耳順庵日記

60歳を超えて、生き馬の目を抜く首都圏の生活にカムバックした。
浦安太郎が見た、都会の意外な側面を綴ってみたい。

都会に雪が

2013年01月17日 16時14分32秒 | 都会の風景
 娘は帰らないと言う。亭主は帰って来い、と言う。

 あの7年振りの大雪の日のことだ。この日は連休中に孫娘と帰省していた
次女を車で送って行く事にしていた。

 昼のニュースで渋谷が雪だと言っていたので、笑いながら窓の外を見たら、
こっちも大粒の牡丹雪だった。危ないからもう一泊、ということにしたが、
亭主はどうしても帰って来いと言っている。

 もともと私は、雪の日には車を出さないことにして居るのだが、あの山中湖の
チェーンが車のトランクに入っているので気が緩んだ。あの時のチェーンの効果
はそれ程強烈だったのだ。いざとなれば、あのチェーンに頼れば良い、その
安心感で車を出した。



 あの時は、山中湖の保養所で宴会して、翌朝起きたら20cm程の積雪だった。
           「花の雪」
湖畔の平らな道は轍を辿って何とか走れたが、篭坂峠の上り道で雪に埋もれて
しまった。エンジンをふかしても、雪でタイヤが滑って、ゴムが焦げる匂いが
する。動きが取れずに途方に暮れていると、一台の車が近寄ってきて、
「下のスタンドですけど、チェーン有りますよ」という。地獄に仏の思いで購入し、
付けてもらった。雪道を1kmほど登りきると、峠の向こうの下り道は静岡県。
すっかり除雪されていたので、すぐチェーンを外したのだった。



 出発は14時半。我が家の前の道路は10cm位のシャーベットだが、ゆっくりでは
あるが車はチェーンもつけずに走っている。この分なら、暗くなる迄に帰って
来れそうだ。首都高に乗れば車が多いから雪は融けているだろう、少し贅沢を
しよう、と湾岸線の浦安入り口に行ったら、閉鎖中との電光表示。高速を走って
いる車は沢山見えるし、閉鎖中のはずの料金所を入って行ったトラックも居たが
料金所で追い返されて、バックで戻るのもシャクなので、下を行くことにした。
高速の入り口は葛西も新木場も、たった今閉鎖になったみたいだった。ゲート
ブリッジも通行止めだ。

 今思えば、ここで諦めて引き返せば良かった。しかしチェーンに対する信頼感は
大き過ぎた。

 東京港トンネルを過ぎて、平和島の陸橋が渋滞だ。上り坂でタイヤがスリップ
して、乗っている人たちが降りて来て、後ろから押している車が続出してきた。
沢山乗ってるから、重いんだねと笑って居た。

 まだ気持ちに余裕が有った。

 15号に入る頃から異常に混み出した。陸橋で立往生して居る車もチラホラ。
環8との交差点では、右折レーンでトラックがハザードを焚いていた。これを
やり過ごして右折しようとしたら、交差点の真ん中で、前の車がスタックした。
雪の上でタイヤが空転して、進まない。仕方が無いから、車から出て、雪を
かぶりながら押してやった。その車の人は、涙声で有難うございました、と
言っていた。

 そろそろヤバそうなので、チェーンを装着しようと思って、路肩に停めた。
シャーベットの雪に埋れたタイヤに、うまく装着出来ない。ダウンのコートも、
その下のセーターも、靴の中もびしょ濡れだ。軍手の指先は凍って来て、
寒い。

 30分程で諦めて、近くのスーパーの地下駐車場に入った。雪が無い所なら、
うまくヤレるはずだ。娘達が駐車料稼ぎのために余計な買物をして居る間に
再度チェーンに挑戦するが、もう少しのところでうまくいかない。見ている
かみさんが訳が分からないアドバイスをするから、尚更混乱する。

 とうとう諦めて、GSに行くことにした。燃料もエンプティランプが点いて
いる。   もう日が落ちて暗くなって居る。

 やっとたどり着いたスタンドは、もう終わりました、と素っ気ない。そこを
何とか頼み込んだが、チェーン着けるのに4千円だと言う。

 リフトで車を持ち上げて、プロが作業して1時間掛かった。素人が路肩の
雪の中で出来ることでは無かったのだ。
おまけにチェーンが一カ所切れていると言う。前回切れたみたいだ。



 この時点で、帰宅することは断念した。娘宅に泊まるしかない。道の
向こうにホカ弁屋が有ったので、夕食を確保して、みぞれの中に走り
出した。

 しかしあちこちで立ち往生した車で環8が動かない。仕方なく脇道に
入ったら、通行量は少ないがその分雪が多い。

 そのうち、チェーンが切れたのか、チャラチャラ音がし出した。完全に
切れると車軸に絡み付いて走れなくなるので最徐行だ。

 やっとの思いで辿り着いた娘のマンションの、来客用駐車場に入れ
ようとしたら、前の車が雪に埋れて動けない。スコップで雪掻きするのを
待つ事30分。


 1時間で着く道を5時間半掛かった。

 それでも無事着いて良かった。孫娘も、愚図らず、良く頑張った。

 タクシー使えば良かったと言うだろうが、肉親だからこそこの苦労を
したのであって、あの雪の中の大渋滞を、乳飲み子を連れて、見ず知らず
の運転手とどう付き合うのか、とてもじゃないが考えられない。

   誰が何と言おうと、もう二度と雪道は走らないぞ。




最新の画像もっと見る

コメントを投稿