アプリコット プリンセス

チューリップ城には
とてもチャーミングなアプリコット姫がおりました

徳川家綱 伊達騒動編 五

2021-10-29 10:50:00 | 漫画


里見重勝
「伊東理蔵重村の御子息?」
「七十郎殿か?」

伊東重孝
「はい」
「伊東七十郎重孝と申す」

里見重勝
「何用ですかな?」

伊東重孝
「はい」
「大学殿への信任を頂きたく
参上致しました」

里見重勝
「残念じゃな」
「儂は、大学殿と対決することを決めたのじゃ」
「後には、兵部殿をはじめとする一門が控えておる」
「今、儂が信任しても
後の祭りじゃ」

伊東重孝
「では、大学殿との対決をお止め頂きたい!」

里見重勝
「何故かな?」
「理由を聞こう!」

伊東重孝
「はい」
「第三代藩主伊達綱宗様強制隠居は
大叔父伊達兵部宗勝の陰謀で御座います」

里見重勝
「何と!」
「しかし、それは嘘じゃ!」
「強制隠居は放蕩、酒を飲み、遊びうつつをぬかして
おったからだ!」

伊東重孝
「いいえ」
「それは、兵部の悪知恵に間違い御座いません」

里見重勝
「理由は?」

伊東重孝
「はい」
「言葉狩りが止みません」

里見重勝
「・・・・」
「言葉狩りは公儀の者の仕業ではないのか?」

伊東重孝
「御存知とは思いますが
天下の伊豆守様がお亡くなりになりました」
「公儀はおとなしく成る筈です」

里見重勝
「では、言葉狩りは・・・・」
「兵部の仕業か?」

伊東重孝
「はい」
「兵部は幕府首座の忠清様に取りすがり
藩主綱宗様を強制隠居させ、
綱宗様の家来を全て抹殺しました」

里見重勝
「其方、その事を他の者に話してはおらんか?」

伊東重孝
「いいえ」
「大学殿が田村宗良様を第一人者として
取り立てており
兵部が立ち入る隙が有りませんでしたから
わざわざ、他の者にも話す必要は御座いませんでした」

里見重勝
「んんゥ」
「儂は、兵部に騙され利用されたのか?」

伊東重孝
「はい」
「兵部は仙台藩を横取りするつもりですぞ」

里見重勝
「お主が言う事が真であれば
敵は大学ではない、兵部じゃ!」

伊東重孝
「兵部は藩主を強制隠居させて
自分が仙台藩を仕切ろうとしております」
「兵部が権力を持てば
兵部に逆らう者は
全て抹殺されます」
「現に、藩主綱宗様の家来は
綱宗様の放蕩を見過ごしたとの因縁をかけて
抹殺しております」
「邪魔者と見なされれば
容赦なくやられてしまうでしょう」

里見重勝
「しかし、儂は、もう既に、兵部の策に嵌められておる」

伊東重孝
「いいえ」
「お味方致しますぞ」
「兵部と戦うことです」

里見重勝
「そうじゃが?」
「まだ、確信が持てん・・・」
「本当に、お主を信じて良いのかのォ・・・」

伊東重孝
「信じるも、信じないも」
「何れ、兵部が牙をむいて来ます」
「やられる前にやらねばなりません」

里見重勝
「んんゥ」
「承知した」
「じゃがな」
「だからと言って、儂は大学殿と協力は出来そうもないぞ!」

伊東重孝
「敵は、兵部、一人です」
「恐れる必要は御座いません」

里見重勝
「お主は気骨がある武士じゃ」
「んんゥ」
「兵部が牙をむいて来たら
決死の覚悟で戦おう!」

伊東重孝
「はい」
「我らに、協力する者もあります」
「兵部は手強き相手ですが
尻込みは致しません」
「戦いますぞ!」

里見重勝
「んんゥ」
「兵部は油断ならん相手じゃ」

伊東重孝
「はい」



伊東重孝
「影より失礼する」
「兵部殿で御座いますか」

伊達宗勝
「んんゥ」
「曲者!」
「大学の手の者か!」

伊東重孝
「七十郎重孝と申す」

伊達宗勝
「おおゥ」
「七十郎か!」
「何をこそこそと隠れておる!」

伊東重孝
「其方に天誅を加える ためじゃ!」

伊達宗勝
「儂に恨みでもあるのか!」

伊東重孝
「其方は、伊達政宗公の威光を辱めておる!」
「生かしておく訳にはいかん!」

伊達宗勝
「儂を父政宗公の実子十男と知っての狼藉か!」

伊東重孝
「如何にも!」
「わたしの祖父・伊東肥前重信は伊達政宗に仕え、
天正16年の郡山合戦において政宗の身代わりとなって戦死した」
「祖父の意思を引き継ぎ
天に代わり罰を与える!」

伊達宗勝
「では、尚更じゃ!」
「儂は政宗公の実子じゃぞ」
「儂を討つのはお門違いじゃ!」

伊東重孝
「其方は、直系の第三藩主綱宗様を陥れた
そして、仙台藩を乗っ取るつもりであろう!」

伊達宗勝
「あっははは」
「専横は大学殿の仕業じゃ!」
「其方は、敵を間違えておるぞ!」

伊東重孝
「騙されておるとな!」
「ふざけた事を」

伊達宗勝
「大学は蔵入り地を欲しがっておる」
「大学は田村宗良を第一人者に仕立てて
権力を己のものとして我が者顔じゃ!」
「のォ 七十郎殿」
「儂の味方にならんか?」

伊東重孝
「それは、兵部殿が策略じゃ!」
「儂は、其方の捨て駒にはならん!」

伊達宗勝
「若いのォー」
「返り討ちじゃ!」



徳川綱吉
「兄君」
「信子との結婚の儀におきまして
お祝い賜りましたこと」
「感謝申し上げます」

将軍家綱
「おおゥ」
「浄光院鷹司信子様ですな」
「良き、夫婦となれよ」

徳川綱吉
「有難きお言葉」
「感謝申し上げます」

将軍家綱
「久しく会っておらんかったが
元気に暮らしておるようじゃな」

徳川綱吉
「兄君にお願いが御座います」

将軍家綱
「えェ」
「何・・・・」

徳川綱吉
「儂を江戸幕府の将軍にして貰えないでしょうか!」

将軍家綱
「ちょっと待って・・・」
「あのなァ」
「今、儂が将軍じゃ」
「お主を将軍にしたら
儂は如何なる!」

徳川綱吉
「兄君には上野・館林藩を治めて頂きたい」

将軍家綱
「んんゥ」
「それはならんぞ」
「儂は、将軍に未練はないが
老中が納得しない」
「御三家が黙っていない」
「庶民が許さない」
「諦めよ」

徳川綱吉
「では」
「兄君が亡くなれば
儂が将軍か?」

将軍家綱
「おおォ」
「そうじゃな」
「儂が死ねば
儂の嫡子が将軍じゃ」
「其方では無い」

徳川綱吉
「では」
「嫡子無き場合は
儂が将軍か?」

将軍家綱
「うえェーー」
「あのなァー」
「老中やら御三家が集まって相談してから
次期将軍に相応しい者を決める」
「其方と決まってはおらんぞ」

徳川綱吉
「では」
「大老酒井忠清に命令しておけば
儂が次期将軍と成りうるのか!」

将軍家綱
「其方は、そんなに
将軍になりたいのか?」

徳川綱吉
「為りたいのではなく
絶対になるのです」
「儂は、将軍になります」

将軍家綱
「あまり、そのように申さぬ方が良いぞ」
「儂は、少々悲しくなってきた」

徳川綱吉
「兄君は将軍に向いておりません」

将軍家綱
「向かぬとな?」
「何故じゃ!」

徳川綱吉
「兄君は、家臣にバカにされております」
「つまり、舐められておるのです」
「将軍は家臣に命令する立場
バカな将軍は不要です」

将軍家綱
「・・・・・あのォ」
「儂はバカか?」

徳川綱吉
「はい」
「現に、御触れ一つ通りませんぞ!」

将軍家綱
「それは、そうじゃ」
「如何すればよい・・・」

徳川綱吉
「儂に将軍を譲りなさい」

将軍家綱
「それは為らぬと申しておろォーが」
「では」
「儂は、威厳が足りんのかも知れん」
「髭でもはやすか?」

徳川綱吉
「髭など生やしても同じ事」
「せめて、儂を見習い
家来を甘やかさぬ事です!」

将軍家綱
「儂は、家臣を甘やかして等おらんぞ」

徳川綱吉
「いいえ」
「甘やかしております」
「家来は犬と同じ」
「しつけが大切じゃ!」

将軍家綱
「・・・・爺をしつけるのか?」
「儂には向かん・・・」

徳川綱吉
「はい」
「兄君は将軍には向いておりません」

将軍家綱
「じゃがなァーーーー」
「変じゃぞ」
「其方は変じゃ」



将軍家綱
「体調が悪いと聞いて心配しておったが・・・」
「如何ですかな?」

顕子女王
「はい」
「あなた様のお顔を拝見したので
すっかり良くなりました」

将軍家綱
「無理をするではないぞ」
「奥の暮らし向きは如何じゃ?」

顕子女王
「はい」
「皆、良くしてくだしゃります」

将軍家綱
「んんゥ」
「綱吉が来てから其方が病に倒れた・・・」

顕子女王
「まァ」
「弟君が・・・珍しき事」

将軍家綱
「あの者とて、大奥に手出しは出来ぬと思うが・・・」

顕子女王
「はい」「婚礼の儀に一度お会いしましたが」
「それ以来、
弟様には、お会いしたことはありゃません」

将軍家綱
「いやいや」
「儂の考えすぎじゃ!」

顕子女王
「何をお考えでありんす?」

将軍家綱
「んんゥ」
「いやな」
「綱吉は鷹司信子と仲良くしておるそうじゃ」

顕子女王
「はい」
「良い夫婦におなりあそばされ・・・」

将軍家綱
「それがな」
「綱吉はしかめっ面で不愉快にしておるそうじゃ」

顕子女王
「まァ」
「それでは、仲良くありませんの?」

将軍家綱
「綱吉は笑わんのじゃ・・・」
「儂は、あの者が笑ったのを一度だけ
見たことがある」

顕子女王
「そうですの・・・・」
「いつも、しかめっ面の弟様で
ありんすね・・・」

将軍家綱
「其方は、いつも笑顔じゃのォ」

顕子女王
「はい」
「あなた様がいつも笑顔ですから
つられてしまいます」
「ほほ・・」

将軍家綱
「しかし」
「生まれて一度も笑った事が無い
綱吉の笑いは・・・・」

顕子女王
「さぞかし、楽しい笑いで
ありゃんすことと・・・」

将軍家綱
「いや」
「凄まじい笑いであった」
「悍ましい・・・・」

顕子女王
「いややわ・・」
「そんな怖い笑いなんてありゃんすか?」

将軍家綱
「ある」
「身の毛もよだつ恐ろしさじゃ・・・」

顕子女王
「いったい」
「何があったのかしら・・・」

将軍家綱
「んんゥ」
「其方は知らぬ方が良い」
「汚らわしい笑いじゃ!」

顕子女王
「はい」
「もう、怪談はやめましょう・・・」
「わらわは」
「もっと楽しい話が好きでありんす」

将軍家綱
「そうじゃ」
「綱吉の話をすると
怪談になってしまうな・・・」

顕子女王
「ところで」
「あなた様が対決すると申しておりました
老中の信綱様は如何なしゃりましたの・・・・」

将軍家綱
「あの者は亡くなった」
「良き、忠臣であった」
「儂は、大いに間違えておった」

顕子女王
「そうですか」
「お亡くなりになったのですか・・・」
「あなた様は良き家臣を
悪しき者と誤解為されておりましたの・・・」

将軍家綱
「そうじゃ」
「亡くして、はじめて
あの者の価値が分かった」
「儂は、間違っておった」

顕子女王
「御病気でありゃされて
亡くなりゃしったのかね・・・」

将軍家綱
「そうじゃ・・・・」
「間違いなくそうじゃ」

あの者の笑いは恐ろしかった

顕子女王
「何を申されたの・・・」



将軍家綱
「おい」
「命令じゃ!」
「お主は、老中として
仙台藩の騒動を調べろ!」

板倉重矩
「上様は御存知ありませんか?」
「重矩は老中を退き
京に参る事になりました」

将軍家綱
「えェ」
「何で?」
「儂が爺を老中に格上げしたばかりではないか!」

板倉重矩
「今、京の公卿は遊興にふけり
酒色、宴会三昧で御座います」
「これが、京の庶民にも伝搬し
京の町は乱れております」
「朝廷改革が目的に御座います」

将軍家綱
「えェ?」
「あのなァー」
「儂がな、吉良上野介を連絡役に指名しておるぞ?」
「朝廷との約束事は吉良上野介に任せておるぞ?」

板倉重矩
「はい」
「上野介殿は、お役御免に御座います」

将軍家綱
「上野介は駄目が?」

板倉重矩
「はい」
「吉良上野介殿は経験不足で御座います」
「重矩が京都所司代となり
公家による様々な醜聞を実際に調べ、
朝廷内部の深刻の状況を是正して参ります」

将軍家綱
「あのなァ」
「儂はなァ、佐倉藩の困窮の責任が
過度な幕府への依存心に因るものと認識しておるぞ」
「朝廷も同じじゃ」
「朝廷は過度に幕府に依存しておる」
「恩恵を受けすぎておるのじゃ」
「怠慢にもなる筈じゃ」
「根本的に問題があるのじゃ!」

板倉重矩
「上様!」
「朝廷は権威を持ち
幕府は朝廷の命により
権力を握っております」
「朝廷に権力が無い代わりに
幕府は朝廷を支えねばなりません」

将軍家綱
「んんゥ」
「しかしなァ」
「何もせずに贅沢に暮らしておると
酒におぼれて宴会三昧にもなる」
「農民の困窮を忘れてしまう」
「朝廷は支えねばならんが、
京の民は働く必要があるぞ!」

板倉重矩
「はい」
「しっかりと、調べて対処致します」

将軍家綱
「何じゃ・・」
「せっかく、爺を老中にしたのに・・」
「つまらん・・・」

板倉重矩
「上様には
感謝致しております」
「・・・・・・」
「上様?」

将軍家綱
「何じゃ!」

板倉重矩
「御髭を生やしておられますか?」

将軍家綱
「そうじゃ!」
「貫禄が足りんと言われたからな」
「立派に見えるか?む」

板倉重矩
「はァ」
「重矩には分かりませんが?」
「何方に言われたので・・・・?」

将軍家綱
「ん、綱吉じゃ・・・」

板倉重矩
「ほォ」
「弟君が・・・」
「して、他には何か申しておりませんでしたか?」

将軍家綱
「んんゥ」
「儂の代わりに将軍に成りたいと申しておった」

板倉重矩
「上様!」
「これは、謀反ですぞ!」
「綱吉殿は謀反人ですぞ!」

将軍家綱
「それは、言い過ぎじゃ」
「口が過ぎるぞ」

板倉重矩
「しかし」
「由々しき事ですぞ」
「このまま放置してはなりません」
「んんゥ」
「大老忠清殿に相談なされ」

将軍家綱
「其方は、忠清と不仲じゃろ」
「忠清は駄目じゃ」
「綱吉は忠清を完全に馬鹿にしておる」
「大老は名ばかり」
「忠清はな、綱吉を贔屓しておるぞ」

板倉重矩
「そんな・・・」
「ああァ」
「分かりました」
「では」
「京都所司代の任務を早々に切り上げて
帰って参ります」
「それまで、我慢して下さいませ」
「儂は命を懸けて
上様をお守り致します」

将軍家綱
「おいおい」
「大袈裟じゃのォ」
「儂を案ずる必要はないぞ!」
「それよりも、其方の方が心配じゃ」
「綱吉を甘く見てはならん」
「覚悟を決めて
事を運ぶ必要があるぞ」

板倉重矩
「何という事じゃ」
「この様な大切な時期に
儂は京に行くのか!」

将軍家綱
「もしかしたら、
爺は罠に嵌ったのかも知れんぞ」
「京への派遣は口実
本音は邪魔者を追い出したいのかも
知れんぞ!」

板倉重矩
「上様!」
「御気お付けて下さいませ!」
「爺は直ぐに帰って参ります」

将軍家綱
「んんゥ」
「でもな、心配はいらん」
「儂は大丈夫じゃ!」

板倉重矩
「はッ」
「では」
「安全のため
守役の者どもにも頼んでおきましょう」
「上様の御健勝をお祈りしております」



立花忠茂
「済まなかった」
「難儀であったな」

茂庭定元
「いいえ」
「奉行総括に復帰出来ました事
感謝申し上げます」

立花忠茂
「いいや」
「儂の力の及ぶ事ではない」

茂庭定元
「まだ、隠居為さるのは
早急だと存じますが?」

立花忠茂
「いや」
「もう相談役の任を続けるつもりはないぞ」

茂庭定元
「では」
「大学殿の後ろ盾は?」

立花忠茂
「伊豆守様が亡くなられた」「従って」
「もう、田村宗良殿を第一人者にしておくだけの
力が無いのじゃ」
「大学も権力を失った」

茂庭定元
「では」
「大学は退くのでしょうか?」

立花忠茂
「儂は、もう、大学の後ろ盾にはならん」
「後の事は、大学殿が自分で
決める事じゃ」

茂庭定元
「里見重勝は大学を討つべく立ち上がった」
「そして、伊東重孝は兵部殿を討つべく画策しておる」
「儂は、大学の専横を改めさせるべく
立ち上がった」

立花忠茂
「其方、もう大学には権力が無いぞ」
「従って、大学の専横は無い」
「問題は、兵部殿ではあるまいか?な」

茂庭定元
「しかし」
「儂は、兵部殿と約束しておる」
「大学の専横を咎めるべく立ち上がるつもりじゃ」

立花忠茂
「其方は、大学殿と対立して
奉行の任まで失った」
「恨みに思うのも分かるが
奉行総括としての自覚も必要じゃ」
「今は、大学が問題ではないぞ」
「兵部殿が専横じゃ」

