか?」

歳三 (頭)
「大権現様の男系曾孫にあたるお方だ」

権六 (町人)
「えええェー」
「おっと」
「やはり、納得がならねェーや」
「そんなお方が八丈島に送られたのかい」
「そりゃー、変な話でねぇーか」

歳三 (頭)
「変な事も、なにもあるものか」
「今、赤穂の鉄砲屋敷に賊が入り
暴れておるぞ」
「赤穂の殿さまは将軍様にご寵愛為されておいで」
「浅野のお殿様は
江戸の大火を防いでくれた恩義あるお方」
「その由緒ある赤穂浅野家鉄砲洲上屋敷が襲われておるのだ」

権六 (町人)
「何故ですかい?」

歳三 (頭)
「大変な事が起こったと思うぞ」

お幸 (頭の娘)
「あたい、赤穂の殿様を
ちらっと、見た事があるのよ」
「色男」
「おなごは、みんな虜よ」

歳三 (頭)
「まだ、おったのか!」
「お前は、奥に引っ込んでおれ!」

お幸 (頭の娘)
「意地悪」


     赤穂事件 綱吉の焦り



鷹司 信子 (浄光院)
「柳沢兵部に偏諱を授けたそうじゃのぉ」

将軍綱吉
「ああぁぁ」
「左様じゃ」

鷹司 信子 
「其の事、お玉の方もお認めか?」

将軍綱吉
「ああァのな」
「母君は、知らぬ事じゃ」
「吉里はいずれ、徳川姓を名乗り
儂の後を継ぐ」

鷹司 信子 
「左様な卑しき者を、わらわは認めませんよ」
「お玉の方も、お認めには為りませぬ」

将軍綱吉
「儂は、将軍じゃぞ」
「跡継ぎは、儂が選ぶ」

鷹司 信子 
「永見長良は流島で餓死しました」
「何故、御触れをしたのですか」

将軍綱吉
「見せしめじゃ」
「大権現様の曾孫であっても
儂には逆らえん」
「儂の力を見せつけたのじゃ」

鷹司 信子
「御触れを許したのは間違いじょよ」
「将軍は情け深い心が必用じょ」
「それを、何ですか」
「見せしめとは野蛮な事じょよ」
 
将軍綱吉
「儂に逆らえば容赦はない」
「見せしめぢゃ」

鷹司 信子 
「わらわは、如何でもよいのです」
「貴方様が困るだけの事」

将軍綱吉
「何故、儂が困る」

鷹司 信子 
「江戸の皆々が噂しておりますじょ」
「犬将軍と」
「犬将軍は無慈悲じょと」

将軍綱吉
「儂は、慈悲深いことで
皆々から尊敬され、敬われ、崇められておる」

鷹司 信子 
「貴方様、浅野内匠頭を殺す事は慈悲深いのかえ」

将軍綱吉
「あれは、大老が決めた事」
「儂は知らん!」

鷹司 信子
「では、わらわが大老に申し付けますじょよ」
「よいのですね」 

将軍綱吉
「もう、浅野は死んだ」

鷹司 信子 
「何と?」
「死んだのか?」

将軍綱吉
「儂は知らん」
「大老が決めたんじゃ」

鷹司 信子 
「それは、無慈悲じょよ」
「内匠頭は、わらわが守ると申しておったであろうに」
「何故殺した」

将軍綱吉
「儂は知らん」

鷹司 信子 
「わらわには内緒にしておったのじゃな」
「なにか後ろめたい事がおありか」

将軍綱吉
「もう済んだ事じゃ
よいではないか」

鷹司 信子 
「いいえ、為りません」
「先ほどの柳沢兵部の事も認めませんよ」
「お玉の方にも言い付けますじょ」

将軍綱吉
「んんゥ」
「儂は将軍じゃぞ」
「・・・・・」
「吉里は跡継ぎじゃ」
「もう決めておる」
「諦めろ」



      赤穂事件 呪術師 祐天法主



祐天 (江戸時代を代表する呪術師)
「鶴姫様に子が産まれぬのは
殺生の戒めですぞ」
「殺生を退治すれば
玉のような男子が産まれます」

桂昌院 (将軍綱吉の生母)
「きっとじゃぞ」
「約束じゃぞ」
「鶴姫に子を宿しておくれ」
「頼みましたぞ」

祐天
「それには、大きな支障が御座いますぞ」

桂昌院
「生類憐みの令で殺生を戒めております」
「男子が産まれますね」

祐天
「支障は他に御座います」

桂昌院
「それは、何で御座いますか?」

祐天
「残念ですが、この事を申す訳には参りません」

桂昌院
「法主様、お教え下され」
「頼みます」
「お教え下され」

祐天
「この事を、この僧が申せば
僧は死ぬことになります」

桂昌院
「そんなに大変な事なのか」
「申しただけで、死ぬのか!」

祐天
「いいえ、申しただけで死ぬことは御座いません」
「申した後で、其の事をおもしろく思わぬ御方に殺されます」

桂昌院
「おおォーー」
「それは、誰じゃ!」
「祐天法主を狙っておるのは誰じゃ!」

祐天
「それは、申し上げる訳には参りません」

桂昌院
「何故ですか?」

祐天
「桂昌院様がお怒りに為ります」

桂昌院
「わしが、怒る?」
「怒らぬぞ」
「絶対に怒らぬから、教えておくれ」
「頼みます」
「お願いじゃ」

祐天
「では、この事は絶対に他言為さらぬ様にお願い致します」

桂昌院
「はい」「はい」「絶対に約束します」
「教えておくれ」

祐天
「鶴姫様に子ができぬのは
そのお方の強い妨害による影響で御座います」

桂昌院
「それは、誰じゃ!」

祐天
「・・・・・・」

桂昌院
「申せ!」

祐天
「では、少し気になる事を先に伝える事に致しましょう」

桂昌院
「何じゃ?」

祐天
「徳川綱教様が、そのお方に狙われております」

桂昌院
「嗣子殿が?」
「嗣子殿が狙われている?」
「嗣子殿が殺されるのか?」

祐天
「はい、間違い御座いません」

桂昌院
「誰じゃ!」
「誰に狙われておるのじゃ」

祐天
「やはり、申し上げぬ方がよろしいかと・・」

桂昌院
「左様か!」
「そんな事が出来る者は
この世に一人だけじゃ」
「恐ろしい事じゃ」

祐天
「お分かり頂けましたかな」

桂昌院
「情けない」
「あの馬鹿には愛想が尽きた」

祐天
「あまり大騒ぎせず
様子を見ておくことを、お勧めいたしますぞ」

桂昌院
「嗣子殿が殺されるぞ!」

祐天
「一旦、お国に帰す事を
お認めになれば宜しいかと・・」

桂昌院
「わしは、孫姫が恋しい
別れたくない」

祐天
「では、桂昌院さまも御一緒なさいませ」

桂昌院
「しかし、わしは此処で
官位を得る事になっておる」
「孫姫は恋しいが
無理じゃ」

祐天
「それは、桂昌院さまがお決めになる事」
「僧は何も出来ませぬぞ」

桂昌院
「では、嗣子様の帰還を許そう」
「寂しいが孫とも別れよう」

祐天
「それが宜しいかと」

桂昌院
「如何じゃ!」
「これで、孫の鶴姫に男子が産まれるであろうな!」

祐天
「いいえ」
「まだ、支障が御座います」

桂昌院
「まだあるのか!」
「申せ!」

祐天
「申し難い事で御座います」

桂昌院
「何?」
「拝領物!」
「よしよし」
「了也が黄金十枚、樽二荷、くるみ一 箱、岩茸一 箱、に昆布であった」
「しかし、法主さまには、縮緬三巻、銀五枚であった」
「これは、余りにも差を付けておったな」

