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Thelonious Himself

2007-04-26 00:05:13 | discography

村上春樹の小説だったかエッセイだったかで、貧乏学生が同じアパートの住人とジャズを通して親しく(?)なる場面があったと記憶していますが、なんだったっけな?どっちかがどっちかの部屋にセロニアス・モンクのレコードを大事に抱えて行くのですが、その人はモンクの別のレコードを持っていて、どっちがどういいかという話を朝までする、というシーンだったと思います。たしか別のレコードの方がこれだったと思うんだけど。このときの描写でモンクのピアノ演奏を指して「羊水に包まれるような感じ」とか、正確ではないですがそういう表現があってこの「羊水」という言葉がすごく印象に残っています。確かそれもあって試しに聴いてみようと思って買ったんだっけな。

いやあ、聴いてみてあらためて思うのは、ほんとうに「羊水」みたいな音楽、なんですよ。ほんとうに。

正直ピアノという楽器を使っていることすら忘れてしまいそうなくらい、とくにクラシックの「ピアノ」のイメージからかけ離れた音でもって、リズムの強弱やら和音やらもう好き勝手に弾いてるようにしか思えなくって。けっこう不協和音も入るので音自体は鋭利な調子ではあるのですが、曲全体が何か不思議な生暖かさを持っていて、妙に耳になじむ感じ。うーん、うまく言えない、やっぱり「羊水に浸るような」感じなんです。あまりにもうまい表現がピタッとはまっちゃうと、僕みたいにうまく日本語喋れない人間はそこから抜け出せなくなってしまうんですよねー。

何だか勝手にやってるだけなのに「そこにいる存在感」を漂わせるような演奏者がときたまいるのですが、この人もどうやらそんな人のひとりのようです。パーツで見るとダメダメなのに全体を眺めたときに圧倒的に訴えてくる絵とか、そんな感じ。僕はこれを聴いているとリラックスするのですが、そうでもない人もいるかもしれません。とにかく、時間感覚は確実におかしくなると思います。聴いてて平衡感覚すらあやしくなるもんね。

Thelonious Monk「Thelonious Himself」 VICTOR VICJ-2116