茂庭定元
「んんゥ」
「しかし」
「儂は、兵部殿と約束しておる」
「如何すればよいのじゃ!」

立花忠茂
「伊東重孝は
祖父が政宗公の身代わりとなって
討ち死にしておる」
「そして、其方の方も左月斎が
政宗公を逃がすために討死しておる」
「共に、良き忠臣じゃ」
「じゃがな」
「兵部は如何じゃ!」
「あの者は、仙台藩を本藩より
乗っ取るつもりじゃ」
「とても、忠臣とは言いがたいな」

茂庭定元
「んんゥ」
「しかし」
「大叔父様ですぞ」
「乗っ取りとは言い過ぎじゃ!」

立花忠茂
「本藩綱宗様を強制隠居させ
綱宗様の家臣を皆殺しにしたのは
誰ですか?む」

茂庭定元
「お言葉ですが」
「綱宗様は放蕩三昧
お酒と遊びが止まらぬ事を咎められたのです」
「その家臣は、綱宗様の放蕩を放置した罪に御座いますぞ!」

立花忠茂
「それでは」
「其方は、実際に綱宗様の放蕩を見聞きし、確認しておりますかな?」

茂庭定元
「何度も注意致しました」

立花忠茂
「実際に見たのかな?」

茂庭定元
「はい」
「酒を飲み、宴会を為さっておりました」

立花忠茂
「儂も、酒を飲むぞ」
「客を招き、宴会も催す」
「それが、放蕩三昧か!」

茂庭定元
「んんゥ」
「しかし、皆がそう申しておる・・・」

立花忠茂
「これは、兵部の策略じゃ」
「伊東重孝が危険じゃ!」
「更には、里見重勝殿にも危険が迫っておるぞ!」

茂庭定元
「お言葉ですが・・」
「里見重勝殿は兵部殿に従い
先鋒となって大学に挑んだのです」
「何故、
里見殿が兵部殿に狙われるか
分かりません」


立花忠茂
「里見重勝の先鋒を手柄としないためじゃ」
「大学失脚の手柄を里見殿から奪い取るためじゃ」

茂庭定元
「んんゥ」
「儂は、如何すれば良いか分からん!」
「もし、兵部殿が
里見殿を討ち滅ぼす事でもあれば
儂の決心も付くのじゃが・・・」
「今は、兵部殿を信頼しておる」

立花忠茂
「そうか」
「儂の憂慮であれば良いが」

茂庭定元
「はい」
「兵部殿は今まで大学の専横にも
耐えておりました」
「先の、策略、陰謀は相談役の憂慮に御座います」

立花忠茂
「憂慮か否か」
「今に、分かる」
「しかし、分かった時には、もう遅い」

茂庭定元
「んんゥ」








伊達宗勝
「伊東重孝を遣わしたのは
貴様か!」

田村宗良
「アワァ」
「叔父君・・・?」
「いきなり、ビックリさせないで下さい」
わたしは、何もしていませんよ」

伊達宗勝
「重孝が儂の命を狙っておる」
「貴様の企みか!」

田村宗良
「アワァアワァ」
「何でわたしが
叔父君を・・・」
「決して、わたしは
その様な事を考える事など
ありませんよ」

伊達宗勝
「嘘を付けば
貴様を始末する事など
容易いことじゃ」
「分かっておろォーな!」

田村宗良
「何をお疑いですか・・・」
「わたしは、後見人を降りたい・・・」
「頼むから、儂を虐めないで
おくれよ・・・叔父君・・」

伊達宗勝
「ふんゥ」
「相変わらずの腰抜けじゃ」
「貴様など恐れてはおらん!」
「後見役は降りるな!」
「貴様は、第一人者として
仙台藩の頭ではないか!」

田村宗良
「うェー」
「儂は頭などに為りたくなぃょ」

伊達宗勝
「いや」
「貴様が頭じゃ」
「儂は、貴様を利用して
権力を持つことにした」
「文句があるか!」

田村宗良
「頼むから、
後見役を降ろして下さぃ」

伊達宗勝
「いいや、駄目じゃ!」
「儂は権力を掌握できれば
それでよい」
「貴様は、名ばかりの
第一人者であれば良い」

田村宗良
「ひェーー」
「何で、儂ばかり虐めるの・・」
「叔父君が名実共に
権力者になれば良いではありませんか・・・」

伊達宗勝
「儂は、重孝に狙われておる」
「身の安全の為
貴様を利用する!」

田村宗良
「儂は、叔父君の身代わりか?」

伊達宗勝
「そうじゃ!」
「文句があるか!」

田村宗良
「だけど・・ね」
「それでは、儂は叔父君の
警護をする家来ではありませんかァ・・・」

伊達宗勝
「不満か!」
「不満など許さん!」
「それから、里見重勝が大学を失脚させた」

田村宗良
「大学殿が失脚ですか・・・」
「それは、良かった・・・」
「里見殿を引き立てねばなりませんな」

伊達宗勝
「いや」
「里見重勝は始末する」

田村宗良
「ぎョォえェーー」
「恐ろしいぃぃ」
「叔父君ぃぃー」
「お止め下さいぃぃー」
「お許しくださいぃぃぃぃーーー」

伊達宗勝
「肝っ玉の小っちゃい奴じゃ」
「虫けらじゃ」
「貴様も始末されたくなければ
大人しく言う事を聞いておれ!」

田村宗良
「ぅぅぅぅ・・・ェ」
「震えが止まらないぃぃぃぃーーィ」

伊達宗勝
「里見重勝は先陣を切って
大学を失脚させた功績を手柄と勘違い
しておる」
「出しゃばった奴が
始末されれば
貴様の名ばかりの権力は大きくなる」
「儂は、貴様を利用して
実際の権力を握る!」

田村宗良
「叔父君ぃぃ~」
「権力など要らないょ~」
「助けて~」

伊達宗勝
「貴様は、そのように
震えておれば良い!」
「そして、儂の身代わりになれ!」
「がっはははーー」

田村宗良
「叔父君ぃぃ~」
「伊東重孝殿は儂を狙うのか?~」
「怖いぃぃ」

伊達宗勝
「貴様は儂の身代わりじゃ!」
「儂の代わりに打たれて去れ!」

田村宗良
「何で?」
「何でよ?」
「何で儂が身代わりに
為らんといけんのじゃ~~~~」

伊達宗勝
「嫌か?」

田村宗良
「もう、逃げるからね」
「逃げてやる」
「嫌だ、嫌だ」

伊達宗勝
「脅かし過ぎたな」「安心しろ」
「大丈夫じゃ」
「お主をやっても意味は無い」
「重孝の標的は儂じゃ!」
「お主では無い!」

田村宗良
「ううゥゥゥうぅぅ」
「叔父様のいけず」



伊達 宗興(宗勝の嫡子)
「父上」
「何か御座いましたか?」

伊達兵部宗勝
「伊東重孝が儂を狙っておる」
「其方も気お付けろ」

伊達 宗興(宗勝の嫡子)
「はい」
「噂は、真でしたか・・・」
「儂は、父上をお守りすべく
対処致します」

伊達兵部宗勝
「よし」
「重孝を返り討ちじゃ!」
「共に、警戒を怠らず
先手を打つぞ!」

伊達 宗興(宗勝の嫡子)
「はい」
「お任せ下さい」

伊達兵部宗勝
「ところで、姫君とは
仲良く暮らしておるな」

伊達 宗興(宗勝の嫡子)
「はい」
「大老様(酒井忠清)より預かりし姫君(公卿の娘)です
大切にしております」

伊達兵部宗勝
「大老様より姫君を正室に迎えたのは
幕府の後ろ盾を得るためじゃ」
「宗興は陸奥一関藩一門より脱して
仙台藩の一大勢力となり
仙台藩の当主を目指せ!」

伊達 宗興(宗勝の嫡子)
「はい」
「大きな志で
仙台藩を纏め上げて参ります」

伊達兵部宗勝
「今までは、おとなしく
奥山大学に従っておったが
大学は失脚した」
「大学の権力は無くなった」
「如何してだと思う」

伊達 宗興(宗勝の嫡子)
「はい」
「一関藩一門に正室(酒井忠清の養女)を迎えたからで
御座いましょう!」

伊達兵部宗勝
「そうじゃ」
「では」
「今まで、再三のお願いが叶わず
今になって婚姻が叶ったのは何故だと思う」

伊達 宗興(宗勝の嫡子)
「それは、父上の熱心な努力の賜物だと
感じ要ります」

伊達兵部宗勝
「いや、違う!」
「儂が今までおとなしくしておったのは
天下の伊豆守が君臨していたからじゃ!」
「そして、お前に姫君を迎えることが
出来なかったのも、伊豆守の影響じゃ!」

伊達 宗興(宗勝の嫡子)
「左様に御座いましたか・・・」

伊達兵部宗勝
「そうじゃ」
「宗興は仙台藩だけを考えておっては為らんぞ!」
「幕府との関係は
何よりも大切じゃ」
「幕府と良好な関係を保つには
何が必要か分かるか!」

伊達 宗興(宗勝の嫡子)
「はい」
「幕府の有力者との
婚姻血族関係を保つ事で御座います」

伊達兵部宗勝
「不十分じゃ!」

伊達 宗興(宗勝の嫡子)
「はい」
「直轄領地を新田開発で拡大して
勢力、権力を強化する事で御座います」

伊達兵部宗勝
「まだ、不十分じゃ!」

伊達 宗興(宗勝の嫡子)
「まだ、何か御座いますか?」

伊達兵部宗勝
「宗興は大切な事を知らない」

伊達 宗興(宗勝の嫡子)
「はい」
「国作りには人材が必要不可欠です
優秀な家来を訓練し
田畑は検地、町は流通を円滑に
国の富を発展させる事に
御座います」

伊達兵部宗勝
「ほーォ」
「宗興は優秀じゃ!」
「しかし、まだ不十分じゃ!」

伊達 宗興(宗勝の嫡子)
「はい」
「では、副産業を発展させましょう」
「仙台は、魚が豊富に取れますが
漁業は遅れております」
「副産業で国は豊かになります」

伊達兵部宗勝
「バカが!」
「百姓は米作りに精一杯じゃ」
「米が取れずして、副産業か!」

伊達 宗興(宗勝の嫡子)
「では」
「何が足りませんか?」

伊達兵部宗勝
「んんゥ」
「最も必要なのは」
「資金じゃ!」
「今、仙台藩に必要不可欠なのは、金なんじゃ!」

伊達 宗興(宗勝の嫡子)
「はい」
「年貢を取り立て資金とします」

伊達兵部宗勝
「んんゥ」
「仮早稲米の事は知っておるな!」

伊達 宗興(宗勝の嫡子)
「はい」
「存じております」

伊達兵部宗勝
「幕府と良好な関係を保つには
仮早稲米の秘密を漏らしてはならん
これは、伊豆守より
大老(酒井忠清)に引き継がれた」



伊達宗勝
「意地をはるな!」
「帥の心意気は良く分かったぞ」
「降参して儂に下れ!」

伊東重孝
「いいえ」
「やり口が卑怯で御座います」
「伊達政宗公の威厳を損なう事を
為さりますな!」
「今からでも良い、
縄を解き、神妙に勝負しろ!」

伊達宗勝
「帥は、文武に優れ気骨ある武士じゃ!」
「儂に逆らうな!」
「儂の家来になれ!」

伊東重孝
「いいえ」
「天誅あるのみ」
「儂に代わり、天が其方に罰を与える!」

伊達宗勝
「帥は、儂を卑怯者呼ばわりするが
伊東采女重門と共闘しておるではないか」
「単身で勝負するのが正義ではないのかな」
「正々堂々とな!」

伊東重孝
「伊東采女重門は見届け人じゃ!」
「天誅は天の意思」
「事の成り行きを見届ける者は必要じゃ!」

伊達宗勝
「帥に、天の意思などと言う資格があるか!」
「縄に掛かり、俎板の鯉じゃ」
「天には見放されておるぞ」
「観念しろ!」

伊東重孝
「政宗公の威信を損なう言動、
許しがたい!」
「其方が、伊達政宗公の十男で有る事が
恥かしい」
「今からでも良い、
改心せよ!」
「正々堂々と勝負せよ!」

伊達 宗興
「父上!」
「この者、反省も無く
ひたすらに自分の正義を主張しておるだけ
時を損じるだけに御座います」

伊達宗勝
「何故、儂を討つ事を願う!」
「申してみよ!」

伊東重孝
「果たし状に書いておった筈じゃ!」
「其方は、君主綱宗様を強制隠居に追い込み
仙台藩を乗っ取るつもりじゃ!」
「そのような謀反は許さん!」

伊達宗勝
「それは、誤解じゃ」
「綱宗は、放蕩三昧で藩に多額の借金を作ってしまった」
「再三の注意にも耳を貸さぬ横暴ぶりじゃった」
「止むを得ず、しょうがなく、仕方なく
涙を呑んで対処したのじゃ!む」

伊東重孝
「それは嘘じゃ!」

伊達 宗興
「無礼者!」
「父上を嘘つき呼ばわりとは
不届き千万!」
「死罪に値すぞ!」

伊達宗勝
「何故、儂が嘘を付いておると思う?」
「申してみよ!」

伊東重孝
「言葉狩りは兵部殿の仕業じゃ!」
「綱宗様の放蕩三昧はでっち上げの捏造じゃ!」
「全ては、兵部殿の策略じゃ!」

伊達宗勝
「んんゥ」
「其方を、このまま逃がす訳にはいかんな・・・・」
「覚悟は出来ておるか?」

伊東重孝
「絶食だけでは抗議にならんか!」
「其方には
やはり、天罰が必要じゃ!」
「儂は、囚われの身
抵抗は絶食のみ」
「覚悟は出来ておる」
「しかし」
「天は、お主を許しませんぞ!」

伊達 宗興
「父上!」
「この者を味方にするのは無理で御座います」
「この者の一族もろとも破滅で宜しいかと・・・・」

伊達宗勝
「米ヶ袋の刑場を用意する」
「覚悟しておれ!」


伊達宗勝(兵部)
「おい」
「くるくるの風見鶏!」
「今度は、こっちに風が吹いておるぞ!」

原田宗輔(甲斐)
「嫌味を申すな」
「大学が失脚しては、
田村宗良が第一人者の役目が出来ん」
「其方が頭になっては如何じゃ!」

伊達宗勝(兵部)
「同然、儂は仙台藩当主同様の
権力を持つ事となる」
「宗良は身代わりじゃ!」

原田宗輔(甲斐)
「しかしな」
「儂は奉行であり、裁きもある」
「更には、奉行総括の茂庭定元殿を
蔑ろにしておりますぞ!」

伊達宗勝(兵部)
「んんゥ」
「今は、目付の方が便利じゃからな」
「奉行は、不要じゃ!」

原田宗輔(甲斐)
「では」
「幕府の確認書も目付に頼むおつもりか?」

伊達宗勝(兵部)
「目付には出来んか?」

原田宗輔(甲斐)
「当たり前ですぞ!」「出来る訳が御座らん!」
「何のための奉行ですか!」

伊達宗勝(兵部)
「んんゥ」
「よし」
「其方とは、和解じゃ」
「儂の味方となれ!」
「風見鶏よ!」

原田宗輔(甲斐)
「それから」
「伊達宗重と伊達宗倫の間で領地争いが激化しておる」
「奉行の裁きが必要じゃが
儂が決着させても良いか?」

伊達宗勝(兵部)
「馬鹿を申すな!」
「領地争いは領主の決定が優先される」
「しかし、領主様は赤子じゃから
儂が代わりに裁くことになるぞ!」

原田宗輔(甲斐)
「ああ、そうじゃ」
「藩主亀千代様を毒殺しようとした者は
見つかりましたか?」

伊達宗勝(兵部)
「知らん」
「儂は、知らんぞ」

原田宗輔(甲斐)
「調べないのですか!」

伊達宗勝(兵部)
「調べは不要じゃ」
「事件は未遂に終わっておる」
「調べるだけ無駄な事」

原田宗輔(甲斐)
「んんゥ」
「目付の監察権を強化しておるのに
重大な事件を調べないのは
問題ですぞ!」

伊達宗勝(兵部)
「目付はな言葉狩りに忙しいのじゃ」
「今、必要なのはな
真相解明ではなく
真相を闇に葬る事じゃ」

原田宗輔(甲斐)
「其方の仕業なのか?」

伊達宗勝(兵部)
「だから、申しておるじゃろーが」
「儂は、知らん!」
「嫌なら、儂と対決じゃ!」
「其方など、簡単に失脚させる事が出来るぞ!」
「黙って、儂に従え!」

原田宗輔(甲斐)
「儂を敵に回せば
お主も困るぞ!」
「目付は幕府に顔がきかん
儂にしか出来ん仕事があるぞ!」

伊達宗勝(兵部)
「何の事は無い」
「儂には、大老(酒井忠清)が付いておる
儂の名を掲げれば
幕府との連絡に苦はないぞ」
「其方などの働きに意味は無い!」

原田宗輔(甲斐)
「んんゥ」
「また」
「対立しますかな?」

伊達宗勝(兵部)
「いやいや」
「言い過ぎたようじゃ」
「儂は、敵を作り過ぎておる
其方は、数少ない味方じゃ」
「儂の助けとなれ!」

原田宗輔(甲斐)
「では」
「正直に申されよ!」

伊達宗勝(兵部)
「儂は、正直じゃぞ」
「儂は何も知らんのじゃ」
「知らんものは、知らん」

原田宗輔(甲斐)
「んんゥ」
「我らは、味方同士じゃ」
「隠し事は困る」

伊達宗勝(兵部)
「おい」
「誰にものを申しておる!」
「お主は、今まで大学にうつつをぬかしておったのに」
「風見鶏の分際で」
「貴様にとやかく言われる
筋合いなど有りはせん!」