祐天
「いえいえ」
「僧は欲は御座いません」
「気を使わずにお願い申し上げる」

桂昌院
「いやいや」
「そうはいかん」
「多くを受け取れ!」






 
             御触れ



 永見長良が流島で餓死した事の御触れと前後して、今度は浅野内匠頭切腹の御触れが立った。


権六 (町人)
「おいおい」
「てぇーえんだよ」
「赤穂の殿様が切腹させられたぞ!」

伝七 (町人)
「赤穂浅野家鉄砲洲上屋敷が襲われていたが
山鹿流の者が混じっておったそうな」

新八 (小僧)
「山鹿流儀といえば
赤穂さまじゃありませんか
何やら変です?」

歳三 (頭)
「小僧、知らんのか!」
「浅野様は山鹿流の達人で御座ったがな」
「赤穂藩士は山鹿流なんぞ名乗らん」
「山鹿流儀は吉良一門じゃ!」


お幸 (頭の娘)
「吉良一門・・・」
「吉良一門の人って、スケベよ」
「吉良屋敷は、
おなごは避けて通るのよ」

伝七
「吉良一門は嫌われ者の集団だよ」


歳三 (頭)
「浅野様は吉良様と喧嘩なされ
浅野様は切腹を命じられたそうな」

お幸 (頭の娘)
「あらまァ」
「酷い!」
「喧嘩したら切腹なの?」
「それなら、さちだって
いつも喧嘩ばかりよ」
「嫌だわ」

歳三 (頭)
「お幸も切腹させられたくなければ
おしとやかにしておく事です」

権六 (町人)
「でェ」
「お頭」
「喧嘩相手の吉良は如何為ったんで?」

歳三 (頭)
「お咎めなし」

権六 (町人)
「なんだい、そりゃー」
「お咎めなしかい」

伝七 (町人)
「喧嘩両成敗は決まりじゃーねェのか」
「浅野様だけ切腹たァー
不公平ってもんだ」

新八 (小僧)
「そうだ、不公平だ!」

伝七 (町人)
「お前は、いいんだよ」

権六 (町人)
「こりゃ
おもしろくなってきやしたな」
「ここ最近、芝居はなくなり
お犬様は蔓延り、飯もろくに食えん」
「赤穂藩士は強者揃い」
「吉良を仇に攻め込むぞ!」

