「ぬけまいる」/朝井まかて(講談社)
母と二人で一膳飯屋を切り盛りしているお以乃。
譜代の御家人の良き妻・お志花。
江戸で知らぬ者のない小間物屋の女主人・お蝶。
3人は共に今28歳の幼馴染たち。
若い頃は“馬喰町の猪鹿蝶”で鳴らした3人が、それぞれの
鬱屈を胸に、仕事も家庭も捨ておいて、「ぬけまいり」に出かけて、
そのかしましい道中を描いていく。
「ぬけまいり」とは、江戸時代に家族にも誰にも断りなく、手形も
お金も持たずに着の身着のままで伊勢神宮を目指すというもの。
柄杓ひとつ持って行くと、街道の人は米をくれたり、
ただで泊めてくれたりするそうな。
そういえば落語でも「伊勢参り」という噺があるが、
それは大坂からの出立。 この3人組は江戸からの出立。
お以乃は、器量よしだが男運の無い母親がやっている一膳飯屋
「こいこい」を手伝っていた。 まだ嫁いだ事がなく、仕事もなかなか
続かず戯曲作家(お以乃の父親が戯曲作家だったらしい)に
なりたいなぁなどと考えながら暮らしていることを、ヘタレだとなめていた
弟に意見される始末。
お蝶は、傾いていた実家の商売を立て直して日本橋の表店に店を
構えるほどにしたなかなかのやり手。 子供は4人。
性格がキツ過ぎるのが玉に瑕。
お志花は娘時代から剣術の道場に通っていて、一旦嫁いだものの、
姑と気の小さい日和見の夫とだんだん姑と夫に考え方が似てきた息子に
失望しながら暮らしていた。
道中では「おしゃま連」なる裕福な不良娘達に騙されお金も無くなり、
後にその仕返しを企てたり、小田原で知り合った団子屋の老夫婦の店で
路銀稼ぎのために、今で言う足裏マッサージを開いたり、
お以乃が恋に落ちたり、お蝶がつぶれかかった小間物屋の商売を
立て直したり、偽の手形を作ってもらうのにオカマのおっさんに
化粧をしてやって代金を安くしてもらったり、賭場で大暴れしたり。
それぞれの宿場で起こるエピソードが楽しい。
世直し旅ほどスケールはデカくないが、
三人の旅道中を通して様々な事件や出会いが、
それぞれのなかった自立と協調と成長とを、
身をもって体得していく姿は「実に面白い」。
朝井まかでさんの小説は「すかたん」に続いて2冊目だが、
時代小説とはいえ、非常にウィットに富んで面白い。
現代風にアレンジしてもいいし、
映画化しても面白いのじゃないかなぁ。
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