左手をとった貴女が
手首に十字架の金属を深く深く押し付ける
その痛みを無表情で耐えたのは
それが貴女の愛情表現であることを
知っていたから
少し歪んでいるけれどね
痕も痛みも暫くして消えたけれど
貴女との間にはそこから
周りとは異なる空気が
流れるようになった
あれから10年程経つ今も
貴女から向けられる
ペットでも見ているかのような視線が
時々絡み付いてくる
時々艶めかしく目元や口元が動く
貴女は写真を撮るのが好きだし
猫が好きだし
猫のように気まぐれなことを
知っているから
色々なことを覚えていないだろう貴女に
とりあえず微笑み返しておくAである。
人と人との関係は実に曖昧だ。
そう思う。