省吾と真智子が出会ったのは3年前のことである。
2年前から真智子は省吾をエスくんと呼び
省吾は真智子をエムちゃんと呼んでいた。
まわりは二人を
SMコンビとよんだ。
真智子は省吾の腕の中で今日も目を覚ました。
まだ夜明けは訪れない。
寝ている省吾の唇に、自分の唇を重ねる。
それから真智子はベランダで夜風にあたる。
それは去年の秋と変わらない-。
省吾は気付いていて今日も気付かぬふりをしている。
真智子はいつも窓を半分ほどあけて外にでる。そのさらに半分をあけたままにするから、冷たい風が室内に入り込み頬を通りすぎるのがわかる。
ああ…もう秋がきたか。
ベッドで寝たふりをしながら、省吾は前髪を撫でられているみたいだと思う。
レースのカーテンに真智子の影が映っている。
省吾はまぶたをとじ今日の月の形を思い浮べる。
真智子の静かな鼻歌が聞こえる。
そんなとき省吾は現実と夢の狭間にいる。
しばらくして真智子がスルリと部屋に入り、窓の縁に手をあて、あけたままにした残りすべてを閉める。
省吾はそれを耳で察知する。
省吾の額に冷えた唇が触れたあと、省吾の胸には手がおかれ、わき腹に鼻先があたる。
無理な体勢だと思う。
今日は省吾の上着を濡らすものはなかった。
やがて真智子の寝息を感じると、省吾は真智子を抱いて眠る。
そして朝は
変わらず今日も訪れる。
「Mちゃん」
「Sくん」
キラキラ陽射しがふる秋の駅前通り
キャンパスの中
二人の声が響いていた。
まわりは二人を、バカエスエムップルと呼ぶ。
そこに秋夜の風の二人を
知るものは誰もいない。
終