アプリコット プリンセス

チューリップ城には
とてもチャーミングなアプリコット姫がおりました

赤穂事件 赤穂降ろしの密約

2022-05-27 11:10:04 | 漫画
           赤穂事件 勅額火事



将軍綱吉
「其方の呪術で大雨がふったのか?」

隆光(大僧正)
「はい」
「栄春は朝から勅額の到着を待っておりましたから
邪悪な鬼の企みを感じ取る事が出来たので御座います」
それ故に、大雨を降らし
鬼の暴挙を寸前で食い止め、
大火を鎮める事が出来ました」

将軍綱吉
「見事な呪術じゃ!」
「其方の力がなければ
根本中堂と文殊楼は焼失しておった筈」
「大火が寸前で消えた」
「これを、奇跡と呼ばず何と呼ぶ!」

隆光
「はい」
「栄春の呪術によって
天気を操ったので御座る」
「鬼を退散して、大雨を降らせました」

将軍綱吉
「よしよし」
「褒めてつかわす」
「其方を大僧正とした儂の見定めも確かであったぞ」
「其方の力で
根本中堂に祭っておる薬師如来に縋り
儂を不老長寿にする事を約束させよ!」

隆光
「はい」
「鬼は退散致しましたので
上様は不老長寿に為りまして御座います」

将軍綱吉
「おおォ」
「左様か!」
「不思議な事に
其方の言葉を聞くと力が漲るぞ
其方の御蔭じゃ」

隆光
「はい」
「ただ、今の状態を持続させる為には
もっと、法要儀式が必用で御座います」

将軍綱吉
「んんゥ、其方の思うように、
何でも思いのままにすればよいぞ!」

隆光や
「では、京・奈良の寺社の再建を進める必要が御座います」
「江戸の鬼は退散しましたが
京や奈良に現れるかも知れません
勅額が遅れた事により
江戸に鬼が現れました
そして、勅額が到着して
栄春が呪術を使った事で
鬼は退散したので御座います」
今度は、京や奈良を救う必要が御座います」

将軍綱吉
「んんゥ」
「其方の力を信じよう!」
「幕府の繁栄と安泰を祈願して
京や奈良の寺院を新しく建て直す」
「朝廷は常に幕府に下向させ
幕府は、朝廷の権威を
権力で支える」
「幕府の繁栄には
其方の力が必用なのじゃ!」

隆光
「はい」
「京や奈良の寺社を幕府の力で管理する事で
幕府の権力は朝廷を完全に凌駕致します」
「幕府の力は強大になる事で御座いましょう」

将軍綱吉
「よしよし」
「では、光圀じゃ!」
「大僧正は飢えた庶民を見捨てれば
光圀を始末出来ると言っておったが
光圀の奴はピンピンしておるぞ!」
「如何いう事じゃ!」

隆光
「はい」
「光圀は幕府の借款で凌いでおりますから
今は安泰なので御座います」
「来期からは、首が回らず苦しむ事になりましょう」

将軍綱吉
「早くやれ!」
「御犬遊びが出来んぞ!」

隆光
「ただ、光圀を始末するには
光圀が飢えた庶民を見捨てる必要が御座います」
「逆に、上様が見捨てるような事を為されば
上様に苦難が起こりましょう」

将軍綱吉
「だから、やっておるぞ」
「上野寛永寺の根本中堂・文殊楼・仁王門が落成させた」
「これから、京や奈良でも同じように寺社を落成させるぞ」
「薬師如来を祭り
飢えた者を始末する」
「儂は、多くをやっておる」

隆光
「はい」
「その点、光圀は多くの寺社を潰しております」
「今にあの者には天罰が当たりましょう」

将軍綱吉
「よし」
「光圀に天罰を与えよ!」

隆光
「はい」
「呪術によって
光圀を始末致します」

将軍綱吉
「光圀がいなければ
御犬遊びが出来る」
「今度の饗応で
天皇を交えて
御犬遊びに興じる事が出来るか?」

隆光
「光圀がいなければ可能で御座います」

将軍綱吉
「よしよし」
「では、吉良に準備させよう!」

隆光
「しかし、吉良殿は・・」
「今回の大火で吉良邸は焼失しました・・」

将軍綱吉
「吉良邸も幕府で再建すればよい」
「資金は幕府で提供する」

       
       赤穂事件 原惣右衛門 父の仇討ち



浅野内匠頭
「去年の大火は我ら火消しが大活躍したが
今回の大火は全くの形無しぢゃった」

原惣右衛門
「我らは、吉良邸への侵入を拒まれたから
初期対応が遅れたので御座る」

浅野内匠頭
「吉良邸の手前で消せば良いではないか!」

原惣右衛門
「儂は、二度も、吉良邸を守りたく無い!」

浅野内匠頭
「其方の仇か・・」

原惣右衛門
「父親は吉良の策略で浪人となり
家族は全てを失った」
「儂は、吉良邸を救いたくない」

浅野内匠頭
「では」
「故意に消火の手を抜いたのか?」

原惣右衛門
「吉良は、消火活動を妨害しておった」
「我らは、吉良邸に入る事も
吉良邸を破壊する事も出来なかったのぢゃ」

浅野内匠頭
「んんゥ」
「左様か・・では
如何じゃ!」
吉良邸は完全に焼失したぞ」
「吉良も全てを失ったのじゃぞ!」
「これで、其方の無念は晴れたか?」

原惣右衛門
「はい」
「吉良邸が焼失して
父の恨みを晴らす事が出来ました」

浅野内匠頭
「吉良は、嫌な奴じゃが
上様の贔屓にある」
「吉良に逆らえば狂犬が嗾けられる」
「誰も吉良に逆らう事は出来ん」
「要らぬ騒ぎを起こすでは無いぞ!」
「よいな!」

原惣右衛門
「今回の大火は、落慶法要のさなかであったから
吉良の面子はなくなり、面目丸潰れ
奴に大打撃を与える事が出来ました」
「大変に満足いく結果で御座る」

浅野内匠頭
「上様は、相変わらず吉良を贔屓しておるぞ」
「吉良の面子を潰しても
吉良が失脚する事はない」
「だからな」
「其方は、もう吉良にかかわるな!」

原惣右衛門
「いいえ」
「吉良を失脚させなければ気が済まん!」
「ぢゃが、一応」
「今回は、吉良の屋敷を大火で奪った事で満足しておく」

浅野内匠頭
「馬鹿を言へ!」
「吉良は上様の贔屓にあるのじゃぞ!」
「吉良邸は、幕府の資金で立て直しされる」
「今までの古い屋敷から
広い新しい屋敷に住み代わりになるだけじゃぞ」

原惣右衛門
「何と!」
「では、吉良邸を破壊しても焼き払っても
幕府の援助で
吉良は痛くも痒くもないと申されるか!」

浅野内匠頭
「左様」
「じゃからな」
「吉良にはかまうな!」
「吉良に嫌われたら
赤穂に将来は無いぞ!」

原惣右衛門
「嫌で御座る!」
「お館様は、吉良の犬に成り下がっておられる」
「吉良の犬に成ったお館様は不要に御座る」
「お館様は、犬に成られたのか?」

浅野内匠頭
「うゥ」
「其方は、儂が犬に成ったら
儂を殺して、
儂の後を追って
殉死すると言ってたな・・」
「左様な無茶は止めろ」
「儂は、犬になど成らん」
「よいな」
「無茶は為らんぞ!」

原惣右衛門
「絶対ですぞ」
「内蔵助殿とも約束しております」
「もしも、お館様が犬に成れば
拙者は殉死致します」
「その後の事は筆頭家老に委ねられ
弟君が後を継ぐ事になります」

浅野内匠頭
「えええェ」
「そんな事になっておるのか?」
「内蔵助が承知しておるのか?」
「儂は、如何すればよいのじゃ?」

原惣右衛門
「はい」
「お館様は、武士で御座る」
「お館様は、犬では御座いません」
「お館様は、赤穂の誇りで御座います」

浅野内匠頭
「・・・・」
「あ・・」
「あのな」
「儂は、其方のように頑強ではないぞ」
「弱いのじゃ・・」
「あまり期待が大きくても
落胆があると思うぞ・・」

原惣右衛門
「お館様!」
「ご安心下され!」
「拙者がお守り致します」
「拙者は屈強な武士で御座います!」


 
       赤穂事件 吉良の霊言? 喜連川騒動



 正保4年(1647年)に喜連川藩騒動があった。事の詳細は闇に包まれ多くの謎に包まれいてる。
その頃、吉良は六歳程であったが、この騒動は吉良家の命運にかかわる一大騒動でもあったため
吉良家では跡継ぎの小野介へ、事細かく真相が伝えられていたのだ。

 吉良上野介
「あの頃、儂は、吉良家の危機を何度も聞かされた・・」
「あの頃、隆盛を極めていたのは酒井忠勝と松平信綱であった」
「酒井一族では忠勝は別格であり、弟の酒井忠吉が幕府の重鎮となる公算であった」
「しかし、喜連川藩騒動を境に、酒井家の力関係は一変したのだ」
「酒井忠清の力が一挙に高まり、岡山の池田と手を結び、
あれよあれよと忠勝を追いやり大老にまで出世したのだ」
「我らは足利家の末裔、一色派と共に酒井忠吉に取り入り大きな力を得る公算であった」
「しかし、喜連川藩騒動で事態は逆転して、酒井忠清が酒井一族の別格となり
期待した酒井忠勝は急激に力を落としていった」
「我らは忠勝と共に力を失い
忠清の隆盛を指を加えて見ておるしかなかった」
「それらか、今」
「忠清が失脚して、我らは生き返った」
「上様は、我らが忠清に対抗していた事を評価してくれた」
「儂は、上様から贔屓され、側用人にも勝る信頼を得た」
「今こそ、喜連川藩騒動の無念を晴らし」
「吉良家の隆盛を望む」


 
          赤穂事件 吉良の虐め



酒井 忠挙 (酒井忠清の長子)
「高家指南役殿・・」
「某は、老中をはじめ皆から遠ざけられております」
「皆の申すには、左近殿に聞けばよいとの事」
「お聞かせ願えませぬか・・」

吉良上野介
「嫌ぢや・・」

酒井 忠挙
「・・・・」
「嫌なので?」

吉良上野介
「・・・・」

酒井 忠挙
「某、孤立しておりまして
皆が、某を遠ざけております」
「左近殿に助けて頂きたいと
お願いに参った次第」
「何卒、御救い下され・・」

吉良上野介
「嫌ぢゃ」

酒井 忠挙
「・・・・」

吉良上野介
「去れ」

酒井 忠挙
「某、皆から冷たい仕打ちを受けております」
「何故で御座いますか?」

吉良上野介
「しつこい奴じゃな・・」
「では、教えてやる」
「其方の父親である忠清は、上様に逆らい
上様を失脚させようとしておったのだ」
「だから、上様に嫌われておる」
「上様に嫌われた奴は
其方のように虐げられる」
「当然の報いじゃ」

酒井 忠挙
「それは、濡れ衣で御座る」
「某は、上様に忠義を致す事、岩の如し」
「上様の命令に逆らう事は決して御座いません」

吉良上野介
「にィ」「ひひひィ」
「では、命令じゃ!」
「上様の命令は、儂から伝えられる」
「だからな」
「儂の命令は、上様の命令だと思へ!」

酒井 忠挙
「ううゥ」
「しかし、それは少々・・乱暴な方法ではあるまいか・・」
「上様の御命令は
上様から頂かなければ・・・」

吉良上野介
「何だと!」
「儂に逆らうのか!」

酒井 忠挙
「逆らうなどと・・」
「お許し下さい・・」

吉良上野介
「では、命令じゃ!」
「いや」
「その前に、ちょっと聞きたい事がある」
「其方は、皆に無視されて嫌な思いをしたか?」

酒井 忠挙
「・・・・」
「恥ずかしい事で御座る」
「生きて行けぬ思いで御座る・・」

吉良上野介
「むひひ・・」
「左様か・・」
「では、命令じゃ」
「これから、赤穂を徹底的に虐める」
「赤穂が音を上げて降参するまで
徹底的に虐めるのだ!」
「其方は、率先して虐めろ!」

