投資家の目線

投資家の目線58(日本航空増資の一考察)

 日本航空の公募増資の結果、払込総額1386億円(発行価格総額1477億円より91億円が引受会社の手取額と計算できる)の資金が市場から調達されることになる(第三者割当増資とあわせた上限は約1470億円)。一方、市場全体の下落傾向もあり6月30日の終値287円から7月21日の終値215円と25%下落したため、時価総額は1427億円減少した。したがって、企業価値=株式時価総額+負債価値(≒負債簿価)は巨額の増資にもかかわらず発表前とほとんど変わらないことになる。
 社債の信用リスク評価にオプションモデルが応用されることがある。その場合、負債は社債のみとして単純化すると、
株式:株主有限責任から、
原資産(S)を企業価値、権利行使価格(K)を負債価値とするコールオプションのロングポジション
社債:社債額面を上限とし、債務超過のときは企業価値となるから、
デフォルトフリーの債券のロングポジション+原資産(S)を企業価値、権利行使価格(K)を負債価値とするプットオプションのショートポジション
と解釈される。

 ここで、国債はデフォルトがほとんどないとすると上記の社債の式より、社債のスプレッドはプットオプション価値に相当することになる。したがって他の条件の変化が微小とすると、企業価値(S)がほとんど変わらないとプットオプションの価値の大きさも変わらず、多額の資金を調達するにも関わらず日本航空の社債の国債に対するスプレッド縮小は小幅に留まる(日経金融新聞2006年7月18日)と大まかには解釈できる。同社は05年度末で短期借入金+1年以内に返済する長期借入金等が1495億円(連結ベース)もあり、信用力の改善が見られない中でゼロ金利解除による借入金利が上昇するのは同社にとって痛手であろう。

追記

企業価値=株式時価総額+有利子負債=フリー・キャッシュフローの割引現在価値

と仮定する。

 オプションの価格決定要因には、権利行使価格、残存期間、無リスク利子率、原資産のボラティリティ、原資産価格がある。

・権利行使価格
 増資は有利子負債返済のためではない(全額を航空機購入に充てる)ので、増資の前後で有利子負債の額はほぼ変わらないと考えられる。
・残存期間
 増資の発表から払込期日までの期間は約3週間。有利子負債の平均残存期間からすれば、微小と考えられる。
・無リスク利子率

 ゼロ金利は解除されたが追加利下げはゆっくりされることが確認されたため、10年国債利回り(無リスク金利)は1.9%台から1.8%台に低下した。280回債から281回債に途中で変わっているが、それを調整すると0.085%ポイントほど低下している(BB終値ベース)。無リスク利子率の低下はスプレッド(プットオプション)の上昇要因である。しかし、それにもかかわらず期間を通じてスプレッドはほとんど変わっていないため、影響は軽微だったと考えられる。
・原資産のボラティリティ
 今回の増資は航空機購入という本業のためのものなので、企業価値(あるいはフリー・キャッシュフロー)のボラティリティは変わらないと考えられる。

 そのため、スプレッドがほとんど変わらなかったことが成り立つには、原資産の価値が変わらないことになる。さらに有利子負債の額は変わらないので、増資の前後で株式時価総額が変わらないことになる。

(増資発表直後、株価は底堅かったが、それはJAL株の逆日歩が急上昇したためと説明されていた[2006/7/7日本経済新聞朝刊]。)


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 先週、あるタレントの「反社会的行為」が話題となった。まだ逮捕されたわけでもないのに実名報道されるのは、先の日本テレビのアナウンサーの事件とのバランスを考えるといかがなものだろうか?

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