スントの時計が故障する
<<タラナキ山登頂記>>
2006年2月1日(水) その4
ガイドのジョンさんの粋な計らいで,美味しい寿司をご馳走になった私達は,15:05,再び下山を開始する。濃い霧の中を黙々と下る。相変わらず急傾斜の露岩帯である。転倒しないように注意しながらひたすら下り続ける。
平素から防水がおかしくなっていた私の時計「スント」が,またまたおかしくなってくる。水が侵入していると思われるところにビニールテープを貼り付けて置いたのだが,どうも完全には防水できなかったようである。昼食を食べ始めた頃から,スントが誤動作を始める。最初は,「3」が「8」になってしまう。だから,例えば「13:35」は「18:85」と表示されるようになる。その内に,いろいろなモードにカッ的切り替わって,激しくブリンクするようになる。こうなると,最早,時計としては機能していない。私は,一刻も早く,電池を時計から取りだして,電池の消耗を防ぎたいと思うが,それもできない。今までも,この「スント」は,雨の中で何回もおかしくなったことがある。その度ごとに,乾燥させると,何とか機能を取り戻してきた。しかし,今回は今までおかしくなったときに較べて,どうも重傷のように思える。それはとにかく,時計が壊れると,肝心のログができなくなる。しかたなく,私は休憩の度に,周りの人に,
「今,何時?」
としつこく聞き回ることになる。
砂礫が積もっているザレた急坂になる。丁度,富士山の砂走りのような感じである。
ガイドが,
「早く降りたい人は,先に行っても良いですよ・・・」
と,早く降りたくてジリジリとしているフクロウやバーダーに声を掛ける。そこで,フクロウ,バーダー,私の順に,「砂走り」の斜面を,かなりの速度で下り始める。登山靴の底がすぐ減ってしまうのが,とても心配だが,
「・・・ザ~ッ,,・・・ザ~ッ,・・・・」
と一足ごとに2~3メートル下ることができる。まことに痛快である。
正確な時間は分からないが,かなり下る。やがて,ところどころに木道が増え始める。そして,登山道の傾斜もだんだんと緩くなり,かなり歩きやすくなる。ここまで来ると,私達も大分麓まで下ったなという実感が涌いてくる。そして,登りで苦労した「犬がハアハア」の木道を一気に降りる。降りたところは,深い谷間の露岩帯になっている。登っているときは気が付かなかったが,下ってみると,かなりきつい傾斜である。気が付くと,辺りの霧が少し薄くなっている。そして,視界もかなり良くなっている。
やがて,眼下にタラナキロッジと電波塔が見え出す。やっとかなり下山したことを実感する。
岩の間のザレ道を少し下って,無事にタナラキロッジに帰り着く。ビアンコさんに,ロッジへの到着時間を聞く。16:17である。一同,小屋に入り小休止する。トイレを済ませ,身支度を整え,16:29,小屋を出発する。
ここからは電波塔の運搬道に沿って降りるので,道幅も広くなり,歩きやすくなる。しかし,一般道にしてはかなり急な下り坂がつづく。
登山の最終段階,つまり終点に近くなると,ビアンコさんは,何時もことさらに元気である。そして,もの凄い勢いでラストスパートをするのが標準パターンになっている。したがって,最近では,このビアンコさんのラストスパートがないと,何だか気が抜けたような物足りなさを感じる。習慣とは恐ろしいものである。
海外のトレッキングでも同じである。まずは,フクロウさんとビアンコさんが先頭に飛び出す。その後をバーダーさんと私が追いかける。私の後にスケルトンさんも後に続く。もの凄い勢いで,フクロウ+ビアンコ組が先を急ぐ。それに負けるものかとばかり,バーダーと私が追いかける。ついにはフクロウさんとビアンコさんは小走りになる。それを私は早足のまま追いかける。
いつの間にか,辺りの霧は消えて,下界の見通しが良くなっている。ただ,上空には暗雲がたれ込めている。標高が下がったために気温も上がっている。そのため,何となく伸びやかな気分になる。私は,下界を眺め,デジカメに風景を撮ったりしながら,先行の2人を追いかける。広いカールのトラバース道を通過する。見通しが素晴らしい。後ろを振り返ると,トラバース道の遙か後方,私達より500メートルほど後ろに,私達の仲間が集団となって降りているのが見える。
17:14,車止めのゲートを通過する。私よりほんの一足早くゲートを通過したフクロウが,私達がゲートを通過する瞬間の写真を撮る。
バスの運転手が,ゲート近くまで,私達を出迎えに来ている。
「・・・早いね。頂上まで登ったの?」
と私達に聞く。
「勿論,登りましたよ」
運転手と一緒に駐車場まで下る。
足下を見ると靴がドロドロになっている。運転手に,
「この辺りで,靴を洗えるところはないですか・・・」
と聞く。運転手は,しばらく考えていたが,
「う~ん,,,このあたりに,水道はないですね」
と答える。私は,ふと,ランチボックスと一緒に貰った「ガス入り」の水,0.75リットルが手つかずのままリュックの中に残っているのを思い出す。そこで,その水を使って,靴の泥を洗い落とす。水を靴に掛けると,水中のガスが程良い泡を建てる。その泡が靴の泥をうまく洗い流してくれるように感じる。
私達先行組が到着してから,10分ほどして,最後尾のドッジ,酋長組も到着する。ガイドが,
「・・・下りは,結構,皆さん速いですね・・」
と感想を漏らす。
17:41,私達を乗せたバスは,ホテルへ向けて発車する。往路と同じ道を辿って,18:12に,無事,ホテルへ到着する。
すぐに部屋へ戻る。そして,何はさておき風呂に入る。心地よい疲労感があって,とても気分がよい。
