<エルバート山山頂からの眺望>
ロッキー山脈紀行(24):第5日目(2):エルバート山から下山
(アルパインツアー)
2010年8月19日(木)~28日(土)
第5日目:2010年8月23日(月)(つづき)
<エルバート山山頂>
■何だか食欲がない
11時45分,無事エルバート山山頂に到着する.山頂直前に突如襲った腹痛も,黄色い大量のドロドロを排出したら,すぐに治まった.治まったので,腹痛になったことをリーダーに報告することもなかろうと思って,内々にする.
やっと腹の痛みが治まり掛けた途端に,いきなりネイトさんから,
「あなたが,(アルパインツアー社の山行で)エルバート山登頂最年長記録を作った.おめでとう.何か一言話してから万歳の音頭を取って下さい」
と言われる.
腹が納まったばかりで,やっと気分を整えている矢先のリクエストなので,すぐにはその気分になれずドギマギするが,表面では何気ない顔で,音頭を取る.
集合写真を撮ってから,昼食である.昨日,シテイマーケットで仕入れた食べ物を広げるが,まだ先ほどの腹痛の残滓があって,全く食欲がない.食べようとしても吐き気すら覚える.とはいえ何も食べないわけにもいかないので,少量でも栄養価の高そうな飴類を幾つか舐めて食事代わりにする.内心では,
「なぜ,急に腹痛になったんだろう.多分,高山病の一歩手前かも知れない.でも,待てよ.高々4000メートル台で,今まで高山病になったことはないのに・・・それとも食当たりかな・・」
といろいろ考えてみる.どうも良く分からない.とはいえ,依然食欲はないものの,体調が悪いわけでもない.
■360度の眺望
食事が終わってから,山頂からの風景を堪能する.辺りを遮るものがない360度のパノラマが広がる.岩肌がむき出しの荒涼とした山塊が四方を取り巻いている.ここはスキーのメッカだけあって,ゆるやかに広がる凹凸のガレ場である.冬になるとガレ場は厚い雪に覆われるのだろう.もし,眺望が利かない時には,結構遭難しそうな所だなと思う.
山頂で,お互いに写真の撮りっこをする.私も近場に座っている方と一緒に写真を撮って貰う.
山頂では,ご多分に漏れず,冷たい風が吹いている.四方丸見えの風通しの良い所である.結構寒い.
<手前に見える石積の裏で密かにトイレした>
<長閑な下山道>
■ちょっと物足りないな
山頂で,小一時間,休憩を取った後,12時30分に下山を開始する.往路をそのまま辿って下山する予定である.例によって,私はグループの一番後ろの方に付いて下り始める.先ほど急に腹が痛くなった場所も呆気なく通過する.
余りに見晴らしの良いところを下山するので,ついつい風景に気を取られそうになるが,その都度,気を引き締める.
エルバート山は,標高こそ4300メートルを越える高山だが,危ないところは全くないと言って良いほど歩きやすい所である.妙な例えだが,私が良く登山する丹沢塔ノ岳の登山道より,よほど歩きやすい.その意味では,口幅ったい言い方だが,何となく呆気なく山頂に着いてしまったような気がする.
余談になるが,アルパインツアー社のパンフレットには,山の難易度を表すのに「登山靴」のマークの個数を使う.例えばキリマンジャロやモンブランは「靴5個」.ツブカル山は「靴4個」という具合である.私は今まで「靴4個」以上の山行にしか参加したことがない.尤も最初からトレッキングだと分かっていた「靴3個」のルートバーンだけは例外だ.
今回のエルバート山は「靴3個半」.まだ,これから4000メートル級2座に登る予定なので,今の段階で判断するのは早すぎるかも知れないが,エルバート山は,やっぱり靴の数が少ないだけあって,何となく物足りない感じがする.
「丹沢の大倉尾根より楽だったかも知れない・・」
と思いながら下山し続ける.
■肥った小動物
次第に高度が下がる.振り返ると先ほどまで居た山頂が見上げるような高さになっている.私達は大きなカール状の谷間の左岸にあるなだらかな下りを歩いている.とても歩きやすい登山道が続く.
