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数学的実在とは-幾何学-2-

2010-01-10 06:45:00 | 数学基礎論/論理学
 前回の続きです。

 しかし、「数学とは"数学的実在"について研究する学問であり、"数学的実在"は自然科学的存在ではないのだから、観測が正しさの根拠とはならない」という説もありえます。すなわち数学的プラトン主義の立場です。そこで次に、数学的実在というものについて考えてみます。
 そもそも数学的実在としてみなさんは何を思い浮かべますか? 個数、自然数、実数、有理数、虚数、点、直線、平面、三角形、球面、関数、集合、行列、他にも色々あるでしょう。例えば点や直線と言えば、私はその映像が浮かびます。しかし、ヒルベルトの公理論的立場からは、「点、直線、平面」は無定義用語であり意味を持ちません。意味を持つのは公理系を"モデル"に当てはめたときの無定義用語に対応する、その"モデル"内の対象物です。数学的実在としての「点、直線、平面」として多くの人が思い浮かべるのは、現実世界の紙や黒板に描かれた大きさのある丸や線から頭の中で大きさや太さをゼロにして作り上げた抽象物でしょう。これらの「点、直線、平面」はユークリッド幾何学の定理や公理で示される様々な性質を持っていますが、そのいくつかを我々は"直観的に"理解できます。そして、これらの様々な性質を全て証明により導くために必要ななるべく少ない命題群として選ばれるのが、ユークリッド幾何学の公理系です。これはちょうど、様々な惑星の運動をなるべく少ない法則から導こうとして得られたのがニュートンの法則であるということに似ています。

 ヒルベルトがまとめたユークリッド幾何学の公理系は次のように分類され、我々が"直観的に"理解する「点、直線、平面」の性質にそれぞれが対応しています。
1.結合の公理
2.順序の公理
3.合同の公理
4.平行の公理
5.連続の公理

 これらの公理は無から生まれたのでもなければ、何かの原理から導かれたわけでもありません。我々が"直観的に"理解している数学的実在としての「点、直線、平面」の様々な性質を、定理として導けるように構成されたのです。いうなれば仮説演繹的に導かれたのです。

 したがって、対象とする数学的実在の性質がユークリッド幾何学が示すものとは異なれば、別の公理系が採用されることになります。例えば非ユークリッド幾何学と呼ばれるものがそれです。我々が数学的実在たる「点、直線、平面」の性質としてユークリッド幾何学的性質を"直観的に"知ることができるのは、我々がユークリッド空間に住んでいるからです。非ユークリッド空間に住んでいる知性体ならば「点、直線、平面」の性質として非ユークリッド幾何学的性質の方を"直観的に"知ることでしょう。

   [幾何学のモデル]へ続く
   [幾何学-3]へ続く

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