今年も大学入試センター試験がありましたが、これまであまり読んだことのない地理の試験を眺めてみました。各問題とも総合的な理解を問う問題にしようと工夫されているのが印象的でした。スマートフォン製造上の資源問題とか現代的テーマも出ていたり、特許出願件数が出てきたり[*1]、遠い昔とはずいぶん変わってきている印象です。
そして第4問には、北欧の3つの国、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドのアニメである、「ニルスの不思議な旅」と「ムーミン」と「小さなバイクキングピッケ」の国を問う問題が出てきましたが、実におもしろい問題でした。さらに、同じ日本文に対応する3か国の言語の文章(いずれも3単語から成る)が示され、言語と国との対応も問われます。この3つの中でスウェーデンについてはどの言語であるかも、ニルスの舞台であることも示されており、残りの2ヵ国の組み合わせを問う問題です。
良問か悪問かは価値観によりますが、単なる知識ではなく考える力を問う問題になっていることは確かです。いやむろん、知っていればサクッと解けますけど、さすがに知識として知っている人は極端に少ないのではないかと思います。アニメについて知ってる人は多少いるかも知れませんが、言語となると高校生では皆無と言ってもよいでしょう。例えば高校生新聞onlinの記事(2015/06/10)にもあるように、入試も考える力を問う方向に行こうとする傾向が強いようです。このような時代には、「知らない、だからわからない」と早とちりしてあきらめるようでは対応できません。「知らないけど、何かヒントがないか」としつこく食い下がる姿勢が得点の上乗せにつながるでしょう。
さてこの問題は驚くほど少ない知識で解けます。最低限、次のことがわかれば解けます。
1.バイキングの基本的知識(高校地理ないし高校歴史の範囲で)
2.3か国でどの2か国が同一民族である可能性が強いか、という推理
3.示された3つの言語でどの2言語が近いかという推理
1は基本知識として、2については地図まで載ってますから、実は3か国に関する知識が全くなくても推理できるのです。
3は、3つのうち2つが親戚であり残り1つと明確に違うことは、例文を見れば一目瞭然です。この推理には「某国と某国の言語は某言語族であり」などという知識は必要ありません。ものの違いを見極める普通の感覚さえあれば十分です。
しいて穴を探すとすれば、バイキングのアニメがバイキングの国のものとは限らない、という点かも知れません。しかし設問は「物語の創られた国」ではなく「物語の舞台」ですから、やはりバイキングの国として問題ないでしょう[*2]。しかしこの「物語の舞台」という設問が、「ムーミンの舞台は架空の場所であるムーミン谷ではないか」というクレームを付けられて物議をかもしたようです。例えば、以下の記事です。
時事ドットコム(2018/01/14)
日刊スポーツ(2018/01/16)
東京スポーツ(2018/01/16)
朝日新聞(2018/01/16)
なお他の理由によるクレームもあり、ダイヤモンドonlineの鈴木貴博のコメント(2018/01/19)に3つにまとめられています[*3]。
1.「そもそもこんな知識が大学に入るのに必要なのか」
2.「それにしても出題されたアニメが世代と合っていないのではないか」
3.「『ムーミン』の舞台は架空のムーミン谷であってフィンランドではないはずであり、正解がない間違えた出題だったのではないか」
鈴木氏は3については「野暮だ」としていますが、私も同意見です。確かに厳密に言えば突っ込まれても仕方ないかも知れませんが、地理問題に対してまじめに取り上げるのは揚げ足取りというものでしょう。冗談としてのツッコミならおもしろいですが。
でも実はこのツッコミは入試センターがきれいに打ち返したもようです(^_^)。
読売新聞(2018/01/19)「書籍は1994年発行の「ムーミン谷への旅」(講談社)。同書には一方で、「ムーミン谷は、スウェーデンの祖父が住むしあわせな谷と、フィンランドの島々とがいっしょになって(中略)できたものです」との原作者コメントも掲載されている。」
1によるクレームも、例えば読売新聞(2018/01/13)のように多かったようですが、こんな文句を言ってるようではこれからの入試には対応できませんね。ていうか、知識を問うことを問題にするなら、あの3か国の言語の知識を問うことについては誰も問題にしなかったのか? いや言語族の知識は高校範囲なのか、ハイレベルですねえ。
2については、まあ「受験生によく知られたものを題材とする」という趣旨を狙うなら外れだった可能性もありますが、そんなことは受験問題としては本質ではないでしょう。ピッケではなくバイキングの物語ならなんでもいいことは既に述べましたが、ニルスとムーミンだって他のどんな物語でも構わなかったわけで、むしろほとんど誰も知らないような物語が使って有れば、さすがに「知識を前提とはしていない」ことに気付く受験生も多かったかも知れません。うがった見方をすれば、「よく知っている人間もいそうな題材を使うことで、いかにも知識を問う問題かのごとくに見せかけるというフェイントをかけた」というひねくれた読みもできるかも知れません。
以上のように本設問は知識ではなく推理力を問うような問題なのです。もっともセンター試験というのは時間が限られ過ぎているという見解もありそうですし、その短時間で考えている暇があるのか?、というクレームはありうるかも知れません。それはまあ、どの程度の早指し能力が問われるかという、問題作成側の意図になるのでしょうけれど。時間が十分にある試験での問題であったなら、間違いなく良問の代表例となるでしょう。
--------------
*1) 常識的に考えれば国別特許出願件数分布が一番わかりやすくて消去法に使えるくらいだが。
*2) いうまでもなく、バイキングの物語であれば何でもよいのであり、ピッケの物語の内容はおろか存在も知らなくても解くのに差支えはない。