原田宗輔(甲斐)
「では、儂と対立かな?」

伊達宗勝(兵部)
「いやいや」
「済まん」
「儂の悪い癖じゃ!」
「許せ」
「其方には期待しておるぞ」

原田宗輔(甲斐)
「では、秘密を明かしてくだされ!」

伊達宗勝(兵部)
「んんゥ」
「聞いたら後戻り出来んぞ!」
「お主も地獄の一丁目に足を踏み入れる事になるぞ!」
「覚悟は出来ておるな!」

原田宗輔(甲斐)
「地獄・・・」



伊達宗勝(兵部)
「領地争いが過激になっておるそうだな」

伊達宗重(安芸)
「はい」
「伊達式部の登米領地拡大が我が
新田と隣接するに及び、領地の境界線で
いさかいが御座います」

伊達宗勝(兵部)
「其方は、里見重勝と密約がある筈じゃ!」

伊達宗重(安芸)
「えェ」
「里見殿は貴方の命令を受けて
先陣を切って奥山大学を失脚させた功労者ですぞ!」
「密約とは・・人聞きが悪う御座います」
「御謝り下さい!」

伊達宗勝(兵部)
「里見重勝の資産を没収して
改易をする手筈じゃ!」

伊達宗重(安芸)
「何と!」
「里見殿に何の落ち度が御座いますか?」

伊達宗勝(兵部)
「あの者は、儂のやり方が
気に入らんと申してな」
「儂に歯向かって来おった」
「無礼な振る舞いを許す訳にはいかん」

伊達宗重(安芸)
「歯向かった?」
「兵部殿が襲われたので?」

伊達宗勝(兵部)
「儂は、襲われるほど愚かではないぞ!」
「襲われる前に、手を打つ」
「儂に歯向かう者は
破滅の道を進むことになる」

伊達宗重(安芸)
「んんゥ」
「儂らは奥山大学の専横を許さず
立ち上がり失脚させたのですぞ」
「今度は、兵部殿が専横で御座る」

伊達宗勝(兵部)
「大学など始めから脅威では無かった」
「儂を専横と呼ぶならば
其方の手で、儂を失脚させてみろ!」

伊達宗重(安芸)
「んんんゥ」
「無茶を申すな!」
「余りにも、横暴じゃ!」

伊達宗勝(兵部)
「其方は、領地の境界線で争っておる」
「儂には勝てんぞ!」

伊達宗重(安芸)
「兵部殿!」
「それは、余りにも理不尽ですぞ」
「人の弱みに付け込むとは
武士の風上におけない、鼻持ちなりません!」

伊達宗勝(兵部)
「では」
「其方は、里見重勝と共闘して
儂と戦うつもりなのか?」

伊達宗重(安芸)
「其方は、里見家を改易させると申しておる」
「まさか、我が涌谷伊達家一門を改易させるつもりで・・・」

伊達宗勝(兵部)
「そうじゃのォー」
「改易もおもしろいのォー」

伊達宗重(安芸)
「儂に、何の罪がある!」

伊達宗勝(兵部)
「罪など、いくらでも有るぞ」
「改易させた後からでも
罪を作ることは出来る」
「其方は、儂に付き従い
協力して事を運ぶ方が良い、
それが、利口者のする事じゃと
思わんか!」

伊達宗重(安芸)
「んんゥ」
「これは、大学以上の専横じゃ!」
許しがたき独善じゃ!」

伊達宗勝(兵部)
「何じゃ!」
「お主は、儂に逆らうつもりか?」

伊達宗重(安芸)
「逆らう?」
「兵部殿の意に添わぬものは
反逆者と申されるか!」

伊達宗勝(兵部)
「実はな、式部(伊達宗倫)は
儂に下っておるぞ」
「お主の抱えている
領土問題で不利に働くかもしれんな・・・」

伊達宗重(安芸)
「嘘を申すな!」

伊達宗勝(兵部)
「儂と対立しても
何も良い事など有りはしない」
「もっと、実益になるように
考えたら如何じゃ!」

伊達宗重(安芸)
「其方のような陰謀を企む者と
共に仮に発展したとしても、
長続きなどしない」
「悪事は、いずれ裁かれる」

伊達宗勝(兵部)
「おいおい」
「儂を悪者扱いは無いぞ」
「儂は、仙台藩を強くしたいのじゃ」
「強くなければ、
それこそ、長続きなどしないぞ」

伊達宗重(安芸)
「でわ、儂に如何しろと申される!」

伊達宗勝(兵部)
「儂はな、本藩の権力が弱っておると
感じておる」
「これは、先の藩主綱宗の放蕩三昧が原因じゃ」
「儂は、後見役として、
仙台藩を強くしたい」
「本藩を強くしたいのじゃ!」
「其の為には、
我が一関藩が第一に強くなければ為らん」

伊達宗重(安芸)
「では、第一人者の田村宗良殿を
引き立てれば宜しい!」

伊達宗勝(兵部)
「いやいや」
「あの者は藩主には向かん!」
「それよりは、式部じゃのォー」

伊達宗重(安芸)
「んんゥ・・」
「それは、我が領地争いをしている相手・・・」








田村宗良
「其方」
「大叔父の嫡子じゃのォ」
「儂に、何か用か?」

伊達 宗興
「はい」
「今、父上は大変な難儀に御座います」
「なにとぞ、御力を承りたく
参上致しました」

田村宗良
「大叔父様の力になれるほど
儂には権力は無い」
「諦めろ」

伊達 宗興
「いいえ」
「諦めて済む問題ではありません」

「願い事が御座います」

田村宗良
「・・・・」
「何・・・・・じゃろ?」

伊達 宗興
「はい」
「一門の宗重殿と式部殿の間で
領地争いが
激化している事は承知していると思いますが
本藩として式部殿に御味方願いたいと思っております」
「是非、式部殿の御味方になって頂きたいのです」

田村宗良
「それは、其方が直接に式部に申し付けるべき事じゃ」
「儂には、その様な力はない」
「諦めてくれ」

伊達 宗興
「では」
「岩沼(宗良)殿は我が父君に対抗為さるのですか?」

田村宗良
「えェ」
「何で・・そうなる」
「対抗などするものか!」
「ごッ誤解するなよョ」

伊達 宗興
「では」
「父君と共に安芸殿(伊達宗重)に立ち向かう
覚悟を決めて下さいませ!」

田村宗良
「んんゥ」
「覚悟など無い」
「儂は、安芸殿に恨みはないぞ」
「其方の願いは一方的じゃ!」

伊達 宗興
「しかし」
「実際、領地争いが御座います」
「本藩としては、式部殿に御味方するのが
得策で御座いますぞ」

田村宗良
「本藩は亀千代様じゃ」
「儂は岩沼だけでよい」
「後見役も荷が重い」
「逃げ出したいのョ」

伊達 宗興
「何を仰せですか」
「今は、我が父君に付くか
安芸に付くかの問題」
「逃げる事は出来ません」
「何卒、我が父君に御味方下さいませ」

田村宗良
「其方の父君に味方すればな
安芸殿が怒る」
「安芸殿に付けば其方の父君が怒る」
「儂は、嫌じゃ!」

伊達 宗興
「父君を裏切った者が
如何なったのか知っておりますか」
「伊東重孝は処刑」
「里見重勝はお家の資産没収の上で改易」

田村宗良
「・・・・・・ゃ」
「おぉ脅してぉるのか・・・・?」

伊達 宗興
「脅してはおりません」
「父君は気性が荒い御方ですから
御注意申し上げた だけで御座います」

田村宗良
「嫌じゃけど、大叔父様は恐ろしいのォ・・・」
「大叔父様に逆らうと、怖いのォ・・・」
「儂は、如何すればよいのじゃ・・・・」

伊達 宗興
「では、我が父君に御味方下され」
「我らは、敵には容赦ありませんが
味方には心強いこと岩のごとし
岩沼殿には強き岩が必要ですぞ!」

田村宗良
「儂を安芸殿から守ってくれるか?」

伊達 宗興
「はい」
「守りますぞ!」
「我が見方は強大な権力で
お守り致します」
「ただし、裏切れば
容赦は致しません」
「ご覚悟をお決め下さい」

田村宗良
「覚悟って・・・・」
「そのような、大層な・・・」
「なんとなく、御味方したい・・」
「それでは、駄目か・・・?」

伊達 宗興
「味方すると申しましたな!」
「武士の覚悟をお聞き致しました」

田村宗良
「えェーー」
「儂は、覚悟などしてないぞォーーー」
「怖い・・・」

伊達 宗興
「怖がる事は何も御座いません」
「我らが、岩沼様をお守り致します」

田村宗良
「そうじゃなァ・・・」
「安芸殿に味方しても
安芸殿は儂を守ってくれんからのォ・・・」
「其方に、味方する方が
安心じゃ・・・・」

伊達 宗興
「はい」
「安心して、お暮し下さい」
「我らは、仙台一の権力者となりましょうぞ!」

田村宗良
「あんまり、欲張らんでも良いではないか・・・む」
「儂は、争い事に首を突っ込みたくないぞ・・・」
「穏便に済ます方が良いぞ・・・・」

伊達 宗興
「お任せ下さい」
「岩沼様は穏便にお暮し下さい」
「争い事は、我らで致します!

田村宗良
「左様か・・・」
「では」
「其方に、全て任せた・・・」

伊達 宗興
「はい」
「お任せ下さい!」



茂庭定元
「兵部殿が領地問題は其方の責任だと
申しておるが」
「何が不服じゃ!」

伊達宗重
「不服と申されるが
正保国絵図の写しが紛失おります」
「正保国絵図の写しがあれば
領地の境界問題などありません」

茂庭定元
「本藩が藩主綱宗様の強制隠居の混乱で
紛失したのかもしれんな」
「よく探せば見つかる筈じゃ!」

伊達宗重
「それは、我らには手出し出来ません」
「両後見人の管理下だと・・・」

茂庭定元
「では、兵部殿が隠しておると申すのか?」

伊達宗重
「隠しておるにせよ、
紛失しているにせよ」
「領地の境界など検分して測り直せば済む事」
「それを拒否するとは如何いう理由か
説明して頂きたい!」

茂庭定元
「それは、其方の一方的な見識じゃ」
「兵部殿にも言い分があるじゃろォー」
「じゃがな」
「問題は、兵部殿ではなく
式部殿であろォー」
「其方の抱えておる
領地の境界問題は兵部殿ではなく
式部殿との間で起きておるのじゃぞ!」

伊達宗重
「これは、奉行総括の言葉とは思えませんな!」
「総括は公平に問題を裁く義務が御座います」
「検分もさせず、正保国絵図の写しも提出しないで
我らを一方的に陥れる言動じゃ!」

茂庭定元
「では」
「安芸殿は如何して欲しいのじゃな?」

伊達宗重
「先ず、正式に領地の検分をすることです」
「それから、正保国絵図の写しを探し出す事」
「もし、正保国絵図の写しが見つからなければ
幕府に申し入れ、原本を見せて貰えば良いのです」

茂庭定元
「原本は明暦の大火で焼失し、作り直したばかりじゃ」
「その、写しを無くしたとなれば仙台藩の責任」
「誰が責任を取る!」

伊達宗重
「誰も責任を取りたくなければ
儂が直訴ずるぞ!」

茂庭定元
「おい」
「これは、其方一人の責任で済む問題ではないぞ」
「仙台藩の存亡に関わる重大な過失じゃ」
「幕府に直訴などしてみろ
仙台藩はお取り潰しじゃ!」

伊達宗重
「其方は、やはり兵部殿と結託しておるのじゃな」
「実際、何もする気は無いようだ」

茂庭定元
「それは、言いがかりじゃ」
「儂も、兵部殿の専横には問題が有ると考えておる」
「しかし、この領地問題に兵部殿を持ち出す必要はないぞ!」

伊達宗重
「兵部殿が申しておった」
「式部殿は兵部殿の軍門に下っておるそうじゃ」

茂庭定元
「儂は、そのような話を聞いてはおらん」
「そもそも、本藩家系の宗倫殿が一門に下ることなど
有り得ませんぞ」

伊達宗重
「そうかも知れんが
兵部殿が実際に申しておった」
「じゃから、この領地問題は
儂と兵部殿の問題と考えた方が良い」

茂庭定元
「そうか」
「よく分かった」
「儂も、正式な検分の必要性があると思う」
「其方の申す通りじゃ!」

伊達宗重
「おおォ」
「奉行総括が検分に乗り出せば
正式に領地の境界は定まり」
「争い事は解決する」
「検分こそが領地問題解決に必要不可欠なのじゃ!」

茂庭定元
「んんゥ」
「しかし、正式な検分は兵部殿が断っておる」
「何故であろォーな?」

伊達宗重
「知られたくない秘密があると思いますぞ!」

茂庭定元
「では」
「儂が検分を始める訳にはいかんな・・・」

伊達宗重
「ええェ」
「総括殿は怖気付くのですか!」
「それとも、兵部殿に弱みでも御座いますか?」

茂庭定元
「儂が奉行総括に返り咲いたのは
兵部殿の推薦があったからじゃ」
「兵部殿には借りが有る」
「恩を仇で返したくないのだ」

伊達宗重
「では」
「検分は為さらぬ御つもりで・・・」

茂庭定元
「いや」
「そうではない!」
「ゆはり、この領地問題は
安芸殿と式部殿で解決して貰いたいのじゃ」
「兵部殿を巻き込むと
儂の義理が廃る」

伊達宗重
「んんゥ」
「それほど、総括に拘るのですか!」
「公平な裁きが出来ぬのならば
奉行総括など、お辞め下さい!」

茂庭定元
「んんゥ」
「分かっておる」
「しかしな」
「儂が下りれば、事は更に深刻になるぞ」
「兵部殿の権力は儂の及ぶところではない」
「奉行の力は削がれ
今は、兵部殿直属の目付衆が仕切っておる」
「儂が辞めて解決する問題ではない」

伊達宗重
「儂は一門を背負っておる」
「多くの家臣を路頭に迷わす訳には参らん」
「新田開発に励んだ百姓たちに報いたい」

茂庭定元
「其方は、儂に兵部殿と対立して欲しいと申されるか?」

伊達宗重
「儂は、戦う覚悟じゃ!」

徳川家綱 伊達騒動編 四

2021-10-16 17:46:52 | 漫画



独立性易
「公方様・・・」
「わたしの役目も終わりました」
「そろそろ、西国に戻ろうと思っております」

将軍家綱
「えッ」
「何処へ行く?」
「儂にはお主が必要じゃ」
「待遇が不満か?む」

独立性易
「いいえ、不満など御座いません」
「わたしの体調が悪いので静養したいと
思っております」

将軍家綱
「何でじゃ」
「悪いようには見えんぞ!」

独立性易
「いいえ」
「重体で御座います」

将軍家綱
「嘘を付け!」
「仮病じゃ!」

独立性易
「お許し下さいませ」

将軍家綱
「んんゥ」
「なァ」
「考え直しておくれ」
「儂には先が見えん・・・・」

独立性易
「何を知りたいのですかな?」

将軍家綱
「仙台藩は幕府の縮図じゃ」
「今、仙台藩で起こっておる事は
幕府でも起こりうる事じゃ」
「この後、幕府も仙台藩のような
お家事情を生じるものなのかなァ・・・」

独立性易
「御安心下さいませ」
「幕府は安泰で御座います」
「更には、仙台藩も伊豆守様がいる限り
安泰に御座います」

将軍家綱
「信綱を褒めておるのか!」
「儂はな、お主と協力して
信綱をケチョンケチョンに打ち負かしたいと
思っておるのだぞ!」

独立性易
「失礼ですが・・・」
「公方様に勝ち目は御座いません」

将軍家綱
「はっきり申すのォ」
「そう言えば、お主は以前にも
同じことを言っておったな」

独立性易
「はい」
「伊豆守様は幕府の事を最優先に
考えておられます」
「当然、公方様の事も
幕府と同様に大事に思われております」

将軍家綱
「んんんゥ」
「そうかも知れんな・・・・」
「しかし」
「何か引っかかる?」

独立性易
「伊豆守様が幕府を支えていなければ
今頃は江戸の町も荒廃し
幕府の権力も弱まり
牢人が徘徊し
傾奇者が支配して、
庶民が困窮しておりましょう!」

将軍家綱
「そんなに酷くなっておるのか?」
「信じられん!」

独立性易
「信じられませんか?」
「しかし」
「真実で御座います」

将軍家綱
「んんんんゥ」
「お主の申す事じゃ」
「それが、真実じゃな・・・・」

独立性易
「はい」
「同様にして
仙台藩も、伊豆守様がいなければ
混迷の極みとなりましょう!」

将軍家綱
「混迷の極?そんな?」
「そんなに信綱は凄いのか!」
「儂には勝てん筈じゃ・・・・・」

独立性易
「いいえ」
「公方様あっての伊豆守様で
御座います」
「公方様は自覚をお持ち下さいませ」

将軍家綱
「なのなァ」
「信綱が居なければ
幕府は如何なる?」

独立性易
「はい」「伊豆守様とて永遠に命が有る訳では
御座いませんので・・・・」
「そうなりましたら・・・・・」

将軍家綱
「ああァーーー」
「お主!」
「幕府が潰れると思って
仮病で逃げようと思っておるのかァーーーー」

独立性易
「とんでも御座いません」
「公方様が勝手な行動を慎めば
幕府は安泰で御座います」

将軍家綱
「ええええェェェェーーーーー」
「何でェェェェェェーーーーーーー」
「嫌じャャやゃゃゃーーーーーーー」
「これから儂はあの城で
大人しく畏まって
祭事やら式典やら儒教やら
そんな無駄な事を
毎日、毎日、繰り返さねばならんのかァぁあぁぁぁぁーーーー」

