『テメレア戦記6 大海蛇の舌』上下巻を読み終わりました。かなり踏み込んだネタバレもありますので御注意を。
今回の舞台は広大な未開の大陸オートスラリアです。『象牙の帝国』の後半で英国への反逆罪に問われたローレンス(主人公テメレアの担い手)は、『鷲の勝利』でのフランス軍の侵攻撃退戦での功績により、「減刑が認められ、流刑と労務を課すことに変更された」のでした。同時に空軍の中心兵器とも言えるテメレアも手放すのは国家として得策ではないように思えますが、ナポレオンに味方する中国出身の龍であるリエンの破壊的能力を目の当たりにした英国軍人達は、おそれをなしてテメレアを遠ざけることに決定したのでした。いや、敵側が核兵器を持つならこちらも対抗して持とうとするのが普通の考えでしょうが、核兵器が自分の意思を持ち反乱を起こす可能性があるとなると別だということになったのです。「ローレンスを奪おうとすれば仲間のドラゴンと一緒に抵抗するぞ」などとテメレアが脅かしたのが効きすぎたようです。
さらに、女性ではたぶん英国初の大将に出世したジェーン・ローランドから3個のドラゴンの卵を託されます。オートスラリアの開拓に役立てようとの理由ですが、実は竜疫でドラゴンが減りそうな時期に繁殖に傾注して卵が増えすぎたという理由もあったようです。この理由付けを持って、空軍軍人の一部も送り込まれ、テメレア達と一緒に冒険をすることになります。
さてオートスラリアのシドニーに到着した頃は、ちょうどラム酒の反乱(1808/01/26-1810)(Rum Rebellion)[オーストラリア・ニューサウスウェールズ州立図書館の詳しい解説]の真っ只中でした。反乱を起こされた元植民地総督のウィリアム・ブライ(William Bligh)や、反乱の首謀者の一人であるジョン・マッカーサー(John Macarthur)も登場し、ローレンスも含む囚人達を護送してきた軍艦の軍人達を味方につけようと対抗して画策します。色々と経緯はありますが、テメレア達は「ドラゴンを養うための家畜の牧場に十分な土地」を求めて内陸へ旅立ちます。そこに「謎の密輸ルートの探索」という目的も加わり、なかなかに過酷な旅になるのでした。
この巻ではテメレア達の種族の竜以外に架空の動物が2種類登場します。1種類は表題にもある大海蛇ですが、このタイトルから多くの読者が普通に想像するだろう展開を良い意味で見事に裏切ってくれました。もう1種類は砂漠の夜の闇に潜み群れで狩りをする肉食獣で、ハイエナ以上の知性は持つと思われる危険な獣です。ちなみに大海蛇の方は象くらいには賢そう、と言ったら褒めすぎになるかも。
さて前々回この物語は「悪の帝国グレートブリテンの世界征服の野望が潰える物語」になるのではないかと書きましたが、その可能性がますます強くなりました。大陸を横断したテメレア一行が見つけたのは、中国と先住部族(Indigenous Australians)[*1] との交易港でした。そこには両国以外にも東南アジア諸国の人々やオランダ、ポルトガル、さらにはアメリカの商人たちも来ていて実は英国は乗り遅れていたのでした。
そこへやってきた英国海軍の軍艦には典型的な悪役キャラの艦長がいて、無法にもほとんど軍備を持たない港を悪の帝国の領土とすべく戦争を仕掛けます。そして意外な反撃で無惨にも敗北し、またも悪の帝国の試みは潰えます。めでたしめでたし。
さて港に来ていた米国人の一人が語るには、アメリカではドラゴンが増えており民間空輸に使われ始めているとの爆弾発言が飛び出します。なぜ爆弾かと言えば、英国空軍では自分のドラゴンを得たくて順番待ちをする状態なのに、「空を怖がらない者なら3年で自分のドラゴンが持てる」なんて話で、聴いた飛行士候補達は唖然として・・・。ドラゴンを増やせた理由は「族長たちが畜産を始めて、それが効果を発揮した」とのこと。確かに牛はドラゴンの大好物で主食とも言える家畜です。そしてアメリカといえば牧畜が主要産業でした。