*3) 実は私は、この記事を読んでセンター試験の地理問題を読む気になった。
そして第4問には、北欧の3つの国、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドのアニメである、「ニルスの不思議な旅」と「ムーミン」と「小さなバイクキングピッケ」の国を問う問題が出てきましたが、実におもしろい問題でした。さらに、同じ日本文に対応する3か国の言語の文章(いずれも3単語から成る)が示され、言語と国との対応も問われます。この3つの中でスウェーデンについてはどの言語であるかも、ニルスの舞台であることも示されており、残りの2ヵ国の組み合わせを問う問題です。
良問か悪問かは価値観によりますが、単なる知識ではなく考える力を問う問題になっていることは確かです。いやむろん、知っていればサクッと解けますけど、さすがに知識として知っている人は極端に少ないのではないかと思います。アニメについて知ってる人は多少いるかも知れませんが、言語となると高校生では皆無と言ってもよいでしょう。例えば高校生新聞onlinの記事(2015/06/10)にもあるように、入試も考える力を問う方向に行こうとする傾向が強いようです。このような時代には、「知らない、だからわからない」と早とちりしてあきらめるようでは対応できません。「知らないけど、何かヒントがないか」としつこく食い下がる姿勢が得点の上乗せにつながるでしょう。
さてこの問題は驚くほど少ない知識で解けます。最低限、次のことがわかれば解けます。
1.バイキングの基本的知識(高校地理ないし高校歴史の範囲で)
2.3か国でどの2か国が同一民族である可能性が強いか、という推理
3.示された3つの言語でどの2言語が近いかという推理
1は基本知識として、2については地図まで載ってますから、実は3か国に関する知識が全くなくても推理できるのです。
3は、3つのうち2つが親戚であり残り1つと明確に違うことは、例文を見れば一目瞭然です。この推理には「某国と某国の言語は某言語族であり」などという知識は必要ありません。ものの違いを見極める普通の感覚さえあれば十分です。
しいて穴を探すとすれば、バイキングのアニメがバイキングの国のものとは限らない、という点かも知れません。しかし設問は「物語の創られた国」ではなく「物語の舞台」ですから、やはりバイキングの国として問題ないでしょう[*2]。しかしこの「物語の舞台」という設問が、「ムーミンの舞台は架空の場所であるムーミン谷ではないか」というクレームを付けられて物議をかもしたようです。例えば、以下の記事です。
時事ドットコム(2018/01/14)
日刊スポーツ(2018/01/16)
東京スポーツ(2018/01/16)
朝日新聞(2018/01/16)
なお他の理由によるクレームもあり、ダイヤモンドonlineの鈴木貴博のコメント(2018/01/19)に3つにまとめられています[*3]。
1.「そもそもこんな知識が大学に入るのに必要なのか」
2.「それにしても出題されたアニメが世代と合っていないのではないか」
3.「『ムーミン』の舞台は架空のムーミン谷であってフィンランドではないはずであり、正解がない間違えた出題だったのではないか」
鈴木氏は3については「野暮だ」としていますが、私も同意見です。確かに厳密に言えば突っ込まれても仕方ないかも知れませんが、地理問題に対してまじめに取り上げるのは揚げ足取りというものでしょう。冗談としてのツッコミならおもしろいですが。
でも実はこのツッコミは入試センターがきれいに打ち返したもようです(^_^)。
読売新聞(2018/01/19)「書籍は1994年発行の「ムーミン谷への旅」(講談社)。同書には一方で、「ムーミン谷は、スウェーデンの祖父が住むしあわせな谷と、フィンランドの島々とがいっしょになって(中略)できたものです」との原作者コメントも掲載されている。」
1によるクレームも、例えば読売新聞(2018/01/13)のように多かったようですが、こんな文句を言ってるようではこれからの入試には対応できませんね。ていうか、知識を問うことを問題にするなら、あの3か国の言語の知識を問うことについては誰も問題にしなかったのか? いや言語族の知識は高校範囲なのか、ハイレベルですねえ。
2については、まあ「受験生によく知られたものを題材とする」という趣旨を狙うなら外れだった可能性もありますが、そんなことは受験問題としては本質ではないでしょう。ピッケではなくバイキングの物語ならなんでもいいことは既に述べましたが、ニルスとムーミンだって他のどんな物語でも構わなかったわけで、むしろほとんど誰も知らないような物語が使って有れば、さすがに「知識を前提とはしていない」ことに気付く受験生も多かったかも知れません。うがった見方をすれば、「よく知っている人間もいそうな題材を使うことで、いかにも知識を問う問題かのごとくに見せかけるというフェイントをかけた」というひねくれた読みもできるかも知れません。
以上のように本設問は知識ではなく推理力を問うような問題なのです。もっともセンター試験というのは時間が限られ過ぎているという見解もありそうですし、その短時間で考えている暇があるのか?、というクレームはありうるかも知れません。それはまあ、どの程度の早指し能力が問われるかという、問題作成側の意図になるのでしょうけれど。時間が十分にある試験での問題であったなら、間違いなく良問の代表例となるでしょう。
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*1) 常識的に考えれば国別特許出願件数分布が一番わかりやすくて消去法に使えるくらいだが。
*2) いうまでもなく、バイキングの物語であれば何でもよいのであり、ピッケの物語の内容はおろか存在も知らなくても解くのに差支えはない。
*3) 実は私は、この記事を読んでセンター試験の地理問題を読む気になった。
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