独立性易
「それが
将軍の務めで御座います」

将軍家綱
「おい」
「儂も西国に行きたいぞ!」

独立性易
「いいえ」
「為りません」

将軍家綱
「いやじゃ」



田村宗良
「とうとう儂が後見役の第一人者になったのか・・・・」

立花忠茂
「はい」
「これより、後見役の自覚をお持ち下さいませ」
「我らは、全力で其方を助ける所存ですぞ」

田村宗良
「甲斐から聞いたのじゃけどなァ」
「奉行六人衆の中の鬼庭が怒っておるぞ」

立花忠茂
「はい」
「あの者は奉行職を一時的に解いておりますので
藩政に意見することは御座いません」
「ご安心下さいませ」

田村宗良
「ええェ」
「そのようなことは聞いておらんぞ」
「何故、黙っておった!」

立花忠茂
「黙っていた訳では御座いません」
「あの者が幕府の方針に合わぬ
言動をしているため
制裁を兼ねての処置で御座います」
「更なる抵抗が御座いましたら
蟄居処分となります」

田村宗良
「んんゥ」
「強引じゃのォ・・・」

立花忠茂
「はい」
「反対勢力は徹底的に排除せねばなりませんぞ」
「それから
大叔父の宗勝殿も後見役を降りて頂く!」

田村宗良
「そのような事・・・」
「大叔父さまは絶対に許しませんぞ!」
「宗良には仙台藩を束ねる器量は無いのじゃ」
「大叔父さまを怒らせたら大変じゃ!」
「怒らせてはならん!」

立花忠茂
「では」
「排除しますかな?」

田村宗良
「やめろ!」
「やめてくれよ・・・」
「宗良には無理じゃ」

立花忠茂
「ご安心下さいませ」
「貴方には幕府が付いております」
「天下の伊豆守を味方にしておれば
怖いものなど何も御座いません」

田村宗良
「いやいや」
「また、震えが止まらなくなってきた」
「儂は後見役を降りる!」

立花忠茂
「お待ち下さい!」
「貴方が後見を降りれば
幕府を敵に回すことに成りますぞ」
「其方は天下の伊豆守様に立ち向かう
勇気がお有かな?む」

田村宗良
「何を言う・・・」
「儂は後見など嫌じゃ」
「何で後見を辞退すると
伊豆守様に逆らうことになる!」
「おかしな事を言うものではないぞ・・・・」

立花忠茂
「いいえ」
「伊豆守様からの直接な指示で御座います」
「絶対に拒否は出来ません」

田村宗良
「あああァ」
「何と言う悲運じゃ・・・」
「儂は大学やら兵部殿
そして、鬼庭を敵に回す事になりはしないか?」

立花忠茂
「いいえ」
「解決方法が御座います」
「其方が正式に藩主となれば良いのです」
「そうすれば
その者たちは全て貴公の家来です」
「藩主となっても抵抗するようならば
切り捨ててしまえば良いのですぞ」

田村宗良
「無茶じゃ」
「その様な事出来るものか!」

立花忠茂
「ご安心召され」
「貴公に出来なければ
代わりが幾らでもおります」
「儂に任せれば良いのです」
「貴公に迷惑はかけません」

田村宗良
「鬼庭はなァ
奉行職を解かれても抵抗しておるぞ!」

立花忠茂
「んんゥ」
「貴公が望むのであれば
我らでその者を排除できるが?
如何する?」

田村宗良
「いィ」
「要らん」
「・・・・・・・・」

立花忠茂
「そのように怖がらなくても
あの者達も滅多な行動は起こさぬ」
「天下の伊豆守様を信じなさい」
「伊豆守様を敵に回す
愚か者などおりません」

田村宗良
「んんゥ」
「本当に儂を守ってくれるのか?」

立花忠茂
「もちろん」
「貴公は幕府の御加護にあります」
「絶対に安全ですぞ!」

田村宗良
「んんゥ」
「分かった・・・・」
「其方に全て任せる」

立花忠茂
「はい」
「立派な藩主と御成り下さいませ」

田村宗良
「・・・・・・」









酒井忠清
「おい」
「本当か?む」

稲葉正則
「はい」
「出替わり奉公の者が亡くなりました」

酒井忠清
「おおおォ」
「なんとも、痛ましい!」

稲葉正則
「しかし、本当の事は隠しております」

酒井忠清
「ところで、若様(綱吉)は如何しておる?」

稲葉正則
「はい」
「憮然として、黙っております」

酒井忠清
「もう、若様も元服なされ成人じゃ」
「子供の事として許す訳にもいかんぞ」

稲葉正則
「はい」
「若様の振る舞いは
目に余るもので御座います
もう黙って見過ごすことは出来ません」

酒井忠清
「儂が若様を甘やかし過ぎた所為じゃ」
「厳しく対処すべきであるが
手遅れじゃ」

稲葉正則
「如何致しましょうか?」

酒井忠清
「徳川忠長様の事もある」
「最終的には、切腹を申し付ける方向に進めよ」

稲葉正則
「ええェ」
「忠長様のお咎めを準えるので・・・・・」

酒井忠清
「そうじゃ」
「生かしておけば大きな災いとなる」

稲葉正則
「しかし」
「切腹を申し付けるには
上様の御決断が不可欠」
「とても無理に御座います」

酒井忠清
「分かっておる」
「先ずは、これ以上の奇行があれば
切腹も止む無し、他になすすべが無いと
知らしめるべきじゃ」

稲葉正則
「はい」
「順を追って蟄居より
切腹の筋書きで
計画致します」

酒井忠清
「そうじゃ」

「儂は、若様が子供の頃に
犬にさせられておった」
「わんわん」と吠えさせられた」
「そして、若様は元服しても
人を犬のようにあしらっておる」
「最近では、狂犬を嗾けて
人を襲っておるのじゃ」
「遂に、死人を出してしまった」

稲葉正則
「はい」
「承知しております」

酒井忠清
「儂は、若様を甘やかし過ぎた」
「若様には切腹しか無い!」

稲葉正則
「はい」
「そのような運びで・・・・」
「承知しております」

酒井忠清
「ただ、改心の余地があれば
強硬策に頼らずともよいぞ!」

稲葉正則
「如何様な?」

酒井忠清
「若はな、伊豆守様を恐れておる」
「儂の言うことなど聞きはせんが
伊豆守の前では怖気付いておる」
「一度、伊豆守様に相談すべきじゃ」

稲葉正則
「はい」
「若様の数々の奇行を聞けば
伊豆守様は英断下さるものと思います」

酒井忠清
「これでまた」
「儂は駄目になるなァ・・・・」
「伊豆守様が頼りじゃ・・・・」

稲葉正則
「そのような・・・」
「弱気はいけません・・・・」

酒井忠清
「おおゥ」
「分かっておる」
「首座は名ばかりでは
申し訳が無いからな」
「首座にしてもらった恩を
仇で返す訳にはいかん!」

稲葉正則
「はい」
「伊豆守様の恩に報いるべく
奉公いたしましょうぞ!」

酒井忠清
「んんゥ」
「また、この事で
儂は叱られるのォ・・・・」
「儂は、頼りない・・・」
「情けない・・・・」

稲葉正則
「いいえ」
「首座様!」
「大丈夫です」
「きっと、大丈夫で御座います」

酒井忠清
「んんゥ」
「頼むぞ!」

稲葉正則
「はい」
「お任せ下さい」



松平信綱
「若様に徳川名を授けたましたが」
「早急であったかのォ・・・・」

徳川綱吉
「うゥ」
「早急と申されますか・・・?」

松平信綱
「若様は何故に謹慎なされておりますか?」

徳川綱吉
「儂がお犬を嗾け
奉公人に怪我をさせたからです・・・」

松平信綱
「怪我をさせたのは数知れず
亡くなった者も御座いますぞ」

徳川綱吉
「軽率でした」
「綱吉は反省しております」
「お許し下さい」

松平信綱
「話によれば
若様は弁明も無く
憮然として不機嫌に押し黙り
反省の色が全く無いとの事」
「何故、その様な態度を取ったのですかな?」

徳川綱吉
「綱吉は弁明を許されなかったのです」
「話を聞いては貰えませんでした」

松平信綱
「さようか」
「構わぬぞ、弁明をしてみなされ」

徳川綱吉
「あの者達は綱吉からお犬を取り上げて
食べてしまへと言うのです」
「お犬を食べると申すのです」
「綱吉は我慢が出来ません」

松平信綱
「大陸では犬は食用となっておるぞ」

徳川綱吉
「日の国では許される事ではありません」
「お犬を食べてはなりません!」

松平信綱
「んんゥ」
「あのな」
「その者達も本気で申しておるのでは無い」
「犬が凶暴になっておるから
危険じゃと申しておるのじゃ」

徳川綱吉
「良いお犬じゃ」
「利口な良きお犬なんじゃ」

松平信綱
「では」
「その犬と奉公人の命」
「何方が尊い!」

徳川綱吉
「んんゥ」
「奉公人・・・・です」

松平信綱
「本心ですかな?」

徳川綱吉
「・・・・・はい」

松平信綱
「何故、直ぐに返事をせぬ!」

徳川綱吉
「綱吉のお犬を食べられてしまいます」
「お許し下さい」

松平信綱
「やはり」
「謹慎を解く事は出来んな」
「蟄居から切腹まで
覚悟しておれ!」

徳川綱吉
「綱吉は切腹か?」

松平信綱
「はい」
「若様の奇行は常軌を逸しておりますゆえに
切腹を申し付ける事とする」
「よいな!」

徳川綱吉
「何故じゃ!」
「何故、儂が切腹じゃ!」
「覚えておれ!」
「儂は死んでも許しはしないぞ」
「ああァ」
「そうじゃ」
「信綱よ!」
「儂が兄君に頼んで
お主を処分してくれるわ!」

松平信綱
「はい」
「ご存分に心ゆくまで」

徳川綱吉
「はははァ」
「綱吉を甘く見るなよ!」
「お主は精々命乞いでもすることじゃ!」
「ざまァーみろ」

松平信綱
「やはり、若様は異常で御座いますな」
「これで疑いの余地も無くなりましたぞ」
「切腹を命じます」
「ご覚悟をなさいませ」

徳川綱吉
「おい」
「儂に切腹など有りはしないぞ」
「兄君は儂の味方じゃ」
「兄君はな
其方を宿敵と申しておるのじゃ」
「儂はな優位な立場におるのじゃぞ」
「どうじゃ」
「謝れ!」
「許しを乞え!」
「あッははははーーー」

松平信綱
「若様をこれ以上生かせておいては
徳川の世は終わってしまう」
「これより、其方に授けた
徳川名を取り上げ
上様の命を受けて
正式に処分致すゆえ
覚悟しておれ!」

徳川綱吉
「あッははははーーー」
「ふざけた事を!」
「兄君に言い付けてやるぞ!」
「信綱は不忠の無礼者ゆえ
切腹を申し付ける!」
「がッはははーーー」

松平信綱
「受けて立ちましょう」

徳川綱吉
「後悔するぞ!」



将軍家綱
「おおォ 珍しいしいのォ」
「お主から会いに来たのか!」
「久しく会っておらんかったな」

徳川綱吉
「兄君にお願いが御座います」

将軍家綱
「おおォ」「何じゃ 申してみよ!」

徳川綱吉
「信綱を打ち首にして下さい」

将軍家綱
「えェ」
「何で?」

徳川綱吉
「兄君は、信綱が宿敵と申されておりました」

将軍家綱
「おおォ」
「そうじゃったかのォ」
「しかし」
「宿敵は言い過ぎじゃぞ」
「伊豆守有っての徳川幕府じゃ!」
「儂は信綱に感謝しておる!」

徳川綱吉
「裏切るのですか!」

将軍家綱
「ハあーあァ」
「お主、気でも違ったか」
「何で儂を裏切者と呼ぶ!」

徳川綱吉
「そうでは御座いませんか!」
「兄君はいつも申しておりました」
「信綱と対決してケチョンケチョンにすると
申しておりました」

将軍家綱
「んんゥ」
「しかし」
「裏切者は言い過ぎじゃぞ」

徳川綱吉
「兎に角、信綱を打ち首にして下さい」

将軍家綱
「信綱が打ち首になる理由は何じゃ?」

徳川綱吉
「兎に角、打ち首です!」
「信綱は不忠の無礼者!」
「無礼を理由に打ち首が妥当、
それが為らねば、
今までの働きを考慮しても
切腹を申し付けるべきです」

将軍家綱
「おい」
「いい加減にするのだ」
「儂はな、
打ち首の理由を聞いておるのじゃ!」

徳川綱吉
「この綱吉に無礼を働いたからです」
「信綱は、綱吉が可愛がっているお犬を
取って食らうと言っております」

将軍家綱
「はァあ?」
「信綱が犬を食いたいと申すのかァ???」

徳川綱吉
「はい」
「綱吉のお犬を食うと言って
儂を虐めるのです」

将軍家綱
「まあ、よう分からんが」
「打ち首は為らん」

徳川綱吉
「やはり、兄君は裏切者です!」

将軍家綱
「あのなァ」
「もうちょっと、儂にも分かるように話してくれんか?む」

徳川綱吉
「信綱は儂に切腹を申し付けた・・・・のだ」

将軍家綱
「はァ?」
「さっきの話とは逆ではないか??」
「と、言うことは」
「互いに切腹せよと言い合っておるのか?」

徳川綱吉
「・・・・・・」

将軍家綱
「では、こうしては如何じゃ?む」
「信綱殿がお主の切腹を儂に頼みに来たら
信綱の罪じゃ」
「逆に」
「信綱が頼みに来なければ
お主の罪となる」
「如何じゃ!」
「名案じゃないか!」

徳川綱吉
「・・・・・・」憮然

将軍家綱
「何を怒っておる!」

徳川綱吉
「兄君は卑怯です」

将軍家綱
「はァーーーーァ」
「何で儂が卑怯者呼ばわりされねばならんのじゃーーーー」

徳川綱吉
「兎に角、信綱を打ち首にするのじゃ」
「打ち首にせねば
兄君は一生後悔するぞ!」

将軍家綱
「済まんが」
「儂は疲れた」
「この話は後にしておくれ・・・・む」

徳川綱吉
「逃げたら承知しないぞ!」



将軍家綱
「こら!」
「いきなり入って来るな!」
「びっくりするぞ」

大久保 忠朝
「一大事に御座います」
「伊豆守様が御病気で倒れました!」

将軍家綱
「えェーーー」「嘘じゃ!」
「昨日までピンピンしておったぞ!」
「何でいきなり倒れるんじゃ!」

大久保 忠朝
「主治医によれば」
「小用がつかえており
薬を処方しておるとのこと」

将軍家綱
「昨日の今日じゃ」
「何とも気持ちの悪い
病気じゃなァ」

大久保 忠朝
「何か不審な事でも
ありましたか?」

将軍家綱
「んんゥ」
「儂は、見舞いに参る事とする」

大久保 忠朝
「為りません!」

将軍家綱
「何故じゃ」
「信綱は忠臣じゃ!」
「儂が参って何が悪い!」

大久保 忠朝
「将軍は家来の元に参ってはなりません」
「家来が将軍の元に参るのです」

将軍家綱
「バカを申すな!」
「病人を呼びつける者がおるか!」
「戯け者が!」

大久保 忠朝
「為りません!」

将軍家綱
「どけ」
「退かんか!」

大久保 忠朝
「いいえ」
「退きません!」

将軍家綱
「では、其方が見舞にいけ!」

大久保 忠朝
「はい」「仰せの通り」
「伊豆守様の見舞いに行って参ります」

将軍家綱
「おい」「待て」
「城付きの医者を連れて行け!」
「病気の所見をして貰うのじゃ!」

大久保 忠朝
「いいえ」
「それは成りません」

将軍家綱
「何故じゃ」

大久保 忠朝
「はい」
「主治医の所見が出ておりますので」
「他の医者は受け付けぬと申されております」

将軍家綱
「受け付け無くても良いから
城付きの医者を三人連れて行け!」
「これは、儂の命令じゃ!」

大久保 忠朝
「はい」
「ご命令とあれば
背くことは出来ません」

将軍家綱
「んんゥ」
「このような時に
独立性易がおれば・・・・」
「あの者であれば
病気の原因を教えてくれる筈じゃ」

大久保 忠朝
「病気の原因は御座いません」
「主治医が申すには
小用が詰まる病気に御座います」

将軍家綱
「では、何故
小用が出ぬのじゃ!」
「原因がある筈ではないか!」

大久保 忠朝
「原因は御座いません」
「小用が詰まる病気に罹った
ので御座います」

将軍家綱
「お主!」
「何か隠しておるな!」

大久保 忠朝
「い いいえ」
「隠し事など・・・・・」

将軍家綱
「んんゥ」
「必ず医者を三人送り込め!」
「それぞれに所見させる!」
「よいか!」

大久保 忠朝
「あァ はい」
「承知致しました」

将軍家綱
「何か変じゃ!」

大久保 忠朝
「では、急いで行って参ります」



将軍家綱
「おおゥ」
「信綱は如何であった」

官医
「はい」
「病状は落ち着いております」

将軍家綱
「おおォ」
「病の峠を越えたのじゃな!」

官医
「はい」
「小用の不便は無くなりました」

将軍家綱
「信綱の病の原因は何じゃ!」

官医
「お酒の飲み過ぎでは?」

将軍家綱
「はァー」
「何で酒の飲み過ぎで大騒ぎをするのじゃ!」
「変じゃろーが!」
「そもそも」
「酒の飲み過ぎで小用が無くなるか!」

官医
「はい」

将軍家綱
「もっと、マシな理由を申してみよ!」

官医
「これを言えば将軍様がお怒りになります」

将軍家綱
「儂が怒るような事か?」

官医
「はい」

将軍家綱
「では、約束しょう」
「儂は、其方が何を申しても怒ることは無い」
「申してみよ!」

官医
「・・・・・・・」

将軍家綱
「如何した?」

官医
「はい、では申し上げます」
「伊豆守様は切腹を成し遂げることが出来なかったのです」

将軍家綱
「えェ」
「切腹?」
「何で?」

官医
「上意による切腹の命令を受けて
覚悟を決めての事であったと思われます」

将軍家綱
「バカ者!」
「信綱はそのような愚か者では無いぞ!」
「ふざけた事を申せばただではおかんぞ!」

官医
「・・・・怒らぬと申されたのに
酷う御座います・・・・」

将軍家綱
「んんゥ・・・・・」
「腹が立つ・・・・・」
「何故じゃ!」

官医
「伊豆守様の早とちりかと・・・・」

将軍家綱
「バカ者が!」
「信綱が早とちりなどするか!」
「愚か者が!」
「もっと、医者としての見立ては無いのか!」
「お主は医者じゃろーが!」

官医
「これは・・・・・もっと」
「申し上げ難い事で・・・・」

将軍家綱
「んんゥ」
「いやいや」
「済まん」
「怒りはせん、許せ・・・・」

官医
「主治医が嘘を申しております」

将軍家綱
「おおォ」
「何じゃ!」

官医
「はい」
「主治医は劇薬を必要以上に使っております」

将軍家綱
「何と!」
「詳しく申してみよ!」

官医
「はい」
「この薬箱にも入っております
朝〇白花の劇薬で御座いますが
使用料を間違えれば大変に危険なのです」

将軍家綱
「ほォー」
「では、主治医がおかしな事をしていると申すか?」

官医
「いいえ」
「妥当な措置であったと・・・・」

将軍家綱
「分からん?」
「儂にも分かるように申せ!」

官医
「はい」
「この劇薬には小用を増やす効果と小用を封鎖する作用が御座います」
「よって、小用が溜まっても全く外に出すことが出来なくなり
大変な苦痛となります」

