藤原実方の女性遍歴
馬場あき子氏著作「日本の恋の歌」~恋する黒髪~ からの抜粋簡略版
実方は小一条左大臣と呼ばれた師尹(もろただ)の孫である。父定時が早世したので、叔父済時(なりとき)の養子となった。交流も広く将来を嘱望(しょくぼう:期待すること)されていた青年貴公子の一人であった。
「私家集大成」には四種類の実方の集が納められているが、恋の情感を湛えた女性との交際が優雅に華やかに印象される。なかでも七夕の宵は男女の間の贈答が折を得た恋の言問(ことと)いとなっていたため実方に七夕の歌がないはずはない。
親しかった宰相内待との贈答をみよう。
たなばたにちぎるその夜はとほくともふみみきといへかささぎの橋 実方
返し
ただちにはたれかふみみむ天の川うききにのれるよはかはるとも 宰相内待
今夜の七夕のように、契りを結ぶ夜はなかなか叶わぬことですが、せめて文だけは見たと、また、かささぎ(カチカチと鳴くカラス科の鳥)の橋も逢うために踏み渡りはしたと、そのくらいは言って下さってもいいでしょう。という実方に対して、
宰相内待の方は、お手紙を頂いたからといって、誰がすぐにかささぎの橋を踏んでいきましょうか。私はちょうど、天の川の浮き木に乗っているようなおぼつかない人生の途中ですもの。その人生がどのように変わるとしましてもねえ、と結語を濁している。
両者とも一種の交際の親しさを確認しあっているような七夕の挨拶歌といえるもので、「ふみみきといへ」という命令形の親愛感に対して、「たれかふみみむ」とこれも面白く応じている。
以下略
つづく(次回、藤原実方と清少納言の贈答歌を予定)