さらに重大な情報は上記の族長たちがという言葉です。そしてこの言葉を発したアメリカ人は、その名前から先住民の血が入っていると思われました。つまりこの世界の北アメリカでは、入植者と先住民とが一緒に国を作っているということが強く伺われます。そうなった理由はたぶん、先住民達がドラゴンと強く共存していて、白人達の武力に対抗できたからでしょう。なにせ白人入植前の北アメリカと言えば、大草原をバッファローの大群が闊歩するという、ドラゴンには天国みたいな環境だったのですから。そういえばアメリカ人は、担い手でもなく守り人でもなくライダーと呼んでましたね。まさにドラゴンと人との関係も国によりけりです。
さらに実史ではイギリスからの入植とともに始まったとされる奴隷制度が、この世界の合衆国にはまったくないらしいのです。
作者ったら、しっかり自分の国は善玉にしてるらしい。この愛国者めが(^_^)
さらに半年遅れくらいでローレンス達が知ったヨーロッパの情勢はというと。多くの人々を奴隷化せんと企む悪の帝国群に対して鉄槌を下すべく立ち上がった正義のドラゴン軍団(人間も含む)がヨーロッパを席巻し、ナポレオンが彼らに「悪の帝国の手先は南アメリカでも悪さをしているのだ。我々が船を提供するから共に戦おうではないか。」と持ちかけたらしいのでした。
という次第で、次巻の『テメレア戦記7 黄金のるつぼ』は南米が舞台となるようです。アンデスの高山地帯で竜たちはどんな戦いを繰り広げるのでしょうか?
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*1) ひっくるめてアボリジニ(Aborigine)と呼べばいいと思っていたら、差別的な響きが強いとのことです。先史時代屈指の発明品ではないかと思われるブーメランを駆使する狩人達というイメージがあって、かっこいい名称だと思っていたのに、言葉とは難しい。というか、オーストラリアの歴史に無知でしたね。
今回の舞台は広大な未開の大陸オートスラリアです。『象牙の帝国』の後半で英国への反逆罪に問われたローレンス(主人公テメレアの担い手)は、『鷲の勝利』でのフランス軍の侵攻撃退戦での功績により、「減刑が認められ、流刑と労務を課すことに変更された」のでした。同時に空軍の中心兵器とも言えるテメレアも手放すのは国家として得策ではないように思えますが、ナポレオンに味方する中国出身の龍であるリエンの破壊的能力を目の当たりにした英国軍人達は、おそれをなしてテメレアを遠ざけることに決定したのでした。いや、敵側が核兵器を持つならこちらも対抗して持とうとするのが普通の考えでしょうが、核兵器が自分の意思を持ち反乱を起こす可能性があるとなると別だということになったのです。「ローレンスを奪おうとすれば仲間のドラゴンと一緒に抵抗するぞ」などとテメレアが脅かしたのが効きすぎたようです。
さらに、女性ではたぶん英国初の大将に出世したジェーン・ローランドから3個のドラゴンの卵を託されます。オートスラリアの開拓に役立てようとの理由ですが、実は竜疫でドラゴンが減りそうな時期に繁殖に傾注して卵が増えすぎたという理由もあったようです。この理由付けを持って、空軍軍人の一部も送り込まれ、テメレア達と一緒に冒険をすることになります。
さてオートスラリアのシドニーに到着した頃は、ちょうどラム酒の反乱(1808/01/26-1810)(Rum Rebellion)[オーストラリア・ニューサウスウェールズ州立図書館の詳しい解説]の真っ只中でした。反乱を起こされた元植民地総督のウィリアム・ブライ(William Bligh)や、反乱の首謀者の一人であるジョン・マッカーサー(John Macarthur)も登場し、ローレンスも含む囚人達を護送してきた軍艦の軍人達を味方につけようと対抗して画策します。色々と経緯はありますが、テメレア達は「ドラゴンを養うための家畜の牧場に十分な土地」を求めて内陸へ旅立ちます。そこに「謎の密輸ルートの探索」という目的も加わり、なかなかに過酷な旅になるのでした。
