うっかりすると殺し屋と間違われかねないアウトフィットだったが、知的な顔立ちを見れば大学教授のように見えないこともなかった。
「こちらこそ辺鄙な山奥にまでご足労願って恐縮です。日本語がお上手ですね。一度、早い時期に貴方に会っておきたかったもので」
魔道を一目見た3匹が唸り始めた。
「ヌーヴェルヴァーグ嬢はどこにいらっしゃるにも三匹の盲導犬(英語でseeing eye dog)をお連れと聞いていましたが、どうやらどう猛犬(seemingly excited dog)の間違いでしたか」
「盲導犬は常に『親愛なる犬』ですわ。どうぞマクミラとお呼びください」
「わかりました。マクミラ、ここからは英語でお話ください。以前ボルチモアで5年研究生活を送ったのでわたしもいちおうのコミュニケーションには困りません」
「いちおうのコミュニケーションですか・・・・・・」
一瞬、マクミラは冥界での神官時代を思い出した。
静かにするよう指示されておとなしくしているが、三匹は唸るのを止めただけでいつでも飛びかかれる姿勢を取っている。
「さっそく聞きにくいことを伺いますが、学問の世界を追われることになったいきさつをお聞かせいただければと思います」
「ご遠慮なく。長い話で退屈しなければよろしいのですが」
「フランケンシュタイン計画。これ以上興味深い話はないはずですわ。だけどその前に本当の人格に出てきてもらいましょうか」
マクミラの口調が急に変わった。
「本当の人格とは?」
「わたしの心眼はごまかせないわ。他人の節穴はごまかせてもね。それにキル、カル、ルルもわかっているようだわ」
再び唸り始めた三匹の盲導犬がだんだんと興奮していく。
「何をおっしゃっているのか、私にはわかりかね・・・・・・ウッ、頭が痛い」
突然苦しみだした魔道の顔がゆがむ。
フッフッフッ!
最初からわかっていたな、とさっきとは別人の声が答えた。
整えられていた髪が逆立ち両眼が鬼火のように燃え上がったかと錯覚するほど力に満ちあふれていた。
「儂が魔道の影の人格ドクトール・マッドじゃ」
「こうこなくては。ミシガン山中くんだりまで来たかいがない。さあ、革フェチさん。いったい魔道とマッドとどちらがフェッチ(註、fetchは死の直前に現れるといわれる生き霊)か、教えてもらおうかしら」
青白い顔のまま、みるみるマクミラの唇に赤みが射してくる。
その時だった。
キル、ルル、カルの周りに小さい爆弾でも破裂したような音がして三匹が一匹の強大な魔犬ジュニベロスに変化した。
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