伝七 (町人)
「いっちょ
賭けて見ますか」
「おれは、仇討ちに賭ける!」

新八 (小僧)
「おれも、仇討ちに賭ける!」

権六 (町人)
「皆が、仇討ちに賭けては
勝負もあるまい」

お幸
「嫌だわ」
「浅野のお殿様が不憫よ」

権六 (町人)
「なァーお頭」
「この賭けで商売はできんか?」

歳三 (頭)
「賭博は良くて、魚釣りは禁止か?」
「江戸庶民が皆、道を踏み外す・・」

     赤穂事件 陸奥国弘前藩の危機





松平 信清 (鷹司松平家3代)
「越中守」
「如何為されましたか」

津軽 信政 (陸奥国弘前藩4代藩主)
「お恥ずかしながら
鷹司様に御縋りしたく参上仕りました」

松平 信清
「信清にか?」
「わたしに、何が出来ますか?」

津軽 信政
「はい」
「鷹司様の格式を頼りとして
その御名を賜りたく
何卒、宜しくお願い申し上げます」

松平 信清
「斯様な若年者に縋りたいと仰せか?」

津軽 信政
「鷹司様は藩主と為られました」
「先代様、そして先々代様の、
立て続けの不幸で御座いました」
「若くしての大任に
感服しております」

松平 信清
「大任ですか」
「わたしの務めは
控え所で大名や旗本と挨拶を交わす事です」
「感服など不要ですよ」

津軽 信政
「お願いと申すは
某の孫娘の事」
「目に入れても痛くない
かわゆき孫娘で御座る」
「お願いで御座います
某の孫娘を貰って頂きたいので御座います」

松平 信清
「お孫様を私にで御座いますか?」
「今まで、考えた事も御座いません」
「まだ、早いのでは御座いませんか?」

津軽 信政
「お願い致します」

松平 信清
「余程の事とお見受けする」
「宜しければ
その訳をお聞かせ頂けますか?」

津軽 信政
「お恥ずかしながら・・」
「吉良と申す高家に
弘前藩は乗っ取られようとしております」
「何卒、お力添えをお願い申し上げます」

松平 信清
「吉良上野介か!」

津軽 信政
「左様に御座います」

松平 信清
「少々、お聞き致したい」
「貴方様は、吉良上野介を如何思うっておる」
「教えて頂けませんか」

津軽 信政
「当然、良く思ってはおりません」
「分家はとうに乗っ取られてしまいました」

松平 信清
「しかし、弘前藩は
山鹿流兵法の奥伝・大星伝を許され、
藩の兵学を山鹿流に統一していると聞く
山鹿流は吉良一門に許された
奥義ではないのですか

津軽 信政
「山鹿流儀は浅野様が極めておりました」
「そして、大石殿の一族から
我らの流儀として統一されたので御座います」

松平 信清
「しかし、大石殿の一族は
山鹿流の者と反目していると聞くが?」

津軽 信政
「左様」
「それは、吉良一門の山鹿流の者
赤穂には山鹿流は御座いません」

松平 信清
「なにやら、入り組んでおりますね」

津軽 信政
「左様」
「吉良一門と大石一族
そして、我ら本家と吉良に乗っ取られてた分家
その全てが互いに反目しております」

松平 信清
「それで、私に縋ってきたのか」

津軽 信政
「お恥ずかしき事」
「何卒、お助け下さいませ」

      
        赤穂事件  怒りの 堀部 金丸



堀部 金丸 (赤穂藩江戸留守居300石から隠居し隠居料20石)
「その者たちは、腑抜けか」
「儂が主の仇を討つ」
「吉良などに負けてたまるか」

藤井 宗茂 (赤穂藩浅野氏の家臣。上席家老。800石。)
「おおォー」
「弥兵衛殿」
「これには、色々と事情が御座る」

安井 彦右衛門 (赤穂藩浅野氏の家臣。江戸家老。650石。)
「左様じゃ」
「主殿は、赤穂を守る為に切腹為された・・」

藤井 宗茂 
「早まっては為らぬ」
「仇討ちなど考えるな!」

安井 彦右衛門 