この巻ではテメレア達の種族の竜以外に架空の動物が2種類登場します。1種類は表題にもある大海蛇ですが、このタイトルから多くの読者が普通に想像するだろう展開を良い意味で見事に裏切ってくれました。もう1種類は砂漠の夜の闇に潜み群れで狩りをする肉食獣で、ハイエナ以上の知性は持つと思われる危険な獣です。ちなみに大海蛇の方は象くらいには賢そう、と言ったら褒めすぎになるかも。
さて前々回この物語は「悪の帝国グレートブリテンの世界征服の野望が潰える物語」になるのではないかと書きましたが、その可能性がますます強くなりました。大陸を横断したテメレア一行が見つけたのは、中国と先住部族(Indigenous Australians)[*1] との交易港でした。そこには両国以外にも東南アジア諸国の人々やオランダ、ポルトガル、さらにはアメリカの商人たちも来ていて実は英国は乗り遅れていたのでした。
そこへやってきた英国海軍の軍艦には典型的な悪役キャラの艦長がいて、無法にもほとんど軍備を持たない港を悪の帝国の領土とすべく戦争を仕掛けます。そして意外な反撃で無惨にも敗北し、またも悪の帝国の試みは潰えます。めでたしめでたし。
さて港に来ていた米国人の一人が語るには、アメリカではドラゴンが増えており民間空輸に使われ始めているとの爆弾発言が飛び出します。なぜ爆弾かと言えば、英国空軍では自分のドラゴンを得たくて順番待ちをする状態なのに、「空を怖がらない者なら3年で自分のドラゴンが持てる」なんて話で、聴いた飛行士候補達は唖然として・・・。ドラゴンを増やせた理由は「族長たちが畜産を始めて、それが効果を発揮した」とのこと。確かに牛はドラゴンの大好物で主食とも言える家畜です。そしてアメリカといえば牧畜が主要産業でした。
さらに重大な情報は上記の族長たちがという言葉です。そしてこの言葉を発したアメリカ人は、その名前から先住民の血が入っていると思われました。つまりこの世界の北アメリカでは、入植者と先住民とが一緒に国を作っているということが強く伺われます。そうなった理由はたぶん、先住民達がドラゴンと強く共存していて、白人達の武力に対抗できたからでしょう。なにせ白人入植前の北アメリカと言えば、大草原をバッファローの大群が闊歩するという、ドラゴンには天国みたいな環境だったのですから。そういえばアメリカ人は、担い手でもなく守り人でもなくライダーと呼んでましたね。まさにドラゴンと人との関係も国によりけりです。
さらに実史ではイギリスからの入植とともに始まったとされる奴隷制度が、この世界の合衆国にはまったくないらしいのです。
作者ったら、しっかり自分の国は善玉にしてるらしい。この愛国者めが(^_^)
さらに半年遅れくらいでローレンス達が知ったヨーロッパの情勢はというと。多くの人々を奴隷化せんと企む悪の帝国群に対して鉄槌を下すべく立ち上がった正義のドラゴン軍団(人間も含む)がヨーロッパを席巻し、ナポレオンが彼らに「悪の帝国の手先は南アメリカでも悪さをしているのだ。我々が船を提供するから共に戦おうではないか。」と持ちかけたらしいのでした。
という次第で、次巻の『テメレア戦記7 黄金のるつぼ』は南米が舞台となるようです。アンデスの高山地帯で竜たちはどんな戦いを繰り広げるのでしょうか?
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*1) ひっくるめてアボリジニ(Aborigine)と呼べばいいと思っていたら、差別的な響きが強いとのことです。先史時代屈指の発明品ではないかと思われるブーメランを駆使する狩人達というイメージがあって、かっこいい名称だと思っていたのに、言葉とは難しい。というか、オーストラリアの歴史に無知でしたね。
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