将軍家綱
「そのような物」
「薬とは呼べんぞ!」
「捨ててしまへ!」

官医
「ただ、危篤の場合に使えば
一時的に安静になる場合も御座います」

将軍家綱
「では、死を覚悟した信綱が
大量に使用したと申すのか?」

官医
「いいえ」
「この劇薬は主治医が処方しております」
「そこがおかしいのです」
「主治医は伊豆守様が小用が詰まる病気に罹り
薬を飲ませて治療した結果
症状が回復したと申しておりますが
この劇薬を飲んで症状が回復することは御座いません」
「悪化する筈です」

将軍家綱
「そうか・・・・」
「では、切腹の事じゃ!」
「其方、切腹の傷を確認したか!」

官医
「詳しい事は分かりません」
「主治医は他の医者が近くにいることも許しません」

将軍家綱
「血が出ておれば分かるじゃろーが!」

官医
「いいえ」
「血は出ておりません」

将軍家綱
「儂は確信しておる」
「信綱は切腹などしてはおらんぞ!」
「他に要因がある筈じゃ」
「何か無いか?」

官医
「実は、官医の所見を阻む動きと同時に
主治医が入れ替わっております」

将軍家綱
「では、なにか?」
「劇薬を処方した主治医は逃げたのか?」

官医
「はい」
「行方が分かりません」

将軍家綱
「もっと詳しく調べる必要があるぞ」
「血も出ておらんのに
切腹などあるものか!」
「変じゃ!変じゃ!」

官医
「しかし、官医は伊豆守様には近づけません」



大久保 忠朝
「上様!」
「大変です!」
「伊豆守様がお亡くなりになりました」

将軍家綱
「えェ」
「嘘をつくな!」
「官医が病の峠を越えたと申しておったぞ」

大久保 忠朝
「はい」
「小用は通るようになりましたが」
「その後、少しずつ容態が悪化しておりました」

最期​[編集]
寛文2年(1662年)1月18日に病気に倒れて出仕できなくなり、嫡男の輝綱が代理として出仕した。1月19日に小用がつかえたが服薬して回復した。1月21日には将軍の上使として大久保忠朝が派遣された。1月26日には病が再発し、死を悟った信綱は他の老中へ暇乞いして遺言まであった。1月27日には久世広之、1月29日に本多忠隆らが派遣されて茶・菓子・薬を賜った。このため見舞いの使者がおびただしく訪れた。3月になると危篤状態となり、3月15日に老中の阿部忠秋に嫡子・輝綱のことを頼んだという。

3月16日の夕刻に老中在職のまま死去した。享年67(満65歳没)。跡を長男の輝綱が継いだ。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

将軍家綱
「官医は主治医が嘘をついておると言っておったぞ」
「説明しろ!」

大久保 忠朝
「はい」
「上様が派遣した官医は薮で御座いましたので
追放致しました」

将軍家綱
「えェ」
「勝手に追放したの?」

大久保 忠朝
「薮医者で御座いました」
「薮医者の申す事は
全て偽りで御座います」

将軍家綱
「んんゥ」
「儂は、城付きの医者を三名派遣したぞ」
「あとの二名は如何しておる?」

大久保 忠朝
「二名は主治医と同じ見立てです」
「伊豆守様は病気になり
小用がつかえ、薬で回復するも
病気が進行、危篤状態になりまして、
お亡くなりになったと
正式に認めております」

将軍家綱
「薬は何を処方したのじゃ!」

大久保 忠朝
「朝〇白花と聞いておりますが
お体に合いませんので
中止しておりました」

将軍家綱
「それは、劇薬ぞ!」
「坊主の官医がそう申しておった!」

大久保 忠朝
「あの者は薮で御座いますから
信用出来ません」

将軍家綱
「信綱が最初に倒れた時には
切腹が疑われておった」
「何故じゃ!」

大久保 忠朝
「はい」
「茣蓙に血が付いておりましたから
早とちりで御座います」
「腹は切ってはおりません」

将軍家綱
「腹では無く
他の場所を切っておったのかも知れんぞ!」

大久保 忠朝
「他で・・・・」

将軍家綱
「そうじゃ」
「信綱は後ろから襲われたのじゃ!」
「そして、その傷の手当てに
劇薬の朝〇白花が使われた」
「朝〇白花の副作用で小用がつまり
傷が癒えて峠を越えたように見えたが
そのご傷口が悪化したと考えるのが
順当じゃ!」

大久保 忠朝
「上様・・・」
「主治医をはじめとする名医が揃って
見立てた所見を無視してはなりません」
「憶測で病気の診断をしてはなりません」

将軍家綱
「では、朝〇白花を処方した
主治医が逃げたのは何故じゃ!」

大久保 忠朝
「上様!
誤解しては為りません」
「逃げたのでは御座いませんぞ
交代したのです」
「三日三晩寝ずに治療をしておりましたから
交代したのです」

将軍家綱
「そのような過酷な治療をしておるのに
官医を遠ざけておる」
「おかしいではないか!」

大久保 忠朝
「治療は主治医が責任を持っております」
「気心がしれた医者に交代する事は
ごく自然で御座います」

将軍家綱
「あのなァ」
「お主は、何か隠しておるぞ」

大久保 忠朝
「何を隠しておると申しますか?」

将軍家綱
「そうではないか!」
「お主は、信綱の腹は見たかもしれんが
他は知らぬと申しておる」
「背中に傷を受けておっても
分からぬではないか!」

大久保 忠朝
「同じ事を
もう一度申し上げます」
「主治医をはじめとする名医が
見立て所見を立てております」
「何の為に医者を呼んでおるのか
よく、お考え下さい」

将軍家綱
「では、その名医を呼んで参れ」

大久保 忠朝
「主治医はおりません」

将軍家綱
「はァー」
「やはり、逃げておるではないか!」

大久保 忠朝
「いいえ」
「療養中との知らせを受けております」

将軍家綱
「嘘じゃ!」



伊達宗勝
「其方、奉行に返り咲きじゃ!」
「今度は総括として六人衆を束ねてもらうぞ!」

茂庭定元
「おおゥ」
「何事ですか?」
「儂は、伊豆守様の方針に合わぬと追放されておったが?」

伊達宗勝
「あの者は死んだ!」

茂庭定元
「まさか!」
「信じられん?」

伊達宗勝
「いきなり、死んでしまうとはな!」
「あの者を憎む者が大勢おる」
「何か有ったのかも知れんぞ!」

茂庭定元
「んんゥ」
「では、奉行復帰は真の事で御座いますな!」

伊達宗勝
「早速じゃがな」
「今、仙台藩を牛耳っておる、憎っくき
奥山大学を失脚させることにするぞ!」

茂庭定元
「おおゥ」
「それこそは、儂の念願じゃ!」
「あの者が我物顔で仙台藩にのさばって
横柄にしておるのは我慢がならんぞ!」

伊達宗勝
「そこでな」
「あの者が組み入れた蔵入地であった黒川郡吉岡を
元に戻すことを検討しておる」

茂庭定元
「と申しますと?」

伊達宗勝
「一旦、蔵入地に戻してから
我らの知行地とする」

茂庭定元
「ほォう」「さすれば」
「大学の奴は地団駄を踏んで悔しがりますぞ!」

伊達宗勝
「大学は直轄の領地を失って牢人じゃな!」
「がっハハハハハーーー」

茂庭定元
「しかし」
「田村宗良があの者の知行地を治めておりますぞ」

伊達宗勝
「その地も一緒に頂くかのォー」

茂庭定元
「はははッ」
「これは愉快じゃ」
「さすれば、大学は真の牢人じゃ」

伊達宗勝
「牢人になった大学を追放して」
「蹴散らしてやる!」

茂庭定元
「のォ 兵部殿」
「甲斐にも話を付けておきたいが?」

伊達宗勝
「駄目じゃ!」
「あ奴は奥山大学を押しておる」
「儂はあ奴の顔も見たくない・・・」

茂庭定元
「いやいや、兵部殿」
「あの信綱が死んだのですぞ
甲斐は我らの味方じゃ!」

伊達宗勝
「嫌なこった」

茂庭定元
「では、田村宗良を味方に付けましょう!」

伊達宗勝
「あんなひよっこ野郎が役に立つものか!」

茂庭定元
「では、小姓頭の里見重勝は?」

伊達宗勝
「おおゥ」
「そ奴に先陣を切らせるか・・・」

茂庭定元
「失敗しても
儂らが深手を負わずに済みますぞ」

伊達宗勝
「何を言う!」
「失敗などするものか!」

茂庭定元
「いやいや」
「儂は、今まであの者と対決してきて
奉行を退く羽目に陥ったのじゃ」
「大学を侮ってはなりません」

伊達宗勝
「其方は、今日より奉行の総括じゃ
六人衆を束ねて結束せよ!」
「必ず勝てる!」

茂庭定元
「はい」
「仰せの通り」
「必ず勝って見せますぞ!」

伊達宗勝
「大学に対抗するならば
一門も加勢するじゃろォー」
「声を掛けておけよ」

茂庭定元
「大事になりそうじゃ」


里見十左衛門重勝
「何を?」
「今更、弾劾か?」

伊達安芸宗重(一門)
「はい」
「大叔父兵部殿も御賛同との事」
「今こそ、奥村大学を失脚させるべきと・・・」

里見十左衛門重勝
「何故、兵部殿が先頭に立って動かんのじゃ!」
「あ奴は後見役じゃぞ!」

伊達安芸宗重(一門)
「しかし」
「考えようでは、先陣の手柄を
みすみす手放しておる事になります」

里見十左衛門重勝
「何が手柄じゃアホらしい!」
「今まで、何も出来ずにおった兵部が
儂に手柄を譲るだと!」
「ふざけた奴じゃ!」

伊達安芸宗重(一門)
「では、勘十郎殿は黙っているおつもりですか?・・・・」

里見十左衛門重勝
「其方は如何するつもりじゃ?」

伊達安芸宗重(一門)
「一門としては立花忠茂様の意向には逆らえません・・・」

里見十左衛門重勝
「んんゥ」
「奉行共は如何じゃ?」

伊達安芸宗重(一門)
「はい」
「不思議な事に茂庭定元殿が奉行統括に返り咲きとなりました」

里見十左衛門重勝
「そうか」
「鬼庭が統括であれば勝てるぞ!」

伊達安芸宗重(一門)
「はい」
「勘十郎殿が立ち上がれば
奉行は皆、勘十郎殿を頼りにする事になりましょう!」
「大勢が勘十郎殿に傾けば
幕府の方針も変わるかも知れません」
「さすれば」
「我ら一門も加勢出来ます」

里見十左衛門重勝
「そうか」
「よし」
「儂が先陣を切って奥山大学に諫言するぞ」

伊達安芸宗重(一門)
「はい」
「必ず、大学は失脚するものと確信しております」
「我らの決意も同じに御座います」

里見十左衛門重勝
「しかし、問題は
幕府の意向じゃな」
「何故、茂庭定元が総括に復帰出来たのであろうか?」

伊達安芸宗重(一門)
「これは噂に御座いますが
伊豆守様がお亡くなりになったと言う事が
囁かれております」

里見十左衛門重勝
「まさか!」
「それは、大変な事じゃ!」
「これでは、後見役の田村宗良殿の求心力が無くなるではないか!」

伊達安芸宗重(一門)
「はい」
「それ故」
「我ら一門は手出しが出来ぬのです」
「幕府の方針が定まらず
我らが動き、しくじれば
一門は潰されてしまいます」

里見十左衛門重勝
「何を都合のよい事を言っておる」
「それは儂とて同じではないか!」
「一門が潰されるよりは儂が潰れた方が
損害が少ないと言うのじゃろーが!」

伊達安芸宗重(一門)
「そのような・・・・」
「ただ、諫言をなさるのは
一門では無理で御座います」
「それ故」
「無理なお願いを致しております」

里見十左衛門重勝
「このような事」
「誰もしたくは無いぞ」
「損な役回りじゃ」

伊達安芸宗重(一門)
「申し訳御座いません」
「儂が一門を背負っておらねば
真っ先に立ち上がり諫言致すものを・・・・」

里見十左衛門重勝
「んんゥ」
「よし」
「覚悟を決めた」
「玉砕覚悟じゃ!」

伊達安芸宗重(一門)
「はい」「一門は誓って」
「勘十郎殿が先陣を無駄には致しませんぞ!」
「大きな手柄と為さいませ!」

里見十左衛門重勝
「よし」
「任せておけ!」

伊達安芸宗重(一門)
「一門は勘十郎殿の働きを絶対に忘れは致しません」

里見十左衛門重勝
「よし」
「儂が討ち死にしたら
後を頼むぞ」
「仙台藩を頼むぞ」
「伊達政宗公の威光に恥じぬような
立派な武士となれよ」

伊達安芸宗重(一門)
「はい」
「奥山大学の専横を改めるべく
一門も後に続きます!」

里見十左衛門重勝
「よし」
「伊達政宗公に誓いを立てようぞ!」

伊達安芸宗重(一門)
「はい」
「誓いますぞ!」




里見重勝
「直談判で御座る」

奥山大学
「おおゥ」
「十左衛門殿ではないか!」
「何事じゃ!」
「神妙で御座いますなァ」

里見重勝
「はい」
「諫言すべく参上致しました」

奥山大学
「んんゥ」
「何じゃ!」「何じゃ!」

里見重勝
「大学殿は不必要に知行地の拡張をしておられる」
「領地を増やす理由を聞きたい」

奥山大学
「これは、幕府の方針じゃ」
「田村宗良を引き立てて
仙台藩を盛り立て
強くすることじゃ」

里見重勝
「しかし」
「肝心の田村宗良殿は
弱気に御座いますぞ!」

奥山大学
「じゃから」
「儂が、先頭に立って働いておるのじゃ!」
「今まで、大変に上手く行っておる」
「伊豆守様も我らの味方じゃ」

里見重勝
「あのな」
「伊豆守様は亡くなられたぞ」
「お主は知らんのか!」

奥山大学
「何と!」「儂らの後ろ盾が無くなったのか?」

里見重勝
「そうじゃ」
「今が潮時じゃ」
「方針を変えるべきじゃ」

奥山大学
「んんゥ」
「では、儂の領地は如何なる!」
「家臣に食わす米は如何する!」

里見重勝
「田村宗良に預けた、其方の領地を返して貰え
簡単な事ではないか・・・・」

奥山大学
「バカを申すな!」
「そんなことがあるか!」
「あのなァ」
「伊豆守はおらんでも、相談役(立花忠茂)がおるぞ
儂を見くびると痛い目に合うぞ!」

里見重勝
「では、専横をかえぬ御つもりですな!」

奥山大学
「専横と申すか!」
「儂は仙台藩の為に働いておるのだ!」
「其方も志は同じであろう!」

里見重勝
「武士としての確固たる志が御座います」
「伊達政宗公の威光を称えへ
恥じない武士の志で御座います」

奥山大学
「では、お主にも分かる筈じゃ」
「儂は専横では無いぞ」
「儂は気の弱い田村宗良を引き立てる為に
威勢を張っておるのじゃ」
「今まで、上手く行っておるぞ」
「これからも、上手く行く!」

里見重勝
「今まで兵部殿や一門が、おとなしくしていたのは
伊豆守様がおられたからじゃ」
「もう伊豆守様のご加護は無いのだぞ」
「儂の陳情を聞いてくれんか・・・」

奥山大学
「あッははははーーー」
「お主は虫が良い、調子に乗っておる」
「陳情するならば
儂の利益も考えるべきではないかな!」

里見重勝
「お主が田村宗良に預けた領地を
返して貰えば済むことではないか!」

奥山大学
「一旦、やったものを返してくれだとォーー」
「あのなァ」
「お主は、陳情のお願いに来たのでおろう」
「それならば、
そんなケチ臭いことを申さずとも
他の良い領地を代わりにすることくらい
考えられんのか!」

里見重勝
「大学殿!」
「欲をかいてはなりません」
「恥を忍んで
領地を返して貰いなされ」

奥山大学
「バカを申すな!」
「田村宗良は第一人者に変わりは無い」
「儂は幕府の後ろ盾を得ておる
そして、お主は儂に盾突き敵対しておる」
「それは、幕府に対する抵抗じゃ」
「許すことは出来んぞ!」

