旧・鮎の塩焼キングのブログ

80年代を「あの頃」として懐かしむブログでしたが、子を亡くした悲しみから立ち直ろうとするおじさんのブログに変わりました。

冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話その20 『ダンジョン・アタック前編』 〜《ウォーグ》の洞穴〜

2025-03-03 08:02:00 | 小説
亡き次男に捧げる冒険小説です。


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二〇

 洞穴の中は色めき立っていた。傷付いた《ウォーグ》は歯軋りをして唾液を振りまいた。

「あいつの声だ!餌が自分から喰われに来やがった!」

情けない気持ちいっぱいに敗走した二匹の《ウォーグ》は自分たちの名誉を守るため、仲間たちに不意打ちを喰らったと嘘をついていた。仲間たちはそん話を信じず、見下され、群れの最下位に降格される仕打ちを受けただけだったが。人間に向けた激しい復讐の炎が《ウォーグ》を駆り立てた。帰ってきたばかりの《ゴブリン》を焚きつけ、普段から威張り散らしているならその強さを見せつけろと煽り立てた。


 《ゴブリン》は彼らなりに嬉しい誤算であった。狩りが上手くいかず、手近な農家を襲って鶏を奪うという割に合わない狩りしかできなかった。そこに話に聞いた屁っ放り腰の冒険者が調子に乗って戦いを挑んできたではないか。人間は美味くはないが冒険者はお宝を持っている。装備品は高く売れるし、携行食は美味い。別に《ウォーグ》ごときに煽られようと屁でもないが、《ウォーグ》の復讐に付き合ってやるのも悪くはないだろう。数は、えーと、10対3、グフフ、《ウォーグ》だけだと思ったら、俺様たちが飛び出してくる。驚き慌てる冒険者ども、これは楽しい余興だぜ。《ゴブリン》は腹黒い妄想を掻き立てながら、《ウォーグ》と先を争って、洞穴の出口に向かった。そこには強酸の粒子が満たされる地獄が待っているとも知らずに。


【第2話 二一に続く

次回更新 令和7年3月5日水曜日


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ハテナ義兄弟の怒涛の魔法攻撃。はたして効果はいかほどか?


冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話その19 『ダンジョン・アタック前編』 〜《ウォーグ》の洞穴〜

2025-03-01 10:59:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説です。


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一九

 駆け出しの三人にとって半日以上の潜伏は堪えるものがあった。途中でナーレは眠くて意識を失いかけ、ハーラに小突かれる始末だった。森の狩人、テーリだけはこういった狩りに慣れていたので、待つことが苦ではなかった。獲物の巣穴がわかっていることほど簡単な狩りはない。慢心だけはするなよと、時折拳を強く握って緊張感を維持していた。

 夕刻に差し掛かった頃、待ち望んだ瞬間が訪れた。ついにハーラもあくびをしてしまったが、パッと口元を押さえた。20メートルほど前の獣道からガハハハとバカ笑いをしながら《ゴブリン》が四人やってきたのだ。何やらゴブリン語で喚き散らしている。下品な内容であることはその卑猥なジェスチャーから伝わった。手には鶏をぶら下げている。近隣の農家を襲って手に入れた獲物だろう。テーリの目がぎらりと光った。ハーラの歯軋りが聞こえた。二人の正義感が《ゴブリン》の蛮行に制裁を加えろと叫んでいた。生きるために人のものをくすねて生きてきたナーレにとっても、《ゴブリン》の略奪方法を想像するに吐き気を及ぼした。テー兄について来てよかった、僕にも正義の心はあるようだと、自分を見直したナーレは行動を開始した。


 四人が洞穴に入って5分。洞穴の入り口横にナーレが陣取った。中からは見えない位置にしゃがみ込む。テーリは入り口の前に少しの空間を空けて立ち塞がると、《魔法都市》で学んだ呪文の詠唱準備を始める。《ターシャズ・コースティック・ブリュー》(ターシャの腐食液)、高名な魔術師「ターシャ」の編み出した秘術の一つである。

「おーい、傷だらけの《ウォーグ》よー。僕だよ僕。裸の餌がわざわざトドメを刺しにきてやったぞぅ。顔くらい見せてみろよー!」

洞穴の中の魔獣どもはどう動く?固唾を飲み込みテーリもナーレも洞穴の入り口を凝視した。

 一瞬の間を置いて、《ウォーグ》の咆哮と《ゴブリン》の鬨の声が聞こえた。義兄弟初めての大仕事、魔獣狩りが始まった。


【第2話 二〇に続く】

次回更新 令和7年3月3日月曜日


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復讐に燃える魔獣たち。そこに慢心が生まれる。


冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話その18 『ダンジョン・アタック前編』 〜《ウォーグ》の洞穴〜

2025-02-27 18:07:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説です。


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一八

 少し離れた藪の中からチッチの一団がハーラに励まされる義兄弟を見守っていた。昨日までの三人と明らかに違う《織》のたぎりを感じたチッチは、ほぅと低く感嘆の声をあげた。その目は優しく、我が子を慈しむようであった。チッチは生涯独身を貫く覚悟で旅に出た。そのため妻もいなければ子もいない。そのため、自分の眼差しが子を慈しむそれであることに気付けなかったが、三人の息子を持つマッマはその温かみにすぐに気付き一人微笑んだ。

 チッチは周囲に敵がいないか魔法で探知した。特に敵意を感じ取れなかったことから、当面の安全が確保できたとホッと胸を撫で下ろした。余計な手出しをしないまでも、あの三人に万が一が起こったら飛び出すことに迷いはなかった。駆け出しの冒険者の成長は早い。昨晩の戦いからどれだけのことを学び成長したのか、チッチは期待半分、不安半分で義兄弟の向こうでポッカリと口を開けている洞穴に目をやるのだった。

