清少納言の恋の場の歌 3.
馬場あき子氏著作「日本の恋の歌」~恋する黒髪~ からの抜粋簡略版
人を恨みて、さらに物言わじと誓ひてのちにつかわしける
われながら我がこころをば知らずしてまた逢ひ見じと誓いけるかな 「続後撰集」恋三
これも相手はかなり親しいお気に入りの男性なのだろう。互いに恨みつらみを言いあう濃い愛情の結末が、もうあなたとは口もきかない。誓って二度と逢わない。などと言って別れた翌日、その人が恋しくなり、あやまりを入れた歌である。素直な歌い方に好感がもてる。「私としたことが、私の本当の心に気がつかず、二度とお逢いするすることはないなどと、何と軽率なことを誓ったのでしょう。ごめんなさい。ぜひ早速にもお逢いしたいものです」という、急転直下の和解の申し入れである。
「枕草子」で活躍する才気煥発の清少納言とは少し違い、恋に立ちおくれて恨みっぽい心弱さがみえるところがかえって新鮮。しかし、清少納言は恋の場面でも積極的で歯切れがいい方が本領のように思える。自分の方から、「人のもとにはじめてつかはす」というような詞書の歌もある。女から男への恋の初信である。
たよりある風もや吹くと松風によせて久しき海士(あま)のはし舟 「玉葉集」恋一
(あなたと交際の道をひらくためによい機会があってほしいと願いながら、それを待っている私は、松島の入江に寄せた小舟のようなもの。もうずいぶん長らく待ちつづけていますのに)
こんな歌を手にしたのはいったいだれなのだろう。
続く(この項、次回で終わります。その後、実方と清少納言の恋の歌を予定)