(第30話おわり)
<<タラナキ山登頂記>>
2006年2月1日(水) その4
ガイドのジョンさんの粋な計らいで,美味しい寿司をご馳走になった私達は,15:05,再び下山を開始する。濃い霧の中を黙々と下る。相変わらず急傾斜の露岩帯である。転倒しないように注意しながらひたすら下り続ける。
平素から防水がおかしくなっていた私の時計「スント」が,またまたおかしくなってくる。水が侵入していると思われるところにビニールテープを貼り付けて置いたのだが,どうも完全には防水できなかったようである。昼食を食べ始めた頃から,スントが誤動作を始める。最初は,「3」が「8」になってしまう。だから,例えば「13:35」は「18:85」と表示されるようになる。その内に,いろいろなモードにカッ的切り替わって,激しくブリンクするようになる。こうなると,最早,時計としては機能していない。私は,一刻も早く,電池を時計から取りだして,電池の消耗を防ぎたいと思うが,それもできない。今までも,この「スント」は,雨の中で何回もおかしくなったことがある。その度ごとに,乾燥させると,何とか機能を取り戻してきた。しかし,今回は今までおかしくなったときに較べて,どうも重傷のように思える。それはとにかく,時計が壊れると,肝心のログができなくなる。しかたなく,私は休憩の度に,周りの人に,
「今,何時?」
としつこく聞き回ることになる。
砂礫が積もっているザレた急坂になる。丁度,富士山の砂走りのような感じである。
ガイドが,
「早く降りたい人は,先に行っても良いですよ・・・」
と,早く降りたくてジリジリとしているフクロウやバーダーに声を掛ける。そこで,フクロウ,バーダー,私の順に,「砂走り」の斜面を,かなりの速度で下り始める。登山靴の底がすぐ減ってしまうのが,とても心配だが,
「・・・ザ~ッ,,・・・ザ~ッ,・・・・」
と一足ごとに2~3メートル下ることができる。まことに痛快である。
正確な時間は分からないが,かなり下る。やがて,ところどころに木道が増え始める。そして,登山道の傾斜もだんだんと緩くなり,かなり歩きやすくなる。ここまで来ると,私達も大分麓まで下ったなという実感が涌いてくる。そして,登りで苦労した「犬がハアハア」の木道を一気に降りる。降りたところは,深い谷間の露岩帯になっている。登っているときは気が付かなかったが,下ってみると,かなりきつい傾斜である。気が付くと,辺りの霧が少し薄くなっている。そして,視界もかなり良くなっている。
やがて,眼下にタラナキロッジと電波塔が見え出す。やっとかなり下山したことを実感する。
岩の間のザレ道を少し下って,無事にタナラキロッジに帰り着く。ビアンコさんに,ロッジへの到着時間を聞く。16:17である。一同,小屋に入り小休止する。トイレを済ませ,身支度を整え,16:29,小屋を出発する。
ここからは電波塔の運搬道に沿って降りるので,道幅も広くなり,歩きやすくなる。しかし,一般道にしてはかなり急な下り坂がつづく。
登山の最終段階,つまり終点に近くなると,ビアンコさんは,何時もことさらに元気である。そして,もの凄い勢いでラストスパートをするのが標準パターンになっている。したがって,最近では,このビアンコさんのラストスパートがないと,何だか気が抜けたような物足りなさを感じる。習慣とは恐ろしいものである。
海外のトレッキングでも同じである。まずは,フクロウさんとビアンコさんが先頭に飛び出す。その後をバーダーさんと私が追いかける。私の後にスケルトンさんも後に続く。もの凄い勢いで,フクロウ+ビアンコ組が先を急ぐ。それに負けるものかとばかり,バーダーと私が追いかける。ついにはフクロウさんとビアンコさんは小走りになる。それを私は早足のまま追いかける。
いつの間にか,辺りの霧は消えて,下界の見通しが良くなっている。ただ,上空には暗雲がたれ込めている。標高が下がったために気温も上がっている。そのため,何となく伸びやかな気分になる。私は,下界を眺め,デジカメに風景を撮ったりしながら,先行の2人を追いかける。広いカールのトラバース道を通過する。見通しが素晴らしい。後ろを振り返ると,トラバース道の遙か後方,私達より500メートルほど後ろに,私達の仲間が集団となって降りているのが見える。
17:14,車止めのゲートを通過する。私よりほんの一足早くゲートを通過したフクロウが,私達がゲートを通過する瞬間の写真を撮る。
バスの運転手が,ゲート近くまで,私達を出迎えに来ている。
「・・・早いね。頂上まで登ったの?」
と私達に聞く。
「勿論,登りましたよ」
運転手と一緒に駐車場まで下る。
足下を見ると靴がドロドロになっている。運転手に,
「この辺りで,靴を洗えるところはないですか・・・」
と聞く。運転手は,しばらく考えていたが,
「う~ん,,,このあたりに,水道はないですね」
と答える。私は,ふと,ランチボックスと一緒に貰った「ガス入り」の水,0.75リットルが手つかずのままリュックの中に残っているのを思い出す。そこで,その水を使って,靴の泥を洗い落とす。水を靴に掛けると,水中のガスが程良い泡を建てる。その泡が靴の泥をうまく洗い流してくれるように感じる。
私達先行組が到着してから,10分ほどして,最後尾のドッジ,酋長組も到着する。ガイドが,
「・・・下りは,結構,皆さん速いですね・・」
と感想を漏らす。
17:41,私達を乗せたバスは,ホテルへ向けて発車する。往路と同じ道を辿って,18:12に,無事,ホテルへ到着する。
すぐに部屋へ戻る。そして,何はさておき風呂に入る。心地よい疲労感があって,とても気分がよい。
(第30話おわり)