酒井 忠挙
「何故で御座る?」

吉良上野介
「赤穂は痘痕を作り穢れたのじゃ」
「だからな」
「赤穂は代替わりせねばならん」
「赤穂を虐めて代替わりさせるのじゃ!」

酒井 忠挙
「痘痕?」
「某には、意味がよく分かりません・・・?」

吉良上野介
「意味など不要じゃ」
「其方は、赤穂を虐めればよい」
「皆で虐めれば
赤穂は降参する」
「赤穂が音を上げるまで
赤穂が弟に引き継がれるまで
陰湿にやり通せ!」
「これは、上様の命令ぢゃ!」

酒井 忠挙
「某は、皆に虐められていたので・・」

吉良上野介
「其方を実験台にしたのぢゃ」
「それで、其方は音を上げた」
「だから、赤穂も音を上げる」
「これは、上様への御奉公であるぞ!」

酒井 忠挙
「・・・・・・」

 
          赤穂事件 新八郎の懸念



山吉 盛侍 (吉良小野介の家臣、通称は新八郎)
「酒井忠挙、浅野長矩を挑発するのは危険で御座います」

吉良小野介
「其方が気を病む必要はないぞ」
「酒井家は親戚関係じゃが
我らは、遠島処分を受けた一色派と同じ足利家の末裔であり
本来であれば酒井忠清は我らの分家筋じゃ」
「我らは、主流の酒井忠勝の本家との親戚であり
忠清は我らから本家の資格を奪い取った仇なのじゃ!」
「また、赤穂の兄犬千代は穢れておる」
「よって、上様に献上するのは
弟の犬千代となる」
「浅野長矩は始末され
坊主になるか、犬小屋の番人になる運命」
「儂の敵ではないわ」

山吉新八郎
「老中を巻き込み
全ての幕臣に号令するのは
やり過ぎでは御座いませんか?」

吉良上野介
「兄の犬千代を追い出す為の作戦じゃ!」

山吉新八郎
「主殿は上様からの厚い信頼を受けております故
直接に働き掛けては如何かと・・」

吉良小野介
「馬鹿な!」
「上様に働き掛けるだと!」
「出過ぎた真似じゃ!」
「上様に働き掛ける事が出来るのは
水戸の隠居だけじゃ」
「我らは、上様の駕籠かきであり
上様の忠実な犬なのじゃぞ!」
「バカ者が!」

山吉新八郎
「しかし・・」
「赤穂は武闘派で御座います」
「今回の大火でも
あの者達が
我らの屋敷に入ろうとしておりました」
「我らが侵入を拒んだ事が
後で問題になりはしないかと・・心配しております」

吉良上野介
「心配は無用ぢゃ!」
「柳沢が儂を庇っておる」
「上様は、焼き落ちた我が屋敷を立て直す資金を
援助すると申された」
「今は、大老や老中よりも
柳沢や我が指南役のように
上様の近くで犬として仕えておる者が
幕府の権限を独占しておるのぢゃぞ!」
「当然、赤穂は何が有っても
我が屋敷に踏み入れては為らん!」
「よいな!」

山吉新八郎
「承知致しました」

「今一つ、お聞き致したい」
「本家筋の酒井家は如何為っておるのでしょうか?」

吉良小野介
「細々と引き継がれておるわ」
「今は、房総半島の突端に追い込まれ
廃藩の恐れもある」
「酒井 忠胤 が藩主となった」

山吉新八郎
「巻き返しで御座いますか?」

吉良上野介
「左様」
「酒井忠挙は上野厩橋藩に居座っておるが
居心地は悪かろう」
「吉良義央は上野介を名乗り
上野国を手に入れる目算」
「今に、本家筋が我が手中に収まる事になる」
「もうすぐ、我らが上野国を手に入れる」

山吉新八郎
「将軍の御膝下でございますな」

吉良小野介
「我らは、将軍に最も近い場所で
最も信頼を受け
最も繁栄するのじゃ!」
「赤穂など、恐れては為らん!」

山吉新八郎
「はい」
「最もで御座います」


          
         赤穂事件 因縁の領地



阿部 正武
「我らは善人の良将」
「評判に恥じぬように身を引き締めようぞ!」
「二人では様にならんな・・」

大久保 忠朝
「一人足りんな?」
「戸田忠昌は如何した?」
「まさか?」
「森長成の怨念か?」

阿部 正武
「長くないそうじゃぞ・・」
「怨念かも知れんな・・ゾゾゾォ~」
「うェ・・身震いがした・・」

大久保 忠朝
「馬鹿な・・怨念などない」
「それよりも」
「吉良が困った動きをしておる」
「たかが指南役と思っておったが
柳沢よりも、たちが悪い」
「吉良の意地悪は陰湿で執念深い」
「何とかならんか?」

阿部 正武
「吉良は上様の贔屓じゃ
だから、何ともならん・・」
「あ奴は上様を後ろ盾にしておるから
我らでは太刀打ち出来ない・・」
「ほっとけば宜い」
「変にかかわれば
狂犬に襲われるぞ!」

大久保 忠朝
「生類憐みの令を悪用しよってからに・・」

「しかし、因縁の津山城には
吉良が押す酒井忠囿が入り受け取ったぞ」
「松平光長殿は如何する」
「光圀殿の催促が厳しくなってきたぞ!」


阿部 正武
「津山城の受け取りは酒井忠囿と松平直明じゃったな」
「酒井忠囿は酒井忠勝のひ孫」
「本家を復権させようとする目論みぢゃな」

大久保 忠朝
「いよいよ」
「吉良の思うまま」
「我らは、吉良の道具にされておるな・・」
「しかし、津山城は渡さぬぞ」
「我らの力で、光長殿の養嫡子(松平宣富)に
大名知行せねば為らん」
「光圀殿の御意向じゃ」

阿部 正武
「難儀じゃな・・」

大久保 忠朝
「いやいや」
「考えようぢゃ!」
「因縁の津山城を一旦吉良に手渡して
因縁払いを済ませてから光長殿が受け取れば
怨念は取り除かれる」
「吉良が代わりに怨念を受ける筈」
「怨念払いとなる筈ぢゃぞ!」

阿部 正武
「怨念など無いと申されておったのに・・」
「やはり、気になりますかな・・?」

大久保 忠朝
「光長殿に悪霊が祟っては困るぞ」
「吉良が身代わりと為れば宜しい」

阿部 正武
「吉良が赤穂を虐めるように強いておる」
「何故、赤穂を虐めるのか?」

大久保 忠朝
「赤穂は上様の寵愛を受けておる」
「赤穂を虐めれば
上様から咎められると思うぞ!」

阿部 正武
「吉良は、赤穂の指南役を続けておりました」
「しかし、いきなり態度を変えて
今度は赤穂を切り捨てようとしております」
「何が有ったのでしょうか?」

大久保 忠朝
「吉良は上様の犬じゃ」
「吉良の意思では無いと思うぞ」
「赤穂は以前には上様の寵愛を受けていたが
今は嫌われておるのかも知れんな」
「上様の心変わりじゃと思うが・・」

阿部 正武
「我らも気を付けねば為りませんな・・」
「上様に嫌われれば
全てを失いますぞ!」

大久保 忠朝
「左様」
「当然、柳沢や吉良にも逆らえん・・」
「難儀ぢゃな・・」

阿部 正武
「では、赤穂を一緒になって虐めるので御座いますか?」

大久保 忠朝
「吉良には逆らえん!」

阿部 正武
「赤穂を虐めるので御座いますか!」

大久保 忠朝
「左様!」

阿部 正武
「恐ろしい・・」
「老中で虐めを率先するとは」
「下々も従うので・・」

大久保 忠朝
「左様」
「幕府は、集団で赤穂を虐める事になる」

阿部 正武
「武士道は無いと?」

大久保 忠朝
「無い!」
「幕府要人は犬となる!」
「犬以外は、虐められ
犬小屋に入れられるのぢゃ!」

阿部 正武
「んんゥ」
「我らは、善良なる良将ではないのですか?」

大久保 忠朝
「我らの評判は良い」
「だから」
「悪事は悪人に任せれば宜しい」
「我らは善人じゃ」
「悪人は、柳沢と吉良」
「善人は我らぢゃぞ!」

阿部 正武
「んんゥ」
「難儀ぢゃ!」

大久保 忠朝
「如何しようもない」

阿部 正武
「救いがたい、手段を尽くしても見込みがない・・」

大久保 忠朝
「あのな」
「如何しようもないのは、吉良ぢゃぞ」
「我らでは無い」
「吉良は手段を尽くしても見込みがないのぢゃ」
「我らは善人ぢゃぞ!」



          赤穂事件 山桜



山田 宗徧 (茶人)
「これは・・んゥ」」
「山桜ですな」
「この茶器を私めに下さるので御座いますか」

吉良上野介
「今の儂の心境を其方に受け取って欲しいのじゃ・・」
 
山田 宗徧
「ほォー」
「如何様な心境ですかな・・」

吉良上野介
「これからは吉良家の時代が到来する」
「この茶器は、儂が 千 宗旦 の弟子であった事の証として
其方に受け取って貰いたいのじゃ」

山田 宗徧
「ほォー」
「では、弟子を卒業なさるので・・」

吉良上野介
「儂は、高家指南役として
上様より高い信頼を受けている
儂が 千 宗旦 の弟子では
上様に対しての指南の有り方に不都合があるやも知れん」
「せめて、儂は利休流のわび茶を究めた者として
利休の後継者と目されるように為る必要があるのぢゃ!」

山田 宗徧
「では、私めは不要であると・・」

吉良上野介
「いやいや」
「誤解しないで欲しい」
「あくまでも、これは儂の心境の証じゃ」
「儂が上様に信頼され一目置かれる立場であるから
その地位に相応しい肩書が必用なのじゃ」
「儂の心境を其方に分かって欲しいのだよ」

山田 宗徧
「では、物は不要で御座います」
「茶器は小林平八郎殿にお渡し下され・・」

吉良上野介
「受け取れぬと申すか!」

山田 宗徧
「いいえ」
「貴方様の心を受け取りまして御座います」

吉良上野介
「もろともに あはれと思へ 山桜 花より外に 知る人もなし」

山田 宗徧
「貴方様の心を私めに察して欲しいと申されるか・・」

吉良上野介
「儂の心境が分かるか!」

山田 宗徧
「失礼をお許し下されば
お話しすることも出来るかと・・」

吉良上野介
「許すから申されよ・・」

山田 宗徧
「では」
「申し上げます」
「其方は、赤穂様を長きにわたり指南為された
そして、ようやく目的を達成出来る手筈が整ったその時
計画が御破算に為ってしまったのですな」
「その無念を誰にも理解して貰えないので
山桜の茶器を手渡して
心の慰めにしようと為されたので御座いましょう・・」

吉良上野介
「儂は、皆から陰湿な悪人だと思われておる」
「しかしな」
「儂は好き好んで
このような嫌われ役を演じておるのではないのじゃ」
「全ては、計画が狂ってしまった事から生じた」
「赤穂が憎い訳ではない」
「赤穂の代替わりは儂の本意ではない」
「これは、全て運命なのじゃ」
「儂は、悪人か?」

