アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

ご明察です、『天地明察』出演者の皆さん

2012-08-29 | 映画一般

日本映画はめったにスクリーンで見ないのですが、今日は『天地明察』を試写で拝見してきました。原作が面白かったのと、滝田洋二郎監督作品だったので、どうしても見たかったのです。

滝田洋二郎監督は、2008年に大ヒットした『おくりびと』の監督としてよく知られていますが、私が存在を知ったのは1988年の『木村家の人々』から。鹿賀丈史、桃井かおりが演じる夫婦と、娘と息子(小学生で伊崎充則くんが演じていた)という構成の木村家の人々が、金儲けに邁進する姿を描いたコメディで、その後香港でも公開されて大ヒットになりました。「今日も元気で金儲け」のあの手この手が、香港人の感覚にピッタリだったのです。とってもリズム感のある映画で、フットワークのいい監督さんだなあ、と感心しました。

その後、『僕らはみんな生きている』 (1993)や『熱帯楽園倶楽部』 (1994)という東南アジアを舞台にした作品を発表したと思ったら、『陰陽師』 (2001)に『壬生義士伝』 (2003)という時代劇をものにするなど、この監督何でもできるのねー、と舌を巻いたことも。その頃ファンだった三池崇史監督作品に次いで、よく作品を追いかけていたように思います。映画を見ては原作を読む、というパターンで、「おのれ、晴明」の夢枕獏作「陰陽師」も、「おもさげながんす」の浅田次郎作「壬生義士伝」も読んだのでした。

今回は、まず原作に惹かれて文庫本上下巻を読みました。読者を惹きつける書き方の小説で、あっという間に読んでしまった記憶があります。ちょっと不満だったのは、漫画チックな描き方が目立ったこと。まず漫画のシーンを想像して、それを文章にしてあるのでは、という感じが、特に主人公安井算哲のドタバタぶりを書く筆致に目立ったのです。それが、映画ではどう表現されているのか、というのも、楽しみの一つでした。

天地明察(上) (角川文庫)
冲方 丁
角川書店(角川グループパブリッシング)

 

天地明察(下) (角川文庫)
冲方 丁
角川書店(角川グループパブリッシング)

すでにご承知の方が多いかと思いますが、「天地明察」は江戸時代前期を舞台に、碁打ちであり、天文学や算術にも詳しかった安井算哲、またの名を渋川春海を主人公にした小説です。彼が会津藩主の後ろ盾を得たり、水戸光圀に後援されたりしながら、暦の改訂に成功するまでを描いています。その間に、安井算哲とのちに彼の再婚相手となるえんという女性との淡い恋物語や、ライバルというか師というか、和算の大家関孝和との交流話などが挟まれています。登場人物はみんな魅力的で、映画にするにはもってこいの作品ではあります。

映画の方もよくできていました。特に素晴らしいのは俳優陣と美術さんで、小説で出てきた算額絵馬を始めとする様々な物が実際に見られたのは感激ものでした。算額はあんなにカラフルだったのかしら? と帰ってから「算額」のサイトを調べてみたのですが、確かに江戸時代の物でも図には色分けがされていたりしてカラフルだったのですねー。算木はもうちょっと実際の使い方を詳しく解説してほしかったですが、「北極出地」という全国を回って北極星の角度を測る時に使われる機械などは一目瞭然、とてもうまく作ってありました。

この「北極出地」で算哲の先達となるご老人が2人いるのですが、その役をやった笹野高史、岸部一徳を始め、脇役がうまいことうまいこと。主演の岡田准一もがんばっていますが、がんばらないですんなり役になっちゃっている人が前述のお二人を始め、佐藤隆太、市川猿之助(どうしてもまだ”亀ちゃん”と呼んでしまいそうになる)、松本幸四郎等々、いっぱいいて安心して見ていられます。さらに、紅一点の宮崎あおいがまたうまい。にこ~と笑う顔なんか、天下一品です。『初恋』 (2006)で私が初めて彼女を見た頃、すでに映画評論家の方々の間で「将来の大物女優出現!」と評判になっていましたが、期待に違わずいい女優さんに成長していますね。出演者の演技というか人物解釈、まさに「ご明察!」でした。

で、漫画チックな表現ですが、算哲は結構そういう演技をさせられていて、ちょっと不満でした。原作といろいろ変えてある箇所も多いので、算哲のキャラも少々変えてもよかったのに~。とはいえ、原作からの変更(算哲の最初の妻のエピソードをすべてカット、etc.)には不満が出る恐れもありそうで、映画のラストにはそのお断りが出てきました。原作を読んだ方も読んでない方もたっぷり楽しめるこの作品、日本の「知」の歴史を知る上でもオススメです。オフィシャルサイトはこちらですので、予告編などをお楽しみの上、劇場へぜひどうぞ。9月15日(土)からの公開です。

余談ながら、原作の著者冲方丁さんは、小4から中2まで、技術者であるお父さんの仕事の関係でネパールにいたそうです。小学生時代インドに住んでいた小出恵介といい、南アジアからの帰国子女の活躍も目立つようになってきましたねー。

 


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4 コメント

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絲楊枝様 (cinetama)
2012-09-06 21:25:02
再度のコメント、ありがとうごさいました。

宮崎あおいのデビュー作はby大林宣彦監督でしたか。
余談ながら、私は「パッチギ!」の高岡蒼佑も好きだったので、2人が結婚した時は「おお~」と思ったものでしたが、うまく行きませんでしたねー。高岡蒼佑は韓流うんぬんのあんな発言もするし、ちょっとお眼鏡違いでした。
宮崎あおいさん、次はいい人選んでね。(大きなお世話かも?)
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大林映画 (絲楊枝)
2012-09-06 16:20:33
ご明察です。読んで字の如くです。あの商品のCMが流れた時家族銃で大笑いでした。愛用しています。
実は大林宣彦監督『あの、夏の日 / とんでろ、じいちゃん』の封切りを尾道の船のシアターでやるというので、同行する機会がありました。脇役でしたが映画デビューだったんですね。直接話を聞いたわけではないですが…。その時14歳でした。大林監督の手が大きく柔らかかったのを想い出します。写真集持っています(-”-;)
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絲楊枝様 (cinetama)
2012-09-06 12:43:45
初コメント、ありがとうごさいました。えー、あの「いと・ようじ」さんでしょうか? お忙しいのにすみません。

宮崎あおいを早くから「発見」してらしたんですね。私は最初、「えー、全然美人じゃないじゃん?」とか思っていて、むしろお兄さんと出した写真集なんかの活動の方を注目していました。インドに行って撮ったりしてましたのでねー。いまや、日本映画界を背負って立つ女優になりつつありますね。
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宮崎あおい (絲楊枝)
2012-09-06 10:56:14
単行本で一気に読みました。映画はいいかなと思っていましたが、ブログを読んで見てみようかという気になりました。宮崎あおいちゃんが出ているから。彼女が10代半ばのころから映画に出ていて全部見た訳じゃないけどいい女優さんになるなと期待していました。
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