「鑑定士と顔のない依頼人」/ジュゼッペ・トルナトーレ
訳:柱本元彦(人文書院)
映画好きでなくてもトルナトーレ監督の名前は聞いたことがあるだろう。
名作『ニュー・シネマ・パラダイス』を観たことがない人は
ある意味損をしているかもしれない。
映画の感想はこちらで 『鑑定士と顔のない依頼人』
トルナトーレ自身の初小説。 ただ、これは映画の台本でもノベライズでもない。
監督自身がこの本の中で、「きちんとしたシナリオの完成を待つあいだに、
主要な登場人物を演じる俳優たちの関心を高め、最初の協賛金を募り、
プロデューサーとの合意事項を決定し、配給会社に支払う前金を
確保するために書かれたものだと言っている。
つまり1本の映画を作り上げるためのベースになる本がこれだ。
映画を観て感動しただけに、何もかもが無駄がなく、どんどん映画とは
別の感覚で惹き込まれていく。 むしろ、要約されているが完成されたもの。
今までのトルナトーレの作品が、こういうベースを軸に製作されて
きたのだとすれば、これと同様に読んでみたい気がする。
主人公ヴァージルは美術と骨董の世界に暮らす初老の鑑定士であり
オークショニア。 姿を現さない鑑定依頼人の若い女性クレアの物語。
想像の世界でなく映像として勝っている部分はやはり彼の女性の
絵のコレクション。 あれがなければ成立しない。
映画のラストシーンは観る者にある疑問を投げかけたままで終わる。
その疑問は、この本を読めば明らかに理解できるのだ。
映画を観た人も是非読んで欲しい。
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