山田 宗徧
「人は皆、善人で御座います」
「悪人など何処にもおりません」

吉良上野介
「出鱈目を申すな!」
「悪人がいなければ
刑罰もあるまい」
「悪人は獄門となって晒し首となっておるぞ!」

山田 宗徧
「それは、罪を犯したからで御座います」
「人は皆、善人で御座います」
「しかし、罪を犯せば罪を償わねばなりません」

吉良上野介
「・・・・・・」
「罪を償うのか・・・」

山田 宗徧
「はい」

吉良上野介
「儂には罪があるのか?」


      赤穂事件 吉良家筆頭家老の斎藤宮内


斎藤 宮内 (筆頭家老)
「全ては順調ですな」
「いよいよ、高家の力が試される時」
「楽しみで御座る」

吉良上野介
「んんゥ」
「其方の御蔭じゃぞ」
「赤穂に屋敷を取り壊されておったら
面目丸つぶれであった」
「赤穂に潰されるくらいなら
大火に焼失した方がましじゃ」
「吉良邸は幕府の援助で建て替えられた」
「儂は、新しい屋敷に移る事が出来て満足じゃ!」

斎藤 宮内
「我らは、上様の贔屓に御座います」
「計画通り、上野国を知行致しましょうぞ!」

吉良上野介
「んんゥ」
「酒井忠清の遺産は、我らが引き継ぐ権利がある」
「上様は我らを頼っておられる」
「上様の計らいで、我らは大領の大名として
上野国で上様の御膝元に君臨する事となる」
「あとは、赤穂の第代わりを成功させ
穢れ上様に嫌われた兄を追い出して
弟を立てることじゃ」
「弟の犬千代も儂の指南を受けておる」
「儂に従順な忠犬となる」
「穢れた兄は不要じゃ」
「上様に献上する犬は弟の犬千代以外は考えられない」

斎藤 宮内
「最近、赤穂は大人しくしております」
「大火を防ぐ事が出来ずに
火消し大名としての実績も削がれたようで御座る」
「我らの屋敷が焼失したのは
赤穂の責任が大きいと考えられております」

吉良上野介
「あまり赤穂を悪く言うな」
「あくまで、追い落としは浅野長矩である」
「儂は、いち早く浅野長広を養子とする許しを取った」
「大学(浅野長広)が赤穂藩主として
上様に仕えればよいのだ」
「次の饗応に間に合うように
赤穂を追い詰めねば為らん」

斎藤 宮内
「我らが上野国の大名になるとは
大出世で御座いますな」
「上様に感謝せねば」

吉良上野介
「儂は、茶道の奥義を極めた」
「儂が上野国を貰い受ければ
茶道本家として名を馳せる」
「功績を残さねば
上野国の領主として恥ずかしいからな」

斎藤 宮内
「あいやッ」
「 侘び寂びの極みぢゃ」
「新築の吉良邸には
詫び寂びを極めた茶室も作られました」
「茶道は武家の嗜みで御座る」
「上様は、高家指南を尊重して
全ての式典は我らが取り仕切っております」
「我らの許可が無ければ
大老といえども何も出来ない有様」
「我らの権限は大老を上回っております」

吉良上野介
「左様」
「今は、権限だけが際立って大きい」
「しかし、これからは実力も大きくなるぞ」
「儂は、上野国を貰い受け
大領の大名に昇格する」
「全ては、次の饗応に掛かっている」
「大学を赤穂藩主として
上様に献上するのじゃ」
「褒美は、上様から約束されておる」
「もう、上野国は儂の物ぢゃぞ!」

斎藤 宮内
「はい」
「某も、筆頭家老として
斎藤家の跡取り、兄弟にも
良い思いをさせてやりとう御座る」

吉良上野介
「んんゥ」
「斎藤家も安泰じゃ」
「万事上手く行く」
「浅野長矩を追い出せば
全て上手く行く」

斎藤 宮内
「老中一同、浅野長矩を虐めております」
「この様な虐めに合えば
浅野長矩とて音を上げて降参する筈」
「今回の火消し失敗の責任もあります」
「大騒ぎして、追い落とす事が可能かと・・」

吉良上野介
「まァ」
「焦らずとも、いろいろ計略はあるぞ」
「上様の許可も得られた」
「上様は、穢れが怖いのじゃ」
「小姓が蚊を叩き
顔に血を付けておっただけでも
島送りとした」
「赤穂が痘痕をつけておったら
それだけでお咎めものじゃ」
「上様は、長矩を嫌っておられる」
「もう、長矩を犬にする事は出来ん」
「弟の大学を犬として献上する」

斎藤 宮内
「全くで御座る」
「嫌われた長矩など献上できませんな」
「長矩など献上すれば
献上した我らがお咎めものじゃ」

吉良上野介
「長矩 追い落としは
上様の御意志じゃ」
「老中一同の同意もある
我らは、上様に忠義すればよい」

斎藤 宮内
「計略は?」
「如何なる計略で御座る」
「教えて下され!」

吉良上野介
「凄い計略じゃぞ」
「なにせ、上様の計略ぢゃ!」
「儂は、上様から申し付けられた計略を実行するだけぢゃ!」
「上様の計略は容赦ない」
「徹底的に虐められるぞ!」

斎藤 宮内
「おおおォ」
「凄い!」
「如何様な虐めで御座る」

吉良上野介
「凄い虐めぢゃぞ」

         
            赤穂事件 大老の決意



井伊直興(大老)
「何で、吉良屋敷の建て直しを、幕府が援助せねば為らん!」
「飢餓が起こっておるのぢゃぞ!」

土屋政直(老中首座)
「今回の大火で
吉良が赤穂の火消しを妨害したそうで御座います」

井伊直興
「何とかして、吉良を排除せねば為らんぞ!」

土屋政直
「吉良を侮ってはなりません」
「某は、吉良から酷い洗礼を受けております」
「一度ならず二度までも
数十匹の猛犬に襲われ
犬を切り捨てた事で
仲間家来が追放処分じゃ・・」
「大老も罠に掛けられたであろう・・」

井伊直興
「如何にも・・」
「猪狩りで咎められ
危うく失脚するところであった・・」

土屋政直
「吉良の過ちには咎めが無く
赤穂は何をしても厳しく咎められておる」
「吉良は集団で赤穂を虐めておる」

井伊直興
「吉良が、我らにも虐めに参加するようにと申しておる」

土屋政直
「馬鹿げた事ぢゃ!」
「ふざけた子供の喧嘩じゃぞ!」

井伊直興
「赤穂は、我らに助けを求めては来んのか?」

土屋政直
「赤穂は武闘派で御座る」
「決して、助けを求めては来ませんな」

井伊直興
「一度相談に乗ってみよう」
「浅野長矩殿とゆっくり話をしてみよう」
「儂は、吉良屋敷の建て替えで
幕府の資金を使いたくないのだ」

土屋政直
「幕府の財政は逼迫しておりますな」

井伊直興
「我が彦根藩で飢饉が発生しておる
救米支援を考えておるが
藩の財政も逼迫しておる」
「庶民が飢えておる時に
幕府の貴重な財産を
吉良屋敷の建て直しに使うのはおかしい」
「吉良は己惚れておるようじゃ」

土屋政直
「吉良は高家指南役として
上様の膝元に居座り
祭事式典の有り方や事細かな儀礼に至る全てを取り仕切り
大きな権限を持っております」
「諸藩が飢餓で困窮しておっても
吉良は己の領地を持たぬ雇われの身
諸藩の困窮をよそに私腹を肥やしております」

井伊直興
「飢餓が蔓延しておる時には
大領大名よりも身一つで仕える
吉良の立場が安泰なのじゃな」

土屋政直
「あ奴、いずれは、
上野国を貰い受けると、
恥ずかしげもなく言いふらしておる」

井伊直興
「そうなれば、吉良には大きな権限と
大きな権力が備わる」
「誰も吉良に逆らえなくなる」

土屋政直
「やはり、
今のうちに対処しなければなりませんな!」

井伊直興
「んんゥ」
「我が屋敷には光長殿がおられる」
「また、更には光圀殿の協力もあれば
吉良に対抗できるかも知れん」

土屋政直
「御老公様が
戒めの書状を持っているという噂は、真で御座いますか?」

井伊直興
「真じゃ」
「たたし、戒めの書状は、開示されたことがないのじゃ」
「この困窮を打開するには
光圀殿のお力が必用じゃが
はたして、如何為るやら・・」
「赤穂への虐めが公になれば
光圀殿も黙ってはいないと思うが・・」

土屋政直
「では」
「我らは、赤穂に力を貸して
虐めの真相を探り
吉良が老中を巻き込んで
赤穂に嫌がらせをしている事実を
証明する必要が御座います」

井伊直興
「子供の喧嘩じゃのォ」
「虐めなどしおってからに・・」

土屋政直
「吉良を咎める必要が御座います」

井伊直興
「子供の喧嘩に、水戸の御老公が仲裁に入ってくれるのかなァ?」

土屋政直
「いえいえ」
「吉良の虐めは陰湿じゃ」
「この虐めを放置していれば
大変な事になりますぞ」

井伊直興
「吉良は、我らにも虐めに参加するようにとの
圧力を掛けてきておるからな・・」
「馬鹿げた事じゃ」
「大老は名ばかり
雇われの指南役に虐めの催促を受けておる・・」

土屋政直
「これも吉良の陰謀で御座る」
「我らに罪を擦り付け
危うく成れば逃げ出す筈」
「逃げても失うものは少ない」
「我らは、大領を持っておるから
逃げる事など出来ん」
「吉良の身は安泰」
「我らが背負っている領地は
飢餓が蔓延しておる」
「我らは困窮するばかり・・」

井伊直興
「吉良の強みじゃな・・」

土屋政直
「なんとかせねば・・」

 
           赤穂事件 世直しへの布石



井伊 直興 (大老)
「おお、赤穂殿」
「良く参られた」
「酒なり、茶菓子なり
何でもある故、寛いで下され」

浅野内匠頭
「これは、一体何で御座いますか」
「大老殿に接待されるのは
某、無骨者には勿体無い事で御座る」

井伊 直興
「儂は、二度までも赤穂殿に救われた」
「感謝申し上げる」

浅野内匠頭
「私めが、大老を救ったと・・・?」

井伊 直興
「左様」
「先の大火と、今回の大火じゃ!」
「先の大火では
我ら井伊家の上屋敷と中屋敷の裏手まで
火の手が迫っておったのを
赤穂の決死の火消しで救われた」
「そして、
今回の大火は
上屋敷の表門に火が回るのを未然に回避してくれた」

浅野内匠頭
「赤穂藩士は強者揃いで御座います」
「左様な事は、朝飯前で御座る」

井伊 直興
「いやいや」
「赤穂殿の働きは、群を抜いておった」
「赤穂殿の火消しが無ければ
某の上屋敷も中屋敷も下屋敷も全て焼失しておった筈じゃ」
「感謝申す」

浅野内匠頭
「それは、大老殿の屋敷に我らが入る事を許されたからで御座る」
「立ち入りを拒まれれば対処は出来ません」

井伊 直興
「今回の大火は
我らが上屋敷表門に火の手が迫っておったが
火の手は方向を東に変えた
吉良邸の方向に火の手が回ったようじゃな」

浅野内匠頭
「大老邸では火消しに協力的で御座いましたが
吉良邸では火消しが妨害されました」
「火消しは、初期対応が肝心で御座る」
「火の手が迫っておる時に妨害されますと
火消しは困難となります」
「大老邸が救われたのは
初期対応が出来たからで御座います」
「吉良邸は、我らの火消しを妨害したことで
延焼を招き込んだのです」

