◆<安倍内閣>原発輸出外交を再開、岸田外相が東欧訪問へ
(毎日新聞 8月16日20時25分配信)
安倍内閣は先の参院選で大勝したことを受け、成長戦略の一環として原発輸出に向けた外交を再開する。まず岸田文雄外相が22~27日にハンガリー、ウクライナ両国を訪れ、ハンガリーの原発建設で日本企業の受注を後押しする。ウクライナでは1986年に事故を起こしたチェルノブイリ原発を視察。東京電力福島第1原発事故の対応に万全を期す日本政府の姿勢をアピールし、各国との原子力協定交渉も促す。ただ、日本国内は原発輸出に慎重論が根強く、安倍内閣の前のめり姿勢に批判が強まる可能性がある。
ハンガリーでは原発2基の新規建設が計画されており、岸田氏は原発売り込みを念頭に連携を深める考えだ。安倍晋三首相はこれに先立つ6月のポーランド訪問で、ハンガリーなど東欧4カ国の首脳と会談。原子力分野で協力を深める方針で一致するなど、原発の「トップセールス」を進めた経緯がある。
岸田氏はウクライナで、現在は石棺で覆われているチェルノブイリ原発4号機を間近から視察する。昨年5月にウクライナと結んだ協定に基づき、福島第1原発事故への対応に関する協力を確認する。具体的には、除染や被災者帰還のための施策など、日本側の参考になる情報の提供を受ける予定で、まさに「原発一色の訪問」(日本外務省幹部)になりそうだ。
また、政府は、日本企業が原発を輸出するにあたっての前提条件となっている原子力協定の締結交渉も進める。平和利用に限ることなどを原発輸出の相手国に義務づける協定で、日本はこれまで米仏など11カ国・1国際機関と原発協定を結んだ。このほか、今年5月にはアラブ首長国連邦(UAE)、トルコと新たに署名を交わし、インドなど3カ国と交渉している。
安倍首相は7月の参院選期間中に「高水準の安全を世界と共有する」と明言しており、原発輸出を再び本格化させる構えだ。経済産業省によると、日本と協定を締結していないフィンランド、リトアニア、チェコの北・東欧3カ国でも日本企業が原発建設の受注を目指している。
しかし、核拡散防止条約(NPT)に加盟していないインドとの原子力協定の締結に、広島、長崎両市長が今月、相次いで懸念を表明。福島第1原発の汚染水流出にも内外から厳しい目が注がれている。
また、先の参院選の当選者に毎日新聞がアンケートを実施したところ、自民党の当選者の48%が原発輸出を「進めるべきだ」と答えたのに対し、公明党の73%は「進めるべきではない」と回答。与党内で温度差がある。新たに当選した参院議員全体でも慎重派が推進派を上回った。【影山哲也】
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130816-00000063-mai-pol
◆原発輸出:相手国の安全確認なし 規制委「推進業務」拒否
(毎日新聞 2013年8月3日)から抜粋
◇賠償責任負う恐れ
原発関連機器の輸出前に実施されてきた、相手国の規制体制を調べる国の「安全確認」と呼ばれる手続きが昨年9月以降、行えない状態になっていることが分かった。毎日新聞が情報公開で入手した文書や関係者の話によると、従来は経済産業省の旧原子力安全・保安院が担当していたが、東京電力福島第1原発の事故を受けて発足した原子力規制委員会側が「(推進業務である)輸出に関与すると規制機関としての独立性を保てない」として引き継ぎを拒否した。安全面で事故前より後退した体制のまま他国に売り込みを図る、異常な実態が浮かんだ。
http://mainichi.jp/select/news/20130803k0000e010147000c.html
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米電力会社、三菱重に全額賠償請求 その規模は数十億ドル
原発輸出:住民への安全情報周知指針なし 政府5年間放置
(毎日新聞 2013年08月07日)
http://mainichi.jp/select/news/20130807k0000m040124000c.html
◆「論理と倫理」なき原発再稼働と原発輸出 吉田文和
(2013年7月8日 朝日新聞 WEBRONZA)から抜粋
福島の事故から2年以上がたち、原発再稼働と原発輸出への動きが本格化している。
「福島第1原発で事故が起きたが、それによって死亡者が出ている状況ではない。最大限の安全性を確保しながら(原発を)活用するしかない」(高市早苗自民党政調会長、6月17日、後に発言撤回)。
「日本の最高水準の(原発)技術、過酷な事故を経験したことによる安全性に期待が寄せられている」(安倍首相、中東訪問の記者会見、5月3日)。
はたして、これらの発言に、原発再稼働と原発輸出を進める「論理と倫理」を見出すことはできるだろうか?福島の事故に関する政府と国会の事故調査委員会報告が出されて、本来ならば、そこで指摘された事故の背景と原因に則して、これまでの原発の安全基準と規制のあり方の抜本的改革がなされて、はじめて原発再稼働の検討と審査が始められはずである。これが「論理」(スジ)というものである。福島の事故の深刻さは、全国に立地した他の50基の原発が同じ基準で運転されてきたために、同様のリスクに晒されているという、日本の原発の危機的状況であり、首都圏3000万人の避難も検討せざるを得ない危機であった。
