阿武山(あぶさん)と栗本軒貞国の狂歌とサンフレ昔話

コロナ禍は去りぬいやまだ言ひ合ふを
ホッホッ笑ふアオバズクかも

by小林じゃ

腑に落ちぬ話

2018-10-11 18:40:26 | 日本語

 以前、ほっこりについて「ほっこりしない話」というのを書いた。今回も全くもって代わり映えのしない動機付けであるけれどもしばらく付き合っていただきたい。

 ここのところ、ツイッターなどで「腑に落ちた」と言われると私には違和感がある。自分では、腑に落ちないと否定形でしか使ったことがない。そこで少し調べてみることにした。近くの図書館の蔵書検索で「腑に」を入力するとわずか3件のヒット、その中に、「知っておきたい慣用句2」というのがあり、見出しに「腑に落ちない」が入っている。これはまあそうなるところだろう。問題は「腑に落ちる」「腑に落ちた」の用例がどれぐらいあるか。次は国立国会図書館デジタルコレクションで「腑に」を検索してみると、763件がヒット、全部はちょっと面倒なので、このうち比較的古い時代が多い図書33件について見てみると、否定形が26件、「腑に落ちる」が2件、後は「五臓六腑に」など関係ないものであった。その一方で電子書籍の国の機関36件を調べてみると10件が肯定で使われていた。この36件はいずれも発行が2000年以降であった。

 なお、図書にみられた肯定形2例は、一例が”腑に落ちる”と引用符で囲って慣用句とは違うことを意識した書き方、もう一例も「腑に落ちるまで説明」とあり、書き手の感想として腑に落ちる、腑に落ちたという用例は見られなかった。

 逆に「腑に落ちる」で検索すると90件がヒット、図書は1件だけでほとんどが論文などpdfファイルのものだった。出版年でみると、1999年以前が6件、2000年以降が84件という内訳だった。「腑に落ちた」では、46件中2000年以降が45件、不明が1件で図書はゼロだった。最後にツイッターで「腑に」でツイート検索してみた。同じことを連呼するbotがあったり愛媛県知事が「腑に落ちない」と発言したことがニュースになっていたりして数えるのが難しかったがこれらを除外すると、肯定形が3割強は出てくる印象だった。

 これらをどう考えるか。元々、否定で使うのが慣用句だったのは間違いないところだ。また、それをあえてひっくり返して「腑に落ちる」と書いた古い用例もあり、これを間違いとは言えないだろう。しかし、上記の検索結果を見る限り、積極的に肯定形で使うようになったのはせいぜい二十数年前からと思われる。特に「腑に落ちた」は、何か小説か漫画か、有名な所で使われて一般化したような匂いもある。私には見当がつかないが、もし何がきっかけなのか思い当たる方がいらっしゃったら教えていただきたい。

 前のほっこりと同様に、誤用とは言えないようだ。だがしかし、私にとって気持ち悪い表現であることに変わりはない。自分ではこれからも否定形しか使わないと思う。



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