井伊 直興
「んんゥ」
「吉良殿は
吉良邸の焼失を火消しの責任だと言って騒いでおるな・・」

浅野内匠頭
「はい」
「左様に御座る」

井伊 直興
「今後の事もある」
「其の事は、確りと弁明なさるが宜しい」

浅野内匠頭
「はい」
「承知しました」

井伊 直興
「んんんゥ」
「・・・・・・・」

浅野内匠頭
「如何為された?」

井伊 直興
「んんゥ」
「其方」
「吉良殿と諍いがあるのか?」

浅野内匠頭
「御座いますが・・」

井伊 直興
「事が大きくなり
収拾が付かなくなる前に行動を起こす必要が御座る」

浅野内匠頭
「我ら赤穂に
助けを求めよと申されるか?」

井伊 直興
「吉良殿は虐めを拡散しておりますぞ!」

浅野内匠頭
「はい、承知しております」

井伊 直興
「では、我らが助け舟を出しても良いのか?」

浅野内匠頭
「それは、我らが赤穂藩士と相談せねば為りません」

井伊 直興
「何故、吉良殿は其方を嫌う?」

浅野内匠頭
「いえいえ」
「むしろ某に纏わり付いて困るくらいで御座います」
「虐めは好意の表れ」
「某に親しみをもっておるのでしょう」

井伊 直興
「んんゥ」
「何故、吉良を庇う!」

浅野内匠頭
「・・・・・」

井伊 直興
「あのな」
「水戸の御老公が先様から預かった書状がある」
「光圀殿が預かった戒めの書状が開示されれば
吉良を追放出来る」
「言い換えて申せば
其方の直訴があれば
戒めの書状が開示され
吉良を失脚させる事ができるのぢゃぞ!」
「それでも、吉良を庇うのか!」

浅野内匠頭
「某、吉良殿には大変に世話になっております」

井伊 直興
「嘘を申すな・・・?」

浅野内匠頭
「吉良殿に逆らうことは出来ません・・」

井伊 直興
「光圀殿や、光長殿、そして某大老の力を結集すれば
吉良を退治出来る」
「我らを信じてくれ」
 
           赤穂事件 赤穂虐め



柳沢 吉保
「赤穂は意に介しておりません」
「それどころか、大老が光圀と協力すべく
赤穂に助け舟を出しております」

将軍綱吉
「光圀は弱ってないのか?」

柳沢 吉保
「はい」
「ピンピンしおります」

将軍綱吉
「忠清といい
正俊といい
井伊直興といい
大老は全て光圀の支配下にある」
「今度は、直興、光長、光圀が結託して
儂に盾突こうとしておるのか!」

柳沢 吉保
「はい、左様に御座います」

将軍綱吉
「面倒ぢゃ!」
「あ奴らを島送りにせよ!」

柳沢 吉保
「光圀には、我らの陰謀を証明する
先様の偽の遺言が御座います」
「堀田が示した先様の遺言が偽物だと分かれば
上様の正当性が危うくなります」

将軍綱吉
「では、如何すればよい!」
「早く、対処しろ!」
「如何する!」
「おい!」

柳沢 吉保
「はい」
「先ずは、光長に屋敷を提供する事で御座います」

将軍綱吉
「んんゥ」
「吉良の屋敷を建て直すから
ついでにやるのか?」

柳沢 吉保
「いいえ」
「大老邸に光長を匿うのはよくありません」
「同じ屋敷におれば密談は容易いので
離れた場所に匿う必要が御座います」

将軍綱吉
「よし」
「光長を別の場所に隔離しておけ!」
「光圀は如何する!」

柳沢 吉保
「光圀は西山荘から動いておりませんので
心配は御座いません」
「それよりも、大老を始末せねばなりません」

将軍綱吉
「んんぅ」
「島流しか!」

柳沢 吉保
「大老を島送りにすれば
光圀が江戸に乗り込んで来ます」
「得策では御座いません」

将軍綱吉
「おい!」
「犬!」
「儂に逆らうな!」
「いちいち」
「指図するな!」

柳沢 吉保
「はい」
「おとなしくしております」

将軍綱吉
「おい」
「如何すればよい!」
「おい」
「早く何とかしろ!」

柳沢 吉保
「はい」
「大老の始末は某にお任せ下さい」

将軍綱吉
「失敗すれば
首ちょんばぢゃ!」

柳沢 吉保
「はい」
「お任せ下さい」

将軍綱吉
「赤穂は如何する!」
「赤穂ぢゃ!」
「如何する!」
「早く申せ!」
「おい!」

柳沢 吉保
「赤穂は引き続き虐めを継続致します」

将軍綱吉
「如何様な虐めぢゃ!」
「早く申せ!」
「おい!」
「早く!」

柳沢 吉保
「はい」
「上様の意向に合う虐めを継続致します」

将軍綱吉
「儂の虐め?」

柳沢 吉保
「はい」
「吉良が実行しております」

将軍綱吉
「儂の虐めとは何じゃ?」

柳沢 吉保
「お忘れで御座いますか・・」

将軍綱吉
「おい!」
「ふざけた事を申すな!」
「儂が忘れたと言うのか!」
「おい!」
「かんとか言え!」
「おい!」

柳沢 吉保
「申し訳御座いません」
「某、今思い出しました」
「上様の意向は能で御座いました」
「はい」
「能で御座います」

将軍綱吉
「能?」

柳沢 吉保
「お忘れで御座いますか?」

将軍綱吉
「んんぅ」
「犬の分際で・・」

          赤穂事件 大老の権力



井伊 直興
「儂は大老として、
幕府の立て直しが必用じゃと考えておる」

柳沢 吉保
「立て直すとあらば
幕府は倒れておるのかな?」

井伊 直興
「諸藩では庶民が飢餓で苦しんでおる
某の彦根藩でも飢饉が発生しており救米支援をしている」
「資金の少ない地方では深刻な貧困が蔓延しており
江戸市中にも影響が出ておりますぞ!」

柳沢 吉保
「江戸市中?」
「左様な貧困の話は聞いた事がありませんな・・」

井伊 直興
「二年続けての江戸の大火で
多くの旗本屋敷が焼失したのですぞ!」
「多くの下屋敷も焼けたのじゃ!」
「蔵の米が焼失したのじゃぞ!」
「江戸も困窮しておるのぢゃ!」

柳沢 吉保
「幕府は上様の命令に従えば宜しい」
「大老は上様の命令に従い
焼失した吉良邸の建て直しを急ぎ
寺社を敬い
饗応の準備をする事が重大事項で御座る」
「これは、上様の命令で御座いますぞ!」

井伊 直興
「吉良殿は虐めを助長させ
多くの重鎮を巻き込み、誑かしております」
「吉良殿を特別扱いしては為りません」

柳沢 吉保
「誑かす?」
「吉良殿が嘘つきと申されるか?」

井伊 直興
「幕府の貴重な財産で
吉良邸の建て替え費用は出せん!」

柳沢 吉保
「吉良殿は高家指南役として
上様から絶大なる信頼を受けております」
「ただ、其方のような大領藩主の大名ではないから
幕府が援助するのじゃ」
「じゃがな、其方の不満もあろうから
光長殿の屋敷も幕府の援助でこしらえる事になった」
「吉良殿と光長殿の新居じゃぞ!」

井伊 直興
「光長殿は、某の屋敷で不自由は御座らん!」
「各地で飢饉が起きておるのですぞ
不要な散財は、お止め下され!」

柳沢 吉保
「光長殿と別れるのが辛いのかな?」
「では、其方は光圀と同居するか?」

井伊 直興
「如何いう意味で御座る!」

柳沢 吉保
「其方が、光長殿と光圀殿と共闘して
幕府の実権を握らんと企んでおる証拠が御座る」

井伊 直興
「儂は、大老じゃ!」
「老中で取り決められた事は儂が見定め、
上様に報告しお目通し頂く」
「これが幕府の制度ではないか!」

柳沢 吉保
「先の大老酒井忠清は、そのようにして実権を握り
専横をしたのじゃぞ」
「其方は、同じ過ちを繰り返したいのか」

井伊 直興
「兎に角、
吉良殿の権限が大きく成り過ぎております」
「吉良殿は指南の名の下で
言い掛かりを付け
虐めを繰り返しております」
「老中にも、虐めに参加するように強要しておるのぢゃ!」

柳沢 吉保
「其方も、虐めに参加すれば宜しい」

井伊 直興
「馬鹿を申すな!」

柳沢 吉保
「お気を付け下さいませ」
「馬鹿呼ばわりは危険ですぞ!」
「其方は、上様を馬鹿呼ばわりしたのですぞ!」


         赤穂事件 赤穂降ろしの密約



柳沢 吉保
「上様は、如何様な意向じゃ?」

吉良上野介
「能で御座る」

柳沢 吉保
「能で嫌がらせをするのですか・・」
「しかし、その方法であるが
光圀に試したところ、上手く行かなかったぞ」

吉良上野介
「光圀は水戸の大老を切り捨てて
水戸に逃げ帰った」
「赤穂には、斯様な度胸はあるまい」
「光圀と比べるな」

柳沢 吉保
「確りと計画を立てる必要が御座る」

吉良上野介
「んんゥ」
「老中以下、我らに協力的じゃ」
「赤穂は音を上げて降参するぢゃろう」
「なにせ、上様の御考えじゃ」
「兄が排除されて
弟の大学犬が取り立てられる」

柳沢 吉保
「念の為に確認したい」
「大っぴらに赤穂降ろしを行えば
光圀が江戸に来て
我らを非難するぞ」
「光圀の行動は予想が付かん
だからな
赤穂への虐めは隠れてやれ」
「あまり大袈裟に虐めるな!」

吉良上野介
「分かっておる」
「じゃがな」
「老中も、虐めに加担しておるのだ」
「だからな」
「老中も、光圀に叱られたくないと思うぞ」
「老中は口が裂けても虐めの事を内密にしておきたい筈じゃ」

柳沢 吉保
「大老には我らに逆らわぬように、釘を刺しておいた」

吉良上野介
「大老は 分からず屋じゃ」
「我らに従う事はない」
「大老と光圀と光長を警戒して
我らの秘密を悟られぬように警戒するのぢゃ!」

柳沢 吉保
「上様は、その者達を始末したいと申された」

吉良上野介
「んんゥ」
「誰から始める?」

柳沢 吉保
「先ずは、大老が邪魔で御座る」
「上様の命令に逆らっておるのだから
先の大老堀田正俊同様の殺処分になるかと・・そう思うぞ」
「大老は三代続けての殺処分となる」
「其方は、大老を脅せ」
「大老も赤穂を庇って死にたくはない筈じゃ」
「我らに屈服すれば、命は助けてもよい」
「屈服して我らに従えば、大老には隠居を勧める」