13時11分頃,先頭の連中が突然立ち止まる.進行方向左手,登山道から10メートルほど離れた所に,尻尾を除く体長が20センチほどの肥った動物が,何かを一生懸命食べている.近くに私達が居るのも,全く気にならないようである.早速何人かの人たちが,この小動物の写真を撮っている.
私はケイトさんから離れた位置にいたので,この動物の名前を聞きそびれた.後で聞こうと思っていたが,それも忘れた.
<休憩を取りながら>
■トイレ場所で休憩
13時34分,標高4025メートル(往路のとき,高度計は4100メートルを指していた)地点で,休憩を取る.往路で休憩を取った場所と同じである.
ネイトさんの説明では,この場所ならば,近くに幾分傾斜がきつい斜面があるので,身体を隠してトイレができる.だから,休憩場所として選んだという.なるほど!
■黄色い花が咲き乱れている
13時40分,再び歩き出す.緩やかな草原が続く.草原といっても枯れた雑草が一面に広がっている所である.枯れ草の中に少しばかり青いものが混じっている.その中に四駆の自動車が通った跡のような登山道が続く.極なだらかな下り傾斜の高原道である.何となく鼻歌でも歌いながら歩きたくなる気分の良い散歩道が連続する.
だんだんと高度が下がると,道の両側に,黄色い野菊のような花が咲き乱れ始める.花の名前は聞いても覚えられないので,最初から聞かないが可憐な花である.
■次第にグループがバラける
相変わらず長閑な下り坂が続くが,だんだんと傾斜が急になる.急といってもせいぜい5度程度.でも,同行者の中のかなりの人が,棒立ちになったぎこちない姿勢のまま,オッカナビックリ下っている.
「ほんの一寸,山での歩き方を覚えれば,楽に下れるのに・・」
私は心の中で思いながら,後ろに付いて歩く.
その内に,焦れったくなる.しびれが切れる.もうこの辺で,ほんの少しの間でも良いから,自分の速度で歩きたい.幸いなことに登山道の道幅は広い.私は腰を少し落として,膝に余裕を持った姿勢になって,スタスタと下って,先頭グループの中に入り込む.
<長閑な下山道>
<15:03 前方に湖が見下ろせる>
■上空に青空が広がる
振り返ると,例の嫌みばかり言うX氏は,まるで案山子のようなぎこちない歩き方で,上体を大きく左右に揺らしながら苦戦している.申し訳ないが,私は心の中で,
「なんだ,Xさんは口だけで,登山は全くの初心者だな・・」
と確信する.
14時35分,標高3645メートル地点で,再び休憩を取る.辺りは白樺に良く似た木立で覆われている.先頭グループと後ろのグループとの間が大きく開いてしまったので,ここで少々長い休憩を取ることになる.
待っている間に,上向きに寝転ぶ.上空には抜けるような青空が広がっている.暑くも寒くもない心地よい気温である.10分ほど待っていると全員が揃う.
14時53分,休憩を終えて歩き出す.
<何となく気まずい雰囲気になる>
■見るに見かねて・・
15時30分,標高3320メートル付近で3度目の休憩を取る.また,先頭と末尾で,バラけている.
辺りは樹林帯で少し傾斜が急である.大きな木の根に腰を下ろす.私のすぐ側に2~3にんの女性が座る.きつい坂だと愚痴をこぼし始める.歩数計を出して,今日は何歩歩いたかなどと,愚痴話を始める.
私の見る限りでは,彼女たちは,先程来,棒立ちの姿勢で下山していた.そのために必要以上に疲れたのだろう.私は見るに見かねて,
「・・・私は登山の素人.でも,登山学校で歩き方を教わってから,随分と楽に歩けるようになりましたよ・・・」
と言いながら,遠慮がちに,極,極,基本的な歩行技術を紹介する.
例えば,下り傾斜が急になればなるほど,膝を曲げて腰を落として,靴底を斜面にピッタリ付けてから,体重を移動する・・決して走ったり,跳ねたり,蹴ったりしてはダメ,一歩一歩丁寧に,歩幅は小さく・・上体を前後左右に揺さぶらないで・・等々.