 背中に大量の武器を背負った《戦士》ヘロは余計な物音を立てないために、機能の大半をオフにして微動だにしなかった。

 《蛮人》ヴァッロは興奮をコントロールして戦う原始の力を操る闘士だった。脳にかかるリミッターをいつでも切れる状態にして、血走る目で周囲を警戒していた。

 《ケンタウロス》のマッマはそのままでは目立ちすぎるため、《ディスガイズ・セルフ》を唱えたまま、静かにしゃがみ込んでいた。もしも義兄弟が倒れた時は《聖職者》の力が必要となる。そうならないことを祈って、三人の若い冒険者の動きに注視した。


 時間がどれほど過ぎたのだろう。手練れた冒険者にとって待つことは苦ではなかった。夕刻に差し掛かる頃、獣道をかき分けて《ゴブリン》が四人、洞穴に入って行った。義兄弟の《ダンジョン・アタック》が始まる。チッチの一団に緊張が走った。


【第2話 一九に続く】

令和7年3月1日土曜日


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巣穴に戻る魔獣ども。いよいよ決戦の時だ!



冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話その17 『ダンジョン・アタック前編』 〜《ウォーグ》の洞穴〜

2025-02-25 08:00:00 | 小説

亡き次男に捧げる冒険小説です。


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一七

 テーリは手近にある小石を拾うと何やら《織》を纏わせた。たちまち小石が淡い光を放ち始めた。《魔法技師》の初歩的な業だよ、と自慢することもなくさらにもう一つの石に光を宿した。

「これはナーレの分、それぞれが持ち歩こう。《ライト》の呪文も使えるんだけど、あれは明るすぎる。偵察行動にはこれくらいの光の方がいい。いざとなったら《ウォーグ》に投げつけて、逃げ帰る時間稼ぎにも使えるしね!」

ナーレは心強いお守りを受け取るとテーリの前に身体を滑り込ませ、洞穴に入って行った。ハーラはなるべく物音を立てないように、辺りをキョロキョロと見回していた。蒸せ返るような森の湿気が充満する以外、動くものの気配は何も感じなかった。

 テーリに見えた勝機の一つが、《ウォーグ》と《ゴブリン》の組み合わせであった。《ウォーグ》は十分に賢いので言語を解することができる。しかし発話は苦手で《ゴブリン》とのコミュニケーションも限定的となる。そうなるとお互いが引っ掛かるかもしれない複雑な罠を仕掛けることもない、テーリはそう断じていた。《翠玉光の森》でも同じような組み合わせの魔獣の棲家を何度か目撃したことがあったが、これといった罠にお目にかかったことはなかった。住人に遭遇さえしなければ、難なくこなせる偵察だった。

 テーリとナーレは1時間もせずに帰還を果たした。真っ直ぐに20メートルほど掘られた横穴はY字型に枝分かれして、《ウォーグ》の寝床と《ゴブリン》の寝床があるだけのシンプルな造りであった。その奥にも広間が掘られていた可能性もあったが、数匹の《ウォーグ》の寝息が聞こえたため、深入りはしなかった。《ゴブリン》の姿や気配も感じられず、出かけていることが分かった。

 義兄弟の三人は息を潜め、《ゴブリン》の帰宅を待つこととした。待っている間、ハーラはテーリとナーレの活躍を労い、この冒険の成功は二人にかかっていると期待を込めた声援を何度も何度も送った。ハーラの話を聞いているうちに、話している本人も含めて勇気と自信が体中に満ちて行くのがわかった。ハーラのもつリーダーシップは《パーティー》を鼓舞するのに大いに役立った。


 この時、テーリは大きなミスを犯していた。横穴の前の捜索範囲をもうあと10メートル広げれば気付けたであろう、巨大な足跡があったのだ。その巨大な足跡は鋭い鉤爪をもつ《竜》のものだった。


【第2話 一八に続く】

次回更新 令和7年2月27日木曜日


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魔獣の巣穴に挑戦するハテナ義兄弟を見守る温かい目。ケンタウロスのマッマは何を思う?


冒険小説 ハテナの交竜奇譚 第2話その16 『ダンジョン・アタック前編』 〜《ウォーグ》の洞穴〜

2025-02-23 08:05:00 | 小説
亡き次男に捧げる冒険小説です。


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一六

 テーリは義兄弟の戦力を詳細に把握した。ハーラの《聖騎士》と《生得魔術師》の能力、そして使えるようになった呪文。テーリの《野伏せり》と《魔法技師》の能力。ナーレの《僧兵》と《吟遊詩人》の能力。それぞれが《戦闘クラス》と《魔術クラス》を有する《マルチクラス》の冒険者であった。これはあらゆる局面に対応できる汎用力のある《パーティー》といえる反面、専門性の低い器用貧乏な集団ともいえる。しかし自分たちのできることがわかっていれば、それを十全に発揮できる戦況を整えれば良い話だ。特に今回のような狭い洞穴に隠れている魔獣や《ゴブリン》は範囲攻撃の呪文をもつ義兄弟にとっては格好の餌食といえた。

 洞穴の内部構造さえわかれば、あとは適切に魔法の罠を張り巡らせるだけである。魔獣を一網打尽とするための命懸けの情報収集が始まった。

 金属の擦れる音がうるさいプレートメールを着込むハーラには、藪の中から周囲を警戒する見張り役になってもらった。身軽なナーレを万が一の護衛として連れ立って、テーリの探索能力を頼りに洞穴への初めての「ダンジョン・アタック」が始まった。


【第2話 一七に続く

次回更新 令和7年2月25日火曜日


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洞窟に潜入するテーリとナーレ。魔獣の巣穴を丸裸にせよ!