吉良上野介
「光圀は如何する?」

柳沢 吉保
「虐めを内密で進めろ」
「老中は口が堅いが
下々は噂話が好きなのだ
老中には
下々に気を付けるように、釘を差してこう」

吉良上野介
「んんゥ」
「内密で進めるのは難しいぞ・・」
「・・・・・」
「能ぢゃ」
「光圀には効果がなかった能ぢゃ!」

柳沢 吉保
「能ですな」

吉良上野介
「能に関しては慎重に進める必要が御座る」

柳沢 吉保
「能での失敗は
上様の怒りに合う事必至で御座る」
「我らにとっても一大事ぢゃ」
「確りと計画を立てねば為らん」

吉良上野介
「儂も能を舞うのか?」

柳沢 吉保
「上様の気紛れがあれば
其方も舞う事になる」

吉良上野介
「んんゥ」
「演目は?」

柳沢 吉保
「上様は、廃演目も復活させておるから
演目は限りなく多い」
「全てを覚えておかねば為らん」

吉良上野介
「其方は、全ての演目を舞うのか?」

柳沢 吉保
「側用人の務めで御座る」
「能を舞えぬ者は
側用人には成れませんぞ!」

吉良上野介
「んんゥ」
「儂は、犬の調教から茶道、そして祭事や
饗応の指南役ぢゃ」
「これに能舞まで覚えるとなれば
時間が足りん」
「儂は如何すればよい?」

柳沢 吉保
「お教え致しますぞ!」

吉良上野介
「おおォ」
「お頼み申す!」



赤穂事件 元禄の大火

2022-05-15 11:42:09 | 漫画
           赤穂事件 柳沢吉保の言い訳



将軍綱吉
「おい」「犬!」

柳沢吉保
ーーーーー畏まるーーーーー

将軍綱吉
「キサマ!」
「光圀の言いなりか!」

柳沢吉保
ーーーー畏まるーーーーー

将軍綱吉
「何で 鳥居 忠英居 (とりいただてる) を復権させた!」
「あ奴の父親は、強情者じゃぞ!」

柳沢吉保
ーーーー申し訳御座いませんーーーー

将軍綱吉
「んんゥ」
「そうじゃ・・」
「儂が許したのじゃた・・」

柳沢吉保
ーーーー光圀を侮っておりましたーーーー

将軍綱吉
「代わりに近江水口藩から加藤明英が来る」
「明英は気の利く奴じゃ」
「近場の下野壬生藩に明英をおいておけば安心じゃ」
「思い出した・・」

柳沢吉保
「はい」
「近江水口藩から加藤明英殿を下野壬生藩に移しておけば
幕府の安泰となります」

将軍綱吉
「下野壬生藩の松平輝貞は領地加増で上野高崎に移した」
「んんゥ」
「あれ・・?」
「上野の安藤重博は如何為った?」
「あ奴は何処に行った?」

柳沢吉保
「はい」
「安藤重博殿は、上野国高崎藩から
備中国松山藩に移りまして御座います」

将軍綱吉
「儂が許したのか?」

柳沢吉保
「はい」
「上様の御許しが得られた後に
移封して御座います」

将軍綱吉
「儂は、何で許したのか?」

柳沢吉保
「はい」
「備中国松山藩は赤穂が無血開城して
内蔵助が留まっておりました」
「赤穂は犬千代兄弟のお披露目が
叶いませんので・・」
「犬千代が御犬と為った時の褒美に
残しておけとの事」
「赤穂への褒美は後にせよとの指示で御座いました」

将軍綱吉
「御犬遊びは禁止されておる・・」

柳沢吉保
「はい」
「光圀がいる限り
御犬のお披露目は叶いません」

将軍綱吉
「諸藩で飢饉が起きておるな!」

柳沢吉保
「はい」
「百姓への引き締め強化により
飢饉が各地で起きております」
「引き締めを緩和為さいますか?」

将軍綱吉
「いや」
「更に、引き締めを強化せよ!」
「領民を見捨てるのじゃ!」

柳沢吉保
「隆光殿の呪術で
光圀を弱らせる方策で御座いますか?」

将軍綱吉
「隆光によれば
この飢餓を光圀が救えば
光圀は救われ
見捨てれば
光圀は終わると申しておる」
「光圀に対処されては計画が崩れる」

柳沢吉保
「御意」


            赤穂事件 忠臣蔵の題材



原 元辰
「お館様が回復為されました事
元辰も救われた思いに御座る」

浅野内匠頭
「其方は、儂が死んでも弟には仕えぬと申し
殉死を願い出たと聞く」
「正に、我が忠臣じゃ!」

原 元辰
「赤穂を支える、頭は
内蔵助や弟君では御座らん」
「二心が有っては為らぬと
内蔵助殿と契りを交わして参りましたぞ!」

浅野内匠頭
「内蔵助は何と申しておった」

原 元辰
「お館様を支えると
力強く申された!」

浅野内匠頭
「んんゥ」
「儂が退き
弟の大学が後を継ぐ事を
願ってはおらんのか?」

原 元辰
「我らがお慕い致すのは
親方さまだけで御座います」

浅野内匠頭
「んんゥ」
「内蔵助は大学でも良いのかと思っておった・・」

原 元辰
「いいえ」
「直接会って確認して参りました」
「弟君の事は、心配要りません」
「ご安心下さい」

浅野内匠頭
「一難去ってまた問題が起きた」
「吉良が儂の痘痕を治せと言って
しつこく纏わり付いておる
執念深い奴じゃが
今、吉良に逆らえる者は誰もおらん」

原 元辰
「男児たる者
顔の傷や凹み、容姿に拘ってはなりません」
「お館様の顔に痘痕があるのは
命を失いかけ、戦い、勝利した勲章で御座る」
「吉良などに、とやかく言われる筋合いは無い」
「全て、この元辰にお任せ下され」
「あ奴を、打ち据えてやりますぞ!」

浅野内匠頭
「いやいや」
「ちょと、待て」
「内蔵助といい
其方といい
乱暴はいかん」
「打ち据えるのは、簡単じゃが
後で、大変な事になる」
「んんゥ」
「儂も、吉良には愛想を尽かしておるが
其方は、吉良を仇のように憎んでおるぞ」

原 元辰
「吉良は、仇で御座る」
「我が父親は
吉良の陰謀に巻き込まれ
上杉を離れ、浪人となり路頭をさ迷ったのです」

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
綱勝の死因について
綱勝の死因について、吉良義央による毒殺説がある。これは綱勝の発病が妹の嫁ぎ先の吉良家を訪れた直後で、病状が悪化していることから唱えられた説で、小説や赤穂事件の解説書でも取り上げられることが多い。

浅野内匠頭
「それは、小説を面白くするための作り話と言われておるぞ」
「信憑性は無い」

原 元辰
「では、家老・大石良重殿の死因は何で御座る」
「あの時、吉良は菓子折りを毎日持って置いていった」
「吉良の陰謀ですぞ!」

浅野内匠頭
「その様な、事実は何も残されてないぞ」
「作り話じゃ」
「其方の思い過ごしじゃ」
「思い悩むな!」

原 元辰
「いいえ!」
「吉良上野介は上野国の領地を狙っておるのですぞ」
「今は、目立たぬ指南役として
身を隠しておりますが
上野国を奪い取、
老中格から大老になる公算で御座る」
「名実が伴えば、手に負えなくなります」
「今、吉良を成敗しなければ
赤穂の災いとなりますぞ!」

浅野内匠頭
「んんゥ」
「分かった」
「では、吉良の企みが明らかになれば
其方と相談して吉良に対抗しよう」
「今は、我らも身を隠す必要がある」
「吉良の企みを知らねばならん」

原 元辰
「いいえ」
「それでは、手遅れとなりますぞ!」
「吉良が悪さをする前に
始末するのです」

浅野内匠頭
「んんゥ」
「内蔵助も
吉良を太き棒で打ち据えてやると申しておる」
「儂も、同様じゃ」
「吉良は好かん!」
「しかし、今は為らん」
「忍耐じゃぞ」

原 元辰
「んんゥ」
「では、再び、吉良に痘痕を罵られたら
如何致しますか?」

浅野内匠頭
「其方が、教えてくれたではないか」
「これは、男の叙位じゃぞ」

原 元辰
「吉良が来れば
殴り飛ばす所存」
「吉良は許しません!」

浅野内匠頭
「儂も、殴られた吉良を見てみたいものじゃ」
「殴るにせよ、身元が分からんように
注意するのじゃぞ」
「今の吉良は危険じゃ」

原 元辰
「お館様に迷惑はかけません」

浅野内匠頭
「んんゥ」
「では」
「おとなしくしておれ」

原 元辰
「んんんゥむ」
「むずむずする」

浅野内匠頭
「どうやら
「儂が要らぬ事を申したようじゃな」
「忘れろ・・」

原 元辰
「んんんんゥ」
「忘れ・・・」
「ろと・・」

浅野内匠頭
「左様」

原 元辰
「・・・・」

浅野内匠頭
「儂も、全て忘れる・・」





           赤穂事件 天領の災難



池田綱政 (備前岡山藩の第2代藩主)
「上様からの御命令とはいえ
庶民を見捨てるので御座いますか?」

安藤重博 (備中国松山藩の初代藩主)
「左様」
「徹底的に厳しく締め上げよとの御触れで御座る」

池田綱政
「東北では飢饉がおきているとか・・」
「飢饉に備えよとの意味で御座いますか?」

安藤重博
「儂は、領地加増にて
この地に参った」
「上様は懸念をもっているのじゃぞ」
「上様は、犬の者のみ信用しておる」
「上様は、其方が犬の振りをしているのか見届けよと申された」

池田綱政
「はい」
「綱政は上様の忠実なる犬で御座います」
「側用人への下向も欠かせません」
「上様の命令に無条件で従います」

安藤重博
「よし」
「では、過酷な検地を実行する」
「其方も、横に習え!」

池田綱政
「では、余剰年貢米で飢饉の東北に援助しすば宜しいかと・・」
「幕府に献上して
飢饉に対処致しましょう」

安藤重博
「お主は、評判の馬鹿じゃな」
「儂は、改易した真田領地の沼田を天領として預かっておったが
その地で飢饉が起きた」
「そこで、幕府の援助を求め
天領沼田に援助米を施した事が有る」
「その後、残ったのは
幕府から借り受けた借款じゃ!」
「御人好しは、身を亡ぼす」
「上様は、庶民を見捨てよと申された!」
「より厳しい引き締めをせよとの御触れじゃ!」

池田綱政
「岡山の地は、豊かな農耕地が広がり
天候にも恵まれておりますから
過剰な検地は不要では御座いませんか?」

安藤重博
「年貢米は、多ければ多いほど良い」
「申告は少なく
取り立ては多くするのじゃ」
「そして、余剰米は幕府に献上する」
「岡山の地は、これから
この安藤重博が本尊となり
上様の意向に従い統治される」
「其方は、本尊に従う必要があるのじゃぞ」

池田綱政
「左様で・・」
「では、某は家老とも相談して
本尊の意に沿うような方向で対処しるように
申し付けます」

安藤重博
「家老などに相談せんでも
其方が藩主じゃろーが」
「ここで、決めろ!」

池田綱政
「それから、鳥取藩とも折り合いを付けねばなりません」
「某には、何も権限が御座いません」

安藤重博
「おい!其方は鳥取藩が分家だと主張しておるではないのか!
嘘を付くな!」

池田綱政
「某は、鳥取が分家だと思っておりますが
相手は、自らが本家だと主張しておりまして
どうにもこうにも為りません」

安藤重博
「兎に角、検地を厳しくするのじゃ!」
「厳しく、年貢を取り立て」
「百姓を見殺しにしろ!」

池田綱政
「それは、家老とも相談せねば・・」

安藤重博
「おい!」
「儂は、其方が忠実な犬となっておるのか
監視しておるのじゃぞ!」
「のらりくらりと誤魔化しおって!」

池田綱政
「某、正真正銘の馬鹿で御座います」
「全ては家老が決めております」
「某は何も決める事が出来ないのです・・」

安藤重博
「馬鹿犬か!」

池田綱政
「はい」
「馬鹿犬で御座います」

安藤重博
「馬鹿犬!」
「儂が、其方の主人じゃ!」
「厳しく躾てやる!」

池田綱政
「左様で・・」

安藤重博
「馬鹿犬めが!」


           赤穂事件 仇の吉良



原 元辰
「火消し大名復帰を、お祝い致します」

浅野内匠頭
「おおォ」
「すっかり良くなった」
「気分も良いぞ」

原 元辰
「仇の吉良が鼻の先におるのに
手出しが出せんのは残念じゃ」

浅野内匠頭
「上野寛永寺の根本中堂・文殊楼・仁王門が落成して
東山天皇に願っていた勅額がくるという」
「落成を祝う儀式が盛大に行われるが
この式典は吉良によって執り行われる」
「吉良の威光は高まるばかりじゃな」

