中高年の山旅三昧(その2)

■登山遍歴と鎌倉散策の記録■
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ルアペフ山・タラナキ山登頂記(29)山腹でお寿司

2006年05月04日 16時42分08秒 | ニュージーランド:ルアペフ・タラナキ
山腹でお寿司
<<タラナキ山登頂>>


2006年2月1日(水) その3
 タラナキ山頂で軽く食事を摂った私達は,14:15に下山を開始する。風はそれほど強くないものの相変わらず霧雨が降りしきっている。岩稜を下って,クレーターの雪渓に降りる。緩やかな下り坂の雪渓を粛々と下る。辺りには物音一つなく静寂そのものである。
 雪渓の終わり付近,右側に「サメの歯」が屹立しているところで,突然,妙なものが落ちているのを発見する。雪渓の上に,丁寧に畳んだバンダナが落ちている。そのバンダナの上にスナック菓子がチョコンと置いてある。
 「・・・先ほど,ここを通ったときには,なかったよ・・・このバンダナ,ドッジさんのものだよ・・・」
と誰かが言う。
 「これ,一体どういうことだろう・・・」
一同,突然現れたドッジさんのバンダナに困惑する。
 ドッジさんは辺りに見当たらない。
 岩山好きのドッジさんのことだから,「サメの歯」の岩に登っているのだろうか。まさか・・・いくら岩好きでも,脆くて危険な岩を登るはずがない。どこかで迷っているのだろうか。一同,大変心配する。
 「・・・ドッジさ~ぁ・・・ん・・!」
と大声で何回も呼んでみる。
 全く反応がない。バーダーさんが,
「笛を吹いてみようか」
と提案する。
 近くに立っている私の鼓膜がビリビリするほど大きな笛の音が,雪渓に吸い込まれるように響き渡る。もう一度,するどい笛の音が響き渡る。
 何の反応もない。ガイドが,
 「ここに留まっていても仕方がない・・・とにかく先へ進みましょう」
と提案する。
 雪渓を渡り終えて,岩稜を少し登り,リムに出る。ここからはザレた露岩帯の下り級座の連続となる。フクロウとバーダーがどんどんと先に降りていく。下りが苦手な私は,到底,同じ速度では降りられない。私のすぐ後ろから降りてくるビアンコさんやスケルトンさんに,私を追い越して先に進むように勧めるが,ユックリ降りるという。私達は,フクロウとバーダーから少し遅れて,降り続ける。
 辺りには相変わらず霧が立ち込めている。
 やがて,私達の位置から50メートルほど下ったところを,ゆっくりと降りているドッジさんと酋長さんの姿が,霧の中からシルエットになって見え始める。だれかが,
 「ドッジさぁ~ん・・・」
と声を掛ける。私達はすぐに2人に追いつく。
 「・・・雪渓に置いてあったバンダナ,ドッジさんのものでしょう?」
と誰かが質問する。
 「そうよ・・・」
とドッジさんは屈託もなく答える。
 「・・・置いてあるバンダナの意味が分からず,戸惑いましたよ・・・どこかへ行ってしまったのかと心配しましたよ・・・まさかいくら岩好きでも「サメの歯」に登るわけはないし・・・」
と何人かが口々に話す。
 「アタシ,ここまで来ましたよという意味で,あそこにバンダナを置いたのよ・・・皆さんが意味が分からなくて迷うなんて,ちっとも考えていなかったですよ・・・」
とドッジさんらしい返事が返ってくる。
 やっぱりドッジさんは,ドッジさんである。
 ここからは「速い足」組と「遅い足」組が一緒になって降りる。
 14:55,標高2,220メートル地点で,少し平らになっている場所で休憩を取ることになる。
 ガイド頭のジョンさんが,
 「・・・みんなタラナキ山の山頂まで登ったから,ご褒美をあげるよ・・・」
と言いながら,リュックの中から大きな包みを取り出す。なんとお寿司である。ドライアイスで冷やしながら鮮度を保たせている。あまりに突然,お寿司が目の前に現れたので,一同大変ビックリする。大喜びである。のり巻き,イカ,鮭の握りなどがギッシリと詰まっているパックが一同に回される。

 久々のお寿司は何とも美味しい。しかもタラナキ山登頂の達成感で気分が高揚しているときに味わうお寿司である。それにも増して,涙が出るほど嬉しいのが,ジョンさんの心遣いである。しかも,これまでお寿司を持参している気配もなく,いきなり魔法のようにリュックからお寿司が出てくる演出には泣けてくる。日本を出発して1週間余り。ただでさえ,大分,日本食が懐かしくなっている時だから尚更である。
(第29話おわり)


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