里見重勝
「では、陳情は?」

奥山大学
「其方の武士としての志は褒めてやる」
「じゃがな」
「武士とて食わねばならん」
「当然、家臣も食わせていかねばならん」

里見重勝
「ですから」
「領地を返して貰えば良いではないか!」

奥山大学
「儂は、まだ負けた訳では無いぞ」
「其方は、儂に無条件で負けを認めよと申すか!」

里見重勝
「では」
「如何すれば良いのですか!」

奥山大学
「代わりとなる領地が有るではないか!」
「それを儂にくれたらよいではないか!」

里見重勝
「あの蔵入地であった黒川郡吉岡で・・・・」

奥山大学
「それを貰い受ける!」



板倉 重矩
「さあ、上様」
「儒学の時が参りました」
「共に学びませんかな?」

将軍家綱
「嫌じゃ」

板倉 重矩
「人の上に立つ将軍は
儒学を学ばねば為りません」
「これは、東照大権現たる徳川家康公からの
上様への贈り物に御座います」

将軍家綱
「何を申すか」
「その様な贈り物は要らん」
「捨ててしまえ!」

板倉 重矩
「んんゥ」
「学びは嫌ですか?」

将軍家綱
「儂はな、実践派なんじゃ」
「体験することで理解する」
「儒学など、儂には不要じゃ!」

板倉 重矩
「では、上様は将軍として
何を為さりたいのですかな?」

将軍家綱
「おおゥ」
「やりたい事だらけじゃ」
「先ずは、仙台藩じゃ!」
「仙台藩のお家騒動を調べたいぞ!」

板倉 重矩
「息子の学友に伊東重孝という文武に優れた
武士がおる」
「其の物が仙台藩じゃ」
「息子も、伊東重孝も、儂も
皆、儒学を学んでおりますぞ」
「仙台藩のお家騒動を知るには学びが必要です」
「上様も如何ですかな?」

将軍家綱
「儒学など嫌じゃ」
「じゃがな」
「其方の体験談なら聞きたいぞ」

板倉 重矩
「はい」「では、雑談を・・・」
「ある日、乞食が母を背負い孝行をしておりました」
「そこで、その親孝行の者に金子を授けた」
「すると、町中に親孝行の者が母を背負い
集まって来た」
「町方では偽りの孝行者と呼んで
処罰を求めておったが」
「儂は偽りでも孝行者が増えるのは
良い事として見過ごした」
「すると、偽りの孝行者は姿を消して
誠の孝行者が増えた」

将軍家綱
「其方は、阿部忠秋に似ておるなァ」
「忠秋の奴は、信綱が亡くなって
覇気が無いのだ」
「其方は老中になっては如何じゃ?」

板倉 重矩
「有難きこと」
「上様に感謝致します」
「ただ」
「わたしに務まりますかな・・・」

将軍家綱
「よいのじゃ」
「其方は老中になって
儂を支えてくれ」

板倉 重矩
「はい」
「上様の希望とあれば
断る道理は御座いませんぞ!」
「さァッ」
「伊達騒動の事ですな!」

将軍家綱
「おおゥ」
「そうじゃ」
「信綱が亡くなって
仙台藩が混沌の極みになると
聞いた」
「何故じゃ?」

板倉 重矩
「誰に聞いたのですかな?」

将軍家綱
「んんゥ」
「悪いが、内緒じゃ」
「其の物に被害が及ぶ恐れがある」
「其の物も、事前に分かっておったようじゃ」

板倉 重矩
「ほォー」
「その様な優れた者がおるのですか」

将軍家綱
「左様」
「其方は、腑抜けになっておる忠秋に代わり
儂を支えよ!」

板倉 重矩
「忠秋殿は伊豆守殿が亡くなって
力を落としておるのです」
「いずれ、元気になります」
「心配は要りませんよ」

将軍家綱
「だがな、信綱に代わる者がおらん」
「儂には、信綱が必要なんじゃ!」

板倉 重矩
「伊豆守殿は酒井忠清殿を首座としております」
「首座を頼れば宜しい」

将軍家綱
「お主は、忠清と不仲ではなかったのか?」

板倉 重矩
「忠清殿はこれより大老となるお方
わたしなど眼中にありますまい」

将軍家綱
「では、其方が大老となれば良い」

板倉 重矩
「それは、出来ません」
「順番が御座います」
「大政参与堀田正盛様の事もあります」
「順番は大切で御座います」

将軍家綱
「忠清は信綱の代わりが務まるのか?」

板倉 重矩
「心配はいりません」
「家臣は皆、幕府の為
上様を支えて参ります」

将軍家綱
「あッ」
「仙台藩じゃ!」
「伊東重孝が文武に優れた武士と言っておったな」
「其の物を召し抱える事は出来んのか?」

板倉 重矩
「まだ無理です」
「順番が御座います」

将軍家綱
「面倒じゃな・・・」

徳川家綱 伊達騒動編 三

2021-10-07 10:50:22 | 漫画


保科正之
「儂は兄君からこの衣を頂き、其方宗家を託されたのじゃ」
「もう、黙って甘やかす訳にはいかなくなりましたぞ!」
「勝手な行動は慎むように厳重に注意致します」

徳川家綱
「おおォ」
「叔父上殿」
「丁度良い所でお会い出来た」
「其方に承認いや承諾して貰いたい事が有るのじゃ」

保科正之
「んんゥ」
「何ですかな?」

徳川家綱
「あのな」
「井伊直孝殿の事は、爺も知っておるじゃろーが」
「井伊殿が武士の情けと申して、忠臣の殉死を防ごうとしておる
爺もその事は存じておるな!」

保科正之
「それは、聞き捨てならんぞ!」
「大政参与は出しゃばった行動をしておるな」

徳川家綱
「えェ」
「爺」
「何を申して居る」
「直孝殿は真っ当な事を申しておるぞ」
「余は感心したのじゃ」

保科正之
「上様!」「良く聞きなされ」
「例え大政参与とはいえ家臣が君主に願い要るなど
無礼千万!」
「大罪ですぞ!」

徳川家綱
「おい」「爺」
「そんなバカな話があるか!」
「儂は其方を見損なったぞ!」

保科正之
「ああァ」「情けない」
「儂は兄君に何とお詫びせねばならぬやら」
「上様!」
「上様は将軍ですぞ!」
「身を正し、勝手な振る舞いは絶対にしてはなりません」
「良いですね」

徳川家綱
「んんゥ」
「儂は、殉死の禁止令を出すことにしたのじゃ」
「爺は殉死の禁を承認すれば良い」

保科正之
「上様!」
「勝ってに御触れなど出してはなりません」
「何のために、儂ら家臣がおるのですか」
「良くお考え下さいませ」

徳川家綱
「おおォ」
「そうじゃのォ」
「では、其方たちで殉死の禁止を定めてくれ」
「良いな」
「急いでするのじゃ」

保科正之
「残念じゃがダメじゃな」
「殉死の禁止などない」
「決まっておるのじゃ」

徳川家綱
「んんゥ」
「儂は直孝に約束したのじゃ」
「そのような意地悪を言わずに
素直になってもらえんかのォ」

保科正之
「上様!」
「そのことは、儂の一存でどうこうなる事ではないのじゃ」
「有力大名が集まり討議した結果なのじゃ」
「殉死は忠臣のかがみであると決定しておる」
「変更は許されん!」

徳川家綱
「あーァ」
「有力大名とは何方ですかな?」

保科正之
「一人ではないぞ」
「沢山の有力大名が集まり討議した結果じゃ」
「勝手な事を申すな!」

徳川家綱
「その中に論議巧者で駆け引きに長ける者がおるな!」

保科正之
「何を申しておる」
「皆、真剣に話し合い独善性など有るものか!」
「論議もまた、勝手な言動など許されてはおらんのじゃ」
「上様は、ご自分は勝手放題なのを捨て置き
有力大名を蔑ろになさるお気持ちですか」
「爺は情けないですぞ」
「これでは兄君に会す顔が無い」
「上様には、もっと素直になって欲しいのじゃ」
「爺の気持ちを察して貰えんかのォ」

徳川家綱
「では、教えてくれ」
「爺の言う有力大名は誰じゃ」
「全て教えるのじゃ」
「全員じゃぞ」

保科正之
「あのなァ」
「討議は色々な場所で行われて
参加する者もまちまちなのじゃぞ」
「いちいち確認など出来はせんぞ」

徳川家綱
「爺が分かる範囲で良いのじゃ」
「出来るだけ詳しく知りたい」
「頼んだぞ」

保科正之
「んんゥ もォうー」
「実はな、爺は討議には参加しておらん」
「だから、本当の事は良く分からん」

徳川家綱
「では、儂と共に討議に参加して頂きたい」
「爺の後ろ盾が欲しいのじゃ」

保科正之
「んんゥ」
「そのような事は将軍たる者のする事では無いぞ」
「ああ」
「このような不幸を何と言って兄君にお詫びしたらよいか
爺は悲しいぞ」

徳川家綱
「儂と一緒に討議に参加するのが不満か?」

保科正之
「上様!」
「何度同じことを申し上げれば分かって貰えるのですか!」
「将軍たるもの、上座で畏まっておることが肝要なのじゃ」
「勝手気ままな行動は許されません」
「爺は悲しいぞ」

徳川家綱
「おおォ」
「分かった、分かった。もう、よい」
「叔父上は悲しいのじゃな」
「無理にとは申さん」
「気が向いたら参戦してください」

保科正之
「まだ、そのような事を申しておる」
「爺をバカにしよってからに」
「上様!」
「このような事、兄君に何と言ってお詫び申し上げねば・・・・」

徳川家綱
「本当に、もうよいのじゃ」
「儂は、帥と喋っておると酷く疲れる」
「悪いが、もう止めにしておくれ」

保科正之
「また」
「また、そのような身勝手なことを申される」
「ああ」
「爺は悲しいぞ・・・」

徳川家綱
「済まぬのォ」
「儂は爺を悲しませておる」
「許しておくれ」



将軍家綱
「おい」
「お主ども」
「このような場所で何をしておる!」

一同
ーーーー畏まるーーーーー

酒井忠清
「上様!」
「上様は、このような場所に来てはなりません」

将軍家綱
「何故じゃ!」
「儂に聞かれては困る事か?」

松平信綱
「上様に隠し事は御座いません」
「忠清が申すは」
「上様が家臣の下に参るのではなく
我らが主君も下に参るのが忠義との事」
「誤解為さらぬようにお願い致します」

将軍家綱
「んんゥ」

「おい」
「首座!」

酒井忠清
「はい」
「上様!」

将軍家綱
「お主ではない!」
「老中首座伊豆守信綱じゃ!」

松平信綱
「上様」
「忠清は間違えておりません」
「首座は忠清が引き継いでおります」
「忠清が首座で御座います」

将軍家綱
「えェ」
「信綱・・・・」
「お主は隠居か?」

松平信綱
「いいえ」
「信綱は老中で御座いますが
統括は首座忠清殿が引き受けてくれました」
「上様が留守中では御座いましたが
幕府の政務が多忙を極めており
火急に対処する必要が御座いました
お許し下さい」

将軍家綱
「んんゥ」

「おおォ」
「其方は上野介じゃな」

吉良上野介
「はい」
「上様とは謁見が叶っております」
「その時、生まれが同年で日も近いと申されまして」
「感銘を受け、大変な名誉で御座いました」

将軍家綱
「綱吉がお主から貰った犬を喜んでおったぞ」
「気が利く奴じゃ」

吉良上野介
「はい」
「とても良い子犬を手に入れましたので
城への参入が叶いましたら
お譲り致そうと思っておりました」
「今回の婚礼の儀で城下町住まいで御座いましたので」
「良い機会に巡り合えたと思っております」

将軍家綱
「んんゥ」
「そうじゃのォ」
「あの者達が儂が居ると困るようじゃから
儂は退散するぞ」

阿部忠秋
「上様!」
「大概になさいませ!」
「その様にお疑いならば」
「此処で話を聞いておれば宜しいのです」

将軍家綱
「いゃ」
「そのように怒るではない」
「上野介殿がびっくりしておるではないか・・・」
「邪魔したな」

阿部忠秋
「上様!」
「もう」
「逃げてはなりません」
「これでは、上様を追い出したことに成ってしまうではありませんか!」

将軍家綱
「おいおい」
「今度は此処に居れか・・・」
「儂は如何すればよいのかのォー」

松平信綱
「大変な失礼をお詫び致します」
「いえ」
「此処に集まりしは
この上野介の婚礼に関しての打ち合わせで御座います」
「この打ち合わせに上様が列席とあれば
他の有力大名が嫉妬致します」
「それ程までに上様列席の意味が御座いますので
憂慮しておりました」
「お許し下さい」

将軍家綱
「ほォー」
「儂の婚礼と其方の婚礼じゃな」
「其方とは何やら深き縁がありそうじゃな」

吉良上野介
「勿体ないお言葉」
「感謝申し上げます」

松平信綱
「上野介よ」
「良いか」
「事情は分かっておるな」
「上様列席のこと他言は許しませんぞ」

吉良上野介
「はい」
「心得ております」

松平信綱
「では、出羽米沢藩主・上杉綱勝の妹・三姫を吉良上野介に
嫁がせることとする」
「異存は有るまいな!」

一同
「はい」
「御座いません」

「上様も承知して頂けますか?」

将軍家綱
「おおォ」
「そうじゃのォ」
「承知もなにも
何やら良く分からんが」
「目出度き事じゃ」
「良き門出じゃ」
「のォ」
「上野介」

吉良上野介
「はい」
「上様」
「皆皆さま」
「感謝申し上げます」





家綱
「爺・・・」
「何故に、この様な匿われた部屋に・・・」

正之
「んゥ」
「人に話が漏れんようにな」

「なァ 家綱」
「お前は何を知りたがっておるのかな?」

家綱
「仮早稲米の事です」

正之
「そうか・・・」
「それでは、爺が教えてやるぞ」

「先代の兄君統治には三大老が絶大な権力を持っておったのじゃ
だからな、老中の松平信綱は大きな手柄は立てておったが
まだ弱い存在であった」

「三大老の中でも土井勝利は大きな権力を握っておった」

「土井勝利と勘定奉行は兄君と協力して
商家から幕府への資金を移す方法を考えておったのじゃ」
「それがお前の知っておる
大名が抱える百万貫に姿を変えた・・・・」

「では、松平信綱は何をしていたか?」
「お前は知っておるのかな」

家綱
「知りません・・・」

正之
「あの者は、一人で百万貫の借り入れを阻止しようとして
奮闘しておったぞ!」

「兄君は信綱の働きに感銘を受けて
土井勝利を失脚させ大老を退け
小姓組を編成したのじゃ」

家綱
「知りませんでした・・・・」

正之
「では、仮早稲米じゃ」
「今、大名どもは大きな借款で苦しんでおる」
「借金の返済は如何しておるのかな?」

家綱
「仮に徴収している米を借金のかたに取り上げていると・・」

正之
「しかしな、取り上げた米はいずれ金に換える必要があるのじゃ」
「だからな、大名は仮早稲米を買い戻しておる」
「心配はいらん」
「百姓が飢えることは無いぞ!」

家綱
「しかし、爺・・・」
「何か変じゃ」

正之
「確かに変じゃな」
「変なのじゃが、大きな問題は何も起きておらん」
「むしろ、幕府も諸大名も以前に増して知行地や小作人が増えておる」
「これは、借款で得た資金が水路や新田開発に流れ
生産力を持つ町方は更に貸し付けを増やしておる」
「借款で苦しんでおるのは借金で首が回らなくなっておる
大名や旗本じゃ」

家綱
「 しかしな 爺 」
「儂は佐倉領で百姓が苦しんでおるのを見て来たぞ」
「仮早稲米は返却されておらん!」

正之
「佐倉藩には特別な事情がある」
「兄君はお気に入りの大名に惜しみなく褒美をとらせておった」
「その中でも、佐倉藩の堀田正盛には多くの
褒美米があった」
「そして、その褒美米は何時の日か仮早稲米に姿を変えた」
「これは、兄君が崩御した時に正盛も殉死して
褒美米の約束が消滅したことが原因なのじゃ」
「しかしな、仮早稲米は返却されておる」
「何も心配はいらんぞ」
「安心しておれ」

家綱
「そうじゃ 爺!」
「殉死は禁止出来んのか!」

正之
「井伊直孝の事を心配しておるのじゃな」
「あの者の家来には儂が強く言い聞かせておる
殉死は無い」
「安心しておれ」

家綱
「では、殉死を禁止して貰えるのですね」

正之
「いや」
「まだ無理じゃ」
「じゃがな、堀田正盛や多くの殉死した忠臣嫡子の
願いが変われば、いずれ殉死は禁止される」
「時が解決するのじゃ」
「心配いたすな」





将軍家綱
「おい」
「爺」
「儂は爺組を作ることにした」

牧野親成
「はい」
「組で御座いますか」
「親成は何を御手伝い致しましょうか・・」

将軍家綱
「戦の準備じゃ!」
「爺組を精鋭として育て上げ合戦じゃ!」

牧野親成
「はい」
「戦の稽古で御座いますね」
「それでは、準備致します」

将軍家綱
「よし」
「土屋数直と久世広之を加えて精鋭部隊を作るのじゃ!」

牧野親成
「どれ程の規模に御座いますか?」

将軍家綱
「伊豆守信綱をケチョンケチョンに打ち負かす
強力な勢力を作れ!」

牧野親成
「・・・・・」

将軍家綱
「何じゃ」
「強力な部隊を編成せよ!」

牧野親成
「上様・・・」
「いったい、如何なる稽古で御座いますか?」

将軍家綱
「あのな」
「あの者が言うには
儂が家臣の下に行って論議しては為らんそうじゃ
家臣を呼びつけて申し付けよと言うておる」
「じゃがな、儂が一人で戦うには戦力不足であるから
爺組を編成して団結力で粉砕することにした」
「よいか!」
「儂の進退を賭けた大勝負じゃ」
「儂に続け!」