原 元辰
「それは、その式典が滞りなく執り行われた場合じゃ」
「失敗すれば、奴の失敗となり
責任を問われる」
「失敗すれば問題ない」

浅野内匠頭
「もう止めろ」
「もう宜しい」
「吉良に構うな」
「あ奴の鬱陶しい顔が目に見えるぞ!」

原 元辰
「仇が近くにおるのに
殴る事も出来んのか!」
「なァ、お館!」
「あ奴を殴り飛ばしたい!」

浅野内匠頭
「駄目じゃぞ!」
「頼むから、いざこざを起こすな」
「今は、吉良に逆らえる者は
誰もおらん」
「吉良を殴っても
赤穂に利益はない」

原 元辰
「んんんゥ」
「むかむかする」
「なァ、お館!」
「むかむかするぞ!」

浅野内匠頭
「我慢じゃ」

原 元辰
「我慢出来ん!」
「あァ!」
「そうじゃ!」

浅野内匠頭
「如何した?」

原 元辰
「お館が、吉良屋敷を破壊すれば良い!」

浅野内匠頭
「えええェーー」
「儂が、吉良屋敷を破壊するって?」
「如何して?」

原 元辰
「お館は、火消し名人の大名じゃ」
「火事の延焼を防ぐ為に
吉良邸を破壊すれば良いのじゃ!」

浅野内匠頭
「んんゥ」
「吉良邸の横で火が上がれば
吉良邸を破壊せねばならんな・・」

原 元辰
「東山天皇に願っていた勅額が来る時に
吉良邸を破壊すれば
吉良の権威は地に落ちる」
「ついでに、吉良もやってしまえば
一石二鳥の戦果となる」
「名案じゃ」

浅野内匠頭
「おいおい」
「変な事を考えるな!」
「やり過ぎじゃぞ!」

原 元辰
「お館!」
「吉良から、また、痘痕を
からかわれたいのですか!」
「吉良の成功を
指をくわえて見ているつもりですか!」

浅野内匠頭
「んんゥ」
「如何する?」

原 元辰
「お館は、吉良邸を破壊するのです!」
「今、吉良を失脚させなければ
お館様は、吉良の犬に為ってしまいます」
「お館様は、犬になっては為りませんぞ!」

浅野内匠頭
「犬に為ったらダメか?」

原 元辰
「もしも、お館様が犬と為れば
お館様を殺して、某も殉死致します!」
「某は、犬に為った赤穂の藩主には仕えません!」
「これは、某の武士道で御座る」

浅野内匠頭
「・・・・・」
「犬に為ったら、
儂を殺すのか?」

原 元辰
「左様!」

浅野内匠頭
「・・・・」

 
            赤穂事件 犬千代の選択



吉良上野介
「上様は、穢れを恐れておられる」
「上様は、死・疫病・性交に穢れを抱いておられる」
「其方が疫病に罹った事は周知されておるのだ」
「だからな」
「やはり、其方は隠居すべきだと思うぞ!」
「隠居して、弟の犬千代に赤穂を譲れ!」
「それで、全てが上手くゆくのだ!」
「観念しろ!」

浅野内匠頭
「それは、赤穂で決める事」
「要らぬ口出しは為さらぬ様にお願い致す」

吉良上野介
「其方は、犬にも劣る、鮒じゃ!」
「世間の事を何も分かってはおらん」
「赤穂が決めると申すが
儂が許可しなければ
赤穂の世継は許されぬのじゃぞ」
「赤穂を生かすも殺すも
儂の一存で決まる」
「儂に逆らえば
赤穂は改易となる」

浅野内匠頭
「赤穂の存続を決めるのは
上様で御座る!」

吉良上野介
「左様」
「上様が、其方を寵愛していたのは
其方が新しい犬として相応しいからだと思ったからじゃぞ」
「側用人が、計画を立て」
「儂が実行した」
「全ては、上様の希望に沿った計画なのじゃ」
「儂の、提案は
上様の命令だと思え!」
「儂に逆らえば
赤穂の将来は無い」
「儂は、其方では無く
其方の弟を、上様に献上したい」
「其方は、身を引くのじゃ!」

浅野内匠頭
「顔の痘痕は目立たぬようになりました」

吉良上野介
「いいや」
「其方は、もう美しくは無いぞ」
「一度、疫病に罹った者を
上様が喜んで寵愛する筈が無い」
「其方を、献上すれば
儂が上様から叱られる」
「其方は、穢れてるのじゃぞ!」
「もう、其方に将来は無い」

浅野内匠頭
「一度、疫病に罹った者は
二度と同じ病には為らぬと言われております」
「某は、いたって健勝に御座る」
「また」
「上様に、お会いしたおりにも
以前と変わらぬ寵愛を受けております」
「上様は、某を必要とされておられる」

吉良上野介
「それは、其方を遠目に見ているからじゃ」
「本当に寵愛する者は
近くに寄り添い
話を為さいますぞ」
「其方を近づけないのは
其方に穢れを感じている証拠」
「上様は、一度でも穢れを感じた者を許せないのですぞ」
「もう、其方は、お終いじゃ」

浅野内匠頭
「いいえ」
「上様から直接
印籠を渡されなければ、納得できません」
「赤穂の領主は
赤穂で決める事」
「其方では無い」

吉良上野介
「おやおや」
「其方は、忠犬となる事を誓った筈ではないのかな?」
「もう、約束を破るのか!」

浅野内匠頭
「いいえ」
「某は、上様の忠実なる犬で御座る」

吉良上野介
「いいや」
「其方は、犬にも劣る、鮒じゃ!」
「鮒侍じゃ!」

浅野内匠頭
「鮒ならば都合がよい」

吉良上野介
「鮒の方が都合がよい?」
「如何いう意味かな?」

浅野内匠頭
「赤穂の藩士共は
武闘派ばかりでな
儂が、其方の犬に為る事を快く思っておらん」
「だから、鮒の方がましだと申した」

吉良上野介
「鮒にすら成れぬのに
犬には成れんな」
「ましてや、忠犬になど
絶対に為れん!」

浅野内匠頭
「儂が其方の犬に為れば
儂は、家臣に愛想を尽かれ見放される」
「儂は、其方の犬には為らん!」

吉良上野介
「弟の犬千代の方が躾が良いな」
「やはり、其方は、駄目じゃ!」
「其方を、上様に献上することは出来ん」
「諦めろ!」

浅野内匠頭
「赤穂は、武闘派で御座る」
「赤穂を舐めれば
痛い目に合いますぞ!」

吉良上野介
「おおおおォ」
「これはこれは」
「開き直りか!」
「痛い目?」
「今、儂に逆らえる者は誰もおらん」
「大老や老中が束になってかかっても
儂は負けん自信があるのだぞ」
「儂は上様から特別なるお許しを得ておるからじゃ」
「儂に逆らえば
逆らった者は、獰猛な犬に襲われる」
「獰猛な犬とはいえ、その犬を撃退しては為らんのじゃ!」
「生類憐みの令があるからな!」

浅野内匠頭
「やはり、噂は本当であったか!」

吉良上野介
「左様!」

浅野内匠頭
「儂に事実を知られたら困るぞ」

吉良上野介
「困るものか」
「其方は、もう終わっておる」

            赤穂事件 火消し名人



浅野内匠頭
「大老殿の働きにより
神田橋御番に復帰致しました」

井伊 直興
「わざわざ、挨拶に参られたか」
「病後で有ったので
本所での骨休めをさせておった」
「神田橋御番は過酷じゃぞ」

浅野内匠頭
「いいえ」
「赤穂の藩士は武闘派揃い」
「我らは、火事場で活躍致します」

井伊 直興
「其方の活躍は目覚ましい」
「何故、左様に働ける?」
「其方が御番すれば
大火は無いぞ!」

浅野内匠頭
「それは、地元赤穂に心配が無いからで御座る」
「内蔵助が赤穂を守り
某は、火消しに専念する」
「赤穂が豊かな土地に恵まれており
赤穂藩士が武士道で貢献しております故」

井伊 直興
「んんゥ」
「左様か・・」
「そろそろ、儂も、追放した藩士76人の帰参を考えねば為らんのォ」

浅野内匠頭
「はい」
「今、諸藩では飢饉が起こっております」
「飢饉で、百姓一揆が起こる事も考えられます」
「警戒せねば為りません」

井伊 直興
「んんゥ」
「守りを固める必要があるな」
「んんゥ」
「困窮と拝借金の支給を訴えた藩士76人を追放したが
誤りであった」
「その後、残った藩士に融資もしたし
上米も施した」
「しかし、追放した藩士76人が気掛かりじゃ」
「全て、儂の誤りであった・・」

浅野内匠頭
「藩士帰参が許されれば
一層の忠義に励む事で御座いましょう」

井伊 直興
「おおォ」
「左様か!」
「其方は、忠臣に恵まれておるな」

浅野内匠頭
「某は無骨な藩士に担がれておるだけ」
「多くは、家老の力添えで御座る」

井伊 直興
「今時、珍しのォ」
「もう、武士道は廃れ」
「武士よりも犬が天下を取っておる」

浅野内匠頭
「大老殿・・」
「御犬を批判する事は危険ですぞ・・」

井伊 直興
「んんゥ」
「各地で飢饉が起こっておるのに
幕府は何も出来ん」
「百姓一揆が起こるかもしれんのに
藩士は困窮しておる」
「これからが心配じゃ」
「火事も頻繁に起こっておる」
「其方も大変じゃが
頑張って欲しい」

浅野内匠頭
「はい」
「火消し大名として」
「火消し名人の名を轟かせ」
「武闘派としての赤穂を
世間に知らしめとう御座います」

井伊 直興
「んんゥ」
「しかし、本所は良い場所じゃと思うたが
神田橋近辺は忙しいぞ」
「何故、斯様な難所を望まれる・・」

浅野内匠頭
「それは・・」
「吉良邸を監視するには
絶好の場所で御座る」

井伊 直興
「吉良邸を監視?」

浅野内匠頭
「赤穂藩士の中に、吉良を仇として狙っておる者がおります」
「吉良の隙を狙うに
絶好の場所が神田橋で御座る」

井伊 直興
「吉良を仇に・・」

浅野内匠頭
「吉良が、生類憐みの令を利用して
悪事を働いている事は明らか」
「大老殿も難儀していると聞いております」

井伊 直興
「んんゥ」
「吉良だけではない」
「儂は、飾り物の大老じゃ」
「権限は、側用人が握り
吉良は指南役を振りかざし
好き勝手に決まり事を作り
難癖を付けておる」
「敵対すれば
狂犬を襲わせる」
「儂は、猪狩りを咎められ
あわや失脚の憂き目にもあった」

浅野内匠頭
「吉良は、排除しなければなりません」

井伊 直興
「左様・・」

          
           赤穂事件 陰湿な閑職誘導



酒井 忠挙 (溜間詰 酒井忠清の長男)
「老中殿は
「心が清く、私欲なく
私心を克服して、礼節を守る仁徳をもつとの
評判に御座います」

戸田 忠昌 (老中)
「おおォー」
「儂は、左様な良き評価を受けておるのか!」
「やはり、仁徳は必要じゃな」

酒井 忠挙
「某、24年ぶりの役職であるため、
戸惑うことが多くあります」
「老中・阿部正武殿や側用人の柳沢吉保殿に
問い合わせをしておりますが
要領を得ないので御座います」

戸田 忠昌
「それは、当たり前じゃ」
「其方は、閑職を申し付けられておる」
「暇つぶしの不要な人材なのじゃ」

酒井 忠挙
「しかし、某の元にも
色々と相談や勧誘が御座います」
「それらの苦情や 召請 に対処致しとう御座る」

戸田 忠昌
「聞き捨てならんな!」
「其方は、まだ謹慎が足らんようじゃな」
「其方は、何もせず、暇を潰してればよい」
「何もするな!」

酒井 忠挙
「では、老中殿が代わりに執り行って下さいませ」

戸田 忠昌
「儂は、忙しいのだ!」
「なのな、
越後領地が隠居した大政参与(稲葉正則)の息子の物になったから
稲葉の領地が空いたのじゃ
じゃからな、空いた小田原藩に大久保忠朝が入った
でな、今度は佐倉藩が空っぽになったから
儂が、佐倉藩を貰い受けたのじゃ」
「最近、高滝藩が天領地化されるとの噂があってな
儂は、廃藩となった高滝も貰い受けようとして
工作しておる」
「儂は、忙しいのじゃ!」