「其方は、何も知らぬのじゃ」
「主殿は仇討ちなど望んではおりませんぞ!」

堀部 金丸
「いやいやいや・・・」
「駄目じゃぞ!」
「儂は騙されんぞ!」
「この!」
「腑抜けが!」
「主は、吉良を討てなかったことを
悔やんでおられる筈じゃ」
「儂が、主の無念を晴らす!」

藤井 宗茂 
「まてまて」
「赤穂は必ず許される筈じゃ」
「幕府に、許しを乞えば必ず許される」

安井 彦右衛門 
「左様」
「主様は、赤穂を守る為に
果し合いに持ち込んだのだ」

堀部 金丸
「馬鹿を申すな!」
「儂は、お前らのような腑抜けが
大嫌いじゃ」
「情けない、臆病者が!」

藤井 宗茂 
「あのな」
「殿は、吉良に討たれようとしておったのじゃぞ」
「自らが犠牲になり
赤穂を救おうと為された」

安井 彦右衛門 
「左様じゃ」
「詳細をお話ししよう」

堀部 金丸
「駄目じゃ!」
「お前らの作り話など聞く耳持たん」
「もう、登城は無いのだから
浪人のようにしておれ!」

藤井 宗茂
「んんゥ」
「無茶を申すな!」
「赤穂の御屋敷を明け渡すのじゃぞ」
「幕府に許しを乞うのじゃ」
「赤穂城も明け渡す」
「全ての資産を明け渡す」 

安井 彦右衛門 
「左様じゃ」

堀部 金丸
「何と言う腰抜けじゃ!」
「無血開城をするくらいであれば
全員切腹して果てよ!」
「それが、赤穂藩士」
「それが、武士じゃぞ!」

藤井 宗茂 
「我らが切腹すれば
それは、御公儀に逆らう逆賊行為となる」
「赤穂が助かる道を閉ざす事になる」

安井 彦右衛門 
「左様」
「主は、殉死を咎められた」

堀部 金丸
「主殿は、梶川とやらに羽交い絞めにされ
とどめを刺す事が出来なかったのじゃぞ」
「儂は、殿の無念を思うと
じっとしてはおれんのぢゃ」

藤井 宗茂 
「あのな」
「何度も申すが
梶川殿は我らの味方じゃぞ」
「悪く言ってはならぬ」

安井 彦右衛門 
「左様じゃ」
「梶川殿は我らを救うために
老中に掛け合ってくれた」
「城の中で、
我らに味方してくれた数少ない御方じゃ」
「感謝せねばならん」

堀部 金丸
「胸糞が悪い」
「梶川とやらも
許さぬぞ!」

藤井 宗茂 
「んんんぅぅ」
「弥兵衛殿は隠居の身」
「口出し御無用に御座る」

安井 彦右衛門 
「左様」
「赤穂を守る事が
最優先で御座る!」

堀部 金丸
「腰抜け!」
「お前らのような腰抜けのせいで
儂は、肩身の狭い思いをしておる」
「赤穂藩士の名が廃る」
「赤穂を
そして
主を慰み者とする
江戸庶民を黙らせろ!」

藤井 宗茂
「噂話に惑わされては為らんぞ」
「皆々は、真相は知らんのじゃ」
「おもしろがって
騒いでおる」 

安井 彦右衛門 
「一度、吉良一門との話し合いに応じる必要が御座る」

堀部 金丸
「お前は、何を言っておるか分かっておるのか!」
「情けない」
「もう、話す事など何もないぞ!」

 
        赤穂事件 事件の知らせ



事件が起こるとすぐに、事件を知らせるための早駕籠が赤穂藩へと飛んだ。

第一報は、14日未の下刻(午後3時半頃)に早水藤左衛門と萱野三平が早駕籠に乗って江戸を出発し、19日寅の下刻(午前5時半頃)に赤穂に到着した。この時点では、刃傷沙汰のみが伝えられた。次いで14日夜更けに江戸を発した第二の早駕籠(原惣右衛門と大石瀬左衛門)が19日の内に赤穂に到着し、浅野内匠頭の切腹と赤穂藩の改易を伝えた。江戸・赤穂間の早籠は通常7日程度かかるが、この時は昼夜連続で駆け続け、4日半程度で赤穂に着いている。一方、吉良上野介の生死が赤穂側に伝わったのは3月下旬であった
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