牧野親成
「はい」
「ところで、何を為さりたいのでしょうか?」

将軍家綱
「あのな
信綱には何か秘密があるのじゃ」
「儂は、貝のようになっておる
あの者の口から秘密を聞き出さねば為らんと思っておる」
「お主も興味があるじゃろォ」

牧野親成
「左様で御座いますか・・・」

将軍家綱
「これより、土屋数直と久世広之を加えて
綿密な作戦を作り決戦に挑む」
「お主は決死の覚悟で
今回の戦に臨むのだ!」
「よいか!」

牧野親成
「はい」
「親成には良く分かりませんが
上様は伊豆守様と論戦を交わしたいと申しておいでかな?」

将軍家綱
「バカ者!」
「真剣勝負じゃ」
「生死を賭けた大勝負じゃ」

牧野親成
「上様・・・・」
「もう少し爺にも分かるように
お話し下さい」
「上様は、いったい何を為さりたいのか
さっぱり分かりません・・・・・」



将軍家綱
「皆の者!」
「よくぞ、参った!」
「そこへ、ひかえておれ!」

ーーーー一同畏まるーーーーー

「よし、それではこれより
儂が一番槍をかって出る」
「其方たちは誰が応戦するのか決めよ!」

酒井忠清
「上様!」
「いったい、何を為さる御積りですか?」

将軍家綱
「よし」
「お主が首座じゃ」
「一番槍に応じよ!」

酒井忠清
「はい」

将軍家綱
「仮早稲米の秘密を明かせ!」

酒井忠清
「秘密は何も御座いません」

将軍家綱
「儂は仙台で言葉狩りが行われておることを
知っておるぞ!」
「秘密があるではないか!」
「嘘を申すな!」
「戯け者が!」

酒井忠清
「言葉狩りとは、如何様なものに御座いますか?」

牧野親成
「上様の申されておる言葉狩りとは
仮早稲米の話が仙台藩では禁止されている事でござる」

酒井忠清
「いえいえ」
「江戸市中では言葉狩りは
御座いません」
「戯け呼ばわりは
あんまりに御座います」

阿部忠秋
「忠清殿は老中になり日が浅う御座います」
「代わりに、忠秋が
お相手致します」

将軍家綱
「おおォ」
「忠秋殿か!」
「相手にとって不足はない」
「かかって参れ」

阿部忠秋
「上様!」
「上様が水戸に行かれたのは良しとして
何故!無断で!仙台に行ってしまったのか!」
「我らがどれ程心配し、混乱していたか
考えたことが御座いますか!」
「婚礼の儀に大きな支障が出て
朝廷に言い訳も出来ませんぞ」
「大失態ではありませんか!」

将軍家綱
「もう、そのように怒るではないぞ」
「お主にも謝ったと思ったが・・・」

「んんゥ」
「あのな」
「儂が奏者番に引き立てを命じておった堀田正信じゃが
姿が見えぬ」
「これは、如何いう事かな?」
「儂の命令が聞けぬのかな!」
「忠秋!」
「理由を申してみよ!」

阿部忠秋
「あの者は、無断で江戸を去り
佐倉に帰りました」
「この罪は重く堀田一族は皆、重罪で御座います」

将軍家綱
「ええーーーェ」
「何で!」
「何で勝手に帰ったの?」

「むむむむゥ」
「お前たちが正信をイジメたのじゃな」
「何も無いのに
勝手に無断で帰る訳が無いぞ!」

松平信綱
「上様!」

将軍家綱
「おおォ」
「遂に、首領様のお出ましじゃな!」
「お主!」
「正信をイジメたであろーォ」
「正直に白状しろ!」

松平信綱
「恐れながら申し上げます」
「上様が仙台に行くことを
水戸殿は知りませんでしたが」
「仙台に行くことは、何方かに申し付け下さいましたか?」
「まさか」
「黙って、内緒でお出かけ為されたのでは・・・・・」

将軍家綱
「えェ」
「あのな」
「そのような詮索はするな」
「儂は将軍じゃぞ」
「いちいち、家来の指図は受けん!」

松平信綱
「いいえ」
「これは、重要な事で御座います」
「堀田正盛殿は殉死した忠臣で御座います」
「そして、堀田正信殿は、その嫡男」

「更には」

将軍家綱
「おいおい」
「何を言い出す!」
「よせよせ」

「おい」
「親成の爺!」
「儂に加勢せい!」

牧野親成
「はいはい」
「皆の者」
「上様の仰せの通り致せ」
「上様の御命令じゃ」




家綱
「おい」
「思い出したぞ!」

久世広之
「・・・・・」
「はて?」

家綱
「爺は木内惣五郎を知っておるな!」
「あの時、惣五郎の申し出を受けながら
爺は何もしなかった」

久世広之
「はい」
「そのような事が御座いましたな・・・」

家綱
「爺は責任を感じておらんのか!」
「その後、佐倉の百姓が苦しんでおったぞ!」

久世広之
「では、そのことについて爺がお話し致しましょう」

「先代君家光様の申し入れで酒井忠勝様に大藩を預けられましたが
忠勝様は諸藩の模範となるべき態度で丁重にその褒美を
あえて受け取らなかった」
「先代君は堀田正盛を大政参与に引き立て
大藩に領地替えを考えておりましたが
忠勝様に遠慮して出来なかったのじゃ」
「そこで、どうしても褒美をしたかった先代君は
佐倉藩に有り余る程の褒美米を与えた」

「それから、先代君が崩御なされ、正盛様は殉死され
褒美米も無くなった」
「褒美米は佐倉の倉庫に保管されておる物では無く
市場で購入する物であるから
実際の褒美米は現物の米ではなくて約束の書簡なのじゃ」
「この手続きは仮早稲米に受け継がれた」
「仮早稲米も同様に佐倉の倉庫には無いのじゃ」
「仮早稲米は召喚状を受けて確認書を受理しなければ
手に入れることは出来ん」
「実際、この確認書にしてみても、ただの紙切れ」
「実際の米は市場で手に入れなければならん」
「じゃからな、確認書とは約束手形の写しのような意味しかないのじゃよ」
「幕府からの借金じゃな」

家綱
「さっぱり分からん???」

「儂は、何故、惣五郎殿の申し入れを受けながら
爺が何もしなかったのかと聞いておるのじゃ」

久世広之
「あっはははは」
「内緒じゃぞ」
「爺はその時、五千石の加増を受けておった」
「そして、その五千石を佐倉の倉庫に運び入れたのじゃ」
「そして、その後、百姓は安心しておったのじゃぞ」

家綱
「じゃけどな」
「その後、直ぐに百姓がひもじくなっておったぞ」
「変じゃろーが」

久世広之
「まっ」
「五千石だけじゃからのォ」
「それ以上はことは無理じゃ」

家綱
「確認書があればよかろーが!」

久世広之
「確認書は約束手形の写しじゃ」
「手形は幕府が一時的に持っておりが
それもまた、市場に出回っておる」
「手形も、米も市場をぐるぐると回って
動きまわっておるのじゃ」
「確認書があっても
肝心の米が買えなければ意味がないぞ
幕府の後ろ盾、信用がなければ
確認書はただの紙切れじゃ」
「確認書を持って市場の手形を取り戻して
手形を持って市場で米を手に入れるのじゃ」

家綱
「無駄な事をやっておるのじゃのォ」
「そのような無駄は止めにできんのか?」

久世広之
「これは、米券が始まりじゃからな」
「淀屋のような大きな問屋は
現金で米を売り買いしておらん」
「信用取引なんじゃ」

家綱
「んんゥ」
「大金を持って大量の米を売り買いするよりも
帳簿に記載して米券を使う方が便利じゃな」

久世広之
「はい」
「米を買うのに千両箱を用意するのは
大変ですぞ」

家綱
「しかしなァ」
「何で佐倉藩の百姓だけがひもじくなっておったのか
説明が出来ておらんぞ」

久世広之
「はい」
「やはり、それは褒美米が原因でしょうな」
「佐倉の百姓は褒美米を貰って分家を繰り返し
小作人が増えておりましたが
褒美米をあてにし過ぎて新田開発は遅れておりました」
「小作人が増えて知行米が減れば如何なりますかな?

家綱
「んんゥ」
「そうか・・・・」
「爺の申す通りじゃ」
「儂は何も知らんかったぞ・・・・」

久世広之
「最近、爺組についての話を聞いておるのじゃが」
「爺組とは何ですかな・・・・?」

家綱
「おおォ」
「そうじゃ!」
「儂はのォ」
「信綱が作った小姓衆に対抗して爺組を作ることにしたのじゃ」

久世広之
「ほぉ」
「対抗ですか?」

家綱
「いや」
「対抗ではない対決じゃ」
「信綱はな、爺のようには教えてはくれん・・・・」
「何か重大な秘密を隠しておるのじゃ!」

久世広之
「きっと、時期が来ればお話し下さると思いますぞ」
「焦らぬことじゃ」

家綱
「いや」
「今がその時期じゃ!」



徳川家綱
「どうも、不思議で仕方がない」
「儂が正しいと思って改善しようとしても
皆が反対するのじゃ」
「儂は将軍じゃぞ!」

土屋数直
「何を改善為さりたいのですか?」

徳川家綱
「あのなァ」
「儂は将軍じゃぞ!」
「じゃけどなァ」
「儂が御触れを出そうとしても
反対されるのじゃ!」
「それなのに、変な決まり事やら
祭事は勝手に決まっておる」
「無駄じゃとは思わんか!」

土屋数直
「かなり、鬱憤が溜まっておられるようですな」
「では、爺がお話し申し上げましょう」

徳川家綱
「おおゥ」
「爺も話を聞かせてくれるのか!」
「さあ、話せ!」

土屋数直
「上様は久世広之殿に佐倉藩の事を聞きましたね」

徳川家綱
「そうじゃ」
「広之はのォ
儂が聞くまで黙っておった」
「何も聞かれたくなかったようじゃ」

土屋数直
「実を言うと
爺も同感なのですぞ」
「口は災いの元と申します」
「しかし、広之殿だけに災いがあっては気の毒じゃ
儂も災いを被ることにしよう」

徳川家綱
「災いなど無い」
「安堵せよ」

土屋数直
「広之殿は佐倉藩の百姓の困窮は
褒美米が原因と申されたのではありませんか?」

徳川家綱
「そうじゃ」
「儂はそれで納得したのじゃ」
「何故、隠す必要がある!」

土屋数直
「実は、爺はも・・・・」
「褒美米が原因で佐倉藩の百姓が
怠慢になっていることを指摘したことがあったのですが・・・」
「前様は酷くお怒りになり」
「爺を政務から遠ざけられたのです」
「きっと、広之殿も同じ思いで
あったのでしょうな」

徳川家綱
「おおォ」
「何と言う事じゃ」
「済まぬ」
「知らぬ事とはいえ」
「大変な過ちじゃ」
「何故、父上はそのような愚かな過ちをなさるのか?」

土屋数直
「いえいえ」
「前様をそのように申しては為りません」
「褒美米は忠臣への感謝の気持ちでありましたから
好意を否定されたことが悲しかったので御座いましょう」

徳川家綱
「儂は、帥と広之に謝るぞ」
「そして、父を許してほしい」

土屋数直
「上様」
「左様な事はお止め下さいませ」
「爺は上様の家臣で御座います」

徳川家綱
「では、もしや」
「殉死に関しても同様の圧力がかかっておるのではあるまいか?」

土屋数直
「いいえ、いいえ」
「殉死は忠臣の証」
「同じ意味合いは御座いません」

徳川家綱
「帥が良いと言っても
儂の気が済まぬ」
「儂は帥を大政参与に格上げする事とするぞ!」

土屋数直
「有難き事と存じ上げますが、
いきなり大政参与は身分不相応で御座います」

徳川家綱
「なんじゃ、不満か?」

土屋数直
「上様!」
「堀田正盛様はいきなり大政参与に抜擢され
惜しみない褒美を受けておりました」
「佐倉藩の領民は褒美を我が事として喜び
毎日お祭り騒ぎ、仕事は後回し、
大勢の小作人も褒美米を頼りにして
まともに働こうとはせず
田畑は廃れておりました」
「同じ過ちとなりますぞ」

徳川家綱
「しかしなァ」
「お主は正盛と同じ過ちは犯さぬ」
「儂は信頼しておるぞ!」

土屋数直
「正盛様は城住まいで御座いました」
「領地に赴くことは御座いません」
「佐倉領民の依存心が招いた
悲劇なのです」
「正盛様に防ぐ手は御座いません」

徳川家綱
「そうか」
「無理にとは申さぬ」
「では」
「帥は何が望みじゃ!」
「申してみよ!」

土屋数直
「はい」
「爺は、上様に儒教を学んで欲しいと思っております」

徳川家綱
「えっ」
「嫌じゃ!」
「儂は、そのような教えは
よう分からん」
「だから、嫌じゃ」

土屋数直
「何を仰っております」
「これが爺の望みですぞ」
「上様! 明日とは言わず
今日からでも遅くはありません」
「さあ、学びの間に」

徳川家綱
「いや」
「いやいや」
「やはり、爺は大政参与になれ!」
「儂は、学びは嫌いじゃ!」

土屋数直
「残念ですが
爺は大政参与にはなれません」
「それよりも」
「上様の学びをお手伝い致しましょう」

徳川家綱
「ひィーー」
「嫌じゃ、嫌じゃ」

土屋数直
「上様!」
「お待ち下さい」
「いざ、学びの間に!」



酒井忠清
「上様は仙台に行っておった」

稲葉正則
「はい」

酒井忠清
「甲斐とは接触していたと思うか?」

稲葉正則
「いいえ」
「今、甲斐殿は江戸におりますぞ」

酒井忠清
「ほォ」
「何故であろうな?」

稲葉正則
「何やら、幕府からの指示待ちのようじゃ!」

酒井忠清
「ほォーォ」
「儂の指示でも待っておるのかのォ・・・・」

稲葉正則
「分かりません?」

酒井忠清
「今のところ、仙台藩のことは旨くはこんでおるが・・・」
「甲斐の目的は何じゃろーか?」

稲葉正則
「きっと、幕府の意図を探っておるのでしょう」

酒井忠清
「んんぅ」
「おい」
「甲斐を利用出来んか?」

稲葉正則
「如何様に?」

酒井忠清
「下手に動かれてもこまるでのォ・・・」
「泳がせておいて」
「様子見が良いか・・・・」

稲葉正則
「はい」
「では、あの者の動きを監視しておきましょう」

酒井忠清
「あっ そうじゃ」
「伊豆守様にも知らせるのじゃ」
「我らの計画を成功させるために
万全の態勢を整えなければならん」
「良いな!」

稲葉正則
「はい」
「承知致しました」



松平信綱
「甲斐殿」
「評定役、ご苦労で御座った」
「引き続き、協力をお願い致したい」

原田宗輔
「はい」
「こちらこそ、伊豆守様の御恩に感謝致しております」
「仙台藩本藩からの申し入れで御座いますが
仮早稲米の確認書をお願いしたいとの事・・・」
「如何致しましょうか?」

松平信綱
「おおォ」
「そうであったな」
「早急に準備しよう」
「あくまでも、これは確認書じゃ」
「借款は淀屋からであるから
誤解無き様にお願い致す」

原田宗輔
「はい」
「承知致しております」
「しかし、このように借金が積み重なると
恐ろしゅう御座いますが・・・・」
「いったい」
「何が起こっておるのか
全く見当も付きません」

松平信綱
「そのような事は心配無用じゃ」
「借款は仙台本藩によるもの
お主は恩恵だけ受けておれば良いのだ」

原田宗輔
「とは申されても・・・」
「何とも、気持ちの悪い思いで御座いまして・・・・」

松平信綱
「何が気になる?」

原田宗輔
「儂、甲斐への恩恵は幕府からの借金に他なりませんが
幕府は損をしてはおりませんか?」

松平信綱
「幕府は借金のかたに仮早稲米を貰って市場で売り出しておる」
「だからな、幕府は損失どころか大増収じゃ」
「しかしな」
「仙台本藩が破産すれば意味がないのじゃ
本藩が破産せぬ為には
仙台藩の一門の力を本藩に集め
仙台藩を大きく成長させる必要がある」
「如何じゃ!」
「お主は何をするべきか分かるか!」

原田宗輔
「そうで御座いましたか」
「なにやら、気持ちの悪い思いでありましたから」
「仙台本藩が権力を持つことは
甲斐にとっても願ったり叶ったりですので
気持ちよく協力することが出来ます」
「何卒、伊豆守様のお力を持って
仙台藩を御救い下さいませ」

松平信綱
「いやいや」
「こちらこそじゃな」
「本藩の躍進なければ
本藩に貸し付けておる借款は焦げ付き
幕府は大損じゃ」
「儂は、もう、お家のお取り潰しは御免じゃ」
「本藩は潰されぬよう
一門を吸収して成長せよ」

原田宗輔
「はい」
「ただ・・・」
「後見役の田村宗良殿が気が弱く
一門に対抗出来ません」
「如何致したら良かろうかと・・・・」

松平信綱
「ほォ」
「其方は田村宗良殿では不満かな?」

原田宗輔
「いえいえ」
「前から伊達宗勝殿を前面に立てたいと言われておりましたので・・・・」

松平信綱
「んんぅ」
「誰がその様な事を申しておる?」

原田宗輔
「はい」
「首座様の御意向だと・・・・」

松平信綱
「忠清殿か」
「んんゥ」
「儂は田村宗良殿で良いと思っておるぞ」
「本藩嫡子は赤子じゃが
もしもの折は
本藩を受け継ぐには
田村宗良殿でなければ
争いが起きよう」
「儂は、仙台藩にとって
最も良い方法を考えておる」
「田村宗良殿を引き立てておれ!」
「良いな!」

原田宗輔
「はい」
「しかし、首座様と意見が違っておりますと
具合が悪う御座います」
「ここは、伊豆守様より
首座様に
田村宗良殿を引き立てよと号令をお願いしたく・・・・」

