「お前の妹ミスティラでは、まだ神官には力不足だったのだ。冥界の牢獄の結界が、ゆるんできている」
「やはりそうか・・・・・・だが、お主たちの実力では牢獄は簡単に破れないはず。何か、他にも理由があるだろう」
「四人の魔女が・・・・・・ドルガ、メギリヌ、ライム、リギスが、逃げ出した混乱に生じてわれわれも抜け出したのだ」
「あの四人が!」もともと青ざめたマクミラの顔が、さらに青ざめた。
一瞬、マクミラの注意がそれた。
ずっと隙をうかがっていたダークブリッジが、押さえつけていたジュニベロスの太い前足から逃れてマクミラに飛びかかった。
油断なく予想していたダニエルが、両眼から熱戦を発射するとダークブリッジの全身が燃え上がった。断末魔の叫びを上げながらも、捨て台詞を残す。
「調子に乗っていられるのも、今の内だ。魔女たちだけではない、この地に、禍々しいオーラが高まりつつある。魔神スネールが、甦る日が近づいている! そうすればお前など・・・・・・ア、ア、アーーーーーー!」
ダークブリッジの燃え尽きたあとには、骨一本残っていなかった。
「ケガはないか?」
「大丈夫。でも、面倒なことになった」
「四人の魔女とは誰だ? 魔神スネールとは?」
「あなたは、神だった頃の記憶をほとんど失っているんだったわね。タワーへ戻りましょう。対策を立てなくては」
その時、タイ系ストリート・ギャング団のメンバーがおそるおそるマクミラに声をかけた。「あの、俺の名はトニー。今日は・・・・・・ありがとうございました」
マクミラが、氷の微笑を浮かべた。
「お礼を言われる筋合いじゃないわ。人間同士の殺し合いは、大歓迎。今回は、わたし目当ての悪鬼退治のじゃまをして欲しくなかっただけ。それにしても、人間の愚かさかを見せつけられる度に、ゲームを続ける気がうせるというもの。さあ、遠慮なく殺し合いを続けるがよいわ」
イタリア系のリーダーと、タイ系のリーダーが顔を見合わせる。
「おい・・・・・・」
「今日のところは解散とするか。けが人の手当もしなくちゃならないし」
マクミラは、ため息をついた。
危険だから帰れと言われれば、意地になって居残る。勝手に殺し合いをすればよいと言われれば、やめる。なんと、人間とはあまのじゃくな存在なのか。真理を探究しようとする学問ばかりではなく、今後は人間心理でも研究するか。
考え事をしていたマクミラに、イタリア系のリーダーが声をかけた。
「俺の名は、ロッコです。魔女の・・・・・・いえ、マジ恩人のお姉さんの名前は?」
「我が名は、マクミラ」ドラクールの眷属の証であるとがった犬歯がのぞいた。
言うが早いか、ジュニベロスにまたがって去っていく。ストリート・ギャングたちは、茫然と立ちつくしながら、マクミラ・・・・・・とつぶやいた。
こうして彼女は、「堕天使を従えて、深夜の幹線道路を魔犬にまたがって時速100マイルで逆走する麝香の香りをただよわせた魔女」という都市伝説の一ページになった。(注、100マイル=160.9344キロメートル)
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