酒井 忠挙
「いえいえ」
「左様な事では御座いません」
「今、東北では天候不順で
飢餓が蔓延しております」
「幕府の援助を求めております
資金援助なり、備蓄米の放出なり
考慮しては貰えませんか?」

戸田 忠昌
「馬鹿を申すな!」
「左様な事は、百も承知である」
「儂を愚弄するつもりか!」

酒井 忠挙
「いえいえ」
「実際に、困窮が広がっておりますので
幕府としては、対策を立てねば為らぬと思いまして・・」

戸田 忠昌
「其方は、知らんのか!」
「もう、対策は立てておる」
「あのな、
儂が佐倉藩に移ったから岩槻藩が空地になった
だからな、そこへ側用人の
松平忠周が入ったのじゃぞ!」

酒井 忠挙
「えッ」
「あッ あのォ 何の事で・・」
「某は、幕府の援助の事を聞いております」

戸田 忠昌
「儂は、馬鹿では無いぞ!」
「左様な事は、百も承知じゃ!」
「あのな、
小出じゃ
但馬国出石藩小出がな無嗣断絶との噂がある」
「側用人の松平忠周を
但馬国出石藩に回せば
またまた岩槻藩が空地になる
其処に誰が入るのか
儂はな、これが今一番の関心事なのじゃ!」

酒井 忠挙
「んんゥ」
「老中佐倉殿は、
話をはぐらかせておられるのか?」

戸田 忠昌
「馬鹿を申すな!」
「儂は、何も変な事は申しておらんぞ!」
「其方は、気に為らんのか!」
「領地がころころと入れ替わる」
「誰かが、追われ
誰かが組み込まれる」
「追われたものは困窮し、
拾われた者は、安堵する」
「其方は、閉職じゃ」
「何もせんでも安泰じゃぞ」
「要らぬ心配をするな!」

酒井 忠挙
「しかし・・」
「幕府は、何もしないので御座いますか?」

戸田 忠昌
「やっておるぞ」
「実に、良くやっておる」
「実はな、今度は
松平光長殿の養嫡男の領地を探しておる
光長殿は未だ監視されておる存在であるがな
家柄もある
養子の嫡男に
城付きの領地を授けたいとの話がある
しかし、これには工作が必用じゃぞ」
「如何なる企みか
なァ
其方も興味があるじゃろ」

酒井 忠挙
「・・・」
「光長様は復権なされた
もう、監視は解いても宜いのかと・・」

戸田 忠昌
「いやいや」
「光長殿は駄目じゃぞ」
「我らは、厳しく監視する」
「光長殿を自由にしては為らん」

酒井 忠挙
「・・・・」

戸田 忠昌
「他に何か御座いますかな?」






        赤穂事件 元禄の大火



浅野内匠頭
「今回の大火は江戸城に迫る勢いであったが
其方の奮闘で延焼を免れた」
「大活躍であったぞ!」

原 元辰
「ちと、早く鎮火したなと思って残念ですぞ」

浅野内匠頭
「江戸城が火災から免れたのじゃ
大手柄ではないか!」

原 元辰
「ぐるりと火が回り
吉良邸の近くまで延焼すれば
吉良邸を破壊出来た」

浅野内匠頭
「お主は、破壊足りぬようじゃな」
「吉良邸に押し入ろうとして
拒まれたか?」

原 元辰
「我らが吉良邸を守ったようで
気分が悪いぞ!」



出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
元禄10年(1697年)旧暦10月17日に発生した、大塚の善心寺を火元とする火災、武家屋敷363を焼失。

浅野内匠頭
「今回の大火は
大塚の善心寺を火元として
北風に煽られ
小日向から牛込に燃え移り
多くの旗本や御家人屋敷を燃えつくした
大縄地の屋敷の立ち入りが許され
破壊しつくしたから
吉良邸は救われたのじゃな」

原 元辰
「もし、我らの火消しが叶わねば
吉良邸に火が及んでいた筈
我らが吉良邸を救ったのじゃ!」

浅野内匠頭
「確かに」
「皮肉な結果となったな」

原 元辰
「儂は吉良邸に押し入ろうとしたが
奴らは、火消しを拒んだ」

浅野内匠頭
「それには、無理があるぞ」
「火の手は、江戸城の反対側じゃ」

原 元辰
「もしも、こちら側だとして
奴らは如何する?」

浅野内匠頭
「当然、火消しを拒む事は出来ん」
「吉良邸を思う存分
破壊すればよい」

原 元辰
「むむむゥ」
「今回の無念
何時の日か晴らしてやるぞ」

浅野内匠頭
「おいおい」
「変な気を起こすでは無いぞ!」
「今回は、江戸城を救った英雄として
我ら赤穂の名が高まったのじゃ」
「火消し名人として
名を馳せたのじゃ!」

原 元辰
「次に大火があって
吉良が拒んだら如何しますか?」

浅野内匠頭
「延焼を防ぐ為じゃ
拒んでも構わぬ
強制的に立ち入り
屋敷を破壊すればよい」

原 元辰
「吉良の抵抗は激しい」
「我らと争っている間に
火の手が回り、手遅れになる」
「その場合は、如何致しますか?」

浅野内匠頭
「それは、その時に考えればよい」

          
          赤穂事件 善人の良将



戸田忠昌(老中)
「我ら老中三人組は
善人の良将と呼ばれておる」
「この評判に恥じぬよう
万全の態勢で臨まねばなりませんぞ!」

阿部 正武(老中)
「未だ我が屋敷には
多くの捨て子がいる」
「儂は、捨て子の世話などしたくないぞ」

大久保忠朝(老中首座)
「今回の大火で
捨て子も増えるな・・」

柳沢 吉保
「大火は江戸城の手前で鎮火出来た」
「城が燃えんでよかったぞ!」

戸田忠昌
「今回の大火鎮火は、赤穂の働きが大きいと思う」
「それ故、赤穂の主張を無視出来ん!」
「そこで、側用人の柳沢殿じゃが、
吉良殿に話を付けて頂けませんか?」

阿部 正武
「赤穂など後で良い」
「捨て子を何とかしてくれ!」

大久保忠朝
「水戸の隠居が、松平光長嫡男に
城付きの領地を授けよとの横槍が御座る」
「柳沢殿が対処して欲しい」

柳沢 吉保
「色々、あるのォ」
「赤穂は何をいってる?」

戸田忠昌
「赤穂は今回の大火で多くの旗本屋敷を取り壊し延焼を防ぎました」
「ただ、吉良屋敷への立ち入りは拒まれ
火消しに支障があったとの報告が御座った」
「今後の事もあるので
吉良殿に話を付けて頂きたいとの事で御座る」

柳沢 吉保
「吉良殿は上様の贔屓にある」
「よって、左様な報告は出来ぬ!」

阿部 正武
「捨て子を禁止しても
誰かが捨て子の面倒を見る必要が御座る」
「某は、もう限界で御座る」

柳沢 吉保
「上様は、生類憐みの令で対処なされた」
「引き続き、捨て子は其方が面倒を見なさい」

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
捨て子禁止令。「捨て子はいよいよ御禁制である。養育できなければ申し出なさい」
7歳までの子供の届け出制。「子供の出生、死亡、奉公、養子、引越、名主方の帳面につけ置くこと」

大久保忠朝
「水戸の隠居が光長嫡子に城付きの領地を与えよと申しておる!」
「如何為さる!」

柳沢 吉保
「光長に領地を与えれば
誰かが領地を奪われるのじゃぞ」
「其方の佐倉藩を与えるか?」

大久保忠朝
「馬鹿な!」
「嫌で御座る!」

戸田忠昌
「某に、妙案が御座る」
「日頃より生類憐みの令を快く思わぬ
森 衆利 を陥れましょう」

阿部 正武
「森 衆利殿は
武蔵国多摩郡中野村の犬小屋の普請総奉行として
その建設に当たった」
「積極的に貢献しておるぞ」

大久保忠朝
「いやいや」
「犬小屋建設で
大きな負債を持った事で
不平を言っておるそうじゃ」

柳沢 吉保
「んんゥ」
「仕方があるまいな」
「津山藩 森 衆利を改易させる」
「罠は、其方達で考えろ」

戸田忠昌
「では、
浪人を数名手配して下さい」

阿部 正武
「浪人を使うのは問題が御座る」

大久保忠朝
「左様」

柳沢 吉保
「如何なさいますかな?」

戸田忠昌
「浪人は、悪党じゃ」
「悪党がやらねば
善人が悪事を働かねば為らん」
「悪事は、悪党がすればよい」

阿部 正武
「左様か?」

大久保忠朝
「お主も悪党になるぞ」

柳沢 吉保
「では、この件は
老中にお任せ致す」


          赤穂事件 西山荘に隠居



徳川光圀
「光長(松平光長)殿嫡男の大名知行の成り行きは
芳しくないな」

安積澹泊
「上野国近辺は無理で御座います」
「空地には側用人の松平 忠周が入りましたが
直ぐに但馬国出石への転封となりました」
「そして、直ぐにその空地には小笠原長重が
転封しております」

