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転生者は一人だけ? 香月美夜『本好きの下剋上』と小野不由美『十二国記シリーズ』より

2018-09-04 06:33:40 | 架空世界
 本記事末尾の本ブログ記事リストで紹介した香月美夜『本好きの下剋上』の世界には、魔力というものが科学的に観測可能な存在となっていて、魔力が引き起こす現象、すなわち魔法というものが再現可能な自然現象として存在しています。が、現時点でただ一つ、この異世界の者にとっても滅多には起きそうにない不可思議現象が起きています。それは主人公のマイン/麗乃(うらの)の"転生"という現象です。現在のところ[*1]マインの転生について正確に知っているのは、魔法具で心の中を覗いたフェルディナンドだけです。ルッツは「マインが本来のマインではない」ことは知ったのですが、そのルーツまでは詳しく聞いていません。ジルヴェスターが転生のことをフェルディナンドから詳しく聞いたのかどうかは今一つはっきりしません。

 "転生"とはいったん死んで別の世界に生まれ変わることですが、小説家になろうで発表されている作品群の中では、いつのまにか頻出設定になっていて「転生もの」というジャンルが出来上がっている状況です。これは「異世界もの」と呼べるジャンル内で異世界に行く手段が、宇宙旅行でもタイムトラベルでも異次元への扉でもなく、"転生"であるということになりますが、それで何か特徴がでるのかどうかというのは私にはよくわかりません。元の世界にはほとんど戻り得ないという一方通行感は強くなるとは思います。いずれにせよ、「転生しました」だけでさらっと流せるほどに、タイムトラベルやワープと同じような一般用語になっています。

 『本好きの下剋上』はじめ多くの転生ものでは転生者は主人公一人という設定が多く、その場合は"転生"は舞台となる異世界でも必ずしも普通の自然現象とは異なる奇跡的現象かもしれないということになりますが、もちろん一度起きたことはまた起きる可能性も十分にあります。するとひとつの物語の中で複数の"転生者"が出会うという設定もおおありです。

 小説家になろう(または小説を読もう)で読んでみた中では『その女、悪女です! いいえ、それは濡れ衣です。』が、そんな設定をうまく使っていました。
 実は私は、『本好きの下剋上』でもフリーダが登場した時に、彼女も"転生者"だという設定を想像しました。転生と魔力食いとの間に相関があるのではないかと想像したのです。でもそうではなく、未だに転生という現象は主人公一人だけに起きた稀な現象にとどまっています。


 現実の地球から同じ異世界への旅人が複数いるという作品は意外と少ないようです。数人のグループが一度に転移する作品は珍しくありませんが、ほとんどの場合に転移そのものはほぼ一回切の稀な現象なので、除くことにします。極端には一度に東京一帯とか日本一国がタイムトラベルする作品も知っていますが、やはりほぼ一回切の稀な現象です。

 異世界との往来が単に少ないだけの自然現象並みに起きる[*2]作品としては小野不由美『十二国記シリーズ』があります[Ref-1)~5)]。十二国記の世界には我々の現実世界から時々人が迷い込みます。そのとき我々の世界では単にその人がいなくなるだけですが、十二国世界では"蝕"という嵐に近い現象が起きます。こうして現実世界(蓬莱や崑崙と呼ばれる)からやってきた人達は海客や山客と呼ばれ、十二国世界では常識的な存在です。

 十二国世界もなかなかに考察のしがいのある架空世界なので、そのうち関連記事を書いてみたいものです。


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*1) 現在『第四部 貴族院の自称図書委員Ⅲ』まで刊行されている。
*2) 例えば、隕石落下、噴火、津波、球雷、蜃気楼、ブロッケンの怪など。特定の場所ではよく起きるけれど、その場所が数少ないという事例もあるが。

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『本好きの下剋上』関連の本ブログ記事リスト
*1) 本好きの本好きによる本好きのための物語(2018/01/01)
*2) 『本好きの下剋上』(2) 魔力格差のある社会(2018/01/15)
*3) 『本好きの下剋上』(3) (2018/01/27)

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Ref-1) 新潮社公式サイト
Ref-2) NHKオンライン
Ref-3) wkipedia「十二国記」
Ref-4) wkipedia「十二国」
Ref-5) 十二国記の部屋
Ref-6) 十二国記データベース

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