ギャンブル性が高すぎて客が半減した?パチンコ30兆円の行方
「朝日新聞 be Report」 より
パチンコに行っても、お金を使わされるばかりで楽しさがわからない――。パチンコで遊ぶ人が往時の半分近くに減り、業界側が危機感を深めている。規制の変更も手伝って一部のホールは「遊べるパチンコ」の復活をめざして動き始めた。しかし、ギャンブル性を売り物にしてきただけに方向転換は簡単ではない。本当に大衆の娯楽になることはできるのか。(松浦新)
パンダのかぶりものをつけた「先生」が大きなサイコロを取り出した。
「パチンコの大当たりの仕組みはサイコロを振るようなものです。サイコロは6面ですが、パチンコは200とか300の面があり、玉が入るたびに『抽選』していると考えてください」
茨城県を中心に25店を展開する「金馬車」は、ホールの定休日を使って、地域の人を集め無料で「パチンコ教室」を開いている。3月末に開いた石岡店は3回目。これまでパチンコ台の内部を見せたりホール事務所内の見学も催したりした。
福岡県で12店を展開する「玉屋」にはパチンコ台の性能を初心者向けにわかりやすく示したグラフがある。
1度当たると大量の玉が出る可能性が大きい(射幸性が高い)台は、大当たりが出にくいので「遊びやすさ」は低くなる。一方、当たりやすくて遊びやすい台は、当たっても出る玉の数は少ない。それをグラフにした。遊びやすい台は「初心者向け」に作った「玉工房」というコーナーに集めてある。
こうした試みの背景には客離れがある。社会経済生産性本部の「レジャー白書」によると、90年代前半に3000万人のパチンコの「参加人口」は04年度には1790万人と、半分近くに減った(表(1))。
この間にパチンコ・パチスロは、当たる時には何十万円分も出るような射幸性が高い機械がもてはやされ、短時間に何万円も使ってしまう遊びになった。客が減ってもホールの売上高が年間30兆円前後を維持してきたのは、射幸性を高め1人当たりの売上高を増やしてきた結果だ。
beモニターへのアンケートでもパチンコを「よくする」人は0・9%で、最近もしている人は8%にとどまる(円グラフ)。「パチンコで離婚してしまった親類がいる」(東京、25歳女性)という声もあった。
玉屋の岩見吉朗社長は「射幸性の高さについてこられないユーザーを無視して市場が『砂漠化』した。気軽に遊びたい『ライトユーザー』を呼び戻す『緑化事業』は時間も費用もかかりますが、必要だと考えています」と話す。
パチンコ業界は風俗営業法の規制を受ける。所管する警察庁は04年7月にパチンコ・パチスロ機の規則を変え、射幸性を抑える方針を打ち出した。パチンコホールは3年間の経過措置の後、来年夏までに射幸性に頼らない経営への転換が求められている。
警察庁生活環境課の井口斉課長は「パチンコは射幸性が高くなりすぎていた。サラ金から借金をしてまでのめり込み、生活破綻(はたん)にいたるばかりか、犯罪に走るケースもあると聞く。そこで現在、本来の大衆娯楽に戻す取り組みを進めている」と説明する。
■新台競争で高コスト
3月8日、東証1部上場の電機メーカー、ナナオ(本社・石川県白山市)は、06年3月期の売上高が85億円減の850億円に下がるなど、業績予想修正を発表した。大ヒットしているパチンコ台「海物語」シリーズの新作発売の延期が主な原因。予定通りに認められなかったのだ。
ナナオは同シリーズを製造・販売する三洋物産(本社・名古屋市)に液晶モニターを供給し、05年3月期はパチンコ・パチスロ用の売上高が487億円に達した。
最近のパチンコ台は液晶モニターが中心に据えられ、テレビゲームのような様々なキャラクターが登場する。価格は1台20万~30万円もするが、流行のサイクルは短い。
矢野経済研究所の中元直史研究員によると、数カ月で入れ替えられるゲーム機が多く、人気がないと1カ月もたない台もある。
パチンコホールの経営は体力勝負だ。ホール数は95年度の約1万8000店から04年度には約1万4000店に減ったが、設置されているゲーム機は95年度の475万台から04年度には497万台に増え、大型化が進んだ(表(2))。
大型店を展開する会社は次々に新台を入れて客を呼ぶ。仮にゲーム機1000台を置くホールがあって、3カ月に1度機械を入れ替えると、1台25万円としても年間で10億円が必要だ。資金力が乏しい中小店にはまねができない。
中元研究員は「今後、新規則の台を入れる資金力がないホールの廃業が増えるのではないか」と見る。
そんななか、低価格の中古パチスロ機をそろえた「お宝ハウス・フルスロットル」のチェーン展開が注目されている。通常は1枚20円のメダルを50枚、1000円単位で遊ぶが、1枚10円、10枚100円から楽しめる。メダルは、換金につながる「特殊景品」には交換しない。金沢、長野など4店があり、1号店の広島店では食料品などの日用品と、大きなラジコンカーなどの商品にも人気があるという。
広島店を経営する森光司社長は「パチスロを楽しんだ後に買い物をしてもらう感覚です。我々の利益は景品から出ています」と話す。
矢野経済研究所によると、業界全体では景品の95%以上が特殊景品。これをホールが直接買い取ると風営法違反になるため、「買い場」を「第三者」が経営し、そこから特殊景品を買い取った問屋からホールが「仕入れる」形をとっている。
しかし、特殊景品の多くはボールペンやしおりなど市場価値が低く、買い場の独立性が問題になりやすい。東京都の業界団体は特殊景品に金地金を使い、店に近接した買い場以外にも持ち込める仕組みを作ったが、導入した91年には業界幹部への発砲事件などが起きた。「本気で闇の勢力と関係を絶つには勇気とコストが必要」と関係者は話す。
〈参考情報〉 売上高約30兆円は経産省の商業統計による国内の04年の新車販売額約11兆円のざっと3倍。矢野経済研究所の推計では、その9割近くが換金などで客に還元されているという。このうち普通の景品での還元は04年度の市場規模で4812億円。パチンコ台の販売は同401万台、7864億円。パチスロ台は同168万台で5246億円。
これは面白い記事でした。たしかに10年ぐらい前にはたまにパチンコをやっていましたが今は全くやりません。お店の駐車場にはたくさん車が止まっているし、テレビでもパチンコの番組をやっているから流行っていると思いましたがこんな状態になっているとはビックリ!高校生でも「何万円も勝った!」なんて話を電車の中でしてたりするから大繁盛だと思っていました。たしかに今の状況を聞くと完全に「博打」だもんね。何事も「過ぎたるは及ばざるがごとし」ということでしょうか?