「私は一参加者.指導する立場ではないけれども,今度,ちょっと参考にしてみて下さい・・」
■X氏がいきなりクレーム
このやり取りを,少し離れた所で見ていたX氏が,いきなり,
「どこの登山学校で習ったが知らないが,そんな姿勢では疲れてしまい,歩けるものか・・」
と大声で私を叱責する.私は内心で,
「なんだ! お前さんも聞いていたのか・・」
と驚く.でも,今日一日のX氏の歩き方や,地図など全く見ない行動から,相手にしても仕方がないなと内心で思い始めている.
「そうですか.私は,何も,平地で,こんな歩き方をしなさいと言っているわけではありませんよ・・ただ,今言ったような歩き方をすれば,山道では大変楽に歩けると言っているだけですよ・・」
と反論するに留める.
辺りには「シレ~ッ・・」とした冷ややかな雰囲気が流れる.私は内心で,
「添乗員でもないのに,余計なことを,言ったかな」
と反省する.
それにしても,X氏は,先日の「こんな坂,何だ坂・・」に対するクレームや,今回のクレームにしても,どうやら他人の意見や言動に,どうしてもクレームを付けたくなる性分なのかな.多分,X氏の周辺には,親友など居ないだろうなと勝手に想像する.
X氏から,何となく,定年を迎えた傲慢な管理職を連想する.ちょっと言い過ぎかな.根は良い人のような気がするから,この程度で,私も,もう愚痴は止めよう.これで良しとしようと心に決める.
<休憩を終えて>
<登山口を目指して>
■照れて緊張
15時43分,長い休憩を終えて,再び歩き出す.白樺に良く似た樹林帯の中の道が続く.やや急だが歩きやすい下り坂が連続する.2~3人の女性が,
「FHさんの歩き方,凄いですね.後を歩くと歩きやすいです・・」
と言いながら,私の後を付けてくる.私,照れて緊張する.
15時53分,ようやく南登山口に到着する.
途中から,登りで落伍した2人も合流する.
■単調なダート道
ここからは,4WDの自動車ならば通れる道である.道幅が格段に広くなる.自動車道としては荒れているが,登山道としては随分と歩きやすい道である.早朝,真っ暗な中,歩いたときと,随分と違う印象を受ける.
深い森林の中,単調な道が何時までも続く.途中で飽きてくる.往路に,よくもまあ,こんな単調な道を長々と歩いたものだと改めて感心する.
■無事下山
16時33分,漸く登山口入口に到着する.
「やれやれ,やっとご到着だ・・・」
一同無事下山を喜びながら,専用車2台に分乗する.先に落伍して下山していた2人も,登山口入口で合流する.
■低すぎる登頂成功率
結局,参加者15人の内,4人が途中で落伍した.成功率73パーセントである.これは,ひどい成績である.あのキリマンジャロの成功率が80パーセント.モンブランが60パーセントである.エルバート山が,キリマンジャロに匹敵するほどの登頂困難な山だとは,到底思えない.
私は,再三,言うように山の素人である.しかし,今回のエルバート山で,キリマンジャロ程度の成功率しか上げられなかった今回の山行には,根本的な問題があると確信する.それは,登頂速度の管理と,適切な配慮の欠如である.
ツアー会社や添乗員の方々を,糾弾しようという気持ちは,決して,毛頭ない.しかし,これまでの山仲間達との山行経験からも,もし,私がツアーリーダーだったら,もう少し良い結果が残せたのではないか.こんな大逸れたことを,私は確信をもって言い切ることができる.
私は,密かに,次のグレイズピークとトレイズピーク登山のときは,最も足の遅いグループの中に入って,同僚の動静を注意深く見守りながら,同行者として許される範囲で,これらの方々を鼓舞してみようと決心する.もちろん,この場合も,X氏からの助言など有害.助言など得ようとは毛頭考えていない.ただ,添乗員やガイドのメンツを傷つけないように,また,一参加者としての立場を逸脱しないように,最大限の注意を払う積もりである.
(つづく)
「ロッキー山脈紀行」の前回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/fe6b14509fcc5caa505f1d52d9bde6b8
「ロッキー山脈紀行」の次回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/dc34f2c26c3889bbd63f25683a92e281
[加除修正]
2010/11/02 不正確な記述を修正
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