松平信綱
「そうじゃな」
「酒井忠清には
そのように申し付けよう」
「田村宗良殿を支援して
仙台藩を一つに纏め
大きな権力とするのじゃ」
「良いな!」

原田宗輔
「はい」
「御心使い感謝申し上げます」
「これからも、
この甲斐を宜しくお願い致します」

松平信綱
「よいよい」
「お互いさまじゃ」
「其方の働きには感謝しておるぞ」

原田宗輔
「有難き幸せに御座います」




田村宗良
「いやいや」
「ご苦労で御座いましたな」
「幕府からの確認書がなければ
仙台藩は潰れてしまう」

原田宗輔
「はい」
「ご安心下さいませ」
「本藩が強ければ
幕府からの援助が途切れる心配は御座いません」

田村宗良
「しかしのォ、儂は恐ろしいのじゃ」

原田宗輔
「何ですかな?」

田村宗良
「あのあァ」
「色々あるぞ・・・」
「先ずは、借款が積み重なっておる」
「借金を返す当てがないのだ」

原田宗輔
「幕府が助けてくれます」
「ただ」
「・・・・・」
「条件が御座いますぞ!」

田村宗良
「おいおい」
「嫌じゃのォー」
「借金のかたに仮早稲米を取り上げられて
更に、何を取り上げるつもりじゃ!」

原田宗輔
「いいえ」
「奪われるのではありませんぞ」
「手に入れるのじゃ!」

田村宗良
「儂は、何も要らんぞ」
「借金が増えるだけじゃ」
「不要じゃ、要らん、要らん!」

原田宗輔
「いいえ」
「借金が増えることはありません」
「領地を増やすのです」

田村宗良
「一門が怒るぞ」
「儂は領地など要らん!」
「争い事は御免被る」
「不要じゃ、要らん、要らん!」

原田宗輔
「しかしのォ」
「奥山大学殿が
幕府の蔵入地であった黒川郡吉岡を貰い受け
知行高を6000石へ加増しておる」
「大学殿はお主の家臣ではないのか?」

田村宗良
「奥山大学は儂には関わりのない者じゃ」
「あ奴が勝手にやっておることじゃ」
「儂の知ったことでは無い」

原田宗輔
「んんゥ」
「あのなァ」
「幕府の蔵入地じゃぞ
幕府がな、お主に治めて欲しいと
思っておるのに
断るのは変じゃぞ」
「とりあえず
受け取っておけば良いではないか・・・」

田村宗良
「んんんゥーーーーー」
「嫌じゃけどなァ」
「受けねばならんのかなァ・・・」
「嫌じゃなァ」

原田宗輔
「では」
「後見役として田村宗良殿が
蔵入地を治めることを確認しましたぞ」

田村宗良
「ええェーーーー」
「勝手にきめるのかァ」
「儂は、奥山は苦手なんじゃ」
「儂はな、きっと奥山に殺される」
「あ奴は、恐ろしいぞ」

原田宗輔
「相談役の立花忠茂様が警護に当たっております」
「儂も、お主の味方じゃ」
「安心して治めなされ」

田村宗良
「んんゥ」
「あのなァ」
「勝手に儂を引き立てておるがなァ」
「儂は藩主になどなりたくないぞ!」
「争い事に巻き込まれるのは
まっぴら御免じゃ」

原田宗輔
「よいですかな・・・・」
「今、幕府に見放されれば
仙台藩はお取り潰しを免れませんぞ」
「幕府に大量の借金がある事を
お忘れに為らぬように」

田村宗良
「ああァ」
「やっぱり」
「借金をかたにしておるではないか!」
「早く、借金を返済せねば
夜も安心して眠れんわ・・・」

原田宗輔
「はい」
「ここは、この甲斐にお任せ下さい」
「借金返済は幕府が支援することを
約束しております」
「ただ、条件として」
「本藩が強くなることです」
「本藩が強く成らねば
知行米も上がらない」
「地行米が上がらなければ
借金も返せない」
「どうですかな」
「この、道理でござる」

田村宗良
「そうじゃのォ」
「お主の申す通りかも知れんのォ」
「早く、借金を返さねば
為らんからのォ」
「しかし」
「その役目は儂なのか?」
「そうじゃ!」
「大叔父の伊達宗勝殿も後見人じゃ」
「宗勝殿にお願いしては如何じゃ!」

原田宗輔
「いいえ」
「幕府の指示で御座いますぞ」
「幕府は其方を盛り立て、
仙台藩を豊かにするように、との事」
「責任逃れは出来ませんぞ」

田村宗良
「責任と言うがなァ」
「儂が借金を作った訳では無いぞ」
「ああァ」
「逃げ出したいなァ」

原田宗輔
「いいえ」
「逃げれませんな」



池田光政
「光政、上様との謁見が許されましたこと
感謝申し上げます」

将軍家綱
「おおォ 光政殿」
「丁度良いところで、お会い出来た」
「備前の地は豊かじゃと聞く」
「因幡は難儀であったのォ」

池田光政
「はい」
「領地替えで
我らは息を吹き返した思いに御座います」
「光政! 上様の恩は決して忘れません」

将軍家綱
「ああッ、そうじゃ」
「赤穂は武闘派であると聞いておるが
渡るのに揉め事が心配ではないか?」

池田光政
「はい」
「我らも心配しております故」
「遠回りでやり過ごしております」
「あらぬ事があっても困りますが故」

将軍家綱
「お主」
「そのように、近隣諸藩にも気遣っておるが
陸奥の国まで行くとなれば
大変じゃな」

池田光政
「いいえ」
「光政、近年では陸奥には行っておりません」

将軍家綱
「変じゃのォ」
「光政殿は仙台藩に赴き伊達綱宗殿に会っておると
思っておったが」
「違うのか?」

池田光政
「はい」
「光政、伊達綱宗殿には会っておりません」

将軍家綱
「んんゥ」
「じゃがなァ」
「お主は、連名で伊達綱宗殿の強制隠居を求めたと聞くが
会ってもおらん者を蟄居させたのか?」

池田光政
「いいえ、これには確かな証拠が御座います」
「また、いきなり隠居を求めたのでは御座いません」
「何度も、注意申し上げたのも聞かずの
遊興放蕩三昧で御座いましたので
仕方がなく、止むを得ず、心ならずの処置で
御座いました」

将軍家綱
「んんゥ」
「あのなァ」
「お主は、伊達綱宗殿が遊興放蕩三昧をしておるのを
実際には見ておらん筈じゃ」
「何を証拠にその様な事を言っておる」

池田光政
「はい」
「伊達綱宗殿の大叔父である伊達宗勝殿から直接の
ご報告で御座いました」

将軍家綱
「それだけでは
確かな証拠とは言えんぞ!」

池田光政
「しかし、この事は
幕府の知る事と承知しておりますが・・・・」

将軍家綱
「んんゥ」
「そうじゃな」
「いやな、お主を責めておるのでは無いぞ」
「儂はな真実を知りたいのじゃ」

「実はな、儂は内緒で仙台に行っておったのじゃ」

池田光政
「ええェ」
「上様が仙台に行っておられたので・・・・」

将軍家綱
「そうじゃ」
「内緒で行ったからな」
「根回し無しじゃ、だから仙台藩の実態が正確に分かる」

池田光政
「おおォ」
「では」
「伊達綱宗殿の遊興放蕩三昧は嘘で・・・・」

将軍家綱
「おそらく、嘘じゃ」

池田光政
「恐れながら・・・・」
「理由をお教え願えませんか?」

将軍家綱
「理由は簡単じゃ」
「今、仙台藩では言葉狩りが行われ
領民は皆、恐怖に震えておる」

池田光政
「言葉狩りで御座いますか?」

将軍家綱
「仙台藩では今、
伊達綱宗殿が遊興放蕩三昧であったの話は
言葉狩りの対象外になっておるが
伊達綱宗殿が立派な藩主であったとする
藩主の業績は厳しい制約をもって
取り締まれておるのじゃ」
「もし、藩主伊達綱宗殿を褒めるような
話をしておれば
その者は闇討ちに会う」
「よって」
「領民は口を噤んでおるのじゃ」

池田光政
「おおおォ」
「それが真であれば
儂は大変な過ちを犯した事となる」
「如何すれば良いのだ・・・・」

将軍家綱
「其方は、知らなかったでは済まぬな」
「しかし、お主は
伊達宗勝に騙され、
老中の命令に逆らう術がない」
「儂とて同じじゃ」
「如何じゃ」
「これから如何したらよいか」
「儂と一緒に考え行動しようではないか!」

池田光政
「はい」
「光政の罪を償いとう御座います」

将軍家綱
「そうじゃ、じゃがな」
「今は、仙台藩は落ち着いておる」
「だから、下手に動く事は謹んで欲しい」
「誰が何をするか?しようとしているか?」
「儂は良く観察してから行動する」
「お主も手伝ってくれるか?」

池田光正
「はい」
「微力で御座いますが
全力で上様に尽したいと思います」

将軍家綱
「左様か、帥は良き家臣じゃ」
「面倒を持ちかけたが
乗りかけた船じゃ
最後まで渡り切ろうぞ」

池田光政
「はい」
「仰せの通り
精進致します」

将軍家綱
「よしよし」



伊達宗勝
「なんじゃーおりゃー」
「儂を蔑ろじゃのォ」
「おんどりゃーが」

原田宗輔
「幕府は田村宗良を第一人者として押し立てておる」
「お主は、少し大人しゅうに静かにしとれや」

伊達宗勝
「じゃがなァ」
「忠清様は儂を押しておるぞ」
「儂の息子はな
忠清様の養女を妻にする手筈じゃ」
「おんどりゃーが!
どアホーが!」

原田宗輔
「儂に怒ってなァ・・・」
「これは、幕府の方針じゃ」
「忠清様も首座とはいえ老中新参でありますぞ」
「無理を言ってはなりませんな」

伊達宗勝
「じゃがなァ」
「あの田村宗良のひよっこ野郎がよォ
この伊達家の本藩を纏めることなど
できゃーせんぞ」
「アホんだらーがァ」

原田宗輔
「儂もその件は心配しておったがな」
「確固たる幕府の後ろ盾を得ることが出来た
心配は無用じゃ」
「幕府の指示であるからな」
「お主が出しゃばって
よけいな口出し、手出しをすれば
幕府からの援助は期待出来ん!」
「さすれば」
お家は断絶間違い無しじゃ」

伊達宗勝
「んんゥ」
「幕府の援助無しには
藩の財政は破綻するからのォー」
「しかし、酷い借金じゃ」
「この借金を全て伊達綱宗の遊興放蕩三昧の
せいにするのは無理じゃなァー」

原田宗輔
「綱宗が藩主であったのは、たかが二年間じゃ
何をしておっても作れる借款では無いからな・・・」
「幕府の力が無ければ我らは破滅じゃぞ」
「分かったら、
お主は大人しゅうにしておれ」
「田村宗良は幕府の言いなりじゃが
お主は喧しいからのォー」
「ちったァー反省せいや」
「宗良みたいにして
猫かぶりしてりゃー
幕府も安心して
お主にも声をかけてくるじゃろーよ」


伊達宗勝
「んんゥ」
「これじゃーな」
「何のために綱宗を追い出したのか分からんぞ」
「いっそのこと」
「宗良もやっちまては如何か?」

原田宗輔
「バカ言え!」
「そんな事をすりゃー」
「おめーの仕業が世に知れ渡り」
「ただじゃーおけなくなるんだぜ」
「大人しくしてろや」

伊達宗勝
「んんゥ」
「この借款が有る為に
幕府に頭が上がらねェーのか」

原田宗輔
「ところで」
「何だって、こんなに借金をしちまったんでェー」

伊達宗勝
「これはなァ」
「伊達政宗様の威光を高めるために
使っちまったのさ」

政宗を祀るため瑞鳳殿・瑞鳳寺を建立、寛永17年に白山神社の社殿を建てた。寛永20年に満福寺を創建慶安2年(1649年)に火災で焼失した孝勝寺を再建、翌慶安3年(1650年)には愛宕神社を建立、承応3年(1654年)には東照宮を6年かけて勧請・遷宮した(仙台東照宮)。承応4年(1655年)に仙台東照宮の祭礼 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

原田宗輔
「こりゃー凄い」
「借金も莫大になる訳じゃな」

伊達宗勝
「この膨大な借金を
伊達綱宗の遊興放蕩三昧のせいに
しようってんだからな」
「まァ」
「無理があらァー」

原田宗輔
「何だって、こんな事になっちまったんだ?」

伊達宗勝
「これもなァ」
「幕府の意向じゃ」
「幕府の浪費なんざ、もっと、ひでェーもんじゃぜ」
「こんなのァーかわいいもんじゃ」

原田宗輔
「ほォーォ」
「おめェーも結構
物知りじゃーねェーか」
「まァ」
「本藩はな」
「宗良に任せることじゃ」

伊達宗勝
「あああァ」
「おおィ」
「ふざけんじャーねェーぞ」

原田宗輔
「如何した・・・・」

伊達宗勝
「あの野郎じゃ」
「こん畜生がァー」
「あの、奥山大学じゃーァ」
「あ奴だけは許せん!」

原田宗輔
「何を言っておる!」
「奥山殿は幕府の傀儡じゃぞ」
「お主には太刀打ち出来んのが分からんのか!」

伊達宗勝
「おめェーも」
「奥山の回し者じゃな」
「出ていきやがれ!」
「二度と顔を出しやがると
承知しねェーぞ
こんにャーろーが」

原田宗輔
「おいおい」
「落ち着け!」
「奥山は気に入らんじゃろーがな
我慢じゃ、よいか」
「我慢せよ・・・」

伊達宗勝
「何を言ってやがる」
「いいから
早く出て行きやがれ!」
「奥山なんぞに
伊達家を乗っ取られてたまるか」
「お主は奥山の回し者じゃ」
「ふざけるな!」

原田宗輔
「おおォ・・・・」
「おい」
「変なまねをおこすなよ」

「んんゥ」
「如何しようもないのォ・・・・」
「儂は退散するぞ」
「よいか!」
「冷静になれよ・・・・」

伊達宗勝
「出ていきやがれ」
「儂は奥山は嫌れーじゃ」




奥山常辰
「おおぉ」
「兵部殿!」

伊達宗勝
「うぎャー」
「大学か・・」

奥山常辰
「兵部殿!残念であったのォ」
「後見人は田村宗良が第一人者となりましたぞ!」

伊達宗勝
「おい」
「そのように、大きな声を出すな!」
「無礼であろう・・・・」

奥山常辰
「いゃーわりィ、悪ィ」
「これは地声じゃ」
「許せ!」

伊達宗勝
「おい」
「お主が道の真ん中におると
儂は、横の溝に落ちそうじゃ」
「もっと隅に寄れ」

奥山常辰
「おおォ」
「そうじゃのォ」
「肩やら鞘やらが当たっても
問題じゃ!」

伊達宗勝
「大学!」
「調子に乗るなよ」
「儂には老中首座忠清様が後ろ盾じゃ」

奥山常辰
「兵部殿!」
「そのような心配は無用じゃ」
「立花忠茂様のもとには、天下の伊豆守様がおられる」
「現に、立花様がお抱えの田村宗良が第一の後見人に指名されておる」
「新参者の忠清殿の出る幕ではないぞ!」

伊達宗勝
「あのなァ・・・」
「お主に仙台藩を委ねてはおらんぞ」
「儂は、藩主の後見ぞ!」
「見くびってもらっては困る」

奥山常辰
「おおォ」
「そうじやのォー」
「じゃがな」
「第一人者は田村宗良様じゃ」
「兵部殿!」
「後見を一人に絞っては如何じゃ」
「二人もおっては
問題じゃぞ!」

伊達宗勝
「おい!大学」
「大きな声を出すな」
「周りに聞こえるではないか・・・」

奥山常辰
「がっははは」
「わりィーな」
「地声じゃ」


伊達宗勝
「大学!」
「お主は何の目的で田村宗良に近づいておる」
「お主には藩主になる資格はないぞ」

奥山常辰
「儂はなァ、田村宗良殿が藩主となるのを助けておる」
「本藩を宗良殿に任せて
仙台藩を統合して大きくするのじゃ!」

伊達宗勝
「むむゥ」
「田村宗良に仙台藩を纏める事など出来はせん!」
「とんだ見当違いじゃな」

奥山常辰
「あのなァ」
「田村宗良には伊豆守様がついておるのじゃぞ!」
「幕府の命令ではないか!」
「兵部殿は上意に逆らうつもりかな!」

伊達宗勝
「じゃがなァ」
「忠清様は首座ですぞ」
「上意は言い過ぎじゃ」
「儂はな首座様のご加護にあるのじゃ!」

奥山常辰
「まッ」
「せいぜい、虚勢を張っておれ」
「ほら」
「刀の鞘が当たるぞ」
「もっと隅に避けてくれ!」

伊達宗勝
「お主こそ」
「避ければ良いじゃろーが」
「これ以上隅に行けば塀にぶつかるぞ」

奥山常辰
「儂とて、これ以上避ければ
溝に落ちるぞ」

伊達宗勝
「むむむゥ」

奥山常辰
「よいよい」
「ではな」
「儂が溝に入ってやる!」

伊達宗勝
「おィ」
「もうよい」
「儂が塀に張り付いてやる!」

奥山常辰
「いいや」
「兵部殿は道の真ん中を
お通りください」
「儂が溝に落ちて
おりますぞ!」

伊達宗勝
「おいおい」
「大きな声を出すな!」
「喧嘩しておると思われるではないか・・・・」

奥山常辰
「おおォー」
「地声じゃ!」
「許せ!」

伊達宗勝
「ううゥ」
「ふざけた奴じゃ」

奥山常辰
「兵部殿」
「何か申されましたかな?」

伊達宗勝
「もうよい・・・」

奥山常辰
「がッはははははーーー」

伊達宗勝
「アホめ・・・」