徳川光圀
「大名知行は側用人や
犬大名ばかりじゃな・・」
「光長殿が復権しなければ
井伊大老も動きにくいぞ」
「もっと、幕府に催促するのじゃ!」

安積澹泊
「承知しております」
「ただ、不穏な動きが御座います」
「光長殿を引き立てる代償として
地方大名の改易を画策しているようで御座います」

徳川光圀
「柳沢じゃな!」

安積澹泊
「はい」
「只、柳沢は大久保忠朝を佐倉藩として
認識しているようで、
実際は、小田原藩に転封でありますから
大名知行に権限を行使していないようです」

徳川光圀
「んんゥ」
「誰の仕業か?」

安積澹泊
「側用人や犬大名の大名知行は
全て将軍の意向に御座います」
「空地への転封は
老中が相談して割り振りをしているようで御座います」

徳川光圀
「地方大名を改易させて
空地とする策略があるのか?」

安積澹泊
「空地がなければ
光長様嫡男に領地は御座いません」

徳川光圀
「左様な事は無いぞ!」
「廃藩地や天領が有る筈」
「越後高田藩もある」

安積澹泊
「越後高田藩には
稲葉正則の嫡子が転封しております」

徳川光圀
「兎に角、
側用人や犬大名ばかりを引き立てるのは宜しくない」
「厳重に抗議するのじゃ!」

安積澹泊
「承知しました」

徳川光圀
「それから、各地の天候不順で
飢餓が起きておる」
「水戸領内は如何じゃ!」

安積澹泊
「水戸は特産品が御座います」
「また、幕府からの多額の援助も御座います」
「飢餓は御座いません」

徳川光圀
「幕府の借款か!」

安積澹泊
「はい」
「多額の援助が御座います」

徳川光圀
「幕府からの借款に頼ってはならんぞ」
「節約せねば為らん」

安積澹泊
「はい」
「承知しております」
「天候不順での不作が原因で御座いますから
来季からは立て直しが出来るものと・・」

徳川光圀
「幕府からの資金援助が原因で
伊達騒動は起きた」
「越後騒動も幕府からの借款が
問題になった」
「同じ過ちを犯しては為らんぞ!」

安積澹泊
「はい」
「承知しております」

徳川光圀
「ところで、助さんは如何しておる?」
「最近、顔を見ぬな・・」

安積澹泊
「史館総裁を辞任して
屋敷で静養しております」

徳川光圀
「まだ、大酒を飲んでおるのか?」

安積澹泊
「はい、酒浸りで御座います」

徳川光圀
「体を壊しておるのではないのか?」

安積澹泊
「助さんはずいぶん前から
もう長くはないなどと申しておりましたが
某と会えば元気に振る舞っております」
「酒の飲み過ぎだと・・」

徳川光圀
「飢餓が起きれば
酒も飲めんぞ」

安積澹泊
「今から、
粗食に慣れておきませんと
大酒も、大食も体には良くありません」

徳川光圀
「左様」


           赤穂事件 光長の大名知行



戸田 忠昌(老中)
「我らは善人の良将」
「評判に恥じぬように政務を執り行う」

大久保忠朝(老中)
「式典は、吉良が取り仕切り
上野国領地は側用人に牛耳られようとしている」
「我らは、柳沢の許しがなければ
何も出来ん」

阿部正武(老中)
「捨て子を
儂に押し付けるのは無責任じゃ」
「皆が協力して養って欲しい」

戸田 忠昌
「捨て子の保護は阿部家の伝統じゃ」
「捨て子も成長すれば
良き働き手となる」
「代々、左様に、阿部家はして来た筈」
「今まで通りで宜しい」

大久保忠朝
「武蔵忍(阿部正武)殿は10万石の大領」
「上様も、其方の働きに感謝しておる筈」
「不平は御控え下さいませ」

阿部正武
「しかし」
「捨て子の引き取り手がありません」
「最近は、やたらと捨て子が増えて往生しておる」」
「もう限界で御座る」

戸田 忠昌
「もう、捨て子の話はよせ」
「それよりも、
光長殿の養嫡子(松平信富)の知行を得る事じゃぞ」
「光圀殿から再三の要請じゃ」

大久保忠朝
「んんゥ」
「井伊大老と光長殿、そして光圀殿が組めば
また、一波乱ありそうじゃな」

阿部正武
「浪人を使って、工作をすると申しておったが」
「如何為った?」

戸田 忠昌
「んんゥ」
「計画は順調に進んでおる」
「先ずは、生類憐れみの令により建設された武蔵国多摩郡中野村
の犬小屋を牢人に襲わせた」

大久保忠朝
「犬を殺したのか!」

阿部正武
「おいおい」
「武蔵国で変な事をされては困るぞ」
「問題が起きたら、其方が責任を取れ!」

戸田 忠昌
「だから、浪人を使ったのじゃ」
「森長成が罠に嵌った」

大久保忠朝
「森長成は発狂して死んだ・・」

阿部正武
「何故?」

戸田 忠昌
「浪人が犬小屋の犬を殺したからじゃ!」

大久保忠朝
「その責任を取って
森美作国津山藩は改易と・・」

阿部正武
「浪人の仕業ではないのか?」

戸田 忠昌
「森長成が不平を言って
発狂した罪じゃ」
「桑名藩松平定重が証人となる」

大久保忠朝
「左様に奪った領地を、光長殿に知行するのですか?」

阿部正武
「怨念がありますぞ」

戸田 忠昌
「領地は奪わねば得られる筈もあるまい」
「何処に新しい領地が勝手に生まれる訳でもない」
「与える為には、奪う必要が御座る」

大久保忠朝
「んんゥ」
「儂は、知らんぞ!」
「其方が、恨みを買え!」

阿部正武
「其方、長生き出来んぞ!」

戸田 忠昌
「仕方がないのじゃ」
「光圀殿が悪いのじゃ」
「儂ばかり悪者呼ばわりは為らんぞ」
「我らは、三人で善人の良将じゃぞ」
「悪いのは、光圀殿じゃ」
「領地は光長殿が奪ったのじゃ」
「儂らは、善人じゃぞ!」

大久保忠朝
「んんゥ」
「兎に角、このことは内緒じゃぞ」
「其方が、浪人を使った事が発覚すれば
我らも同罪と為り兼ねん」

阿部正武
「とばっちりは御免じゃ」

戸田 忠昌
「全ての祟りは儂が引き受ける」
「心配するな!」

大久保忠朝
「恐ろしいぞ」

阿部正武
「怖い、怖い」


出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
長成は27歳で死去した。将軍拝謁のための道中に同年7月11日、伊勢国桑名付近の縄生村に滞在中に発病した上、幕政を批判して発狂した。発狂の理由は、中野村の犬小屋で浪人たちがその収容した犬たちを沢山殺す事件を起こし、その管理を怠ったとして家臣の若林平内が切腹したことに対し、なぜこのような法令のために死なねばならぬのかという疑問があったからとされる。家臣は酒の席でのことと弁明をしたが、桑名藩より詳細な報告が幕府に入り、裁定により8月2日に改易となった。



           赤穂事件 光長の大名知行



戸田 忠昌(老中)
「我らは善人の良将」
「評判に恥じぬように政務を執り行う」

大久保忠朝(老中)
「式典は、吉良が取り仕切り
上野国領地は側用人に牛耳られようとしている」
「我らは、柳沢の許しがなければ
何も出来ん」

阿部正武(老中)
「捨て子を
儂に押し付けるのは無責任じゃ」
「皆が協力して養って欲しい」

戸田 忠昌
「捨て子の保護は阿部家の伝統じゃ」
「捨て子も成長すれば
良き働き手となる」
「代々、左様に、阿部家はして来た筈」
「今まで通りで宜しい」

大久保忠朝
「武蔵忍(阿部正武)殿は10万石の大領」
「上様も、其方の働きに感謝しておる筈」
「不平は御控え下さいませ」

阿部正武
「しかし」
「捨て子の引き取り手がありません」
「最近は、やたらと捨て子が増えて往生しておる」」
「もう限界で御座る」

戸田 忠昌
「もう、捨て子の話はよせ」
「それよりも、
光長殿の養嫡子(松平信富)の知行を得る事じゃぞ」
「光圀殿から再三の要請じゃ」

大久保忠朝
「んんゥ」
「井伊大老と光長殿、そして光圀殿が組めば
また、一波乱ありそうじゃな」

阿部正武
「浪人を使って、工作をすると申しておったが」
「如何為った?」

戸田 忠昌
「んんゥ」
「計画は順調に進んでおる」
「先ずは、生類憐れみの令により建設された武蔵国多摩郡中野村
の犬小屋を牢人に襲わせた」

大久保忠朝
「犬を殺したのか!」

阿部正武
「おいおい」
「武蔵国で変な事をされては困るぞ」
「問題が起きたら、其方が責任を取れ!」

戸田 忠昌
「だから、浪人を使ったのじゃ」
「森長成が罠に嵌った」

大久保忠朝
「森長成は発狂して死んだ・・」

阿部正武
「何故?」

戸田 忠昌
「浪人が犬小屋の犬を殺したからじゃ!」

大久保忠朝
「その責任を取って
森美作国津山藩は改易と・・」

阿部正武
「浪人の仕業ではないのか?」

戸田 忠昌
「森長成が不平を言って
発狂した罪じゃ」
「桑名藩松平定重が証人となる」

大久保忠朝
「左様に奪った領地を、光長殿に知行するのですか?」

阿部正武
「怨念がありますぞ」

戸田 忠昌
「領地は奪わねば得られる筈もあるまい」
「何処に新しい領地が勝手に生まれる訳でもない」
「与える為には、奪う必要が御座る」

大久保忠朝
「んんゥ」
「儂は、知らんぞ!」
「其方が、恨みを買え!」

阿部正武
「其方、長生き出来んぞ!」

戸田 忠昌
「仕方がないのじゃ」
「光圀殿が悪いのじゃ」
「儂ばかり悪者呼ばわりは為らんぞ」
「我らは、三人で善人の良将じゃぞ」
「悪いのは、光圀殿じゃ」
「領地は光長殿が奪ったのじゃ」
「儂らは、善人じゃぞ!」

大久保忠朝
「んんゥ」
「兎に角、このことは内緒じゃぞ」
「其方が、浪人を使った事が発覚すれば
我らも同罪と為り兼ねん」

阿部正武
「とばっちりは御免じゃ」

戸田 忠昌
「全ての祟りは儂が引き受ける」
「心配するな!」

大久保忠朝
「恐ろしいぞ」

阿部正武
「怖い、怖い」


出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
長成は27歳で死去した。将軍拝謁のための道中に同年7月11日、伊勢国桑名付近の縄生村に滞在中に発病した上、幕政を批判して発狂した。発狂の理由は、中野村の犬小屋で浪人たちがその収容した犬たちを沢山殺す事件を起こし、その管理を怠ったとして家臣の若林平内が切腹したことに対し、なぜこのような法令のために死なねばならぬのかという疑問があったからとされる。家臣は酒の席でのことと弁明をしたが、桑名藩より詳細な報告が幕府に入り、裁定により8月2日に改易となった。


            赤穂事件 偽善政治



 地方の各地で飢饉が発生していたが、幕府は見て見ぬふりを貫き、虐げられた農民の一揆は厳しく制裁され状況は悪化の一途をたどっていた。そんなおり、上野寛永寺の根本中堂・文殊楼・仁王門の築盛と式典に多額の資金が投入され法要の準備が行われた。
 
 吉良上野介は高家指南役として、この盛大な法要式典を厳粛に執り行うべく万全の準備をして
東山天皇に願っていた「瑠璃殿」の宸筆が彫り込まれた勅額が京都より到着するのを、今か今かと待ち構えていた。しかし、肝心の勅額はいつまで経っても届くことはなく、法要の予定日だけが、どんどんと近づいていたのだった。

吉良上野介
「薬師如来様お悦び下さい。寛永寺の根本中堂が完成しますぞ!」
「上野介は、この式典を見事に成し遂げて
上野国を手に入れる事になります」
「根本中堂に祭られし薬師如来に於かれましては
我らを極楽に導いき災厄なく健康に暮らせますように
家内安全の御利益を下さいませ」

薬師如来
「わたしを呼んだのは、誰じゃな」
「わたしに立派な御殿は不要じゃぞ」
「わたしを閉じ込めておきたいのか!」

ーーーー上野介には薬師如来の声は聞こえないーーーー

吉良上野介
「薬師如来、勅額が京都より到着しましたら
以下の御利益をお与え下さい」

「全ての疫病を消し去り
全ての貧困を消し去り
全ての災難を消し去り
全ての者に衣服をさずけ
全ての者に住まいをさずけ
全ての者を極楽浄土に御導き下さい」

薬師如来
「大袈裟な式典に莫大な資金を投入して
飢饉に喘ぎ自暴自棄になっている弱き者を見捨て
安楽の念願とは恐れを知らぬ身の程知らずであるぞ」

 ーーーー上野介には薬師如来の声は聞こえないーーーー

吉良上野介
「上様は
薬師如来を祭り、
全ての災厄を取り払う事に絶対なる自信を持っておられる」
「薬師如来は上様の期待に応え
上様の健勝を支え
上様の貢献に対しての褒美として
上様の絶対権力と共に
上様と上野介に不老不死をお与え下さいませ」

薬師如来
「安堵のおり、支配者は不老不死を願う」
「しかし、病のおり、不安のもとで
不老不死を願う者はおらんぞ!」

 ーーーー上野介には薬師如来の声は聞こえないーーーー

吉良上野介
「まっ」
「薬師如来など如何でもよいわ」
「アホらしい・・」

「あァ」
「薬師如来に天罰を受けては敵わん」
「いやいや」
「御利益、御利益」

薬師如来
「わたしは、天罰など与えた事はないぞ」
「天罰は、己の罪を償う手段」
「誰も逃れる事は出来ん」

 ーーーー上野介には薬師如来の声は聞こえないーーーー