舞台は、第三幕「波しぶきに輝く白色の海は、天かける最高神ユピテルの輝きの刻」に進んでいく。
ダニエルが、再び歌い出す。
おお、白い海の波しぶきを見るがよい
最高神ユピテルの輝きの刻が来た
愛こそ、この喜びのときにふさわしい
愛こそ、この世でもっとも貴きもの
だが、愛こそ、この世でもっとも不可思議なもの
試みずには、知ることはけっしてできぬもの
愛は、論理や倫理にはけっして当てはまらぬ
愛は、喜怒哀楽のどれにも似て、どれとも非なる
だが、すばらしきがゆえに破滅にみちびく
愛は、すべてを奪うものが、奪うことでなにかを与える
愛は、苦しめるものが、苦しめることで歓喜を与える
愛は、この世でもっとも貴きもの
だが、貴きがゆえにはかなくうつろいやすい。
愛は、愛し合うものがいるときは誰もその価値を知らず
失って初めて、どれほど大事であったかを知る
次に、魔女たちと太陽の化身が最高神ユピテルに捧げる剣舞に進んだ。彼らの住む都が、海と太陽の恵みを受けて繁栄するための祈りの剣舞であった。「アナ・ウェル・レイリ」(“Ana Wel Leil”)が始まると、いきなリギスが、イシスウィングをコロナ役ダニエルの方に羽ばたかせる。扇状の翼には、切っ先鋭い十数枚のナイフが仕込んであり、とっさにかわす。そのままの位置にいたならば、身体が上下生き別れになるところである。だが、コロナはこの程度か、といわんばかりに微笑んでいる。
ライムが、シミターを太陽神役のアストロラーベにいきなり振りかざす。本来イミテーションの湾曲した剣だが、触れればただではすまない切れ味である。だが、アストロラーベもさるもの、腰の剣を抜いて何食わぬ顔で受け止める。
メギリヌが真鍮入りで3キロもあるアサヤを、スカルラーベの頭上にかざした。冥界の将軍だけあってスカルラーベも、腰の剣で難なく受け止めて、表情一つ変えない。
ダニエルとアストロラーベ、スカルラーベの三人が、目配せをする。
ここまでは折り込み済みと、楽しんでいる雰囲気さえただよわせている。
ほとんどの観客は、何も知らずに迫力満点の演出だとよろこんでいる。
観客の中で、何かがおかしいとナオミとケネスだけが気づいた。
「おい」小声でケネスが、話しかける。「今の雰囲気はただごとじゃない。殺気にあふれていたぞ」
「重さを感じさせないけど、剣もスティックも尋常じゃない感じ」
「お前も気づいたか。さすがは俺の娘だ。大部分の観客は何もわかっちゃない。もう少し様子を見るが、気を抜くな」
「わかったわ」
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