大石内蔵助
「憂いは真となった・・」

原惣右衛門
「主は赤穂を救うために
果し合いを仕掛けたので御座る」

大石内蔵助
「にわかには信じ硬い」

原惣右衛門
「儂も最初は信じられんかった」
「しかし、城詰めの家老の話を聞けば
疑う余地は御座らん」
「吉良も又、幕府に操られた道化師じゃ」

大石内蔵助
「しかし、赤穂藩士は納得せんぞ!」
「・・・」
「そもそも、
其方は吉良を仇と呼んでおったのではないのか?」

原惣右衛門
「左様」
「親の仇であり、我が主君の仇で御座る」

大石内蔵助
「その其方が
吉良を庇うか?」

原惣右衛門
「庇ってはおりません」
「主の意思を鑑み
赤穂を救いたいとの思いに御座る」

大石内蔵助
「んんゥ」
「承知した」
「・・・・・」
「ところで、其方は変な書状を送って来たな」
「あれは何じゃ?」

原惣右衛門
「どの書状で御座る?」

大石内蔵助
「主の長矩様が犬になるとの事であったが?」

原惣右衛門
「おおォ」
「左様」
「儂は、主が犬になる事が
許せなんだ」
「じゃから、
主が犬になる様な事が有れば
主を殺して某は殉死すると
内匠頭様に直接申し入れた」
「其の事じゃ」

大石内蔵助
「何じゃと!」
「主君を殺すと!」
「直接、主に申し入れたと!」

原惣右衛門
「そうじゃ」
「内匠頭様は驚いておった」

大石内蔵助
「無茶な事を申すものだ」
「通常ならば
其方は、不敬を以て
打ち首じゃぞ!」
「それで、驚いた主は
如何為さった?」

原惣右衛門
「受け流された・・」

大石内蔵助
「何と!」
「咎めなかったと?」

原惣右衛門
「左様」
「何事も無かったのように
受け流され」
「『儂を殺すと申すか?』と
申された・・」

大石内蔵助
「左様か・・」
「主様は左様に受け流されたか・・」
「ところで、
犬になるとは如何なる事じゃ?」

原惣右衛門
「主は吉良によって
犬になるように調教されておりました」
「本来であれば
あの饗応の余興で
御犬のお披露目が御座った」

大石内蔵助
「んんんゥウ」
「訳の分からん話じゃのォ!」
「御犬のお披露目?」
「それは、何ぢゃ」

原惣右衛門
「将軍綱吉は変人じゃ」
「我が主を自分の飼い犬のように扱い
犬として召し抱えるつもりであった」
「そのお披露目が
饗応の日で御座った」
「本来であれば
天皇、上皇を招き
その宴席で
我が主を犬として扱い
辱める事を計画しておったのじゃ!」

大石内蔵助
「では、
主は犬になる事を拒否なされ
果し合いを仕掛けたのか!」

原惣右衛門
「いや」
「そうでは無い」
「内匠頭様は
将軍綱吉に嫌われたのじゃ」
「内匠頭様が疱瘡を患い痘痕をつくった事で
犬将軍の怒りを買った」
「犬将軍には
蚊に刺された程の血も許されぬ
潔癖を求められているそうぢゃ」
「犬畜生にも劣る
不条理極まりない馬鹿将軍じゃ」

大石内蔵助
「何と!」
「我が主は
左様な不条理に苦しんでおられたのか!」

原惣右衛門
「仇は、幕府じゃ!」
「仇は、犬将軍ぢゃ!」

大石内蔵助
「左様か・・」

原惣右衛門
「吉良など虫けらと同じ」
「本当の敵は幕府ぢゃ!」

大石内蔵助
「ちょっと待て」
「無茶を申すな」
「其方は如何するつもりじゃ?」

原惣右衛門
「心配は要らぬ」
「儂は、主の意思を鑑み
赤穂の為に
赤穂の存亡に尽力する」
「赤穂を滅ぼしては為らぬ」

大石内蔵助
「では、開城恭順で良いのだな」

原惣右衛門
「当然で御座る」

原惣右衛門は浅野長矩切腹の報を赤穂へ知らせた。家老・大石良雄は総登城を命じ、連日評定が行われた。評定は篭城討死か開城恭順かで対立し、元辰は開城恭順を主張して大石に異議を申し立てる家老・大野知房に詰め寄り退去させている。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』