Miyuki Museumブログ

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Miyuki Museumのひとりごと

こだま

2011-12-30 | 読書・言の葉
(Fri)
尊敬する佐治博士のコラムより

~金子みすヾの宇宙 すべては「こだま」から~

「遊ぼう(あすぼう)」っていうと「遊ぼう」っていう。
「馬鹿」っていうと「馬鹿」っていう。
「もう遊ばない」っていうと「遊ばない」っていう。
そうして、あとで、さみしくなって、「ごめんね」っていうと「ごめんね」っていう。
こだまでしょうか、いいえ、誰でも。

3月の東日本大震災に始まり、集中豪雨・大洪水など、
人間の力ではどうにもコントロールできない自然の猛威の前で
ただひれふすしかなかった2011年、
しかも、追い打ちをかけるように発生した未曽有の原発の事故など、
大変な一年でしたが、まもなく幕を閉じようとしています。
いつもと変わらぬ日の光と風の中でも、季節は確実に過ぎ去り、
恒例のクリスマス講義を終えると、いよいよ気ぜわしい年の瀬を感じます。

日本全体が抱える不安の中で、テレビの公共広告放送機構で国内に拡がり、
多くの人々に一筋の光をもたらしたのが、冒頭にかかげた一編の小さな詩でした。
作者は、改めて紹介するまでもなく、大正末期から昭和の初頭にかけて、
26年の生涯を彗星のように駆け抜けた天才童謡詩人、金子みすヾです。

この作品の魅力は、もともと孤独な存在としてこの世に生まれでた人間が、
他者との絆の中でしか生きられないという現実を、やさしい言葉で凜として
語っているところにあります。

現代科学が解き明かしてきたところから言えば、私たちが見ている世界は、
すべて個々人が脳の中で創り上げている情景であって、
どれひとつをとってみても、共通のものはありません。
停止信号の赤だといっても赤色をした共通の手本を見せられた後に、
個々人が感じる停止信号の色として脳の中に定着しているだけですから、
すべての人にとって同じであるという保証はありません。
自分が見たいように見ている赤を停止信号だと判断しているということです。
つまり、人間は、他者が見ているような自分の顔を自分で見ることもできませんし、
まして、他者の心の中を見ることもできません。
お互いに、他者に対して働きかけたことに対する他者の反応、
つまり「こだま」と、自分の行動のつじつまがあうように調整しながら、
コミュニケーションを図っています。

この宇宙の中に存在するすべてのものは、天体から地上のものに至るまで、
互いに力を及ぼし合いながら形を保っています。
天体間に働く引力や、地球上の物質に重さを与える「重力」、
原子をまとめていく「電磁力」、さらに原子の中心にある原子核をまとめる「強い力」、
そして一方では原子核を崩壊させる「弱い力」の四つが宇宙を支配するすべての力です。
そして、これらの力は、普通の素粒子よりも遥かに小さい粒子を
交換することによって生じていることも分かっています。
力の粒子のキャッチボールです。物質間における「こだま」です。

そういった観点からすれば、みすヾの詩は、
文字通り宇宙を表現する詩だといってもいいでしょう。
来年こそ、やさしい「こだま」が響き合うよい年でありますように。

(佐治晴夫・鈴鹿短大学長=宇宙物理学)
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