福島の事故後、たしかに、原子力規制委員会が新設されて、新たな新規制(安全)基準が作られた。以前は自主的取り組みにまかされてきた過酷事故対策、地震・津波対策などは強化されたことは間違いないが、詳細な基準の決まっていないものが多く、原子力市民委員会の緊急提言が指摘するように(6月19日)、様々な課題が残されている。原子炉立地審査指針との整合性の検討、安全評価審査指針の確立、重要度分類指針の見直しは全く手つかず、耐震設計審査指針、基準地震動の見直しもない。
アメリカの原子力規制委員会(NRC)の規制やスタッフ数(4000人100基)と比べた場合、新規制に対応した検査手順書の準備や要員訓練など、少なくとも数年間はかかると見られている。しかし今回は、新規制基準を満たしていなくとも部分的コンプライアンスで、防潮堤やベント・フィルター、活断層調査などは完了していなくとも暫定的な稼働を認めるなど、電力会社に大変甘い規制といわざるを得ない。
とくに、アメリカのNRCが頻繁に行っている地域住民からの意見を聞く公聴会なども制度化されず、新基準策定にあたり、府県の意見を聞かず、福島の事故で問題となった、原発周辺の避難計画などは、原子力規制委員会から原子力災害対策指針の見直しが行われたものの、福島の事故で起きた状況を繰り返さない十分な防災対策になっておらず(緊急時防災措置準備区域は30km圏など)、またその具体化は各道府県と立地周辺自治体にまかされたままである。
日本列島周辺の地震関連活動の活発化が懸念されるなかで、こうした対策が不十分なままに、全国の原発が再稼働することのリスクは非常に深刻である。例えば、私の住む北海道の原発が3基立地する北海道電力泊原発は、地震津波が起きた場合の重要免震棟もなく、山側への避難路も不十分なままである。いまだに16万人近くが避難生活を強いられ、故郷が奪われ、家族がばらばらにならざるをえない状況におかれ、震災関連死が1400人に達した福島県の現実を見るとき、現政権支持の人であっても、「原発の再稼働」に不安を感じて反対の意見をもつ人々が多いのは当然なのである。
昨年5月5日に、日本は一旦原発ゼロの状態になった。その後、関西電力大飯第3号、第4号が再稼働したものの、50基のうち48基は動いていない。それでも日本の電力は不足していないのである。その理由は10%に達する節電とピークカットへの国民の協力があり、もともと各電力会社がピーク需要用に余剰発電設備をもっていたので、原発が停止しても電力を供給できたのである。ただし、原発停止によってCO2の発生量が増加し、火力発電の燃料代が追加され、かつ停止中の原発の減価償却と維持管理費がかかる。
したがって、電力会社の値上げ申請があいついでいる。とくに原発依存度の高い、関西電力、九州電力、北海道電力などは、値上げとともに再稼働を急ぎ、新規制基準への申請を行う予定である。さらに福島の事故を起こした当事者の東京電力までもが柏崎刈羽原発の再稼働を申請しようとしている。北海道電力などは、3基の原発が停止したままで火力発電の運転が続くと、来年3月期決算には債務超過に陥るといわれている。
ここに、原発停止が電力会社の経営危機に直結する、原発依存度の高い電力会社の経営問題がある。原発は、一度事故が起これば、「不安定電源」であることが明らかとなっている。再生可能エネルギーや電源多様化、省エネへの投資を怠り、石炭・石油火力発電と原発に頼ってきた電力会社の経営の失敗、経営論理の破たんである。しかし当事者の電力会社は、原発さえ再稼働すれば、問題は全て解決すると考え、9電力すべてが原発再稼働を経営方針に掲げている。これは、電力会社の利益と引き換えに国民をリスクに晒す賭けといえる。
もう1つの重大な動きは、政府の経済成長戦略、インフラ輸出の柱として、原発輸出計画が進められていることである。国内メーカーの東芝、日立、三菱などは、福島の事故後、原子力への信頼が崩れて、市場を失う恐れが出てきたために、原発輸出への働きかけを急速に強めてきた。アメリカでは、もはや原発の新設を望めず、GE,WHなどのメーカーは、原発生産から撤退し、そのあとを日本のメーカーが肩代わりしている。
しかし、例えば、サザンカリフォルニアエジソン社はサンオノフレ原発第2号機、3号機の廃棄を決定し、事故原因の装置を製造した三菱重工への損害賠償を請求するという、こうしたリスクを抱えているのである。
日本にとっては、新規となるベトナム、トルコ、アラブ首長国連邦、インド、チェコ、フィンランド、ポーランド、ブラジルなどへの原発輸出計画が、経済成長戦略の柱として進められようとしている。しかし、そのリスクは非常に高いと言わざるをえない。
事故の場合の損害賠償責任や、使用済み核燃料の処理、核拡散問題、政治変動のリスクなど、数えあげればきりがない。「過酷事故を経験したことによる安全性」(安倍首相)は、まだ証明されておらず、過酷事故を防ぐことができなかった日本の原子力技術を、他の国が輸出するからと言って、競争上こちらも輸出するというのは、「論理」も通らず、「倫理」上も許されないはずである。
http://astand.asahi.com/magazine/wrscience/2013070400002.html