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『本好きの下剋上』(4) 街から領地へ、そして国へ

2019-03-26 06:03:43 | 架空世界
 香月美夜『本好きの下剋上』も第四部「貴族院の自称図書委員V」(2018/12/10)まで出ました[Ref-1]。ここまで物語が進んで、この世界の姿がだいぶ明らかになってきました。マイン/麗乃(うらの)が転生したエーレンフェストという領地はユルゲンシュミットというの中の21の領地のうちのひとつだったのです。第四部には国全体の地図も登場しましたが、見た目は完全な円形という、リアル世界の常識から見ると実に異様な形です。それぞれの領地の形は普通なのに。

 これまでたまに存在が示唆されていた外国はこの円形の国境の外にあるはずなのですが、もし国境を接しているとすれば、相手の外国の国境は凹状になります。ユルゲンシュミットはそんな特別な何かを持つ国なのでしょうか? もし複数の国々が国境を接していて、各国家が対等であれば、国境は正6角形になりそうなものです。

 地図には文字で書いていないのでわかりにくいのですが、例えばアーンスバッハと国境との間にある名前の書かれていない領域は海のはずです。そんな領域が全部で3カ所あります。えっ、海の中に円形の国境があるのでしょうか? 陸の国境はいかにも高い壁でもありそうなイメージなのですが、海に浮かぶ国境でもあるのでしょうか。そういえば国境がどんな姿なのかはまだ描写がありませんでした。

 さて最初の紹介でも書いた不潔な平民の街という歴史的にリアルな描写が、実は下位領地でありユルゲンシュミット内ではいわば田舎であるエーレンフェストの特殊事情であり、上位の領地ではちゃんと足元も美しくしておくものだったのですね。驚きの逆転です。まあ貴族たちは我々からみても普通に衛生的な生活をしてましたからね。そういえば、貴族たちの中では、洗浄魔術のヴァッシェンで髪をつやつやにするという発想はでなかったのでしょうか? なにしろ魔術を使うにはどうしたいかという状態を想像する必要があるらしいので、リンシャンを使わない状態よりもつやつやという髪が想像できなかったのかも知れませんね。つまり液体だけのヴァッシェンではすべての汚れを落とすのは無理だった、ということになります。やはり例のマル秘成分がないとだめなんでしょうね。

 そしてエントヴィッケルンと大規模ヴァッシェンで不潔だった街を一新しましたが、こんなことができるのでは土木技術が発達しなさそうな。でも治水工事なんぞはあるかも。でもこの世界の農業は魔力さえきちんと土地に供給しておけば、自然災害というものはあまり心配なさそうな雰囲気です。冬の主をきちんと退治しておかないと困ったことになりそうだということはありますが、そういえば冬の主討伐というのは各領地内でそれぞれ行う必要があるのでしょうか?

 急斜面に段々畑を作る必要があるほどには、平らな土地に不足しているわけでもなさそうですし。台風なんてのもなそさうだし。なにしろ領地自体がなるものに支えられているようで、魔力豊富な領主一族にはに魔力を供給する義務が課せられています。これが結構大変な作業で、まさにノーブレス・オブリージェと言えるでしょう。逆に言えば、がきちんと働いている限りは領地に予期せぬ自然災害など起こらないのかも知れません

 「貴族院の自称図書委員V」の「境界線上の結婚式」では領地間境界の様子が描かれていますが、それは魔力的な結界であり、領地内の魔力供給状況により自然そのものが異なってしまうという状況がはっきりと見えていました。つまりは人を含めた生物たちが生きる環境そのものがによる魔力に大きく依存しているらしいと推測できます。

 といい領地間境界といい、この異世界は人工的なにおいがしますが、これは私には2018/09/04の記事でも紹介した小野不由美『十二国記シリーズ』を連想させます。『十二国記シリーズ』では世界を創ったと言い伝えられる天帝の存在が示唆され、天帝からいわば世界の管理を任された西王母は実在の人物として主人公ともお話したりしますが、『本好きの下剋上』世界では創造者はいるのでしょうか? 祈りを聞き届ける神々というものは何だか実在しそうな雰囲気ですが。

 などとこの文章を書いているうちに「貴族院の自称図書委員VI」が出てしまいました[Ref-2]。


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Ref-1) 香月美夜『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員V」』TOブックス (2018/12/10)
Ref-2) 香月美夜『本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第四部「貴族院の自称図書委員VI」』TOブックス (2019/03/09)

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